殺人を強要されている内に快感を覚えてしまう清純乙女『風』 作:乙女竜
監査が3ヶ月も遅れたのは、ギルテ坊やがデクタスを完膚無きまでに追い詰める準備をしていたせいだ。あの七光り、子供を放っぽり出して毎日あろうことか娼館に行っていたらしい。
しかし、幾らデクタスが以前から問題視されているからと言って、坊やは躍起になりすぎだ。大体の証拠を集めきるまでの3ヶ月、いや、前任者が死にデクタスが配属されてからの6ヶ月、魔獣被害にあった孤児院では子供達が酷い暮らしを強いられていたと言うのに。
ただ、こんな老いぼれよりも坊やの方が立場が上なのだ。
その証拠集めの一環で、私は移送中の子供達を一度検査せねばならなかった。いや、証拠集めというよりもこじつけ探しだが。
教会の考えでは、魔獣被害は忌み人によるという。少々知恵のあるものや私の様に古くから所属しているものであればその不自然さに気づく筈だが、坊やはただデクタスを裁ければそれで良いようだ。
子供たちの中に運良く忌み人でも紛れていれば、或いはそのように思える痕跡をこじつけられれば、デクタスは『忌み人を匿った』として経歴に大きな傷を負うことになる。
念話スキル持ちの監査員によれば、自分の運転する馬車に乗っていた少年が忌み人の存在を匂わせたようだ。どうせ子供の戯言だが、坊やは調べるだけの価値があると判断したらしく、私に検査を命じた。全く、自分の争い事に子供を巻き込んで恥ずかしくないのか。
内心呆れながら、広場に集まった子供一人ひとりにタリスマンを翳していく。私一人で行っているのは、見知らぬ男達よりも老婆の方が警戒されにくいだろうという坊やのなけなしの気遣いだ。順々に平凡なスキルが啓示されていく。
その中で、私は自分の目を疑った。
いたのだ、忌み人が。
他の子供より一層薄汚れてやせ細った、傷だらけの三つ編みの子供。彼女はスキルを持っていなかった。
私は頭の端で『これでデクタスのクソ野郎も終わった』等とくだらないことを考えるしかなく、身体は自動的に尋問室へと向かった。長い間繰り返した習慣は嫌になる程で、私の脳は既に尋問の方法を何通りも考えついていた。もし本当にこの子が忌み人なのだとしたら、私はこの小さな子を殺さなければならない。
待機していた数名の教徒と共にこの子を椅子に座らせ、尋問を開始する。机に置いたジャッジメント・ストーンによって全ての発言はある程度の確信を以て嘘か否か明らかになる。高位のものではないので発言者の思い込みや考え方次第では正しく判定できないが、質問の内容はごく簡単で、まして相手は子供なのだ。
こちらから質問をする前にジャッジメント・ストーンについて聞かれたので、ただの石で、お前には関係ないと答えた。その際ストーンが反応し発光してしまったが、どうせ分からないだろう。
「お前には、忌み人の嫌疑がかかっている。この間の魔獣侵攻、やつらを率いていたのはお前か?」
私の質問を受けても、その子は顔色一つ変えなかった。というより、私が別室に引っ張って連れて行っても、見知らぬ男に囲まれても、この子の表情は常に何も表さなかった。何をされても反応しない子供。拷問の末に心が死んだ人間に似ていた。私が回答を期待するのをやめた途端、その子が口を開いた。
「……ごめんなさい、何を言っているのか、分かりません。イミ……ビト、というのは、何でしょうか」
答え方は酷く大人びていた。
私には恐怖に怯えているようにも思えたが、大人びている、というのも忌み人の特性を持つ子供に共通しているのだ。ジャッジメント・ストーンは反応しなかったが、だからと言ってこの子が忌み人でないとは言い切れない。
「では別の聞き方をしよう。お前は『転生者』か?」
忌み人は、自らを『転生者』と呼ぶ事がある。死んでも再び生まれるとは、何ともおぞましい。
過去にも『転生者』という言葉を使って忌み人を炙り出した事が何度もある。ここが分水嶺だ。
その子は少しの間を開けて、『いいえ』と。それだけ答えた。
ジャッジメント・ストーンは、反応しなかった。
私は困惑した。過去に類を見なかったからだ。忌み人ではないのに、スキルを持っていない子供など、そんなものが存在するのだろうか。しかしストーンは神器、使い方さえ正しければ決して間違うことはない。
つまりこの子は、この子はこれから先ずっと、忌み人でもないのに同様の扱いを受けることになる。恐らく既にいま受けている痛みよりも、ずっと酷いものを感じて生きるのだ。この小さな身体で。このやせ細った弱い身体で。
まだ新しい痣や生傷が目に入る。彼女は孤児院で一体どれだけ苦しんだだろう。そしてこれから、どれだけ苦しんで生きるのだろう。私が彼女を調べたばかりに。私は、この子に謝らなくてはならない。衝動でそう思った。
「そうか。すまない。本当にすまない。お前は私を恨んで構わない。いや、未来永劫私を恨んで欲しい」
それだけ恨まれても、償い切れない罪を負ったのだから。しかし少女はそんな私を見て、表情を変えぬまま返した。
「良いんです。私は、もう何も気にしていませんから」
それは人生への諦め、絶望の言葉だった。
そう言った後、あろうことかこの私に気を遣って口角を無理やりあげた彼女の笑みは、もう彼女が一生自然に笑えない事の証左だった。
これだけ聡明なのだから、きっとこれからの人生も分かってしまっているのだろう。その上で何故、この子は人に優しくできるのか。何故、こんなにも良い子がこれから先不幸に生きなければならないのか。
私は部屋を出て、ギルテ坊やに直談判しに行った。スキルのない子供、彼女を教会で守ってやりたいと。
私がそう話すと、ギルテは何かが引っかかったような顔をした。
その後資料をあさり、およそ半年前、孤児院の魔獣侵攻とほぼ同時期にとある民家も被害に遭ったことを告げた。それが一体何の関係があるのかと聞けば、その家庭の子にはスキルがなく、周囲にはそれを隠して育てていたのだそうだ。司祭で友人であるギルテだけを除いて。
しかし魔獣侵攻の日、一家は全員死んだ。子供の死体だけが見つからなかったが、その子供は小さかったので、全て食われてしまったのだろうと片付けたそうだ。
ギルテはその子の名を覚えている。もし仮にその子が私が検査した少女と同じ名前であれば、話を信じると約束した。
ぐへへ。
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ぐへへ、皆さんも曇らせを書いてください。