王都から城塞都市ガンツまでの旅は順調だった。
そうは言っても子供や旅慣れない者も多くガンツから王都への旅に比べると10日程余計に日数は掛かっている。
特にロベルトが連れてきた1052名はスターヴェーク王国から王都までの旅で疲弊していたのでそこから更に30日に及ぶ旅は随分と体に堪えていたようだ。
そんな苦労も今日で終わる。
みんな疲れ果てていたが今日の昼にはガンツに到着するという希望で足取りは軽やかになっている。
すれ違う馬車や徒歩で歩く冒険者も多くなりガンツが近づいているのがわかる。
こちらが大所帯なためすれ違う人たちから警戒の目で見られるのはご愛嬌だな。
「アラン、ガンツよ。ガンツが見えてきたわ」
クレリアの嬉しそうな声が上がる。
二つの山の谷間に広がる特徴的な城壁が見えてくる。
「あれがガンツですか」
「後ろに広がるのが魔の大樹海ですね。
凄いと聞いては居ましたが実際に目にすると広大さに驚くばかりです」
「あの様な欝蒼とした森林の中にアラン様の領地があるのですね」
「いかにも魔物が出そうな森林ですね」
自分たちが住むことになる大樹海にみんな興味津々だな。
いよいよガンツが間近になるとガンツを取り囲む城壁にある城門の前にはいつもの様に長蛇の列がある。
「やれやれ、あれに並ぶのか」
そうボヤいていると城門から数名の者が駆け寄ってくる。
あれはカリナさんか。
それに先行してガンツへ向かわせたカトルもいるな。
「アラン様、王都より無事の帰還をお喜び申し上げます」
カリナさんは優しく微笑んで挨拶をしてくれる。
「アラン様、宿の手配は万事完了しています。
皆様は列に並ぶことなく私に付いてお進みください」
流石はカトルだな。
カトルの先導で城門へ向かうと守備隊の兵が数名向かってくる。
「アラン男爵様のご一行ですね。
滞在される方の名簿はカトルから受け取っています。
これから名簿と皆様の突き合わせを実施させていただきます。
あっ、シャイニングスターの皆様はギルド証を提示して頂ければ直ぐに入れます」
カリナさんとカトルが話をつけていた様でみんながガンツへ入るのは問題なさそうだな。
「アラン様、こちらは私たちで対応しますのでシャイニングスターの皆様は一足お先にクランのホームまでお進みください」
「カトル良いのか?」
「はい、それにサイラス様がアラン様を待ちくたびれているのです。
お疲れとは思いますがホームにて身支度を整えられた頃にサイラス様がホームに伺いたいとのことです。
なんだよ、疲れてるのにな。
でもあのサイラスさんがわざわざホームにまで来るというのだ。
ただ事ではなさそうだな。
「アラン様、お疲れのところ主人が無理を言い申し訳ございません」
はぁ〜、カリナさんにそう言われたら会うしかないか。
「いえ、サイラスさんが急いで私に会いたいというのですから相当な理由が有るのでしょう。
旅の汚れを落としたらお会いします。
そうですね。1時間後にホームにお越しいただければと思います」
「ありがとうございます」
カリナさんのお礼の言葉を受け俺はホームへと向かうことにする。
「アニキ、お帰りなさい」
「アニキ、おかえり」
随分と留守にしていたからな。
エラとテオも寂しかったんだろう。
俺の呼び方がアニキに戻っている。
「アニキ、お風呂の準備は出来てるよ」
「そうが、なら早速入らせてもらうか」
1ヶ月以上風呂に入っていないからな。
久しぶりに風呂に入れるのは良いな。
「テオ、女湯もお湯は入ってるの?」
「はい、入ってます」
「そう、じゃあ私達も入りましょう」
クレリアにエルナ、シャロンとセリーナも風呂が沸いているとわかって嬉しそうだ。
「はあ〜、やはり風呂は良いな」
体を湯船に横たえるだけで疲れが取れて行く気がする。
ゆっくり入っていたいんだがサイラスさんがくるのでそうもしていられない。
仕方ないのでさっさと出ることにした。
「あ〜、良い湯だったよ」
風呂を出て食堂に向かうとエラが近寄ってくる。
「アニキ、冷たいエールを飲みますか?」
エラのこの言葉が懐かしく感じて随分とホームを留守にしてたんだって実感する。
「冷たいエールか。飲みたいけどこの後人と会うからな。
冷たい水を持ってきてくれ」
残念だけど、これからサイラスさんに会うのにエールは流石に飲めないな。
「アニキ、わかったよ」
エラが水を持ってきてくれる。
少し危なかしげにエラが水を持ってくる姿を見るとホームに帰ってきた実感が湧いてくる。
ほっと一息ついたところで先ぶれがサイラスさんとカリナの訪問を伝えてくる。
どうしようか?
