「セリーナ、シャロン、急で申し訳ないがイーリスから至急で行いたい提案があるとのことで集まってもらった」
いつものように宙兵隊のブリーフィングルームぽくした領主の執務室で臨時の会議を開催する。
「最高司令官、クレリア准尉は呼ばなくてよろしいのでしょうか?」
セリーナが悪戯っぽい顔で俺に言う。
少しは場所と場合を弁えて欲しいものだ。
「今日の議題は地上とイーリス間の往還機に関するものだ。
未だ、取得した知識を扱いかねているところがあるクレリア准尉には早いと判断して会議から外した」
「了解であります」
(それじゃあ、イーリス准尉説明をしたまえ)
[はい、説明いたします。
最初に今回の提案はイーリス・コンラートのAIとしては本来であれば不適切な内容となります]
(不適切か?
それはどういう意味だね?)
イーリスが不適切な提案をすることなんてあるのだろうか?
AIとしてそんな提案はできないように制限されているんじゃなかったかな?
[イーリス・コンラートのAiとして私にはロボット3原則から逸脱しない範囲で自己保存が最優先事項として設定されています。
これから行う提案はこの自己保存の最優先指定を破る提案となります]
(その提案はそれだけの価値がある提案なんだね)
[はい、短期的にはイーリス・コンラートの生存確率を下げますが、長期的には生存確率が上がる提案となります。
そのような内容であることを前提に提案の採用の可否を判断いただきたくお願いします]
(分かった。具体的な提案をしたまえ)
[はい、提案内容は地上とイーリス・コンラート間を結ぶ往還機に重力制御機能を付与するという内容になります。
重力制御機能だけでは高機動は行えませんが貨物の運搬に用途を絞れば有効と考えます]
重力制御って?
イーリス・コンラートの重力制御って重力制御セクションで行っていたよな。
あれって巨大な設備だろう。
往還機に重力制御機能を与えるとか簡単な話じゃないはずだよな?
[最高司令官もご存知の通り、重力制御装置は簡単な装置ではありません]
(そうだな、重力制御セクションは巨大な設備だな)
[はい、ですがクリーンルームに設置されている重力制御ダンパーであれば取り外して往還機に転用が可能です]
そういうことか!
(イーリス准尉、重力制御ダンパーは最重要区画であるクリーンルームを破壊から守る重要な機能だろう。
だいたい、クリーンルームにあるメインフレームは君の頭脳そのものじゃないか)
[はい、その通りです]
(なら、どうしてそんな提案をするんだ?
イーリス准尉が活動不能になったらイーリス・コンラートは制御不能になるだろう。
そうなれば、我々が人類銀河帝国に復帰する手段は失われるのだぞ)
[それはご指摘の通りです。
ですが、超空間航行中の攻撃で機能停止になった重力制御セクションは既に再起動済みです。
ですから、重力制御ダンパーがなくても高Gの中和は可能な状況です]
(それはそうかもしれないが……)
[それにリアクターを喪失しているイーリス・コンラートでは高Gを発生させるような艦の機動は行えません。
重力制御セクションがあれば十分な状況です]
(それでも、リスクは高まるだろう)
[短期的にはご指摘の通りですが、長期的に考えた場合物資の補給がなければ徐々に艦の維持が不可能となってゆきます。
このリスクの解消も急務であり、その観点からは重力制御ダンパーより往還機が優先されると言えます]
(イーリスにとって重力制御ダンパーの取り外しは自傷行為のようなものだがそれでも行う価値があると言うのだな)
[第1級非常事態宣言下でなければこの提案は禁則事項に抵触しますが、現状況下では実施可能な提案であると考えます]
たしかに、イーリスの提案は正しいのだろう。
往還機が早期に運行できればイーリスは自己修復に可能な資源が潤沢に手に入るようになる。
地上の俺たちはイーリスの工業セクションを使うことで地上にある資源を必要な資材に変えることができる。
俺が生きている間では手に入らないと思っていた電子部品も入手可能になるだろう。
原住民から隔離した場所での技術進歩を相当に加速できるはずだ。
(わかった、基本的な考えは了承しよう。
それで、具体的にどうやって往還機を完成させるんだ?)
[まずは、取り外した重力制御ダンパーをほぼ0Gの状態で地上へ降下させます。
重力がない状況ですから風などの外的要因の影響を大きく受けることになります。
十分に天候を評価した上での実施が必要です]
結構、荒っぽいな
[勿論、効果に際してはトラクタービームの有効範囲ではトラクタービームにて降下させますのでこの間は風などの影響は受けません。
そしてトラクタービームの有効射程から外れた段階から自律的な降下となります。
この自律的に降下している重力制御ダンパーをドローンで補足して地上まで降下させます]
(リスクが高いのは自律効果のフェーズだな。
でも、ドローンの推力は水素ラムジェットだろう。
宇宙空間でも使えるんじゃないのか?)
[使えますが、基本は大気圏内ように設計された機体です。
極低温下や太陽風等の各種宇宙線に被曝する環境での運用は推奨できません]
(了解したよ)
[ありがとうございます。
降下がうまく行けば重力制御ダンパーを組み込んだ往還機の作成を行います]
イーリスが往還機の設計図を提示する。
なんだ、これはただのかまぼこ型の宿舎じゃないのか?
[これは第一段階の往還機です。
重力制御でゆっくりと上昇させますので空気抵抗とかの考慮は基本いたしません。
倉庫をそのまま往還機にするイメージです]
これは確かに軍の倉庫っぽいな。
でも上昇用の推力はどうするんだ?
(イーリス准尉、重力制御だけでは上昇はできないだろう。
上昇用の推力はどうやって得るんだ?)
[一回目は、地上に降下済みの脱出ポッドに付いているスラスターを取り外して使用します。
重力制御ダンパーで自重がゼロに近い状態であればスラスターの推力でトラクタービームの有効射程まで上昇は可能です。
到着した往還機には往還機が持ち込む資源も使用してドローン用の水素ラムジェットエンジンを取り付けますので、以降は重力制御と水素ラムジェットエンジンで地上とイーリスの間を往還することとなります]
とても荒っぽい。でもイーリスの能力を使えばきっと実現可能なんだろう。
「セリーナ、シャロン。私はイーリスの提案は採用に足ると考えるが二人はどう思うかね?」
「リスクはありますがリターンを考えれば実施すべきと考えます」
「私は最高司令官のご判断に従います」
「わかった。それではイーリス准尉、この計画を承認するので詳細な工程を定めて実施計画に落とし込むんだ」
[了解しました。イーリス准尉は最高司令官のご指示通りに計画の実現に向け準備を進めます]
こうして地上とイーリス・コンラート間の往還機計画が動き出したのだった。