バーバラを連れて夢の世界に戻ってきたターニアは大急ぎでゼニスの城に入っていった。
そしてゼニス王をはじめ、城の人達の手によってすぐに治療が施された。
「お姉ちゃん、どうか頑張って!みんなが無事を願っているんだからね!」
ターニアは手を合わせながら懸命に祈り続けた。
その作業は夜中になっても続き、とうとう朝がやってきた。
ターニアはその間、食事もとらず、一睡もしないままだったため、疲労はかなり蓄積していた。
するとそれまで不眠不休で治療にあたっていた一人の少女がやってきた。
「ターニア、もう休んだら?」
「でも…、お姉ちゃんが…。」
「確かにまだ意識は戻っていないけれど、危険な状態は脱したわ。だから、安心して。」
「本当に?」
「ええ。彼女が意識を取り戻したら、色々なものを調合したお薬を飲ませてあげるつもりだから、きっと少しずつ元気になるはずよ。」
「じゃあ、お姉ちゃんは本当に一命をとりとめたのね!嘘じゃないよね!」
「嘘なんかじゃないわ。だから、あなたは食事をとって、ゆっくり休んでちょうだい。」
「でも、あなたは?」
「私はもう少しやることがあるの。それを済ませたら私も食事をとるから。」
「分かったわ。じゃあ、私はこれで。」
ターニアはようやく安どの表情を浮かべて部屋を後にしていった。
一方、バーバラの治療にあたっていた少女は眠い目をこすりながら別室に行き、ゼニス王にお願いして下の世界をつないでもらった。
するとグランマーズが応答をしてくれた。
「こんにちは。」
『おお、エリーゼか。』
「はい、エリーゼです。」
『お前さんがほっとした表情をしながら、その口調で話しているのを見ると、バーバラは無事だったということになるかの?』
「はい。皆さんがつないでくれたバトンをどうにかつなぎきることが出来ました。正直、プレッシャーもありましたが、本当に良かったです。」
『何をおっしゃる。全てはお前さん達のおかげじゃ。』
「私達だけではありません。皆さんの誰一人が欠けていても、バーバラを助けることは出来なかったでしょう。この場を借りて、お礼を言わせてください。」
『では、わしは今からミレーユをはじめ、みんなにバーバラの無事を伝えてくるぞい。お前さんは徹夜で治療をして疲れておるじゃろうから、ゆっくり休んでおくれ。』
「ありがとうございます。では、今から食事をしてゆっくり休ませていただきます。」
エリーゼは途端に緊張の糸が切れたのか、連続であくびをした。
そしてゼニス王にお礼を言って、映像を消してもらい、部屋を後にしていった。
グランマーズは映像を消した後、まず館の寝室にいるミレーユにバーバラの無事を伝えた。
「おばあちゃん、本当に?」
「本当じゃよ。まだ意識は戻っておらんが、一命をとりとめたぞい。」
「そう…。私達の願いが届いたのね。良かったわ…。本当に…。」
ミレーユは一瞬笑顔を見せたが、次の瞬間、それまでこらえていた気持ちが抑えきれなくなり、一気に表情が崩れていった。
「良かったのう。今は思う存分うれし涙を流すがよい。そしてわしはハッサンやリベラ達にそのことを伝えに行ってくるからの。留守番を頼んだぞい。」
「はい、分かりました…。」
ミレーユはまだ涙を流しながらも、うれしそうに返事をした。
それを見届けた後、グランマーズは外に出て別の場所へと移動をしていった。
気持ちが落ち着いた後、ミレーユは水晶玉を起動させて、バーバラの姿を映し出した。
彼女はまだぐったりと目を閉じたままの状態だったが、確かに息をしており、呼吸も安定していることを確認出来た。
しかし両肩から両手にかけては包帯がグルグル巻きになっており、左腕に至ってはいくつもの添え木でガチガチに固定されていた。
(これはかなりの重傷ね。代償が無くなったとはいえ、元の体に戻るまでにはかなり時間がかかりそうね。ごめんね。私が悲しみに打ちひしがれたせいで、リレミトを唱えるのが遅くなってしまって…。)
ミレーユは心の中で何度も謝りながら映像を消した。
そしてこれまでほとんど一睡も出来なかった反動から、ベッドに入るとたちまち眠りに落ちていった。