クレリアにも同席してもらったほうが良いんだけど女は長風呂だからな。
仕方ないな。ひとりで会うかと考えているとクレリアが食堂に入ってくる。
「随分と早かったじゃないか」
「サイラスさんが来るんでしょう。
だから急いで入ったのよ」
「そうか。慌ただしくさせたみたいで悪かったな」
「アランのせいじゃないでしょう。
それにあのサイラスさんが自宅に呼びつけずにシャイニングスターのホームまで足を運ぶなんてよっぽどでしょう。
会わない訳にはいかないわよ」
さすがはクレリア。良く分かってる。
「そうだな。なら応接に行くか」
俺とクレリアは応接室でサイラスさん達を待つことにする。
「おう、邪魔するぞ」
そんな声とともにサイラスさんとカリナが応接室に入ってくる。
そしてドッカとサイラスさんはソファーに座る。
「疲れているところ悪いな。
チョイと急ぎなもんでな」
「そんなに急ぐことがあるんですか?
まずはお茶は如何ですか?」
「いや、そんな感じでも無いしな。
まずは男爵への叙勲おめでとうございますってとこだな。
それで、これからは改まった喋り方が必要か?」
サイラスさんらしいな。
「いや、男爵程度ですしね。
そんなに偉そうにする気は無いですよ。
それにこの間までは平民だったんですしね。
今まで通りの喋り方で良いですよ」
「そうか。俺もその方が助かるな。
それで本題だが王都では随分と暴れたらしいじゃ無いか」
「暴れたですか?
どんな噂になってるんです」
「噂も何も。500人以上の悪党を捕まえたって評判になってるぞ。
それとドラゴンを追っ払ったんだって」
「ああ、その話ですか。
そうですね。王様に言われまして少しばかり悪党を捕まえました。
ドラゴンは成り行きですかね」
「そうか、王様に言われたか。
だがちっとばかりマズイことになってるぞ。
王都の悪党はみんなひも付だからな。
自分の駒とシノギを潰されて怒っている貴族もいるわけだ」
「知ってますよ。宰相閣下の一門にガンツ伯もですよね」
「なんだ、知ってたのか」
「はい、それでガンツ伯から圧力でも掛かりましたか」
「まあ、そう言うことだな」
「それで、サイラスさんはどうします。
俺と敵対しますか?」
「バカ言うなよ。お前はアリスタの命の恩人だ。
その恩は忘れちゃいないさ。
だがな、俺には守るものも多いんだ。
お前と心中してやるわけにもいかないのさ」
「心中ですか?
そんな心配はいらないですよ」
「ああ、わかってるさ。
アランの事は良く分かってる。
だが確証も欲しいんだ」
「確証ですか。
なにが必要ですか?」
「お前の領地を確認したい。
あれだけの人間を連れてきたんだ。
それなりに準備は出来てるんだろう」
流石に抜け目が無い。
「まあ、それなりには出来てますよ」
「なら、カリナを領地に連れて行ってくれ」
「そんなことですか。良いですよ。
どうせみんなを領地に連れて行く前に物資の搬入を行うつもりでしたしね」
「ああ、あの大量に発注していた物資か。
でもあれだけの量だ。
担いで運ぶわけにはいかないぞ」
「もちろんです。馬車だ運びますよ」
「馬車か?
馬車で通れる道が領地まで繋がっているのか?」
サイラスさん随分とびっくりしてるな。
「そりゃ、馬車ぐらい通る道が無ければ領地として成り立ちませんよ」
「まあ正論だが、魔の大樹海だぞ!」
「それでも領地に道は必要ですよ」
「そりゃそうだな。
俺としてもアランの領地ならそれぐらいはやって貰わないと困るしな。
じゃまあ、明日はカリナを頼むわ」
言いたい事だけ言ってサイラスさんは帰って行った。
サイラスさんでもガンツ伯には気を使うんだな。
「ねえ、アラン。結局何だったの?」
「俺の値踏みだろうな」
「そう、それでアランはサイラスさんにどう値踏みされたのかしら?」
「取り敢えずは合格かな?
最も明日からの領地の視察しだいかな?」
「あら、ならカリナさんに贈り物でもして懐柔しないとね」
クレリア、笑いながら言うなよ!
「贈り物は要らないかな?
結構立派な領地の筈だからな」
「自信があるのね。これは明日が楽しみね」
クレリアも来る気か。
平気だけどな。
どうやら明日はしっかりと領地のPRをしないといけないようだな。
荷物の搬入に冷凍庫に魔法陣を組み込む必要もあるんだけどな。
まあ、何とかなるかな。