アラン男爵の領都には商業ギルドや冒険者ギルドの建物も用意されています。
その商業ギルドでは新たに領都の商業ギルド長になる私がギルド長室で執務机に頬づえを付いていました。
「あら、頬づえを付いているから疲れているのかと思ったのに。
カリナはあまり疲れた顔をしていないのね」
私ののサポート役のナタリーが私の顔を覗き込んで話しかけてきます。
「仕事中ですもの。当たり前でしょう」
不思議そうな顔で覗き込むナタリーに対して、仕事中なのにそんな姿を見せるわけないでしょうと気取った顔で私は答えます。
「そうなんだけど。
昨日のどんちゃん騒ぎで私は飲み過ぎたみたいなの。
まだ、お酒が残っているみたいで少し頭が痛いの」
昨日はアラン男爵様の領都に最初の領民達が到着したということで大宴会が開かれたから今日は二日酔いの大人が多いのよね。
ナタリーも飲み過ぎたみたいね。
でもしょうがないわよね。
王都から1ヶ月以上掛けてやっとたどり着いたんですもの、みんな浮かれた気持ちにもなるわよね。
「ねえ、カリナ、ここって本当に魔の大樹海の中なのよね」
ナタリーが真剣な目で聞いてきます。
「当たり前じゃ無い。
ここに着くまでの道の両側は鬱蒼とした密林だったでしょう。
ここは魔の大樹海の中に決まってるわ」
分かりきった事じゃない。
「そうなのよね。
でもカリナだって可笑しいと思うでしょう。
だって、魔の大樹海の中にこんなに大きな街があるなんて信じられないもの」
ナタリーの言いたいことは私もよく分かります。
「私もアラン様が魔の大樹海に街を作ったので、新しい商業ギルドができるから行くようにって言われた時は驚いたわ」
こう、最初に言われた時は冗談としか思えませんでした。
「あら、カリナは言うほど驚いてないでしょう?
私はとっても驚いてるんだから。
サイラス様に魔の大樹海の街に行けって言われた時は随分と大げさに言うのねって思ったわ。
村か砦のようなものだと思ったもの。
それがなんなのよ。
ここって、ガンツよりずっと広いじゃ無い。
魔の大樹海にこんな大きな街が出来ているなんて思いもしなかったわ」
「そうよね。
とても広いし、街を守る城壁も街までの道もありえないほど立派よね。
この商業ギルドの建物もガンツの商業ギルドの建物より大きいわ。
職員はナタリーと私の二人しかいないのに。
持て余すわよね」
「そう、それ。
急いで職員を増やすようにサイラス様にお願いしないと」
「ナタリー、急すぎよ。
確かに街も建物も立派だけどまだ二千人ぐらいしか人はいないのよ。
職人達だって直ぐに商品が作れるわけじゃ無いでしょう。
冒険者が魔物の素材を狩りに行くのだって色々と準備が必要でしょう」
「そっか。
魔の大樹海だから、魔物はいくらでも取れそうなんだけど、土地勘が無いところでいきなり狩りはできないわよね。
しばらくは周辺の調査で手一杯で魔物の素材が流通するのは暫くしてからよね」
「職人達だって同じよ。
材料が無ければ物は作れないもの。
木材だって切って直ぐには使えないし、鉄とかの鉱物だって直ぐに鉱脈が見つかるものでも無いでしょう」
「暫くは開店休業状態ってことね。
なら二人で十分って訳ね」
本当に開店休業状態ね。
街は立派だけど住民が二千人程度ではしょうがないものね。
☆☆☆☆☆
そんな私とナタリーの常識的な考えはアラン様には全く当てはまらないことを私たちは直ぐに思い知る事になるのです。
「アラン様、ここは倉庫街ですね」
私はアラン様に相談があると言われて呼び出されました。
そして連れてこられたのがこの倉庫街です。
「そうだよ。この辺一帯は全部倉庫街だ」
アラン様がそう言って指差す先には大型の倉庫が連なっています。
中に入れるものも無いでしょうに、こんなに倉庫が立ち並んでいるなんて驚きです.
