アランとクレリアの帝国創世記   作:m.t54

22 / 32
釘から始まる新しい試み

「これがカリナが言ってた小刀か」

 

俺は机の上に置かれている小刀を手に取る。

 

「釘が材料とは思えないな」

 

[そうですね。ちゃんと分析する必要がありますね]

 

分析するって言ってもどうやってするんだろう?

 

(シャロン、分析するんだって。よろしくね)

 

(私に押し付けないでよ。セリーナがやれば良いじゃ無い)

 

[二人ともケンカしないでください。指先をちょっと切るだけでしょう。軍人たるものその程度の切り傷を気にしてはいけません]

 

(イーリス、分析ってナノムにさせるのか?)

 

[はい、その通りです。

ですから、セリーナかシャロン、どっちでも良いので早く指先を切ってください]

 

二人はナノムを使うって知っていたんだな。

さてと、女の子に傷を付けさせる訳にもいかないか。

 

(イーリス、俺がやる)

 

[艦長が自らやる必要はありません]

 

イーリスはセリーナとシャロンに厳しいな。

AIと言ってもセリーナもシャロンもイーリスのクローンだからかな?

自分を叱咤しているよなものなんだろうな。

 

(まあ、そうかもしれないが、大したことじゃ無いからな)

 

指先をナイフで突くぐらいのことで誰がやるとか揉めてもしょうがないだろう。

 

(ほら、これで良いんだろう)

 

俺は血が滲む指先を問題の小刀に押し付ける。

 

[はい、5秒ほどそのままでお願いします………もう離してもOKです]

 

小刀から指を離せば既に血は止まっている。

ナノムが傷を回復させたんだろう。

それに痛覚を遮断していたようで痛みも無かったしな。

こんな傷ぐらいで痛覚の遮断は大げさだけどな。

 

[分析した結果ですが、私たちが釘の材料としたスチール・ワイヤーの素材と一致します。

つまり鉄ですが、普通に考えれば釘を溶かしてくっ付けて小刀を作ったことになります。

その為には1600度の高温が必要なのですが。

この星の技術では1600度の高温を作り出すのは難しいと思います]

 

(でも、ここにあるからな)

 

[そうですね。それともうひとつ不思議なことに小刀から魔法を使うときのエネルギーの残滓が検出されています]

 

(つまり、彼らは我々の知る技術に加えて魔法のエネルギーを使うことで我々の想定を超えることを行っているということか)

 

[そうなります]

 

考えてみれば当たり前か。

炎の矢が出現して飛んで行って爆発するとか出来るんだからな。

俺たちの知っている科学だけで物事は推し量れないってことだ。

 

(それで、どうしようか?)

 

(どうしようって?)

 

(セリーナはこの会議の目的を忘れているだろう。この小刀を作ったバッカスは釘を材料にして剣を作りたいと願ってるんだ。

その為に、彼らの知らない技術を渡すかどうかの判断が必要なんだ)

 

(え〜、バッカスさんは釘から小刀を作ったんでしょう。だったら釘から剣を作ることを認めてあげるだけで良いんじゃ無いの?)

 

[そんなに簡単な話ではありませんよ。

この小刀は多分二本の釘から作っています。

小刀なら二本の釘がくっつく程度に溶かせば良かったのですが、剣はずっと大きいので同じやり方で作るのはとても大変です。

剣のもとになる鉄棒を渡す必要があります]

 

(そんなに大変な話なの?)

 

[鉄棒は太いワイヤー・スチールとも言えますから別に作れますが、そんな物をどうやって作ったかの説明が大変ですよ]

 

(たかが釘から出た話なのに面倒くさいのね)

 

[セリーナ、たかが釘ではありませんよ。

古代の施政者の言葉に『鉄は国家なり』という言葉がある位です。

鉄は国を作るためのインフラとしても武器としても最重要な戦略物資なのです]

 

(イーリスの言う通りだ。

だからこそ、この街は木と石で作られてるんだ。

鉄骨なんかオーパーツの最たるものだからな。

しかし、釘は盲点だったな)

 

[そうですね。木で作る家に古代から釘は使われていますからね。

私たちには手作りの釘の方が遥かに高価なものなのですが、この時代では手作りの釘しかありませんからね]

 

(それで、どうするんですか?)

 

[艦長、私から提案があります。

隕石由来の鉄ということにしては如何でしょうか]

 

(隕石由来の鉄にするとはどういうことだ??)

 

[そもそも人が鉄を使いだしたのは鉄隕石からだと言われています]

 

(そんな話を昔学校で学んだ気はするな)

 

(え〜、アランは学校に行ってるんだ。

いいな〜、私も行ってみたかったな)

 

[セリーナ、今は学校は関係ありませんよ。

空から砕けた隕石が降ってきて地中に埋まっていたことにすれば渡しても問題は無いと思います]

 

いや、流石にそれで鉄棒は渡せないだろう。

 

(イーリス、隕石だと言って鉄棒を渡すのは流石に無理があるんじゃ無いか?)

 

[鉄棒では渡しません。細長い純度のとても高い鉄鉱石の形で渡します。

そうですね、剣にするには3〜5個の鉄鉱石をくっ付けないと剣にならない位の大きさが良いでしょう。

そうすれば、彼らが魔法エネルギーを鉄の融合の中でどう使っているかの解析も進むと思います]

 

(そこまでする必要があるのか?)

 

[有ります。艦長が進めようとしているこの星の原住民への教育ですが、私たちの科学知識だけに沿って行うと魔法技術が取り込めません。

科学と魔法を別物として扱う方向でしたが、このように科学と魔法のハイブリッド技術が見つかった以上、科学知識の習得に魔法の要素を取り込むことも考える必要があります。

本件は、そのための試金石となると思います]

 

このイーリスの判断は妥当なんだろうな。

俺はそう思い、バッカス達に隕石の破片に見えるようにわざわざ加工した鉄を渡すことを承認した。

 

その決定の通達とともにバッカス達には50個程度の鉄隕石もどきを渡した所、彼らは小躍りするように喜んで嬉々として鉄隕石もどきを工房に持ち帰ったらしい。

 

カリナは彼らが余りに騒いだため、宥めるのに苦労したってぼやいていた。

 

後にして思えば、これが科学と魔法の融合を目指す取り組みが始まった日だったんだろう。

そう考えると考え深いが、当時は鍛冶工房の親方達に振り回され大変だったという印象しか残っていないな!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。