夢のまた夢と言われても   作:地球の星

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Quest.4 占い師

 世界が平和になった後、ミレーユはマーズの館で占い師になるための修行に励んでいた。

 最初はなかなかうまくいかなかったが、グランマーズの指導の下でメキメキと腕を磨き、ついに彼女から占い師としての許可がおりた。

 今日はいよいよデビューの日、彼女に舞い込んだ最初の仕事は、行方不明の肉親をさがしてほしいというものがあった。

 その人の名前や住んでいた場所、特徴など、出来るだけ詳しい情報を聞き出したミレーユは「では、いきますよ。」と言って、水晶玉に手をかざし、その人の行方を占った。

 しかし、結果は依頼人の一番恐れていたものを映し出してしまうという、最悪のものだった。

 依頼人の人はあまりのショックに泣き出してしまい、走ってマーズの館から出ていってしまった。

 ミレーユは「待って!」と言いながらその人を追いかけようとしたが、グランマーズから「おやめなさい!」と言われて引きとめられてしまった。

「どうしてよ!おばあちゃん!」

「これも結果じゃ。占い師というのはいいことばかりではない。こういうことも時として起きるんじゃ!」

「でも、だからって、結果だけ見せておしまいって言うわけにはいかないでしょ!」

「まあ、そうじゃが、やがて結果がはっきりと分かった方が良いという気持ちになる時も来るじゃろう。その時まではそっとしておくべきじゃ。」

「でも…。」

 彼女はそれ以上何も言えなくなり、黙り込んでしまった。

「ミレーユや、お前さんの最初の仕事がこのようなことになったのは残念じゃった。じゃが、このような経験ならわしもしておる。それも数え切れないほどじゃ。その度に胸が張り裂けそうになった。辞めたいと思ったことも何度もあった。それでもわしはあきらめなかった。そのおかげで、うれしいこともたくさん経験してきたぞい。」

「…私にもそんな時が来るかしら?それまでに、悲しいことに後どれだけ触れていくことになるのかしら…。」

「わしがお前さんの未来をこの場で占ってみれば分かるかもしれん。じゃが、未来のことが分かってしまったら、それはそれでみんなから嫌な目で見られることもある。それに、分かってしまったら人は努力をしなくなる。結局は未来のことなど分からない方がいい。これがわしの出した結論じゃ。占い師である以上、悲しいことも、うれしいことも受け入れていくんじゃ。」

「…分かったわ…。ありがとう、おばあちゃん。」

 グランマーズの励ましを受けて、ミレーユはやっと気持ちを落ち着けることが出来た。

 そして30分後に訪れた次のお客さんに対しては、何事もなかったように対応をしていた。

 

 後日、ミレーユは最初の依頼人のところに自分の足でおもむいていった。

「先日はごめんなさい…。こんなことになってしまって…。」

「いいんです。あの時は悲しみのあまりに飛び出していきましたが、もう吹っ切れました。私としては、親の眠る場所が分かっただけでも十分です。これから私はお墓参りに行きます。そして、手を合わせて祈りながら、私を産んでくれたことに感謝するつもりです。」

「分かりました。私もあなたが新たなスタートを切ることが出来るように、祈っています。それから、この度は私の方で花束を用意させていただきました。もし失礼でなければ、受け取っていただけますでしょうか?」

「喜んで受け取ります。ありがとう。必ずこの悲しみを乗り越えてみせますので、ミレーユさんも占い師の仕事、頑張ってください。応援しています。」

「はい、頑張ります。」

 ミレーユはそう言って、深々とお辞儀をした。

 そして依頼人が出発するのを見届けて、帰路に着いた。

 

 彼女がマーズの館にたどり着くと、そこにはリベラと一緒に14歳くらいの男の子がいた。

 グランマーズが出かけていることもあってか、扉には鍵がかかっており、中には入れない状態だった。

 そのため、彼らは外にたたずんでおり、待ちぼうけのような状態だった。

「あっ、2人ともごめんなさい。」

「大丈夫、ミレーユ。そんなに待っていたわけではないから。」

 リベラは配慮するように言うと、続けざまにその男の子についての話を始めた。

 彼の名前はクァド。母親を探しているということだった。

 そこまで聞くと、ミレーユは「後の話は中でしましょう。」と言って、鍵を使って扉を開け、3人で中に入っていった。

「では、クァド君。お母さんに関する話を出来るだけ詳しく教えてね。」

「分かりました。お母さんの名前はクィント。僕が7歳の時に出稼ぎ目的で別の町に行きました。最初は仕送りもあったんですが、次第にその額も減っていき、しまいには仕送り自体がなくなってしまいました。今は自分で何とかするしかなくて、その日暮らしをしています。」

