夢のまた夢と言われても   作:地球の星

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Quest.5 涙のご対面

 翌日、レイドック城で朝食をとり終えたリベラは、人探しの仕事に行くことを両親に伝えた後、サンマリーノに移動した。

 この日、現地では未明から雨が降り続いており、大工の作業が中止になってしまった。

 そのため、ハッサンはすることがなくなってしまい、朝なのに家の中で晩酌を始めようとしていた。

「あの、ハッサン。」

 リベラが後ろから声をかけると、ハッサンは「げっ!リベラ、いつの間に!」と言いながら、驚きの表情とポーズをした。

 その驚きぶりにリベラも驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻した彼は早速要件について話した。

 そして、一人じゃだめだったから、手を貸してほしいことを伝えると、ハッサンは喜んで承諾してくれた。

 そして親に出かけることを告げた後、2人でマーズの館に向かった。

 彼らが扉を開けて中に入ると、そこにはすでにチャモロがいた。

「チャモロ、いつの間に!」

 リベラはそう言って驚きのポーズを見せた。

「おはようございます。この度は私もクァドさんの件に協力させていただきます。」

「そのとおり。実はね、私が今朝、水晶玉でチャモロの居場所を見つけて、キメラの翼でゲントの村に行ったの。そして協力出来るか聞いたら、喜んで引き受けてくれたのよ。」

「そうなんです。以前は仕事の依頼が多くて忙しかったのですが、安定しているわけではないので、することがない時もあるんです。だからミレーユさんからこの話を受けた時、喜んでOKを出しました。そして、これから彼女から依頼があれば、時間が許す限りこのような仕事もしてみたいと思っています。」

「そうか、良かった。ハッサンだけでなく、チャモロも引き受けてくれて。これで頼もしい戦力がそろった。」

 昨日は1人で行って、緊急脱出する羽目になったリベラは、ほっと胸をなでおろした。

「ところで、目的地はどこなんだ?」

「そうですよ。それをまず教えてください。」

 ハッサンとチャモロが質問すると、ミレーユは「早速教えるわね。」と言って、水晶玉にその場所を映し出した。

リベラ「多分この荒れ果てた農場に囲まれた、この朽ちた家にいると思うんだけれど、ここはルーラで行ける場所から離れているから、僕は昨日、かなり歩く羽目になったんだよね。」

ハッサン「なるほど。確かに遠いな。それに雨のせいで山越えには厳しい条件になるな。」

チャモロ「でも、私がいれば心配はいりません。」

リベラ「何か秘策でもあるの?」

「ありますとも。この風の帽子はルーラの効果があるだけでなく、途中でそれを解除して、当初の目的地とは違う場所に降り立つことも出来るんです。だから、先の方に向かって飛び立って、上空で解除すれば、この家の近くに降り立てますよ。」

「うおおおっ!それは便利じゃねえか!雨の中、ずぶぬれにならずに済むし、無駄な戦闘をせずに一気に目的地に行けるぞ!なあ、リベラ!」

「そうだね。それを知っていれば僕は昨日、あんなに苦労しなくて済んだのにな。」

ミレーユ「まあまあ。でも、クァド君にとっては、早く母親のクィントさんに会いたいでしょうから、早く辿り着ける手段が出来るのは本当に助かると思うわ。」

リベラ「それで思い出したんだけれど、クァド君は?」

「今朝食を取っているはずよ。」

「そうか。じゃあ、もうしばらく待つことにしよう。その間、作戦会議をしよう。」

 リベラはそう言うと、早速どのような形で現地に行くのかについて、話し合いを始めた。

 

 それから10分後、朝食を終えたクァドの同意を得た上で、チャモロとハッサンが現地に行くことになった。

 一方、リベラはここにとどまり、30ゴールドを払ってクァドと一緒に水晶玉越しに現地の様子を見ることになった。

ミレーユ「クァド君、お母さんにはここに来てもらう形になるけれど、いい?」

「はい、それで十分です。僕もまだ山道を歩ける程の体力はないですし、文句を言うわけにはいきません。」

「分かりました。ではハッサン、チャモロ。クァド君が書いた手紙は持った?」

「おお、ここにあるぜ。心配は無用さ。」

「しっかりと責任持ってお預かりしました。」

「では2人とも、行ってらっしゃい。」

 ミレーユがそう言うと、ハッサンとチャモロは「行ってきます。」と言って、外に出ていった。

 そして未だ降りやまない雨の中、風の帽子を使って空へと飛び立っていった。

 