その日の午後、彼女が目を覚ますと、館にはハッサンと、まどうしのローブを肌身離さずに持っているリベラがいた。
彼らも寝付けなかったようで、眠い目をこすっていたが、グランマーズからバーバラの無事を伝えられていたため、安どの表情をしていた。
「ミレーユ、やっと起きたのか。」
「おはよう。いや、こんにちはだね。」
ハッサンとリベラはあくびをしながらミレーユに声をかけた。
「2人とも、こんにちは。私達の願いが通じて良かったわね。」
「ああ。だが、俺としては彼女の姿を見たいんだがな。」
「うん。僕も、口頭で伝えられただけじゃ満足出来ないから。」
「そうなの。あまりのぞき見はしたくないけれど、分かったわ。私もおばあちゃんから伝えられただけではそうだったから。」
ミレーユは2人の要望を聞き入れ、水晶玉でゼニスの城の内部を映し出した。
現地ではターニアがエリーゼにやり方を教えてもらいながら、注射という形で何かを投与していた。
『こんなやり方で薬を飲ませたことになるの?』
『ええ。バーバラはまだ意識が戻っていないし、当然ものを食べられない状態だから、こうすることにしたの。』
ターニアは注射というものを知らなかったため、彼女のやり方に半信半疑だった。
それはリベラ、ハッサン、ミレーユも同じで、しかもエリーゼはまだ見たこともない人だったので、余計に信じられなかった。
しばらくすると、代わりの人が部屋に入ってきたため、2人は交代をすることになった。
『じゃあ、ターニア。マーズの館とつないでみましょうか。』
『そうね。誰かいるかもしれないし、いたら色々話をしてみたいから。』
彼女達は引継ぎの人に看病をお願いした後、部屋を後にしていった。
ミレーユは一度映像を消して待機していると、再び水晶玉が光りだした。
そして再度映像を出すと、そこにはターニアとエリーゼが姿を現した。
『こんにちは。』
「ターニア、こんにちは。」
『ミレーユさん、立ち直ってくれたんですね。良かったです。』
「ええ。あなた達がバーバラを救ってくれたおかげよ。」
『そんな。私はただ超・キメラの翼でお姉ちゃんを連れて帰っただけです。ここにいるエリーゼが色々な処置を施してくれたおかげで、お姉ちゃんは助かったんです。お礼なら彼女に言ってください。』
ターニアはそう言うと、エリーゼと交代した。
「こんにちは、ミレーユと申します。あなたがエリーゼさんですね。」
『はい、エリーゼです。初めまして。』
「確かにこうやって直接会話をするのは初めてですが、あなたのことはバーバラやターニアから聞いています。本当に仲良くしてくれてありがとうございます。」
『ミレーユさんこそ、仲良くしてくれてありがとうございます。そしてこれまで命の木の実をたくさん集めてくれて、バーバラの命をつなぎとめてくれたことは、本当に感謝をしています。ありがとうございました。』
「いえ、私は彼女のマダンテを阻止出来ませんでしたし、リレミトが遅れたために、彼女を死の淵に追い込んでしまった人です。感謝なんてしてもらえる身ではありません。ご迷惑をおかけしてしまったことを…。」
『それはやめてください。あなた達のせいではありません。』
エリーゼは謝罪をしようとしたミレーユをとっさに制止した。
そしてしばらく会話をした後、今度はリベラとハッサンが出てきて、エリーゼにお礼を言った。
『あなた達がリベラさんとハッサンさんですね。初めまして。』
「こちらこそ初めまして。僕のことはリベラでいいです。」
「俺もハッサンと呼んでくれ。これから仲良くしようぜ。」
『そうですね。よろしくお願いします。』
彼らは初対面にもかかわらず、早速会話を弾ませた。
翌日、バーバラはついに意識を取り戻してくれたため、それを伝えたターニアの表情には明らかな笑みが浮かんでいた。
そして彼女はリベラ達にエリーゼが未来の世界からやってきた人であることを伝えてくれた。
彼女は過去に自分の住んでいた村が襲われ、大切な人が身代わりとなって敵にやられてしまったという経験があった。