「そう…。大変だったのね。」

「はい。そんな中でも僕はお母さんに関する情報を集めました。でも、もう集める手段が無くなってしまって…。」

「そうなんだ、ミレーユ。そして今日、彼がレイドック城近くの草原で行き倒れ寸前になっているのを兵士が見つけて、城にやってきたんだ。そして食事を与え、元気を取り戻した後で、僕が彼を連れてルーラでここにやって来たんだよ。」

「分かりました。本来は50ゴールドの料金だけれど、何だかクァド君に払わせるのもかわいそうだから、今回は無料で占ってあげようかしら。」

「じゃあ、僕が代わりに払うよ。今、この場で支払えるだけの手持ちはあるからさ。」

「リベラさん、そんな。僕が働いて払います。今はその…、そのお金すら無いけれど…。」

「大丈夫。僕に払わせてよ。困っている人の力になりたいんだ。」

「クァド君、ここはリベラのお世話になったら?」

「でも…。」

「私は大丈夫よ。」

 ミレーユはそう言って、ニッコリと笑った。

 その美しい笑顔を見てクァドはドキッとしたのか、少し顔を赤らめ、そしてリベラの提案に同意することにした。

「では、私が占ってあげるから、クァド君とリベラにはこの場を離れてもらってもいい?」

「どうして?ミレーユお姉ちゃん。」

「そうだよ。以前はその場で結果を見せてくれたのに。」

「私も以前はそうしていたわ。でも、悲しい結末になってしまったこともあったから…。」

 ミレーユはそう言って、今日その人に花束を渡してくるまでの体験談を話した。

「というわけよ。だから、あなた達には一旦離れてもらうことにしたの。ご理解いただけるかしら?」

「…分かりました、お姉ちゃん。」

「じゃあ、一旦外に出るよ。」

 クァドとリベラはそう言って、外に出ていった。

 うつむきながら「お母さん…。」と言う彼の姿を、ミレーユは何も言わずにじっと見つめていた。

 そして自分一人になると、水晶玉に手をかざし、祈るような気持ちでクィントという女性について占った。

 

 10分後、落ち込むクァドをリベラが懸命に励ましていると、館の扉が開き、ミレーユが外に出てきた。

「ミレーユ、どうだった?結果は。」

「お姉ちゃん、お母さんは生きているよね?」

 リベラとクァドはすがるように問いかけてきた。

「2人とも、安心して。お母さん、見つかったわよ。」

「本当?お姉ちゃん!本当だよね!」

「この人で間違いないと思うわ。水晶玉越しに見せてあげるから、ついて来て。」

 ミレーユはそう言うと、やさしく微笑みながら館の方に歩き始めた。

「クァド君、良かったね。お母さん、見つかったって。」

「でも、同じ名前の別の人かもしれないし…。」

 クァドはまだ結果が信じられないようだった。

 館に入ると、ミレーユは水晶玉越しにその女性の姿を映し出してくれた。

 その人は現在40代半ばとは思えないように老けた顔つきをしていた。

 どうやら足が悪いのだろう。杖をつきながらやっとの思いで家の中を歩き、時には転んでしまうことすらあった。

 そして家の中には他に誰もいないのだろう。お皿などの食器は一人分しかなかった。

 さらには肝心の食料も底をついてしまったのだろう。手も足もすっかりやせ細っていた。

「クァド君、覚えている姿とは違うかもしれないけれど、この人で間違いない?」

「…間違い…ない…。やせてはいるけれど…、お母さんだ…。お母さん…、生きていた…。」

 彼は目を潤ませながら言った。

「良かったね、クァド君。水晶玉越しにだけれど、お母さんに会えたよ。」

「ありがとう、リベラお兄ちゃん。」

 クァドはそう言うと、彼の胸元で顔をくしゃくしゃにしながら泣き出した。

 ミレーユは(良かった。いい結果になってくれて。)と思いながら、その様子を見守っていた。

 

