殺人を強要されている内に快感を覚えてしまう清純乙女『風』   作:乙女竜

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ちゃお〜。生存報告です。
結構忙しくて更新ペースがガタ落ちします。
……説明回ってどうするのが自然なんでしょうね。


箝口

夜中、先輩は私の部屋に入ってくると、ベッドで本を読んでいた私に縋って泣き始めた。どうしたのかと聞いても酷く怯えていて要領を得なかったが、背中を摩ってどうにか会話が成り立つくらいに落ち着かせると『目の前でターゲットが魔獣になった』と言った。

 

忌み人が魔獣になる。私も初めて聞いた事だ。考え込んで黙っていると、先輩はまた泣き出して

 

「……違うの。あれは幻覚じゃない……信じて……!」

 

と、私が疑っていると思ったようだった。誰かに『私が見たものは幻覚ではない』と訴えることの、なんと悲痛なことか。私はまた先輩の状態に何か締め付けられるような思いを感じながら、彼女を宥めていた。しかし半信半疑であるのも事実だった。早急に確認しなければならない。

 

こんなに取り乱して起き続けていては可哀想だと思い、私は睡眠のスキルで無理矢理先輩を眠らせた。静かに涙を流しながら寝息を立てる先輩を見て、今日ばかりは悪夢の方がマシであることを願い、隠れて上司の元へと向かった。

教会幹部、特別監査長。彼は私を気に入っている。きっと聞けば答える筈だ。

 

 

 

『空き部屋』へと向かう私は、途中で自分の足が震えていることに気がついた。

 

私は、努めて合理的に、冷静になろうとしていた。先輩はきっとまた幻覚を見ている。だから飽くまで念の為に確認をしに行くだけだ。そう言い聞かせて極力頭を使わないようにしていた。

 

でも身体の震えを自覚した途端、やっぱりもう不安が抑えきれなくなって、その場から歩けなくなってしまった。

 

もし、先輩が魔獣になってしまったら。

 

考え出すと、思い付きたくもない心配事が次から次に溢れ出した。怖くなって、大丈夫、大丈夫と呟きながら早足で歩いた。

 

空き部屋に入ると、やはり上司はそこに居た。予告なく立ち入るのは失礼に当たるが、最早そんなこと気にしていられなかった。私が単刀直入に用件を伝えると、ベージュ髪の白服は底の見えない糸目を更に細めた。

 

「随分と突然だね、また。君がそんなにあの忌み人に傾倒しているとは思わなかったよ」

 

いつも通りの余裕な態度に思わず眉を顰めてしまう。今は兎に角はやく答えが欲しい。上司は焦る私を見て苦笑すると、肘をついてそこに身体を預けた。

 

「これはまた君らしくない。落ち着けよ。……まあ、そうだな、結論から言えば、君が心配することはない」

 

「どういう意味ですか?」

 

要領を得ない回答に苛立っていると、上司は勿体ぶるような語り口で話し出した。

 

「……君は、スキルが何処から伝来したか知っているかい?」

「……質問に答えてください!」

【黙って動かずに話を聞け】

 

「…と、このように君を意のままに操る事も可能である程に画期的で、多種多様な性質を持つスキル。これらが本当に神の祝福とやらだと思っているのかい?」

 

私が口から音を発することを禁じた上司は、キザったらしい抑揚でわざとらしく質問し返した。私が答えられないのを見てニヤニヤと嬉しそうな顔をしているのが気に入らなかった。

 

「今日びこの教会では『忌み人は90年ほど前に初めてその一人目が発見された』ということになっているが、これは全くの嘘だ。本当は彼らはもっと前、それこそ何千年も何万年も前からこの世界に存在した。そうして今も度々訪れる」

 

私の動きを封じてまで語り出した話は、明らかに荒唐無稽な法螺話だった。

 

「彼らは無知蒙昧の私達に多くの事を教えた。言語、文明、信仰。今や主流な家庭料理となったクリームシチューも彼らが伝えたとされているのだよ。そして彼らの授けた多くの恩恵の一つにして最も素晴らしいもの、それこそが我々のもつ『スキル』、その原型だ」