その身代わりの女性はその場に倒れ、確実に助からない状態だったが、その時マスタードラゴンが瞬時に幻とすり替えた上で天空城に移動させてくれた。
そしてバーバラが治療を受けたのと同じ場所で懸命の治療を受け、長い間死の淵をさまよった末に生還を果たし、その後は別の場所に移動して療養生活をしていた。
エリーゼ自身はそれを知らないまま旅をしていたため、もう会えないとずっと思い続けていた。
そのため、旅を終えて戻ってきた村で彼女が姿を現した時には、夢なんじゃないかとまで思ったそうだ。
でも、彼女がまぎれもなく本人であり、再び動ける体になるまで時間がかかってしまったために今まで会えなかったことを謝ってくれた。
エリーゼはその場で涙を流しながらハグをして喜び、仲間達と一緒に再会を喜び合ったことを話してくれた。
『それでね。エリーゼはその後マスタードラゴン達がその友達に施してくれた治療法を教えてもらい、今回お姉ちゃんに実践をしたの。それはこの世界にはまだ存在しない、斬新的なやり方だったから、私も信じられずにいたけれど、あの時はそれにすがるしかなかったの。とにかく助かって良かったわ。』
ターニアが話をしていると、彼女の後方から扉をたたく音が聞こえた。
『入っていいですか?』
声の主はエリーゼだった。
『いいですよ。どうぞ。』
『分かりました。』
エリーゼが扉を開けると、そこには車いすに誰かが乗っていた。
(誰だろう?もしや?)
リベラがそう思っていると、その車いすはエリーゼに押してもらう形でこちらに近づいてきた。
「バーバラ!本当にバーバラなんだね!」
彼は驚きながらも、うれしそうに声をかけた。
しかし、彼女は両腕、両手が包帯でグルグル巻きになっている上に、左腕を三角巾で吊り上げており、さらに目隠しをしていた。
それを見て、リベラ達はまさかと言いたげな表情をした。
エリーゼ『驚かせてごめんなさい。目が見えないわけじゃないの。ただ、まぶしくて目を10秒以上開けられないという理由でこうしているの。』
リベラ「何だ、そうだったんだね。」
ハッサン「でもその目、治るのかよ?」
『私が元々住んでいた世界にある、パデキアの根っこを使えば治るんじゃないかと思っているわ。だから、私はこれからそちらの世界に出かけようと思っているの。そして色々なアイテムを持って戻ってくるつもりよ。』
「ありがとう。それは助かるわ。」
『それじゃお姉ちゃん、待たせちゃってごめんなさい。今私達はリベラ達と話しているの。早速会話してみて!』
ターニアはバーバラの乗っている車いすを鏡の近くに移動させた。
「バーバラ!僕だよ。リベラだよ!聞こえるかい?」
『リ…ベ…ラ…。』
弱々しい声ではあるけれど、その声は確かにバーバラだった。
「そうだよ!リベラだよ!バーバラ、生き延びてくれてありがとう!そして僕達を助けてくれて、本当にありがとう!」
『ご…め…ん…ね…。』
彼女は懸命に何かを言い続けようとしたが、それ以降声がかすれてしまい、さらには眠ってしまったため、ハッサンとミレーユは会話に参加出来なかった。
それでもバーバラの口が動き、声を聞くことが出来たことで、彼らの表情には満面の笑みが浮かんでいた。
「ターニア、エリーゼ。バーバラの姿を見せてくれてありがとう。」
「バーバラ、今はゆっくり休んでくれ。元気になったら、たくさん会話をしようぜ。」
「それじゃ、今日はここまでにするわ。つないでくれて本当にありがとう。」
リベラ、ハッサン、ミレーユは頭を下げながらお礼を言うと、映像を消した。
その日の夜。夕食をとりながら、リベラは両親にバーバラと少しだけ会話が出来たことを打ち明けた。
「そうか。本当に良かったな。お前の大切な人の生きている姿を見られて。」
「これからどうなるのかは分かりませんが、これで未来がつながりましたね。」
「はい、父さん、母さん。本当に良かったです。」
リベラは涙ぐみそうになりながらも、心の底からの笑みを浮かべて会話をした。
しかし彼は自分の部屋に行き、まどうしのローブを見つめると、徐々に気持ちが変わっていった。
