殺人を強要されている内に快感を覚えてしまう清純乙女『風』   作:乙女竜

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皆さま…………。
本っっっっっっっっっっっ当に申し訳ありませんでした!!!
続きです!


路地裏で思わぬ出会いをする清純乙女

あの日から、裏の仕事が突然なくなった。

 

オッスオッス!束の間の安息を満喫しているフィリアだぜ!

 

レフコちゃんに助けを求めて縋った翌日、夕方頃まで久しぶりに幸せな夢を見てずっとこのまま目覚めたくないのに突然目の前で両親が魔獣に食べられてでも本当にお父さんとお母さんを食べていたのは私で辛くて苦しくて信じたくなくて喉が裂けるほど叫びながら目を覚ました俺はちょうど帰ってきて隣に座っていた彼女に強く抱き締められ、なんとか気を落ち着けることができたぜ!

 

「絶対私がなんとかしますから」

 

って言ってた。

 

もう、こんなに崩れてぐちゃぐちゃで、戻りようもないような人殺しの獣をなんとかすることなんかできないのに、そう、そうやって跳ね除けるように考えていたとしても、もう何にも期待しないようにしていたとしても、何故かレフコちゃんの言葉で安心してしまった俺は、きっととんでもない馬鹿なんだと思う。

 

魔獣化の条件は、魔獣化の条件はっ、魔、獣化の、条件は未だに分からない。分からないという事にした。分からない方がいいから。

 

俺は、レフコちゃんのあの日の言葉を最近よく考えるようになった。絶対私がなんとかする、と彼女が言った翌日から、確かに、ホワイト・クロスは昼の仕事しかしなくなった。

 

教会上層からの命令がなくなった。ネルさんも、スタシアさんも、フロワさんも、誰も、人を殺さなくてよくなった。昼の交流は文字通り単なる交流になった。空き部屋に呼び出されて、たった一言『もう結構』と言われたきり、『白い布』は単に教会の色を示すだけの布になった。

 

レフコちゃんの様子も、変わらなかった。

あんな風に取り乱して、あんな風に慰めてもらって、きっと、きっと彼女が何かしてくれたに違いないという確信はあるのに、レフコちゃんはただ昼の間も夜寝る前も私の傍についてくれて、眠れない俺を睡眠のスキルで眠らせてくれる。

 

ネルさんにご飯を食べさせて、他のメンバーと静かに会話して、この不自然な自由に対しても『良かったじゃないですか』と穏やかな笑みで返す。傍目には、精神的なケア以外何もしていないように見える。耳を済ましても、目を凝らしても、夜中に抜け出している様子一つすらない。

 

もしかして、本当に解放されたのだろうか。

 

そんな思いが頭に生じて、俺は、ここ最近、魂が抜けたような気分だ。

 

そんな筈がない。どちらにせよ私は魔獣になってしまうし、人を殺した過去は消えない。私は、どうやっても、許される筈がない。

 

頭では分かっている。相も変わらず幻覚は罪を自覚させてくる。

なのに、俺の心は、ああ、魔獣になっても皆に殺されるならそれで良いと、そう思ってしまっている。

 

終わりが訪れるんだ。ようやく。静かで、穏やかで、さざ波のような終わりが。私は裁かれて、意思はなくなり、闇へと還る。償う事が出来ない罪を、やっと地獄で償う事が出来る。それまでの間、もう、これ以上罪を重ねなくて良いんだ。

 

そう、思ってしまっている。

 

ネルさんは、私の鏡写しだった。スタシアさんは、純粋に私を心配してくれていた。シオネさんは罪を背負う覚悟があって、フロワさんは皆を守る事だけを考えている。

 

ホワイト・クロスのお姉様方に初めて恨み以外の感情を持つことが出来た。

昼の交流で、ネルさんも連れた皆で海に行った子供の話を聞いた。やがて皆で行く地獄が、綺麗な夕日のある海だったら良いなと思った。責め苦の合間に、波に溺れて、傷口に潮の痛みを感じて、身体を他の生き物に蝕まれたら良いなと思った。

 

夜中に流す涙が、逃避や罪悪感ではなくなってしまった。

いけないことだと分かっていても、私は、また、未来に期待をしてしまっている。

 

それがおかしいって分かっているのに、そう思うのがやめられない。向精神性の何かが、あたかも俺に作用しているかのように。

 

 

交流の終わり、少しだけ空が夕焼けの淡い紫に染まっていく中、片付けを終えた俺は一人で隠れ家まで歩いていた。レフコちゃんは俺が一人になりたい時はまるで分かっているかのように傍を離れてくれる。

 

街を往く人の大半が顔を炎に焼き、胸に短剣を突き刺し、口に鼠を入れている。けれど、幸せな笑い声は遠くに微かにだが確実に響いている。

 