 しばらくしてクァドの気持ちが落ち着くと、ミレーユはクィントがいる場所を地図で教えてくれた。

 そこは人里離れたところにある一軒家だった。

「うーーん、これだとルーラでこの町に降り立ってから、かなり歩いていかなければならないな。」

「そうね。しかもこの近辺には以前、強い敵に出会ったことがあったから、ちょっと危険かもしれないわね。」

「それでも僕は行くよ。たとえ強いモンスターがいようと、必ずクィントさんのいる家にたどり着いてみせる。そして、クァド君が会いたがっていますよって伝えてくる。そして、会ってくれるのならルーラでここに連れてくるよ。」

「いいの?お兄ちゃん。」

「うん。僕の仲間であるチャモロならきっとそうすると思う。だったら僕だって。」

「じゃあ…、お願いします…。」

 クァドはすがるようにお願いをした。

「じゃあ、私からこれをあげるわね。いつか、夢見のしずくを取りに行く時に、おばあちゃんがくれたように。」

 ミレーユはそう言って、薬草5個を持たせてくれた。

「ありがとう。じゃあ、行ってくる。クァド君、心配しないで待っていてね。」

「うん、お兄ちゃん。お願いします。」

 クァドはそう言うとペコリとお辞儀をした。

 そしてリベラは扉を開けて、ルーラで出来るだけ近くの町へと向かっていった。

 

 リベラが降り立ってから草原を歩き、橋を渡り、山道を歩く間に、彼は何度も戦闘を経験した。

 相手は突然変異を起こしたかのような野生動物や昆虫といったようなものだった。

 幸い魔王の魔力を帯びているわけではなく、どちらかと言えば自分の縄張りに入ったリベラを侵入者と認識したために、襲いかかってきたというのが実情だった。

 そのため、リベラは主に通常攻撃でダメージこそ与えたものの、決して相手をあやめてしまうことはしなかった。

 とはいえ、1人で複数を相手にしてきたため、時には分の悪い戦闘もあり、逃げるを選択することもあった。

 そして移動中、彼はホイミを唱えたり、ミレーユからもらった薬草を使ってHPを回復していた。

 

 歩き始めてから2時間後、すでに日はかなり西に傾いており、もうすぐ日没になってしまう状況だった。

(何とか早く辿り着かなければ。たどり着いて、クィントさんに会わなければ。)

 彼の心には焦りの色がにじんでいた。

 この時点でMPはかなり減っており、薬草も残り1つになっていた。

 険しく、道なき道を息を切らしながら坂を登り切ると、やっと見通しの良い地点が見えてきた。

 リベラが地図を見ながら遠くを見渡すと、ふと朽ち果てた一軒の建物が目に入った。

「あっ、あれかな。多分あれだと思うけれど。」

 まだ少し距離があるとはいえ、目的地らしき建物が見えたことで、彼の顔には笑顔が浮かんだ。

 しかしその時、辺りで何か物音がしたため、彼ははっとしてまわりを見渡した。

 すると突然3方向から大きなマントをかぶった人物が姿を現した。

 一人は非常に小柄で、一人はかなりの大柄、そして残りの一人は中間程度の身長だった。

「誰だ?お願いだ。僕は君達と戦いたくはない。ここを通してくれ。」

 リベラがそう言うと、「ただではヤダ。あたい達は盗賊。」「持ち物と所持金全て置いていきな。」「それともあたい達と勝負する?」という、女性の声がし、全身を覆っていたマントをとった。

 その正体は覆面をした女性3人で、一番体の大きく、ムキムキの体つきをした人はその覆面から、何だかカンダタを思い出させるような容姿だった。

「カンダタシュガー!」

「カンダタハニー!」

「カンダタショコラ!」

一同「3人合わせて、カンダタレディース!」

 彼女らはそう言うと、それぞれのポーズをとった。

(女性3人か。でも一人は見るからに呪文使い、一人は武闘家、あのカンダタみたいな人は見るからに攻撃力が高そうだ。こちらは1人だから、分が悪いな。こうなったら…。)

 そう思ったリベラは、戦わずに逃げることにした。

 しかし3方向を取り囲まれていることもあって、簡単に回り込まれてしまった。

 そして彼女らはそれぞれの特技で攻撃を仕掛けてきた。

 彼は懸命に攻撃をかわそうとしたが、さすがに呪文だけはかわすことが出来ず、ダメージを受けてしまった。

(せっかく目的地らしき場所があそこに見えているのに、こんなことになるなんて。でも何かをすれば手を引くかもしれない。それならやってみよう。)