(昨日は「君と直接会えなくなってもいい。」なんて言ったけれど、やっぱりバーバラと直接会いたい。出来れば代償無しの状態で、ハッサンとミレーユと同じように付き合いたい。こんなことを言ったらみんなから高望みなんて言われそうだけれど…。)
彼の心の中では、すでにこれまでの喜びは吹き飛んでいた。
翌日、リベラはバーバラのことについて問いかけてみるために、マーズの館に向かった。
現地ではミレーユ、ハッサンに加えてテリーがいた。
「あれ?今日はテリーもいるの?」
「ああ。アジトで色々なものを手に入れたからな。姉さん達に役立ちそうなものを持ってきたんだ。」
テリーはカンダタが持っていたはやぶさの剣や、祈りの指輪などのアイテムを見せてくれた。
「すでにアモスさんやチャモロ達には渡したの?」
「ああ。チャモロとセリーナは賢者の石や力のルビー、そして小さなメダルを、アモッさんは鍛冶屋での作業用に大金槌とウォーハンマーをもらっていったよ。それで残ったものがこれらだ。そうしたら、ハッサンがはやぶさの剣をもらうって言いだしてな。」
「ああ。アモッさんが使っているのを見て、俺も欲しいと思っていたんだ。これから練習してこれを使いこなせるようになって、さらにはやぶさぎりを使えば、4回攻撃か出来るぜ。」
リベラ「良かったね。いい武器が手に入って。」
「ああ。ただ、使う機会があるかどうかが問題なんだがな。」
「確かに、そうかもね。」
彼らが会話を弾ませていると、ミレーユがここに来た理由について問いかけてきた。
リベラはバーバラに対する正直な気持ちを打ち明けた。
「そう。あなたもそういう考え方になったのね。」
「うん。一度はもう会えなくてもいい、嫌われてもいいなんて言ってしまったけれど、やっぱりそれじゃ満足出来なくなって…。そして出来ることなら、別れを気にすることなく付き合えたらって思っているんだ。もしその方法があるなら教えてくれるかな?」
「そうねえ…。それに関してはこれまでおばあちゃんと色々調べたし、相談もしたわ。そしてね、一つの結論にたどり着いたの。正直に打ち明けてもいい?」
「うん。何か方法があるのなら、ぜひ教えて欲しいんだ。」
「これから私が何を言おうと、受け入れてくれる?」
「う…、うん…。何?一体。」
リベラはミレーユの言い方に何かあるのではないかと思い、身構えながら問いかけた。
「おい。そんな言い方されたら焦るじゃねえか。何を言いたいんだよ。」
「隠さずに言ってくれ。それがリベラとハッサンのためだ。」
「分かったわ、ハッサン、テリー。では、これまでおばあちゃんやゼニス王さん、そしてターニアやエリーゼから教えてもらったことを話すわね。」
ミレーユはバーバラが根気よく治療を受ければ右手はやがて日常生活が送れる程度まで治るけれど、呪文は唱えられず、武器も装備出来ないこと。一方の左手はもう手の施しようがないことや、彼女が2度とマダンテを唱えられないために、この呪文は今後忘れられた存在になっていくこと。
そして彼女は夢の世界でしか生きられないことを教えてくれた。
ハッサン「じゃあ、バーバラはもうこの世界に来られないのか?」
リベラ「それに、これからは左手の自由を失ったまま生きていくの?」
「そうなるわね。」
テリー「でも、夢の世界に帰ったんだったら、元の体に戻るはずじゃなかったのか?」
「多分、2度目のマダンテでその範囲を超えてしまったと思うわ。そして、おばあちゃんやゼニス王さんが言っていたけれど、元の体になるためにはバーバラの実体を見つけて融合するしかないでしょうって。」
「バーバラの実体?でもそれって…。」
リベラは何だか嫌な予感を感じ取った。
「正直に言うわね。彼女の実体は…。」
「実体は?」
「この世界には無いわ…。」
「えっ…?」
ミレーユの発言に、リベラは固まってしまった。
「それじゃ、リベラとバーバラが俺達と一緒に祝福してもらう姿は、夢のまた夢ってことなのか?」
ハッサンも現実を受け入れられず、呆然としていた。
次回が最終回です。