マーズの館からアークボルトに移動したハッサンは、格闘大会に参加するために城内に入っていった。
この大会には彼の他にブラスト、ガルシア、ホリディ、アモス、セリーナ(※マンガ版の3巻に登場)の計6人が参加することになっており、スコットはケガの治療中ということを考慮して、審判を担当することになった。
なお、当初はリベラとテリーもエントリーするつもりだった。
しかしリベラは両親から反対され、テリーは過去のブラストに対する因縁もあって出場禁止処分を言い渡されていたため、断念となった。
6人のうち、前回優勝のブラストと準優勝のガルシアはシードされて準決勝からの登場となっており、それぞれ1番と6番に固定されていた。
残りの4人は準々決勝で2人ずつ対戦し、2番と3番の勝者はブラストと、4番と5番の勝者はガルシアと対決することになっていた。
4人が一斉にくじを引いた結果、アモスが2番、ホリディが3番、セリーナが4番、ハッサンが5番になった。
試合のルールは武器、呪文の使用は禁止(試合後のHP回復呪文はOK)、特技は素手ならOK。
ダウンした場合は10カウント以内に立ち上がってファイティングポーズを見せれば試合続行、それが出来なかったり、降参したり、スコットにKOを宣言されると負け。
なお、両者ともにダウンし、スコットがこれ以上の試合続行は無理と判断した場合は、立ち上がった上で先にファイティングポーズを見せた方を勝者(その場合、カウントは無し。)というルールだった。
優勝者には賞金2000ゴールド、準優勝者には800ゴールド、準決勝進出の2人には400ゴールドずつ、残りの2人には200ゴールドずつ、総額4000ゴールドが支払われることになっていた。
第1試合はアモス対ホリディ。
「アモっさん、頑張れよおっ!負けんじゃねえぞ!あたいが応援しているからさ!」
威勢のいい声をかける主はサリイで、現在休暇中の彼女はアモスの応援にやってきた。
「それでは、今から試合を始めます!」
両者「お願いします!」
「では、始め!」
スコットの号令と共に、2人の試合が始まった。
アモスは先制攻撃で相撲の突っ張りのように連続攻撃を仕掛け、ホリディは防御しながら反撃の機会をうかがった。
アモスはその後も攻撃の手をゆるめず、どんどんダメージを与えた。
ホリディも防戦一方ではまずいと判断し、反撃に打って出た。
しかし、結果的に与えた以上のダメージを受けてしまい、どんどん劣性になっていった。
「いいぞ、アモっさん!それ、パンチだ!キックだ!」
サリイの声援を受けた彼は足技も駆使してさらに猛攻を仕掛けた。
このままでは負けてしまうと思ったホリディは一発逆転をかけしっぷう突きを使った。
技自体はヒットしたが、アモスがダメージを受けながらも体当たり攻撃をしてきたために突き飛ばされてしまい、床に倒れこみ、ダウンしてしまった。
ホリディはスコットが10カウントをする間に立ち上がるのが精一杯で、ファイティングポーズが間に合わなかったため、試合はアモスの勝利となった。
「やったやった!アモっさん凄いじゃないか!」
サリイが満面の笑みで言うと、アモスは「サリイさん。どうもありがとうございます!」と笑顔で返していた。
第2試合はセリーナ対ハッサン。
セリーナ「よろしく。私自身、チャモロのために優勝するつもりでここに来た。全力で行くからな。」
「こちらこそ、よろしく。俺だって優勝するつもりだ。全力で戦うぜ。」
2人はそういうと、「お願いします。」と言って、お辞儀をした。
唯一の女性参加者である女戦士のセリーナは、試合開始とともに大きく息を吸い込んだ。
(ん?何をしてくるつもりだ?)