 

まるで御伽噺のような出鱈目な話。忌み人が恩恵を授けるなど、教会の者が口にして良い台詞じゃない。一体何の意図があってこんな話をしているのか、私の質問を蔑ろにしておちょくる彼に激しい怒りを覚えた。それに、原型?全く話が見えないのも拍車をかけた。

 

「原型、つまりスキルそのものは彼らの授けたものではない。しかし彼らは、その大元となる『とある技術』を我々に教えた。……うーん、君にも分かるように言うのは難しいが、産まれる前の子供の遺伝子に作用して好きにデザインする技術だ」

 

遺伝子。それは神によって事前に作られた不可侵の人間の構造。教会で初等教育を受けた者なら必ず習う事だ。不可侵、即ち我々人類には介入出来ない領域。それに介入し、まして好きに改変するだなんて、余りにもお粗末な嘘だ。しかし、上司の表情や語り口がどうにも不思議な説得力を帯びていた。

 

「その画期的な技術を数千年かけて我々が改良し、人体の組成を尽く新しい物にまで変えることで産まれたのが『スキル』だ。パターンA1からZ97の合理遺伝子。それらを組み込まれた子供達はやがて全世界へと広がっていった。嘗ての人類では考えられなかった能力、まさに『スキル』と名付けるにふさわしいだろう」

 

彼は得意げにひと息ついて、再び、今度は演技がかったように重々しく口を開いた。

 

「だが、ここまでの恩恵を授けた彼らには、裏の性質があった。……それこそが魔獣化だ。そもそも魔獣という生き物は、全て彼らの成れの果てを指す。リミットは不明。死体がそうなることもある。しかし彼らはやがて、必ず、避けようもなく魔獣と化す。遺伝子をどう弄っても変わらなかった。故に教会は彼らを忌み人と名付け、殺し、回収して溶かすのだ」

 

告げられた虚言は、余りにも残酷だった。

それは、つまり。

 

先輩は、もう助からない?

 

【もう喋って構わないよ】

 

「……先輩も魔獣になるってことですか?で、でもさっき心配はないって──」

「勿論心配はない。彼女がどうなろうと、教会には神がかった技術力、即ち戦力があるからね」

 

言葉を失った。最初からこの人は、教会は、先輩の命などどうとも思っていないのだ。私は、もう躍起になるしかなかった。だってそれでは、そんな扱いでは、余りにも先輩が可哀想だ。

 

「じゃ、じゃあなんで先輩は生かされているんですか!?特例なんですよね!?どうなっても良いって、じゃあ一体何の為に先輩はあんなに苦しんでるんですか!?何の為に教会はあんなことさせてるんですか!?」

 

「だから落ち着け──」

「なんでですか!?なんでっ!なんで!おい!!答えろよ!!」

【静かにしろ!!】

 

「煩くて嫌になる。……そうだな、支部の司祭に厄介な奴がいる。……腐敗した教会を正すと宣う狂人だよ。そいつが弁を弄して彼女を幹部に認めさせた。しかしあの目……恐らくだが、目的は彼女が魔獣と化すことそのものだ。魔獣となった忌み人は、ごく僅かだが意思が残る。人間だった頃に最も大事だったものや、逆に最も恨んでいたものを覚えているんだ。つまり奴は、教会に恨みを持つ魔獣(フィリア)を作って全てを破壊しようとしている、そう考えられる」

 

「そんな、でも──!それ、は……!……そんな、の、酷い、ですよ」

 

呆然とする私を前に、白服の上司は口を開いた。

 

 

【誰にも言うな】

 

 

 

 

 

 

 

 




説明回『風』です。よろしくお願いします。

感想・評価等ありがとうございます!!!

追記: あの、生存報告です……。私、学生の身分でして、部活動も忙しいのに所属しているんですね。で、その……夏休みも文化祭とか色々の為に吸われてしまうようなので、あの、本当に申し訳ないんですけど、続きはだいぶ先になりそうです……。許してください〜
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