もう、これを奪わなくて良い。ずたずたに引き裂かなくて良いんだ。そう思うと、胸元から迫り上がる、決して私なんかが持っていていいものではない感慨が抑えられなかった。

 

目から流れる涙を拭って、再び歩きだそうとした時、ちょうど私が立っていた家と家の隙間から、ぬっと骨ばった細い手が飛び出して、私に手招きをした。

 

 

……ああ。もう、分かってしまった。

 

 

──見れば、黒いフードを被った長身の何者かが、路地裏の闇の中で、私をじっと見詰めている。

 

 

 

教会の人間だ。

 

 

 

小さく息が漏れる。弱い。すぐに殺せる。殺したい。でも、ダメだ、違う、もう殺したくなんかない!でも、なんで、なんで!

だって、私たちはもう、解放された筈じゃ──!

 

涙が流れる。でも、この涙は決して、さっきと同じような涙ではない。人間に、流れるような涙ではない。私に似つかわしい、この化け物にこそ似つかわしい、激しい怒りの涙だった。

 

 

「……ああ、そっか、そうだよね」

 

 

油断していた。そうだ、そうだよ。私たちは教会の犬。解放なんてされる訳がない。なんで信じた。騙された。全部嘘だったんだ。当たり前だ。こいつらのせいで、私たちのせいで今日も罪のない人間が何人も死んでいくんだ。

 

「……はは」

 

無理だ。逆らえない。逆らえない?ホワイト・クロスの皆だって死んで当然だよ。私もそう。逆らって、皆殺されてしまえばいいよ。逆らえるよ。ほら、殺そうよ。殺そう。殺そうよ。殺そうってば!!!

 

「ははは」

 

違う。何を言うつもりなんだろう。何をさせるつもりなんだろう。この期に及んで、こうやって私の心を踏み躙って、弄んで、一体何をさせるつもりなんだろう。許せない。許せない。死ね。死ね!

 

「はははは」

 

違う。殺したい。殺したい。殺したい!

抑えられない。拳を固く握り締めて、握った指が手の甲を貫通するまで固く握り締めて、ほら、殴れ。殴れよ。殴れってば!!違う!

 

手を覆う黒い毛。鋭い爪。血の匂いが、こんなにも恋しい。違う。ああ、そっか。私は獣だったんだ。そんな筈ない。やっぱりそうだ。お父さんとお母さんだってどうせ私が殺したんだよ。違う。だって、この世の人たちみんな、誰も彼も私が殺したんだから。

 

「はは」

 

全部、お前らのせいで。

 

喜悦に歪む顔を堪えられないまま、私は握り締めた拳を振り抜く。目の前の顔面が果物のように弾ける様子を幻視して、急に恐ろしく(きもちよく)なった私は咄嗟に反対の手で軌道を逸らした。壁に私の拳がめり込んで、パラパラと砕けた破片が散る。途中で力を抜いたお蔭か外の人には気づかれていないようだった。

 

 

 

足が、竦む。

 

……今、私は、自分で、望んで、人を殺そうとしていた。もう殺さなくて良いと未来に希望を抱いた、その矢先に。こんな事は初めてだ。でも、頭を割ろうとした瞬間の()()()()は、ずっと、私に馴染みがあった。ああ、『悪魔』。いるんだ、ずっと、私の中に。

 

私は、私が恐ろしい。

 

一歩、二歩と後退る。けれど対面の黒フードは、この怪物を前にして、逃げるでもなく、処分の連絡をするでもなく、何故か悔しそうに拳を握って、私の方へ一歩だけ近づいてきた。

 

「なに……やめて、近づかないで」

 

怖い。もう誰も殺したくない。ずっとそう思っているのに、思っていたのに殺す事を望んでしまった。もうダメだ。私はもうダメになってしまっている。誰にも近づいてほしくない。はやく、はやく死なないといけない。身体に上手く力が入らなくて、私は尻もちをつく。

 

自由に動けない私を見てカツカツと一息に距離を詰めた黒フード。

そいつはそのまま暫く私を眺めると、ゆっくりとその細腕を持ち上げて、

 

顔を隠す頭巾を外した。

 

 

 

「お前の魔獣化は、まだ防ぐ事ができる」

 

短い金色の髪。睨みつけるような鋭い目。

 

私は、彼女に見覚えがあった。

私を地獄に送った張本人。

その人は、その痩躯に長身の女の人は、間違いなく9年前の尋問官だった。

 

 

 

 

 

 




活動報告に全てが書いてあります…………。

今回は曇らせなしですみません。いつ出るかは未定ですが、五、六話くらい後にあると思います。しばらくは、何卒、私の我儘に付き合ってください。
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