でも、アラン様はきっと必要になるって思ってらっしゃるのよね。
これから街が発展して行けばこの空っぽの倉庫達も物で一杯になるんでしょうね。
そんなことを考えていると一番近くにある倉庫が開けられます。
中は空っぽなんだろうと思って覗き込むと魔物の素材で溢れかえっているのです。
なんなの、この素材の山は??
「この一角にある倉庫には魔物の素材が仕舞ってあるんだ」
「この一角ですか?」
「ああ、大体100ぐらいの倉庫に魔物の素材が仕舞ってあるんだ」
100!
こんな大型の倉庫100棟が魔物の素材で一杯ですって!
いったい、どうやって集めたのかしら?
「アラン様、これだけの量の魔物の素材をどうやって集めたんですか?」
「集めたわけじゃ無いんだ。
領都を作るために魔の大樹海を切り開く時に襲ってきた魔物を退治していたらこれだけの量になってしまったらしいんだ」
魔の大樹海を切り開くだけでも一大事業なのに、その片手間でこれだけの魔物を退治したってことかしら?
アラン様の協力者達はどんな方達なのですかね?
いったい何人ぐらいでこの街を作ったのでしょうか?
それに、どこからいらしたんでしょう?
魔の大樹海に大勢の人が向かうならガンツを経由しないわけがないんですが?
それらしい人の動きはなかったわね。
「カリナさん、俺としてはこの素材を捌いてお金に変えたいと思っているんだ」
私を呼び出したのはこの商談の為なんですね。
「この商品の売却を商業ギルドに任せて頂けるんですか」
「ああ、ぜひお願いしたい。
この街はまだ整備の途中だからな。
お金は幾らあっても足りないんだ」
魔の大樹海の良質な素材なら高く売れるでしょう。
売却の手数料収入も相当なものになるはずです。
私は頭の中でそろばんを弾きます。
問題はどうやって売却するかよね。
商人達を本気にさせないとこれだけの量の素材は簡単には捌けないでしょう。
それに冒険者達が活動が本格化すれば継続的に素材が入ってきます。
一過性の対応ではダメですね。
「アラン様、まずは良質な素材を厳選してガンツに持ち込みたいと思います。
そこでドラゴンの素材と同じように競売を開催します。
アラン様のお名前はドラゴンスレイヤーとして有名ですから競売を行うと告知すれば大勢の商人が集まるでしょう」
「ガンツで競売か。
できれば領都まで商人が買い付けに来て欲しいんだけどね」
「だからこそです。
ガンツで競売をすることで魔の大樹海の魔物の素材の価値を商人は知ることになります。
そして以降はここまで買い付けに来る商人に優先して素材を卸すと伝えるのです。
利に聡い商人であれば、躊躇うことなく買い付けに来るはずです」
「なるほど、流石はカリナさんですね。その方向で進めましょう」
「ありがとうございます。
それとガンツの商業ギルドとの関係ですが」
「わかってますよ。カリナさんとナタリーさんを派遣してくれていますしね。
サイラスさんとは持ちつ持たれつの関係でいきたいと思っています。
ですから、ある程度の魔物の素材はガンツの商業ギルドを通して販売してください」
「ありがとうございます」
流石はアラン様です。
サイラス様との関係にご配慮いただけたことに私はほっとしました。
「それで、次の一角なんですが」
「はい?、まだあるんですか」
「ええ、木材関係を仕舞ってある倉庫や、鉄などの鉱物を仕舞ってある倉庫群がありますよ。
それと木や鉄を使った加工品もあります。
こっちは、外への販売用ではなくてこの街用なんですが。
そちらの管理についても商業ギルドに委託したいと考えています」
「私共をご贔屓いただきありがとうございます」
笑顔、笑顔です。
私はこれらの仕事をこなすのにどれだけの人の増員が必要かと思い、気が遠くなりました。
アラン様、この街の商人ギルドには私とナタリーしかいないんです。
無理ですという言葉を飲み込み、サイラス様と交渉して至急に人を回してもらうにはどう言ったら良いかを考えます。
サイラス様、この街には儲け話がゴロゴロしています。
そうお伝えしようと私は思うのでした。