ガンツ伯から喧嘩を売られてから1ヶ月経った。
俺たちはガンツにあったシャイニングスターのホームを失い、シャイニングスターはガンツでの活動を停止した。
ホームにいたメンバーは皆、領都に移り住むことになった。
テオとエラも元気に領都のシャイニングスターのホームで働いている。
テオは移り住んできた孤児たちと交流を始めたようで、そこで先輩風を吹かしているらしい。
そして、ガンツでの魔物の素材の販売をダミーを介して細々とやりながら、魔の大樹海の入り口に新しい交易所と交易所に来る商人たちのための宿泊施設を用意した。
汎用ポッドを一気に大量導入し、一夜で作り上げたので俺が大魔法で作ったなどという根も葉もない噂が面白おかしく広がっているらしい。
そんな噂話を信じたガンツの冒険者や商人が物見遊山で押しかけてきたので交易所は人が溢れ、宿も満員状態だ。
結果としてガンツから締め出されたおかげで自立が促進された感じだな。
「アラン、すごい人出ね」
「ああ、思った以上に盛況だな」
俺はリアと二人で交易所を視察中だ。
「ねえ、あそこの屋台では何を食べられるのかしら。
行ってみましょうよ」
この交易所の売りは魔の大樹海で取れた珍しい魔物の素材が買えることに加えて、珍しい食べ物が食べられるところにある。
その食べ物が美味しいという噂が広がり始めたのも人が集まる原因になっている。
幾つもの珍しい食べ物を売る屋台が交易所の敷地内に点在しているので食べ歩いて自分の気に入りの食べ物を見つけるのが流行りらしい。
「ねえアラン、凄くいい匂いがするわ」
あ〜、この匂いは揚げ物の匂いだな。
ナノムで腕と脚を再生した時に付いたリアの大食いの癖はまだ取れないらしい。
なのでリアは屋台を見つけては食べることを続けている。
結構食べているのに揚げ物の匂いを良い匂いというあたりまだお腹に余裕があるらしいな。
「アラン、私のどこを見てるのかしら?」
いかん、いかん、リアのお腹を凝視していたらしい。
でも仕方ないだろう。
食べたものがリアのどこに溜まっているか不思議なんだ。
あれだけ食べてもお腹が少しもぽっこりしてないしな。
「だから、見つめないでよ」
いや、リア、隠すところが違うから。
俺はリアの胸を見つめていたわけじゃ無いぞ。
「別に見てないし。
それより、ほら、あそこの屋台はカツサンドの店みたいだぞ」
カツサンドと言った途端にリアの関心が俺から屋台へと移る。
単純なやつだ。
「ここの屋台のカツサンドはカツは当然美味しいけど、それに加えてパンがふかふかで柔らかいんだ。
そのせいで若い女の子にも人気なんだぞ」
揚げ物はどちらかというと若い男に人気なんだけど、この店は新しいパンのおかげで女の子にも人気なんだよな。
「そうなの。柔らかいパンてアランがこの間作ってくれたパンよね」
「ああ、リアやエレナに試食してもらったやつだよ」
「そうなの。あのパンでカツを挟んでるのね。
それって美味しいに決まってるわよ。
ねえ、アラン、アランも食べるわよね」
食べる気満々のリアに手を引かれて俺も屋台に並ぶことになる。
別にここで食べなくても良いんだけどな。
俺のレシピで作っている料理をならんでまで食べるのはどうかと思うな。
一瞬そう考えたが嬉しそうに並んでいるリアを顔を見るとまあ良いかなって気になるな。
結局、カツサンドを購入するまでに10分ほど待つことになった。
作るそばから売れて行くのでカツが上がるのがボトルネックになっているようだ。
カツを上げる鍋を増やしたほうが良いかもしれない。
「はいよ、カツサンド2つだね。
お兄さん、デートかい?
ベッピンさんの彼女で羨ましいね」
おばさん、いきなり何を言うんだ。
リアが顔を真っ赤にして固まってるじゃ無いか。
「あ〜、俺にはもったい無いぐらいのベッピンさんだろう」
「何言ってんだよ、兄さんも良い男じゃ無いか。
あれ、兄さんと前にあったことがあるかね?
知った顔の気がするんだけど」
「う〜ん、会ったことは無いんじゃ無いか。
俺の顔を結構ありふれてるからな。
似たような奴が知り合いにいるんじゃないか?」
これ以上話していると気づかれそうだ。
俺はリアの手を引いて急いで屋台から離れることにした。
「ここに座って食べようか」
屋台で買った食事を食べるために広場に置かれているベンチに座ることにする。
「えっ、ええ」
リアのやつなんかぎこちないな。
おばさんにべっぴんさんて言われたせいか?
「ほら、食べよう」
2つのカツサンドのうちの一つをリアに渡して、俺はもう一つを食べるために包みを開ける。
「ねっ、ねえ、アラン」
「うん、なんだい」
「アランは私のことを綺麗って思ってくれてるの?
それとも、あれって社交辞令なのかしら?」
うん?
なんの話だろう??
「姫様、姫様はとても綺麗で可愛らしゅうございますわ」
「えっ、エレナ」
「ええ、エレナです。姫様に置いて行かれた可哀想なエレナですわ」
「別に、エレナを置いていったわけじゃ無いわ」
「ええ、姫様にそんなお気持ちが無いのは十分に存じています。
でも、アランはどうなのかしら?
私のいないところで姫様をナチュラルに口説いてましたわ」
リアを口説いていた??
「別に口説いてないだろう」
「あら、俺にはもったい無いぐらいのベッピンさんだって言ってたじゃない」
「いや、それは単なる事実だろう」
「は〜、アランは本当に無自覚なのね。
姫様のお顔が真っ赤なのにも気づかないのかしら?」
あれか、あれはおばさんに合わせただけだぞ。
別に口説いたわけじゃ無い。
口説いたわけじゃ無いけど…
エレナが余計なことを言うから変な雰囲気になったじゃ無いか。
しょうがないな。
「ごめん、エレナ。
これあげるから機嫌を直せよ」
俺は自分用のカツサンドをエレナに差し出すことにする。
「は〜、そんなものでごまかされませんよ」
そう言いながら、エレナはカツサンドを受け取って食べ始める。
そんなエレナにつられてリアも食べ始めたな。
取り敢えず、食べている間はエレナも静かだろう。
さてと、この後どうするか。
のんきにそんなことを考えているとイーリスから緊急の連絡が入る。
そうか、あいつらはやる気なんだな。
くつろぎの時間はお終いらしい。
俺はイーリスからもたらされた情報にどう対処するか考え始めるのだった。