「アラン様、こちらが今回委託された魔物の素材を競売を開催して捌いた利益のうちアラン様の取り分になります」
ナタリーの後ろに控えていた従者がテーブルに皮の袋を置く。
「ご依頼の通りに2千万ギニー、全て金貨で用意しました」
見るからに重そうだな。
「ありがとう。競売は盛況だったみたいだね」
「はい、特にオーガ関連の素材が人気でした」
「この様子なら、今後も競売を続けられそうだね」
この領都を作った時に狩った魔物の素材はまだまだ倉庫に溢れている。
領都の人口も直ぐに2万人を超えるだろう。
暫くは領都は赤字運営にならざるえない中で魔物の素材の売却益は重要な収入源だ。
これからもぜひとも競売で少しでも高く売りたいものだ。
「それなんですが、ガンツ伯の代理の方からサイラス様に通達がありまして、他領を富ませる為になんでガンツの民が汗を掻くのかとお叱りを頂きました。
そして、今後は他領のために競売会を開くのは罷りならないの仰せなのです」
それは随分とバカな話だな。
「利益は俺が独り占めしているわけじゃ無いだろう。
サイラスさんの所だって手数料で利益はちゃんと出ているよな。
その利益は税としてガンツ伯の懐にも入っているはずだ」
ガンツ伯も含めて関係者全員に利が大きいはずだ。
「はい、そこはアラン様の仰せの通りなのですが、何しろガンツ伯の代理の方も通達を伝えるために来ただけだとおっしゃるばかりでサイラス様が何を申し上げても伝わらないのです。
そしてともかく他領のための競売は罷りならんというガンツ伯様の言葉を繰り返すばかりなのです」
ガンツ伯は俺が魔の大樹海から利益を得ることが許せないんだろうな。
どうせ失敗するとタカをくくっていたところに俺が大量の魔物の素材を競売にかけて多額の利益を得たんだ。
いままではガンツの冒険者でなければ魔の大樹海から魔物の素材は手に入れられず、ガンツ伯が魔の大樹海の魔物から入る利益を独占していたからな。
ちゃんとガンツを経由して魔物の素材を流すことで筋を通したつもりだったが、随分とケツの穴の小さいやつだ。
あ〜、それだけじゃ無いか。ガンツ伯は俺が王都を掃除したことで裏の利権を潰されて俺を恨んでいるとエルヴィンが言ってたな。
「そうですか、サイラスさんもガンツ伯の意向は無視できませんよね。
俺とガンツ伯に挟まれてサイラスさんも大変ですね」
あのおやじでも領主に逆らうのは難しいだろうな。
だからと言って、俺と組むことで得られる利益は放棄するには大きすぎるだろうな。
特に酒関係はこれから莫大な利益を生むはずだしな。
「はい、サイラスは出来るだけアラン様のお役に立ちたいと考えてはいるのですがガンツ伯に逆らうのは流石にサイラス様でも難しいのです」
ガンツ伯か。
売られた喧嘩は買ってやると言いたいところだが今はまだダメだ。
今は雌伏の時だ。
「そうなると、ここまで商人に買い付けに来てもらうしか無いですね。
しかし、ここは魔の大樹海の中ですからね。
道が作られていて城壁に守られた壁があると言っても恐ろしくて商人は来ないんじゃ無いですかね?」
「アラン様、商人は利益を得るために命がけで働いているのです。
命の次に大切な商品を荷馬車に積んで街を行き来しています。
利益は大きいですが盗賊や魔物に襲われれば死ぬこともあります。
死ななくても荷を奪われれば破産です。
そうなるかもしれないという覚悟を持って商売をしています。
この間の競売で利益が大きな魔物の素材がここにくれば手に入ると分かったのです。
商機を見逃すような商人達ではありません」
魔の大樹海の恐れ無いか。
商人にとって商機は命を賭けるに値するということか。
だが……
「ここまで買い付けに来るのであれば受け入れたいのですが、今は人が圧倒的に足りていません。
商人をもてなす店や泊めるための宿屋を運営できる状況に無いのです。
この先、領民が増える予定はあるのでそれまでは取引は休止せざる得ないですね」
正直、魔物の素材を捌けないのは痛いな。
金は幾らあっても足りないのだ。
「商人はここへ遊びに来るのではありませんので宿などに期待はしていないと思います。
最低限度の対応でも得られる利益を考えれば文句は言わないと思いますけど?」
「カリナさんの言う通りかもしれませんが、それでは私が侮られます。
私の格にあった対応は必須だと思うんです」
ここは将来はこの星の首都となる場所だ。
そこがみすぼらしいなどという評判が立つことは避けたいんだ。
「そうなりますと当面は魔物の素材の販売は難しいですね」
「そこなんですが、シャイニングスターはガンツのクランですよね。
アラン男爵ではなくシャイニングスターがガンツの商業ギルドに持ち込むのであれば問題は無い気がするんですが?」
「あ〜、クランの件でもお伝えしなければならないことがありました。
シャイニングスターに相場よりはるかに低い金額でクランの建物を貸し出していることをなぜかガンツ伯が知っていて、可及的速やかに貸し出しを終えるようにと通達されたのです。
貸し出しが続くならサイラス様をギルド長から解任するとも言われました」
「それは、商業ギルドの中枢にガンツ伯に通じている人がいるということですよね」
「はい、もともとサイラス様とガンツ伯様の派閥が商業ギルドにはありました。
今はサイラス様の派閥が大勢を占めていますが、ガンツ伯の派閥に属する者も残っているのです」
ふ〜ん、ガンツ伯はこれを機にサイラスさんの派閥の弱体化も企んでいそうだな。
「分かりました。俺のせいでサイラスさんが潰されても困ります。
クランと建物の賃貸契約は早急に解消しましょう」
俺の言葉でカリナさんがホッとしたのがわかる。
やはり、サイラスさんは厳しい立場に追い込まれているのだろう。
「ありがとうございます。
アラン様の好意にサイラスも喜ぶと思います。
サイラスにも後ろめたいところはありますのでガンツ伯との対立は避けたいのが正直なところです」
あのおやじ、結構好き勝手なことをしてそうだからな。
施政者にすればいつでも潰せるってわけか。
まあ、サイラスを潰せばガンツ自体にも痛手は大きいだろうから簡単には潰さないとは思うけどな。
「しかし、こうなるとガンツを通しての商取引きは難しいですね。
やはり、俺の領地に商人が来て直接商取引きするようにしないとダメですね」
「そうですね、ガンツ伯は更なる妨害をされるかもしれません。
私どもの力が足りず大変申し訳ないのですが直取引のルートを作られることをお勧めします」
どうやら、見栄がどうとか言うような余裕は無いらしい。
は〜、人手をどうにかしないとどうにもならなくなりそうだな。
俺は自分の男爵領をガンツに依存しないで運営するように急ぎ整備しなければならないようだ。
人も金も全く足りていないのにな。
困ったもんだ。