ボストロール2匹との戦いは、テリーが思っていた以上に厳しいものだった。
まず幼い2人をかばいながら戦わなければならないため、攻撃を全然かわせないこと。
時々繰り出す痛恨の一撃のせいで、テリーは2~3ターンに1回はベホマを唱えなければならないこと。
そしてボストロールがHPの自動回復の能力を持っていることが挙げられた。
テリーはラリホーを唱え、何とか攻撃を食い止めようとしたが、成功率も50%程度で、どちらか一方しか眠ってくれず、思惑外れになることもあった。
そうしているうちに、戦いは持久戦になっていった。
(まずいな。残りMPを考えればベホマ3回が精いっぱいだ。イオラをぶっ放してもいまいち火力不足だしな…。)
彼はそう思うと、呪文はベホマだけに限定し、攻撃は特技に専念することにした。
しかし、せいけん突きやまじん切りも当たらなければ意味がない。ばくれつけんではダメージが分散されてしまう。
そういったデメリットが響いてしまい、なかなか倒すまでには至らなかった。
(このままではやられてしまう。かくなる上は、あの技を使うしかないな。)
腹をくくったテリーは「デュナン、デュアナ、俺から離れろ!物陰に隠れるんだ!」と叫んだ。
「えっ?でも、離れたら。」
「あたし達、狙われちゃう。」
「いいから離れろ!巻き添えを食らうぞ!」
テリーの大声を聞いてビクッとした2人は、大慌てで逃げるようにテリーから離れていった。
ボストロールA「何だ?あいつらだけでも守る気か?」
ボストロールB「無駄だ。こいつを始末したらあいつらのところに行くぞ。」
「了解だぜ!」
デュナンとデュアナの2人が安全なところまで離れたのを確認すると、テリーは「デュラン、技を借りるぜ!はああああああっっ!!」と、叫び出した。
そして次の瞬間、持っている剣に激しい電撃がほどばしった。
「喰らえ、お前ら!!!」
A「何だ、この攻撃は!?これはどこかで見たことがあるぞ!」
B「そうだ!これはデュラン様の必殺技だあっ!ぎゃあああっ!」
ジゴスパークをまともに受けたボストロール2匹は大きな叫び声を上げ、体を黒コゲにしながらダウンした。
ボストロールを倒した!
「厄介な相手だったな。しかし、デュランに教えてもらったあの技がこんな形で役に立つとは。」
テリーは2匹をキッとにらみつけた。
「あの、テリーお兄ちゃん、ありがとう…。そしてごめんなさい…。」
「あたし達、ただ、テリーお兄ちゃんに迷惑をかけただけだった…。」
2人は何も貢献出来なかった悔しさで、シュンとしながら力なく語りかけた。
「フン!デュランの子といえども、まだまだ戦えるわけではなさそうだな。だが、お前達もこれから強くなればいい。だがその前に、ボストロールはどうやら宝箱を持っているようだな。ちょっと頂いていくことにしよう。」
デュナン「えっ?あっ、本当だ。何か持ってる!」
デュアナ「テリーお兄ちゃん、開けてみましょう!」
「そうだな。まさかひとくいばこやミミックではないだろうし、開けてみることにしよう。」
3人はボストロールのところに歩み寄り、箱を開けた。
中には不思議な形をした杖が入っていた。
テリー「何だ、これは?」
「見たこともないものだな。」
「何かありそうな杖だわね。」
「そうだな。杖だから、何らかの力はありそうだな。」
テリーは箱からその杖を取り出した。
しかし、見るからに戦闘には不向きなものだった。
(俺には武器として使うことは出来そうにないな。せめて姉さんだったら装備出来るかもしれないが、攻撃力は低そうだし、道具として使うしかないだろうな。)
彼はそう思いながら、その杖を振りかざしてみた。
するとその杖が白く光り出し、テリーの体を包み込んでいった。
「な、何だこれは!どうなっているんだ!?」
テリーがびっくりする一方、デュナンとデュアナは何も言えないまま、彼をただ見つめていた。
しばらくすると、光はすっかりおさまった。
「フン!何か呪文が発動するかと思えば、期待はずれだったな。売ってお金にするしかないか。」
テリーがそう愚痴っている一方で、デュナンとデュアナはさらにびっくりしていた。
「何だ?俺の顔に何かついているのか?」
「テリーお兄ちゃんが…。」
「女の人になっちゃった…。」
「女?」
テリーは思いもよらないことを言われ、自分の体を見た。
確かに着ている服はすっかり様変わりしていた。
(えっ?どうしてこうなったんだ?)