 マーズの館にとどまっている3人は水晶玉を眺めながら、2人が朽ちた家の近くに降り立ったのを見届けた。

「もうすぐだね。彼らがクィントさんと会うのは。」

「そうね。何とかいい結果になってくれるといいわね。」

 リベラとミレーユがわくわくしている一方で、クァドは心臓がバクバクする程の緊張感に襲われていた。

(お母さん、どうかOKを出して。僕に会いに来て。)

 そんな心のサインを見逃さなかったミレーユは、「きっと大丈夫よ。2人がいい答えを引き出してくれるわ。」と言って、励ました。

 水晶玉では、チャモロがドアをノックし、ハッサンが家の中に向かって、「入ってもいいですか?」と言っているかのように、何かを語りかける姿が映っていた。

 そしてしばらくすると、チャモロがあの手紙を取り出した。

 声は聞こえないが、恐らく「実は息子さんのクァド君があなたに会いたがっています。今回、彼から手紙を預かってきました。」と言っているのだろう。

 そして紙を広げると、書いてある文章を読み始めた。

 クァドが書いた内容は、次の通りだった。

 

 お母さんへ

 僕はクァド、14歳です。

 7年前、出稼ぎに行ったクィントという女性の息子です。

 お母さん、元気でいますか?

 僕のことを覚えてくれていますか?

 たとえ幼い頃の記憶しかないとしても、僕はお母さんのことを忘れてはいません。

 毎日、お母さんに会える日を待ち続けています。

 この7年間、僕は辛いことを色々経験しました。

 貧しい日々もありました。寂しい日々もありました。

 泣いたことだって、数え切れない程ありました。

 そばにいてほしい時にいなくて、時には恨みたくなったこともありました。

 でも、きっといいことがあると信じて、今日まで生き抜いてきました。

 お母さんもきっと色々辛いことがあったと思います。

 7年間帰ってこなかったのも、きっと色々な理由があったのでしょう。

 だから、僕は恨んだりはしません。

 たとえ今さらと言われても、それでも僕はお母さんに会いたいです。

 今の僕にとって、お母さんが希望の光です。

 どうか会いに来てください。

 お願いします。待っています。

 クァドより

 

 チャモロは手紙を読み終えると、扉に向かって、何かを語り出した。

 それに続いて、ハッサンも祈るようにして何かを語っていた。

 どうやら「息子さんに会ってもらえますか?」または「中に入ってもいいですか?」と言っているのだろう。

 しばらくすると、チャモロが「では、入らせていただきます。」と言っているかのような仕草をして、ハッサンが扉に手をかけ、そしてゆっくりと開けた。

 そして2人はお辞儀をして、家の中に入っていった。

リベラ「彼らはきっとここに来てもらえるように懸命にお願いしているんだろうね。」

ミレーユ「そうでしょうね。今がまさに運命の分かれ道となる時ね。」

クァド「お母さん…。」

 3人は祈るように様子を見ていた。

 その時間は、まるで永遠のようにとても長く感じられた。

 