ハッサンは不思議に思いながらも、通常攻撃でダメージを与えた。
セリーナは次のターンで「うああああっ!」という声と共に攻撃を仕掛けてきて、ハッサンに大ダメージを与えた。
(ぐわっ!気合ためだったのか!これはこたえるな!動きに惑わされた。)
彼は一瞬よろめきながらも踏みとどまり、反撃に入った。
一方のセリーナも通常攻撃で反撃し、ノーガードの打ち合いになった。
試合自体は見ごたえのある展開になったが、このままでは先にダウンしてしまうと思ったセリーナは、一旦下がって間合いを取ると、再び大きく息を吸い込んだ。
(また気合ためか!今度くらったらまずいな。ここで何とかしなければ。)
ハッサンはとっさにせいけん突きのモーションに入った。
そして2人はお互い力いっぱいの攻撃を繰り出してきた。
セリーナ「ぐああああっ!」
ハッサン「ぐおおおおっ!」
お互い大きなダメージを受け、2人ともダウンをしてしまった。
「大丈夫ですか?では試合自体はここでストップとします。そして立ち上がって早くファイティングポーズを見せた方を勝者とします!」
それを聞いて、2人は痛みをこらえながら立ち上がり、彼に向ってファイティングポーズをした。
「一瞬早かったのはハッサンでした。よって、勝者をハッサンとします!」
両者「ありがとうございました!」
2人は痛みをこらえながら握手をし、お互いの健闘をたたえ合った。
「くっ、負けちまったか…。チャモロ、すまねえ…。200ゴールドしか稼げなかった…。」
顔をしかめて悔しがるセリーナの姿を見て、ハッサンは心の中で(ごめんな。)と謝っていた。
すると、このタイミングでリベラが駆け足をしながら会場に姿を現した。
「ハッサンごめん、遅くなっちゃった。」
「遅いぞ!お前、あの後も水晶玉でバーバラの姿を見ていたのか!」
「見てないよ。ミレーユに感謝の気持ちを伝えた後、空を見上げながらバーバラの笑顔を思い浮かべていたんだ。」
「なるほど、笑顔か。お前、すっかり立ち直ったんだな。」
「うん、彼女は今もきっと笑っていると思ったから。それよりハッサン、ホイミで回復しないと。」
「おお、そうだな。頼むぜ。」
ハッサンはリベラにホイミを何度かかけてもらい、試合で受けたダメージを回復した。
「君、ホイミが使えるのか。じゃあ、私にも頼む。」
セリーナの頼みを受けて、リベラは「分かりました。」と承諾し、彼女にもホイミをかけた。
3人は一緒に並んで座り、次の試合を観戦することにした。
第3試合はブラスト対アモス。
試合開始と共に、アモスはまた突っ張りで連続攻撃に打って出た。
しかしブラストは冷静に動きを見極め、ほとんどの攻撃を受け止めてしまった。
そして隙を見てしんくう波を放ってきた。
「ぐわっ!効きますねえ。さすがです。」
次のターンでアモスは足払いを駆使し、ブラストに隙を作らせようとした。
しかし攻撃をかわされると、今度はせいけん突きをお見舞いされてしまった。
「アモっさん、何やってんだ。そこでパンチだ!キック!キックだ!」
サリイの応援を受けて、何とか反撃しようとしたアモスだったが、防戦一方になってしまった。
「ああっ、もうっ!!」
「つまり…、手も足も出ないってことか…。」
サリイがいらついている一方、リベラは冷静に腕組みをしていた。
それから間もなく、アモスはいいところなくダウンをしてしまい、降参を宣言したため、試合はそこで終了になった。
「ごめんなさい、サリイさん。完敗です。」
「なあに。相手が強過ぎただけさ。」
「私みたいに弱い人間でも、いつかパートナーになってくれる相手が見つかるでしょうか…。」
「自分で弱いって言うようならいつかだろうな。でもそれをバネにして強くなってくれれば近い未来になるかもしれないぜ。」
「えっ…。」
サリイの奥深そうな励ましを聞いて、アモスは思わずドキッとした。
第4試合はガルシア対ハッサン。
試合開始とともにハッサンはすぐに捨て身の攻撃に打って出た。
いきなりの先制攻撃だったため、受け身も取れずに攻撃を受けたガルシアはその場に倒れこんでしまった。
そして素早く起き上がり、反撃に出ようとして身構えたら、目の前にハッサンがいなかった。
すると後ろからガシッと腹の部分をつかまれてしまった。
「くらえええっ!」
ハッサンは力いっぱいガルシアを持ち上げ、バックドロップをお見舞いした。
「ズドーン!!」
まともに技が決まったガルシアは意識がもうろうとしたせいか、すぐに立ち上がれずにいた。
すかさずスコットからカウントが入った。
そして10カウント以内にファイティングポーズを見せられなかったため、試合は30秒もせずにあっさりと終了してしまった。
リベラ「ハッサン、すぐにこの後試合だけれど、ホイミかけなくて大丈夫?」
「心配いらねえさ。俺はダメージを受けてねえからよ。それよりガルシアにかけてやってくれ。」
「分かった。」
「それじゃ、俺はブラストを倒して優勝してくるぜ。」
ハッサンはそう言いながら手をバキバキ鳴らしていた。
決勝戦はブラスト対ハッサン。
ハッサンは準決勝から間髪を入れずに試合となった。
(とはいえ、ブラストもそれ程休憩時間があったわけではなかったが。)
両者は「お願いします。」と言って、握手をした。
「それでは始め!」
スコットの合図と共にハッサンはせいけん突き、ブラストは素手でしんくう波で攻撃し、どちらもヒットした。
次は両者ともせいけん突きを繰り出し、それによって威力を相殺される形になったため、両者ともほぼノーダメージとなった。
(今のところ互角だが、せいけん突きだけではまずいな。そのうちアモっさんのように攻撃を受け止められて反撃をされてしまう。捨て身では受けるダメージが怖いし、飛びひざげりではダメージが増えない。何か他の技も考えなければ。こうなったらセリーナ、技を借りるぜ!)