びっくりした彼は何が何だかよく分からないまま、自分の頭に手をやった。
すると、かぶっているはずの帽子がない。さらに、髪の色が金髪になっていた。
そして剣の刃の部分を鏡のようにして自分の姿を映してみると、見えたのはミレーユの顔だった。
テリーはようやく自分の身に何が起きたのかを理解した。
「何だこの杖は!俺が変身しちまったじゃねえか!」
こんなことは今まで未経験だっただけに、彼はすっかり動揺していた。
(どうしてこんなことに?……。もしかして、俺が姉さんのことを考えながら振りかざしたせいなのか?ということは…?)
彼はまだ動揺しながらも、今度は自分の本来の姿を思い浮かべながら杖を振りかざした。
「あっ、お兄ちゃん、元に戻った。」
「あたし達どうなるかと心配しちゃった。」
2人は元に戻った彼の姿を見て、一安心した。
それを聞いてテリーは再び剣で自分の顔を映し、元の姿に戻ったことを確認した。
「ふう…、良かった。」
彼はほっとしながら大きく息を吐いた。
デュナン「ねえ、テリーお兄ちゃんはどうやって変身したの?」
「どうやってって、俺はただ姉さんのことを考えながらこの杖を使っただけだ。そうしたら、本当に姉さんの姿になって…。」
デュアナ「じゃあ、使う時にイメージした人間の姿になれるの?」
「そうかもしれないな。何ならお前達、誰かの姿をイメージしながらこの杖を使ってみるか?」
「うん!使ってみる!」
「あっ、ずるい!僕が先だぞ!」
「やだ。あたしが先に使う!」
2人はどちらが先かで言い争いになってしまった。
「コラコラ、2人とも。ここはジャンケンで決めてみるか?」
デュナン「ジャンケン?」
デュアナ「何、それ?」
「それも知らないのか。まあいい、教えてやるよ。」
テリーはそう言うと、一人ジャンケンという形でルールを教えた。
そしてまずテリー対デュナン、次にテリー対デュアナという形で練習をした後、いよいよ本番になった。
「ジャンケンポン!」
2人が同時にそう言いながら手を出すと、デュナンはパー、デュアナはチョキだった。
「わーい!じゃあ、あたしママに化けてみる!」
彼女が杖を振りかざすと、テリーが見たこともない大人の女性モンスターになった。
「すげえ!本当に母ちゃんの姿じゃねえか!」
「うん!あたし、パパの姿はほとんど知らないけれど、ママは覚えていたから!」
「じゃあ、僕は父ちゃんの姿になる。ちょっと杖を貸してくれ。」
「あっ、待って!あたし、元の姿に戻るから。」
デュアナはそう言うと、再度杖を振りかざし、本来の姿に戻った。
それを見てデュナンは妹から杖を受け取り、デュランの姿になった。
しかしそれを見て、テリーは思わず首をかしげた。
(ん?俺のイメージと違うな。やけに若いっつーか…。こんな姿しか思い出せないのか?ということは、デュランは長い間子供達に会わないままだったのか?つまり、家庭をかえりみなかったということなのか?)
彼がそんな現実を実感していると、デュナンはさらに杖を振りかざし、テリーに変身した後、最終的に元の姿に戻った。
結果、この杖は自分のイメージした人間やモンスターに変身出来る効果を持つことが判明した。
しかし、戦闘能力まではコピー出来ず、あくまでも姿を変えられるだけだということも分かった。
デュナン「テリーお兄ちゃん。この杖って、何ていう名前なんだろ?」
「分からん。俺も初めて見たからな。」
デュアナ「でも、名前がある方がいいよね。何てつけようかなあ。」
「うーーん。完コピではないが、姿を変えられるという意味ではモシャスの呪文に近いから『モシャスの杖』とでも命名しようかな。」
「じゃあ、今日からは『モシャスの杖』と呼ぼう!」
「あたしも賛成!名前を付けてくれてありがとう。」
「まあ、俺は仮の名前のつもりだったが、いいだろう。今日からこの杖はお前達のものだ。」
デュナン「えっ?いいの?もらっても。」
「ああ、やるよ。この杖で人間に変身すれば、町で買い物も出来るようになるからな。」
デュナン「確かにそうだね。」
デュアナ「これで道具屋に行った時に追い返されることもなくなるね。」
「ああ、そうだ。きっと俺よりもお前達が持っている方が役に立つはずだ。だが、これを決して悪いことに使うんじゃないぞ。」
「分かった。約束するよ。」
「あたしも約束する。」
「ああ、約束だ。お前達は知らないかもしれないが、デュランは汚いことを嫌い、正々堂々と勝負をする性格だった。俺はそんな彼を尊敬している。お前達もそんな彼のようになるんだぞ。そして、出来ることなら人間と分かりあえる存在になってくれ。」
