(アラン、あそこを見て)
あ〜、リアも気づいたか。
眼下に見える街道の先で馬車が襲われている。
あれは盗賊だろう。
(ねえ、アラン助けないの)
(そうだな。助けないとな)
盗賊は討伐されるものだからな。
残念なのは賞金が手に入らないことだな。
なにしろドローンは使徒様だからな。
使徒様の中から人が出る訳にもいかないだろう。
(D2、あの馬車を盗賊から助けるぞ。
馬車の直上に機体を向けてくれ)
[了解しました。高度はどう致しますか?]
(ステルスモードを維持したままエンジン音が聞こえる高度まで下げてくれ)
俺の指示でD2が降下を開始する。
Gが失われて無重力の浮遊感に襲われる。
(ひゃあああ)
リアの口から驚きの声が漏れる。
まだ、慣れないよな。
(ねえ、アラン、そんなに近づかなくても制圧はできるんじゃないの?)
(そうだな。近づかなくても制圧はできるけど、ちょっと考えていることがあるんだ)
(そうなのね)
そんな話をしているうちにD2は指定した場所に到着しホバリング状態になる。
エンジン音が聞こえるのだろう、盗賊たちが訝しげに空を見上げている。
(あいつら、随分と余裕だな)
どうやら、馬車をまもる者たちは制圧されてしまったようだ。
まさに盗賊たちが馬車に押し入ろうとするタイミングだったようだ。
本当にギリギリだったな。
(D2、ステルスモードを解除しろ)
[ステルスモードを解除します]
(アラン、盗賊たちが混乱しているわよ)
(D2を見て驚いてるようだな)
(D2、盗賊たちの声を拾ってくれ)
『なんだ、あれは?』
『ワイバーンか?』
『ワイバーンなら止まったりしないだろう』
『使徒様?』
うん、馬車の中から使徒様と言う声が聞こえた。
どうやらこの辺りまで使徒様の話が伝わっているようだな。
『お嬢様、使徒様です。使徒様が顕在されました。
悪しき者たちから私たちをお助けくださいます』
『本当に使徒様はいらっしゃったのですね。
ねえ、マリア、使徒様は私たちをお助けくださるのでしょうか?』
『助けてくださいますとも。
お嬢様はルミナス様の教えに従い領民の庇護に勤められています。
領主様は教会の有力な庇護者じゃありませんか。
お嬢様にはルミナス様の加護がお有りなのです』
どうやら馬車の中にいるのは敬虔なルミナス教徒のようだ。
それに貴族のようだな。
領主の娘かな?
(D2、盗賊は何人だ?)
[15名です。全員ロックオン済みです]
(アラン、盗賊をどうするの?
戦闘力を奪っても馬車の中にいる人では連行とかは無理よ)
(そうだな。肩を撃ち抜いたぐらいでは馬車を襲うのは止めないだろうな。
死んでもらうしかないだろう。
リアは反対かい?)
(いいえ、盗賊に捕まった女性がどうなるかは良く分っているもの。
馬車の中の女性たちを助けるには盗賊たちに死んでもらうしかないでしょう)
そうだな。俺はカリナとナタリーに盗賊がのし掛かっていたおぞましい光景を思い出してしまう。
盗賊なんて碌でもない奴らだ。
(D2、盗賊を排除しろ。
せめてもの慈悲だ。苦しまないように即死させるんだ)
[盗賊を排除します]
ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン
甲高い音とともに盗賊たちの頭部が弾け飛んで行く。
すぐに全員が物言わない死体に変わる。
『マリア、盗賊たちが……』
『お嬢様、見てはなりません』
どうやらお嬢様は盗賊の頭が吹き飛ぶ瞬間を見てしまったようだ。
トラウマにならなければ良いんだけどな。
(この後はどうするの?)
(どうするって?
盗賊は排除したんだし、D2をステルスモードに移行して立ち去るつもりだけど?
まだ、何かすることがあるのかい?)
(あるわ。
馬車には女性しかいないのよ。
馬も死んでるし。
こんな所に放り出したままでは無責任よ。
歩いて街を目指したところで、途中できっと死んでしまうわ)
確かに。
お嬢様たちでは野宿も難しいだろうし、ゴブリンやグレイハウンドに遭遇したら殺されるだろう。
じゃあ、どうするんだ?
D2に乗せる訳にもいかないしな。
(ねえ、ドラゴンを運んだ時はドローンのアームで釣り上げたのよね。
なら、馬車だって釣り上げられるんじゃないのかしら?)
出来ないことは無いがここはアイロス王国だ。
シャロンが乗ってきた脱出ポッドがアイロス王国に着陸しているからしょうがないが、ここはリアにとっては敵地だ。
(D2ここから一番近い街はどこだ?)
(アラン、D2に聞かなくても分かるわ。ルドヴィークよ)
ルドヴィーク?
リアの伯父が治めていた場所だろう。
アイロス王国の軍に攻め込まれて滅ぼされたはずだ。
(イーリス、ルドヴィークの現状は解るか?)