ハッサンはそう思うと、大きく息を吸い込んだ。
その間にブラストはさみだれけんで攻撃し、ハッサンにヒットした。
彼はダメージを受けながらもそれに耐えると、ため込んだ力を駆使して反撃した。
「ぐわっ!」
気合ためでかなりのダメージを受けたブラストは勢いで突き飛ばされてしまい、少しだが動きに乱れが生じた。
(隙あり!)
ハッサンは間髪入れずに再度突撃し、飛びひざげりをくらわせた。
もちろんブラストも素早く体勢を立て直し、せいけん突きを繰り出してきた。
両者はともにダメージを受けながらも攻撃を続け、ノーガードの打ち合いになってきた。
「ブラストがんばれ!」
「行けハッサン!」
試合を見て他の人達は思わず興奮し、ガルシア、ホリディはブラストを、リベラ、アモス、サリイ、セリーナはハッサンを応援していた。
2人はその後も打ち合いを繰り広げ、試合はますます白熱した。
しかし体力はどんどん削られていき、両者ともにフラフラになりつつあった。
(多分しんくう波とかせいけん突きをまともにくらったらこっちがKOだろうな。次の一発で決めなければ。)
すでに額から血がにじんでいるハッサンが意を決した時、ブラストは「くらえええっ!」と言いながらがせいけん突きを繰り出してきた。
(くらってたまるか!)
ハッサンはすんでのところで攻撃をかわし、その腕をつかんだ。
「どおりゃあああっ!」
彼は最後の力を振り絞るように一本背負いを仕掛け、ブラストを床に叩きつけた。
「もう必殺技をかける余裕はねえ。これでどうだ。」
ハッサンは肩で息をし、フラフラな状態だった。
もちろんそれはブラストも同じだったが、彼は「連続優勝を途切れされるわけにはいかない!」と言いながら、執念で立ち上がってきた。
そしてファイティングポーズを見せたことで試合は続行となった。
(まだやるのかよ!でも勝つためにはやるしかねえな!うおおおおっ!)