2人「うんっ!」
彼らはテリーの忠告に対し、大きくうなずきながら答えた。
「分かった。約束だ。じゃあ、俺はこれから旅人の洞くつに入っていき、ドランゴに会う。そして彼女にお前達の母親代わりになってもらえるか聞いてみるつもりだ。」
「本当に母ちゃんの代わりになってくれればいいけれど。」
「心配するな、デュナン。俺の頼みなら多分聞いてくれるだろう。だから、失礼の無いようにな。」
2人「うんっ!」
「では、行くぞ。」
テリーがそう言うと、3人は一緒に洞くつの中に入っていった。
「ドランゴ、そういうわけだ。親もおらず、行き場もないこの子達の面倒を見てくれないか?」
「ギルルン…。テリーの頼みなら、私、受け入れる…。」
「そうか。それはありがたい。」
「でも、人間…来たら、どうする…?」
「大丈夫だ。この子達はモシャスの杖を持っているから、人間に化ければ解決する。」
「ギルルン…。それは…いいアイデア。人間、驚く…しない…。」
「ああ。それにこの子達がアークボルトに買い物に行くことも出来るようになる。そうなれば、お前も差し入れを待つ必要がなくなるぞ。」
「それ…、うれしい…。ギルルン…。」
ドランゴは喜んでテリーの頼みを受け入れてくれた。
「じゃあお前達、今日からはドランゴが母親だ。彼女に自己紹介をしてくれ。」
「うん、分かった。じゃあ僕からいくね。僕はデュナン、よろしく。」
「あたしはデュアナ。彼の妹なの。今日からはドランゴさんをママって呼んでもいい?」
「ギルルン…。ママ…。いい響き…。喜んで…。」
「わーい!じゃあママ、よろしく!」
「それなら僕は母ちゃんって呼ぶよ。」
「デュナン君…、実の母…、そう呼んだの…?」
「ま、まあ…。今さらママとは言いにくいし、『母ちゃん』が一番言い慣れていたから。」
「ギルルン…。じゃあ、母ちゃん…、呼んでもいい…。」
「分かった!母ちゃん、今日からは僕が息子だよ。よろしくね。」
「良かったな、2人とも。これからはドランゴと、そして生まれてくる彼女の子と一緒に、幸せに暮らすんだぞ。」
デュナン「分かった。きっと幸せになるよ!」
デュアナ「約束する!テリーお兄ちゃんもね。」
「ああ。俺も幸せに暮らす。そして、人間とモンスターが出来るだけ仲良く暮らせるように架け橋になるつもりだ。じゃあ、そのモシャスの杖を大事に持っているんだぞ。」
2人「うんっ!」
彼らは再び大きくうなずきながら答えた。
「じゃあ、俺はこれで。」
「ギルルン…。待ってテリー…。もう行くの…?」
「そのつもりだ。」
「テリー…、もっと一緒にいたい…。出来れば、一晩でも…。」
「悪いな。俺もやりたいことがある。」
「でも…、テリー…、いつも…同じこと言う…。ギルルル…ン。」
「テリーお兄ちゃん、僕からもお願い。もっと一緒にいようよ。」
「あたしも一緒にいたい。だって今日出会ったばかりだから。」
ドランゴ、デュナン、デュアナはそろってテリーにお願いをした。
「フン!そこまで言われちゃ、しょうがねえな。じゃあ俺も一晩ここで過ごすことにする。」
「うれしい…。テリー…。」
「わーい、良かった!」
「あたしもうれしい!」
3人(2人と1匹?)は大喜びだった。
(この雰囲気だと俺は父親代わりになってしまうかもしれんな。でも、誰かに頼ってもらえるのは喜ばしいことだし、これはこれで良しとしよう。)
テリーは少しため息をしながらそう思った。
「ギルルン…。テリー…。私…、お腹すいた…。食べ物…ほしい…。」
「そうか。じゃあ、俺はアークボルトに買い物に行く。ここで待っていろ。」
「分かった…。ギルルン…。」
ドランゴがそう言うのを聞いて、テリーは早速洞くつを後にしようとした。
すると、デュナンとデュアナが「待って!」と言って彼を引きとめ、自分達も一緒に行きたいと言い出した。
最初はその願いを断ったテリーだったが、人間に化けるからと言って、食い下がってきた。
「分かった。そこまで言うなら、いいだろう。一緒に行こう。」
「やった!」
「わーい!」
テリーが渋々ながらも同意すると、デュナンとデュアナはばんざいをしながら大喜びだった。
3人は杖を持ったまま洞くつを出ていき、アークボルトへと向かっていった。
そして彼らはその後、まるで親子のような雰囲気で一晩を過ごすことになった。
なおこの日、テリーが「モシャスの杖」と名付けたこの杖こそが、後の世で「変化の杖」として勇者の手に渡ることになるアイテムであった。