[アイロス王国軍によって街は破壊されましたが、今はアイロス王国によって復興されています。
しかしながら、ルドヴィークの残党によるテロ行為が続いており情勢は安定してはおりません]
(リア、良いのか?)
(良いって?
ああ、ルドヴィークに行くことね?
私は平気よ。
だって、アランが全部取り戻してくれるんでしょう。
それまで預けているだけだもの。
伯父様もその日を待っていらっしゃるでしょう。
今日は、その日に向けたご挨拶に伺うだけだわ)
(分かったよ。それならば馬車をD2で捕獲してルドヴィークの城壁の側まで運ぶことにしようか。
中の女性たちに絶対に馬車から出るなとリアから警告してくれるかい?)
(アランじゃなくて良いのかしら?)
(女性の声の方が落ち着けるだろう)
(分かったわ。D2、私の言葉をスピーカーで拡声してね)
『馬車にいる我が信徒たちよ。
敬虔なる我への信仰心の厚き者たちよ。
我が慈悲により盗賊は遠ざけた。
だが、このままでは死からは逃れられまい。
よって、我が使徒に力でルドヴィークまで運ぶこととする。
我が許可するまで決して馬車から出る出ないぞ』
『えっ、このお言葉は……
ルミナス様、ルミナス様なのですね。
卑小なる私どもにまで慈悲をお与えくださるのですね。
感謝いたします』
うまい具合にリアの声をルミナスの声だと思ってくれたな。
これなら馬車から出ることも無いだろう。
(D2、馬車と馬を切り離すんだ)
[了解です]
ヒュン
一瞬で馬と馬車が切り離される。
(D2、馬車をアームで補足したらルドヴィークに向かうんだ。
高度、速度とも抑えてくれ。
ステルスモードは解除したままで飛んでくれ)
[了解です]
(アラン、ステルスモードにしないと地上から丸見えじゃ無いの?)
(ああ、でも馬車は隠せないからな。
馬車だけで空を飛ぶよりは使徒様のお力で馬車が空を飛んでいる方がまだ説明がつくだろう)
(そんなものかしら?)
(そんなものだよ)
『きゃああ、浮いてる、浮いています』
『マリア、落ち着きなさい。
ルミナス様が私たちをお運びになるのです。
なにも心配はいらないのですよ』
『そ、そうですよね、すいません。取り乱しました』
マリアが先に取り乱したので私は取り乱すタイミングを逸しただけですけどね。
それにしても、ルミナス様の加護を賜るなんて。
なんてすごいことでしょう。
それに比べれば空を飛ぶことぐらい……
きゃああ、外を見てはいけませんね。
浮いています。飛んでいます。
本当に空を飛んでるんですね。
ルミナス様の加護とはいえ、やはり怖いです。
気を張っていないとお漏らししそうなくらい怖いですね。
ルミナス様、宜しくお願いします。
私たちはルミナス様におすがりするしか無いのです。
祈りましょう。
そうすればこの恐ろしさをきっと忘れられます。
最初は取り乱していた馬車の中の女性も落ち着いたようだな。
今は、ルミナスへの感謝の祈りの声だけが聞こえて来る。
(アラン、あの山には見覚えがあるの。
ルドヴィークの側まできたのね)
リアがそう言ってから5分と経たずにルドヴィークの街が見えてくる。
(あ〜、何て事でしょう。お城が崩れているわ。
街も半分は焼け野原になっているわ。
あんなに美しかったお城と街に何て事を!!)
リアはやはり街を見てショックを受けている。
(アラン、心配してくれるのね。
でも平気だから。
取り戻したら元の美しい街にするんだから。
だから、私は平気よ)
俺の顔はそんなにリアを心配している顔だったんだな。
考えている事が顔に出すぎだ、注意しないとな。
(D2、降下ポイントはあそこだ)
俺の視線を解析してD2が降下ポイントへと降下を始める。
入領待の行列ができている門の側が降下ポイントだ。
空飛ぶ馬車だ。
驚いてくれよ。
おっ、門の番をする兵士や入領待ちの商人や旅人たちが騒ぎ始めているな。
ドン
軽い衝撃音とともに馬車は無事に着地する。
アームを馬車から離すとD2はステルスモードに移行する。
D2が急に消えたからな。
馬車に駆け寄ってくる兵士たちが驚きのあまり棒立ちになる。
『馬車は無事にルドヴィークに着きました。
もう馬車から降りても良いですよ』
リアの言葉を待ちかねたように馬車の扉が開いて女性が降りてくる。
あの格好は従者だな。
さて、これでルミナス様と使徒の偉業が一つ増えただろう。
将来への布石としては十分な演出だな。
(D2、脱出ポッドを回収するぞ)
[イエッサー]
D2が上昇を始めながら加速する。
これがリアが聖女として崇められるきっかけになるとは俺たちは夢にも思わなかったんだよな。
だって、助けた女性とリアが知り合いだなんて気付かなかったんだからな。
しょうがないよね。