 しばらくすると、中からチャモロが出てきた。

 彼の手には行きの時には持っていなかった、荷物らしきものがあった。

 そして続けざまに中からハッサンが出てきた。

 彼は両腕で女性を抱えており、何かを語りかけていた。

 内容までは分からないものの、「クィントさん、いよいよ息子さんのところに飛んでいきますよ。」とでも言っているのだろう。

 現に、彼女はボロボロの布切れをハンカチ代わりにして、目の辺りをぬぐっていた。

リベラ「さあ、クァド君。もうすぐだよ。お母さんに会えるよ。準備はいい?」

「うん…。泣いちゃうかもしれないけれど…。」

ミレーユ「大丈夫。泣いていいのよ、そういう時は。涙のご対面になりそうね。」

「うん…。」

 クァドの目頭もこの時点で熱くなっていた。

 それから間もなく、チャモロと、クィントを抱えたハッサンがこちらに向かって飛び立っていった。

 それを見て、リベラは扉を開けて外に出ていった。

 すでに雨は上がっており、雲の切れ目から差し込む太陽光線がとてもきれいだった。

 間もなく彼は館の前に降り立ったチャモロ達と合流し、色々話を聞いた。

 そして話を聞き終わると、一人で館に戻って来て、クァドに母親のその後の日々を話してくれた。

 

 クィントは家族の生活を楽にするために、与えられた農地で身を粉にして働いていたそうだ。

 最初は作物の収穫も安定していて、十分な仕送りが出来たそうだ。

 しかし、その土地をあくどい人に横取りされるような形で取られてしまい、その後与えられたのは、水晶玉で見たような山奥の場所で、土地はやせていたそうだ。

 それでも彼女は他の人達と共に懸命に働き、農作物の栽培だけでなく、山菜を採ったりしながらふもとの集落まで持っていってお金に換え、自分の生活費を切り詰めてまでして仕送りをしていた。

 とはいえ、彼女達の努力だけではさすがに限界があった。

 そのうち、一緒に働いていた人達も離れていってしまい、とうとう彼女一人になってしまった。

 さらに悪いことは重なるもので、彼女は足を徐々に痛めてしまい、仕事に支障が出るようになってしまった。

 やっとの思いで育て上げた作物や採った山菜を運ぶことも、誰かに運んでもらうことも出来なくなり、足を引きずりながらその日暮らしをするのがやっとで、とうとう仕送りが不可能になってしまった。

 最後には作業自体が出来ない程に足が悪化し、はうように外に出ては野生化した野菜や雑草を食べて飢えをしのいでいたということだった。

 

「クィントさんは、自分の体が少しずつ衰弱していく中でも、クァド君のことは決して忘れなかったそうですよ。」

「本当に?」

「うん。いつか誰かが小屋を訪れた時に、クァド君に渡してもらうための手紙を書いており、「○月×日、今日も助けは来なかった。クァド、ごめんね。そしてどうか幸せになって。」という内容をつづっていたそうです。そして絶望感の中でも、もしかしたら誰かが来てくれるかもしれないというかすかな希望を抱いていたそうですよ。」

「お母さん、そこまで僕のことを思っていたんだ…。」

「はい。そして、チャモロは君のその後の日々についても話し、お母さんに会いたがっていることを伝え、会ってもらえますかと問いかけたそうです。」

「返事は?」

「チャモロの話では、『あの子の顔を再び見られるなら、はってでも会いに行きます。そしてこの7年間を心をこめて謝罪し、もし許してもらえるなら、たとえ貧しくても親子一緒に過ごしたいです。』と言ってくれました。だから、君がこの場でOKを出してくれるなら、今からそれを伝えてきます。お母さんに会ってくれますか?」

「はい、お願いします。」

 クァドは首を大きく縦に振って承諾した。

 すると、扉の向こうから「おおい、リベラ。そろそろ開けてくれ。俺達は扉の前で待ちぼうけなんだからさ。」というハッサンの声が聞こえた。

「分かったわ。こちらも今準備が整ったから、扉を開けるわね。」

チャモロ「分かりました、ミレーユさん。好きなタイミングで扉を開けてください。」

リベラ「分かりました。じゃあほら、お母さんだよ。」

 彼はそう言うと、クァドを扉の前に立たせて、扉に手をかけた。

 そしてゆっくりと扉を開けると、そこには涙ぐんでいるチャモロとハッサン、そしてハッサンに抱えられながらすでに泣き崩れているクィントがいた。

「お母さん…。」

「クァド…。」

「お母さーーん!!」

 クァドはそう叫びながら母親のところに駆け寄っていった。

「ごめんね…、7年間も…。」

「いいんだよ、お母さん。ずっと会いたかったよ。」

「私もだよ…。1日として忘れたことはなかったよ…。」

「お母さん…。」

 2人は涙を流しながら再会を喜んでいた。

 その言葉に出来ない程の感動的な様子をリベラ、ミレーユ、ハッサン、チャモロはもらい泣きしながらじっと見つめていた。

 