ハッサンは今度こそ最後の力をふりしぼり、捨て身に打って出た。
ブラストは攻撃をかわそうとしたが、体がフラフラなこともあってよけきれず、ヒットしてしまった。
両者はそこで力を使い切ってしまい、床に大の字になって倒れこんだ。
「では、早くファイティングポーズを見せた方を優勝者とします。」
スコットの発言の後、両者は何とかして立ち上がろうとした。
しかし体が言うことを聞かず、なかなか立ち上がれずにいた。
会場からは両者を必死に応援する人達の声がこだまし、彼らもヒートアップしていた。
両者ダウンから1分後、ハッサンは根性で立ち上がり、何とかポーズをしてアピールをした。
「いいでしょう。ファイティングポーズとみなします。勝者ハッサン!よって、優勝はハッサンとなります!」
スコットの宣言により、初めてブラスト以外の優勝者が誕生した。
「やったぜハッサン!さすがに大魔王を倒しただけのことはあるな!」
「おめでとうございます!私でさえ全く歯が立たなかったのに、凄いですね!」
「ブラストさんに1対1で勝つなんて、やるじゃないか!」
「私との試合ですでにダメージを受けていたにもかかわらず、ここまでやるとはね。」
サリイ、アモス、リベラ、セリーナはすでにボロボロのハッサンのところにやって来て、彼を祝福した。
そしてリベラとアモスはホイミをかけ、ハッサンは顔こそ腫れ上がっているものの、何とか元気を取り戻した。
一方、何とか立ち上がり、あとはポーズを見せるだけだったブラストは力が抜けて尻もちをついてしまった。
「やられた。初めて負けた…。」
彼は肉体的にだけでなく、精神的にも大きなダメージを受けていた。
「でもすごい試合でしたよ。見応えありました。胸を張ってください!」
「立派なライバルが出来たということですよ。また強くなりましょう。」
ガルシアとホリディは落ち込むブラストを懸命に励ましていた。
そしてリベラとアモスは彼にもホイミをかけ、傷を回復させた。
表彰式で、ハッサンは顔にいくつものガーゼやばんそうこうを貼っており、見るからに痛々しそうだったが、満面の笑みで優勝賞金を受け取った。
そして彼は優勝した特権として次回の大会に参加する場合は第1シードとして自動的に1番になり、参加者が6人や7人の場合は必ずシードされ、準決勝と決勝が連戦にならないという、有利な組み合わせになることが決まった。
(8人の場合は最低シードの人と第1試合で当たることになります。)
一方、200ゴールドしか受け取れなかったセリーナは、再びチャモロへの謝罪のようなことを言い出した。
「一体どうしたんですか?」
「チャモロのためにどうしてそんなにお金が必要なんだ?」
彼女が気になったリベラとハッサンは、彼女のところにやって来て、理由を聞いてみた。
「実はチャモロがクィント、クァド親子をはじめ、恵まれない人達のために活動をしていてな。」
リベラ「それなら本人から話を聞いているので、よく知っています。」
「そうか、それなら話は早い。それで、資金難に悩まされているんだ。私も彼のためにここでお金を稼ぎ、何とか手助けしたかったんだが…。」
「だったらよ、俺達の仕事にあんたも参加してくれないか?給料はちゃんと払うからよ。」
ハッサンは、明日から始まるレイドック城の工事の資金集めとしてこの大会に参加したことを話した。
「どうだい?時間、取れそうか?」
「どうやら体を鍛えることにもつながりそうだな。いいのか?私が参加しても。」
ハッサン「あんたさえ時間を作れるのなら大歓迎さ。人手が足りなくて困っていたんだ。」
リベラ「住むところと食事はこちらで提供します。来てくれれば本当に助かります。」
「じゃあ、ありがたい。私も手を貸そう。では、チャモロから預かった風の帽子を使って彼のところに行き、そのことを伝えてくる。場所はレイドック城だったよな。」
「ああ、そうだぜ。工事自体は明日から始まるが、毎日じゃなくてもいいぜ。来られる日を教えてくれれば、こちらで調整するからよ。」
「分かった。では、チャモロの了解を得た上で、出られるだけ出るつもりだ。また明日会おう。」
セリーナはそう言うと、右手を差し出してきて、握手を要求した。
ハッサンとリベラはそれに応え、固く握手を交わした。
「あの、私も明日参加させていただきましょうか?」
「えっ?アモっさん、いいのか?あたい達の仕事も控えているのに。休める時にしっかり休まないと体が持たないぞ。」
突然アモスが割り込むと、サリイは驚いて止めようとした。
「1日なら大丈夫です。休みの日に遊ぶのと、仕事で日当を稼ぐのでは金額にかなりの差が出ますから。」
「まあ、あたいとしては、こっちの仕事をしっかりやってくれればそれでいいけどさ。お金もあって損はないし。」
「では、明日レイドック城で会いましょう。」
「OK。じゃあ、リベラの両親にセリーナさんとアモっさんが加わることを伝えておくぜ。」
セリーナ「よろしくお願いします。」
アモス「頑張らせていただきます。」
こうして、明日から始まる作業に2人が加わることになった。
大会終了後、ハッサンは一旦サンマリーノに行き、父親を連れてレイドック城にやって来た。
そして、工事終了までそこで寝泊りすることになった。