殺人を強要されている内に快感を覚えてしまう清純乙女『風』   作:乙女竜

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感想を読んでめちゃくちゃ納得しています。曇らせと鬱を混同しているのは良くないですね。もしかしたら私は鬱が好きなのか……?
あの、あれです。もう頑張るしかないです。多分軌道修正できます。


黒く汚れた白い布

初めは殺してやりたい気持ちだった。

支部の司祭の口添えによる特例でこのホワイト・クロスに所属している子供。『スキルはないが忌み人ではない』だとか言われていたが、試しにゴミ掃除を半年させてみればしぶとく生き残った挙句、やっぱり忌み人だと分かった。他の忌み人と違うのは、本人にその自覚がないこと。二度目の人生を生きる怪物と、一度目の人生を生きる怪物の違いでしかなかった。

 

それにあの顔。何をされても何をしても何も写さない瞳。それが不気味だった。その癖やけに慇懃で大人しいのも気に入らなかった。だからネルが理由なく殴るのも止めなかった。他の奴らはあの子供を気に入ったようだが、私と、特に忌み人嫌いのネルだけは認める気もなかった。

 

そんな中本部に命じられた私の仕事はその子供の見張り。ホワイト・クロスで唯一透明化・痕跡消去スキルを所持している私は人間擬きのお守りと後始末を押し付けられたのだ。もっとも、お守りの方はさらさらやるつもりもなかったが。

 

最初の半年。適当な理由をつけて私は奴を敢えてスラムの中でも一番危険な区域に放り込んだ。途中で死んでも教会の記録には残らない。そもそも忌み人を雇う事が汚点なのだから。教会も見捨てたゴミ達の掃除を嫌々ながらやっている様子も白々しく見えた。

 

ホワイト・クロスの昼の顔、地域交流でも奴は無口で愛想もないのでまたお荷物になるだろうと思っていた。しかし思ったよりも気に入られやすく、ふと奴の顔を見てみればほんの僅かに目に光が点っていた。それが少しばかり人間らしく見えた。

 

昼の交流を繰り返していく中で奴の顔には次第に色がついていき、交流相手に優しい笑みを浮かべた後で、急に絶望したような顔をするようになった。それはホワイト・クロスに所属し始めた頃の私に似ていた。交流中にどれだけ優しげに振る舞えても、ふとした瞬間に人殺しの罪悪感に飲まれるのだ。

 

奴が大分人間らしくなってきたある日、奴はスラムの入口で立ち止まり、支給された短剣を落とした。そのまま壁に寄りかかって蹲った。『もうこんなことしたくない』と、震えながら呟くのが聞こえた。

 

奴はそのまま普段仕事が終わる時間まで動かず、夜明け前に黙って教会に戻った。奴の制服は白いままで、更に普段ならあからさまに漂う血の匂いがしなかったので、ネルは彼女をいつもより殊更強く殴りつけた。仕事も碌にこなせないカスだと彼女の髪を引っ張って叫んだ時、子供は、フィリアは初めて泣いた。潤んだ目から雫を垂らしてネルの方を見ながら、引き攣った顔を赤らめて震えていたのだ。

 

ネルは毒気を抜かれたようでその日は殴るのをやめた。私は、フィリアの顔が、遊び感覚で人を殺す忌み人では絶対に起こる筈のない自然な情動が、目に焼き付いて離れなかった。

 

ある日、フィリアはスラムでマフィアに囲まれた。いつもの通りに苦戦しつつも生き延びるだろうと思っていた私が間違いだった。彼女は顔を直接火で焼かれ、悶える間にその細い腕や足を踏み抜かれた。咄嗟に助けようと飛び出すつもりだったが、ある日のネルが目に浮かんで私の足は止まってしまった。はっとして走り出そうとした時には既にフィリアの姿はなかった。

 

私は、何も出来ないまま帰るしかなかった。彼女を追う行為が、ネルへの裏切りになるのではないかという恐れが、私に彼女を見捨てさせたのだ。

 

 

フィリアは、顔を焼かれたまま、潰された四肢を擲ったまま、芋虫のように這って帰ってきた。『父が欲しいものを買ってくれた』『母が撫でてくれた』等と父母の思い出を延々と呟きながら頻りに眼鏡眼鏡眼鏡……と繰り返していた様は最早おぞましかった。彼女の闇を垣間見た気がした。

 

私達は本部に彼女の資料を要請した。そして、彼女の暗い過去をそこで初めて知った。孤児院でのことも。彼女の眼鏡のことも。そして両親のことも。

フィリアの両親が魔獣に殺された事を知って、ネルも思うところがあるようだった。

 

あれから3ヶ月も彼女は顔がないままスラムへ向かった。ホワイト・クロスは穢れを隠す教会の白い布、慈悲を与えることなど出来なかった。忌み人に特有の再生力で彼女の涙腺が回復した日から、彼女は毎日涙を流していた。

 

それから五年と半年。最後の『準備』を終えて部屋に戻ってきた彼女に、私達は残酷な仕打ちをした。誰よりもネルが反対していたのには驚いたが、本部の意向でフィリアの手網を握らなければならないし、その為の効率の良い手段がこれだったのだ。仕事の為に、どこまでも非情に振る舞える。怪物は私だった。

 

私達は、彼女の思い出を穢した。

金縁の眼鏡は、紛うことなき鎖だった。

 

 

受け取ったフィリアは、内心で心底嫌悪しているのを私達に気を遣って隠しているのが明らかだった。眼鏡をかける手は震えており、薄らと涙も滲んでいた。

 

 

もう私は何もしてあげられなかった。

 

 

 




あ!!軌道修正できそう!できそうだよこれ!!!

感想いつも読んでます!!ありがとう!!!評価も嬉しい!!!
もしかしたら自分は鬱でも曇らせでも貪る闇のオタクだったのかもしれないので、良さげな作品があったら紹介してください。
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