 やがて気持ちが落ち着いてくると、まずクィントに食事が振る舞われた。

 その際、彼女は椅子に座るのもやっとだったため、ベッドに横になった。

 そして、クァドはスプーンで母親の口に少しずつ食べ物を運び、彼女に優しい言葉をかけていた。

 その光景は、7年ぶりに再会を果たした母と子における、感動的な場面だった。

 

 食事後、リベラ達はこの2人についてこれからどうするのか話し合いを始めた。

「それなら、私の住むゲントの村で療養生活を送ってみてはいかがでしょう?」

「チャモロ、いいの?」

「はい、リベラさん。私がすすんで面倒を見ます。」

 彼はそう言って、誰よりも彼らの世話をすることを約束した。

「そうかい…。こんな私達のために…。」

「チャモロさん、本当に親切にしていただき、ありがとうございます。」

 クィントとクァドは、また涙を流しそうになりながらお礼を言った。

「いいんです。私は困った人の助けになることを生きがいにしていますから。そしてこれからお金を集めて、小さくてもいいから彼らのための家も用意してあげたいと思います。」

「家とくれば、俺の出番だぜ。材料やお金がそろったら、俺が立派な家を建ててやるからよ。」

 ハッサンは待ってましたとばかりに言い切った。

「でもね、建てるってなるとかなりのお金と時間が必要になるわ。彼らの生活を考えると、まずはテントや空き家の改装で済ませた方がいいかもしれないわね。」

「あっ、そうかもしれねえな。でも、いずれにしたって俺が何とかするぜ。」

 ハッサンは2人のために役立とうと、やる気満々だった。

「じゃあ、僕がレイドック城の人達に募金活動を呼びかけてみるよ。住む場所だけでなく、生活費やクィントさんの足の治療費も必要ですから、これから城に行ってみる。」

 リベラも何かしたいという気満々だった。

 そんな仲間達の優しさに触れ、クァドとクィントは何度も彼らに感謝をしていた。

 

 みんなが母と息子が涙の再会を果たしたことを喜ぶ一方、ミレーユは水晶玉で声を聞かせてあげられなかったことを内心では悔やんでいた。

(こういう場合、おばあちゃんだったら映像を出すだけでなく声も聞こえるようにしていたはず。悔しいけれど、私はまだまだ修行が必要ね。もっと頑張らなければ…。)

 彼女がそう思っていると、チャモロが早速ゲントの村に行くことを提案したため、ハッサンが再びクィントを抱え、クァドも加えて4人で外に出ていった。

 リベラとミレーユは彼らに続いて外に出ていき、4人が飛び立っていくのを見つめていた。

 彼らの姿が見えなくなった後、ミレーユは館に戻ろうとしたが、リベラはそのまま空を見上げていた。

 彼の顔には、母と子の再会の喜びをすっかり忘れてしまったかのように、寂しげな表情があふれていた。

「リベラ、どうしたの?」

「…いや、何でもない…。」

「……。」

 ミレーユはそれ以上何も言わなかったが、彼の気持ちを察することは出来た。

(リベラ…、バーバラに会いたいのね。やっぱり彼女が忘れられないのね。分かったわ。じゃあ私、頑張って、夢の世界を映し出してみせるわね。もしそうなったら、必ず彼女の姿をあなたに見せてあげるわ。そして彼女の声も聞かせてあげるから。待っていてね。)

 彼女は会いたい気持ちを懸命にこらえているリベラに向けて、心の中でそう約束をした。

 




 今回のタイトル「涙のご対面」は、昔放送していたテレビ番組のコーナーから取りました。
 タグに主バと書いてあるにもかかわらず、ここではまだバーバラが登場しないため、期待して読んでしまった方、ごめんなさい。
 バーバラはQuest.8で水晶玉越しに登場します。
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