殺人を強要されている内に快感を覚えてしまう清純乙女『風』   作:乙女竜

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ちゃお〜。
素直な女の子ほど悪用される。


先輩

ホワイト・クロスに潜入し、『異物』の動向を報告する。

それが私に与えられた仕事。教会の影、特別監査員。我々は、各部門の内部で起こったあらゆる動きを本部に報告する。報告するだけ。問題があっても実際に何か手を打つ訳ではない。それをするのは別の誰かだ。

 

本来『白い布』はメンバー全員に寝食を共にさせることで仲を深め、内部での裏切りが起こらない仕組みになっている。徒党を組んで反乱することも、リーダーを定期的に呼びつけて仲間を人質にとることで未然に防げるのだ。『償えない罪を共有する仲間』として互いを認識させ、まるで被害者同士が傷を舐め合うような構図が設定されている。

 

これは私が上司から受け取った情報だ。しかし彼は続けてこう言った。

『最近はこの構図が崩れかけているように思える』と。

 

原因はおそらく9年前に加入した忌み人。今まで表面上仕事に滞りがなかったために発覚が遅れただけで、最近よりもっと前からその兆候はあったのではないかと睨んでいるそうだ。ただ、現在表立った問題としては『一人が昼の交流に参加できなくなった』のみなので、彼は杞憂であることを祈っていた。

 

私は常に優秀だった。杞憂でもそうでなくても、同じように結果を出すだけ。両親の顔も知らないまま教会に育てられて、今日まで頑張ってきたのだ。大丈夫。今回もきっと上手くいく。

 

 

そう考えて内部に潜入したが、思ったよりも状態は酷かった。一夜に複数のターゲットを殺しに行くなど任務の成果自体はむしろ増えたようだが、これではいつ爆発するか分からない爆弾だ。うまく言葉で説明することは出来ないが、メンバー全員が自棄になっている気がした。杞憂であればすぐに理由をつけて抜けたが、これは深く観察する必要があると思った。

 

 

一人、使い物にならないメンバーがいる。私は彼女の欠員を補充するという名目で加入した。表向きはスカウトということになっているが、そんなのどうとでも弄れる。

 

彼女は、夜になれば一人でターゲットを殺しにいき、帰ってくると蹲って泣く。どうしても彼女のスキルが必要な時だけ集団で行動するが、スキルを使う以外は戦闘中も立ち尽くしている。そして帰れば泣く。泣きながら、『フィリア、フィリア』と頻りにかの忌み人の名前を呼ぶのだ。暗部の部屋で『フィリア先輩』と顔を合わせると、必ず足元に縋って叫ぶように謝罪の言葉を繰り返す。

 

何があったのかは分からないが、やはり上司の見立て通り原因は彼女にあるようだ。ただ、そのメンバーの頭を撫でながら、

 

「もう良いんです」

 

と諦めたように言うフィリア先輩がとても印象的で、悲しかった。

次の報告は一月後。私は不穏な気持ちでいっぱいだ。

 

 

今日はフィリア先輩と眼鏡屋に行った。先輩はとても優しい人だ。加入して日も浅い私をいつも気遣ってくれる。でも、優しくて、苦しんでいる人だ。

 

彼女は眠っていない。そしてそれを知った私に『これは罰なのだ』と言った。仕事が終わるといつも抜け殻のような顔で手を洗っている。ひたすら、何時間も手を洗い続けて、もう血など付いていないと言った私に、日常のもの全てに血がついて見えるから何も分からないと言った。

 

彼女は子供に触れられない。聞けば、どうせいつか私が殺すのだと言った。

 

聞く度に胸が痛んだ。人を殺していることに変わりはない。然るべき罰だと言う人もいるだろう。でも、本当に他愛もない話で『願いが叶うなら』と聞いた時、彼女は『死にたい』と答えたのだ。

 

眼鏡屋に着いた。レンズだけを取り替えるのだと言っていたが、先輩は敢えて度の合わないものに替えるよう頼んでいた。

 

ほんの少し気になっただけだった。やらなければよかった。

私は、なぜ度を外すのかと聞いた。不用意だった。

 

 

知りたくなかった。

 

フィリア先輩は、目を伏せて、長い間黙った。ここで止めておくべきだった。やっぱりなんでもないですと、話を打ち止めて逸らすべきだった。

 

「もう……人が死ぬ時の顔を見たくないんです……」

 

震える声だった。今にも泣き出しそうな顔だった。先輩は、もう限界だった。私は何も知らなかった。『ごめんなさい』と、何の救いにもならない謝罪が口を出た。

 

その後、レンズの交換が終わって店を出ると、彼女は微笑みながらなんでもないかのように『本当はどこか遠い場所で家族と一緒に暮らしたかった』と言った。『もし死んで生まれ変われたなら、誰も傷つけられない芋虫になりたい』と言った。先輩はなんでもないことのように言った。それが凄く悲しかった。もうどれも叶わない。

 

暗部の部屋についた彼女は、そのまま私と話しながら自分の部屋まで歩いた。普段は自室まで連れてくれることなどないのだが、先輩が少しだけ楽しそうだったので気にしなかった。私と話すことで少しでも気が紛れるのなら幾らでも話し相手になろうと思った。

 

扉が開いた。一人用の部屋には小さなベッドがあり、そこで誰かが寝ていた。静かで、まるで死んでいるかのようだった。

 

フィリア先輩は、客人の前で親類が寝ていることを詫びるような態度で軽く謝ったあと、長い間放置された手のつけられていない料理をベッド脇から机に移動し、枕元から絵本を取り出した。

 

「この子、シェーンって言うんです。私の妹です。可愛いでしょう?」

 

紹介された妹は、その間も全く動かなかった。呼吸すらもしていなかった。『死んでいるかのよう』ではなかった。死んでいた。

 

私は、先輩の何を知った気でいたのだろう。もうどうしようもなくおかしくなっているのに。

先輩は少女の額にキスをし、愛おしそうな顔で見つめながら絵本を読み始めた。少女は死んでいる。

 

「ぁ……」

 

私は、それを見て、小さな声が漏れただけだった。

 

 

 

 

 

 

 




読み聞かせている本は3年前からずっと同じです。

感想・評価等いつもありがとうございます!!!めちゃめちゃに読んでます!!誤字報告もここすきも全部好き!!
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