 彼はそう考えるとライデインを唱え、ある程度はダメージを与えることができた。

 しかしその後に待っていたのは3人の一斉攻撃で、今度は一度もかわすことが出来なかった。

(まずい。勝とうと思ったら最低でもライデイン3発は叩き込まなければいけないな。でも一番大きな人は果たして3発で勝てるかどうか。最もその間に一斉攻撃されることを考えたらこっちのHPが持たない。ホイミをかけても受けるダメージに追い付かない。かといって、逃げるのは回り込まれるのが怖い。こうなったら、悔しいけれど、取るべき手段はあれしかない!)

 腹をくくったリベラは、3人に攻撃される直前に、緊急脱出としてルーラを唱えた。

(クァド君ごめん!今回のところは許してくれ!)

 彼は心の中で謝りながら、真っ赤な夕焼けが見える大空へと飛び立っていった。

 

 リベラの降り立った場所はサンマリーノだった。

 さすがに緊急脱出だったため行き先まで考えることが出来ず、結果的にここに来ることになってしまった。

 すでに太陽は地平線の下に沈みつつあり、辺りは暗くなり始めていた。

(でもここならマーズの館まで近い。真っ暗になるまでに早く行こう。)

 彼はそう思うと、その場所に走っていった。

 

 マーズの館では、ミレーユが美しい声で歌を歌っていた。

 歌を聞いているクァドはこれまでの辛いことを忘れてしまったように、うっとりと聞きいっていた。

 さらに昼間は外出中だったグランマーズもすでに館に戻っていて、同様に聞き入っていた。

 そのためにリベラはしばらく謝りにくくなってしまった。

 しかし、グランマーズがこちらに気がつくと、「ミレーユや、リベラが到着したぞい。最も、一人でじゃがの。」と言って、歌を止めるように忠告した。

「リベラ、お帰りなさい。」

「お母さんと一緒じゃないの?」

「ごめんなさい、クァド君。目的地の近くまでは行けたんだけれど、そこで強敵に出会ってしまって、一人じゃどうすることも出来ず、引き返すことになってしまったんだ。本当にごめんなさい。」

 リベラは頭を下げて申し訳なさそうに謝った。

「僕は大丈夫です。確かにお母さんに早く会いたいけれど、リベラさんにあまり迷惑をかけるわけにはいきません。」

「でも、あの3人の敵からうまく逃げ伸びることさえ出来れば…。」

 リベラは悔しさを隠しきれなかった。

「まあ、1対3の戦いでは仕方ないじゃろう。やられてしまうよりはましじゃ。」

「確かにやられていたら、持ち物と所持金を全て取られていただろうから、それよりは良かったけれど…。」

「とにかくその緊急脱出は、お前さんにとっての最善の策だったはずじゃ。胸を張りなさい。」

「はい。」

 グランマーズに励まされ、リベラは何とか立ち直ることが出来た。

「リベラ、今日はもう夜だから明日また行くことにしましょう。その際は他に仲間が必要ね。ハッサンやチャモロに協力を要請してみようかしらね。」

「分かった。じゃあ、僕は明日サンマリーノに行って、ハッサンに会ってみる。」

「それなら私は水晶玉でチャモロがどこにいるかを調べてみるわね。」

「助かるよ、ミレーユ。じゃあ僕はこれで帰るから、明日の朝またここで会おう。」

「分かったわ。おやすみなさい。」

「クァド君、またね。」

「うん、お兄ちゃん。また明日。」

 クァドがそう言って手を振る姿を見届けながら、リベラはレイドック城へと戻っていった。

 そして館に残ったクァドはグランマーズの計らいで、ここで一夜を過ごすことになった。

 




 名前の由来
クァド(Quad)、クィント(Quint):
 英語のsingle、double、tripleに続く単語quadrupleとquintupleから命名しました。
 後者は現時点でゴルフのquintuple bogeyや、「5倍になる」という動詞としてしか使ったことがありませんが、前者はフィギュアスケートの「4回転」に該当する単語なので、triple程ではないですが、それなりに使った経験があります。
 Quadrupleの略語であるQuadはニュースで「クアッド」と表記されていますが、僕は少ない数のキー入力で済ませるため、QADOと入力し、クァドという表記になりました。
これはクィントも同様で、QINTOと入力しました。
 
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