アランとクレリアの帝国創世記   作:m.t54

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戦いの序曲

[艦長、スターヴァイン王国からこちらに向かっている集団Aに危険が迫っています]

 

イーリスから焦った声の通信が急に入る。

 

 

危険?

集団A?

 

一番先行している集団だな。

たしかもう直ぐスターヴァイン王国を抜けてベルタ王国に入る筈の集団だったな。

 

(危険ってなんですか?)

 

リアの焦った思考が割り込んでくる。

イーリスはリアともチャンネルを繋いでいるようだ

 

((艦長、私たちもです))

 

セリーナとシャロンも参加しているのか。

 

[こちらを見てください]

 

頭の中にイーリスが作成した地図が浮かんでくる。

 

(これはベルタ王国の地図だな)

 

[そうです、そしてこれが集団Aの領都までの移動ルートです]

 

イーリスの言葉とともに地図上に線が引かれてゆく。

 

[そして、問題はこれです]

 

地図のあちこちに赤い点が現れてそれが動き出し移動ルート上で一つの大きな点になる

 

(この点は武装集団か?)

 

[はい、その通りです。

そして、地図で示したように10日後には武装集団は一つになります。

更に5日後には武装集団が集結したポイントに集団Aが差し掛かります]

 

ガタ

 

リアが焦りのあまりかいきなり立ち上がる。

 

「アラン、私は助けに向かうぞ」

 

「リア様、いきなりどうしたのですか?」

 

エレナが驚きながらリアに尋ねる。

そうだよな、エレナにしたら訳が分からないだろうな。

 

(リア、落ち着くんだ。時間はまだあるんだ)

 

「時間はある?

ここから、襲撃地点までの移動だって時間が掛かるでしょう?

そんなに時間は無いわよ」

 

(リア、エレナが混乱するから声を出さずに話すんだ)

 

頭の中に響いた俺の声で少し冷静になったリアはエレナの顔をチラリと見て納得したように椅子に座る。

 

「エレナ、私、少し混乱したみたい。

領都に向かってくる民のことを考えていたら、自分だけこんな風に楽しんでいて良いのかって考えたの。

そうしたら急に居ても立っても居られなくなって。

ダメね、私一人でどうにかできる話でも無いのに」

 

「リア様、リア様の民を思う気持ちはとても立派ですわ。

でも、ご心配には及びません。

民を守る騎士が付いています。

ご心配とは思いますが、皆無事に着きますわ。

ですからリア様は民が着いたら笑顔で労って下さいませ」

 

どうやら上手く取り繕えたみたいだな。

 

(イーリス、エレナが言った通り集団Aには護衛の騎士がいる筈だ。

騎士達で武装集団を排除することが可能では無いのか?)

 

[それですが、こちらの両勢力の戦力評価をご覧ください]

 

イリースが判定した戦力評価が現れる。

 

(これは少しまずいな)

 

(アラン、どこがまずいんだ。

戦力的には拮抗しているだろう)

 

(リア、見た目は拮抗しているが弓兵の数と保有している矢の数で集団Aは負けている。

そして、なによりまずいのは集団Aは守るべき非武装の民を抱えている。

遠距離から非武装の民を狙われたら守る術が無いぞ)

 

(むっ、そうだな。

正々堂々と勝負を挑んでくれば私の騎士達が負ける筈は無いが無力な民を狙われると確かにまずい)

 

「姫様、まだご心配ですか?

先ほどから厳しいお顔のままですよ」

 

(リア、エレナがいるこの場ではこれ以上は無理だ。

イーリス、この状況下で取れる手段をまとめてくれ。

後で、再度話をしよう。

セリーナとシャロンもそれでいいな)

 

[了解です]

 

(((分かったわ)))

 

「リア、民のことを思って心を悩ますのは施政者として立派だと思うよ。

でも、今は僕との視察中だろう。

もう少し一緒に楽しまないかい?」

 

リアを見つめるエレナの興味を逸らしたくて俺は軽いノリでリアを誘う。

 

「アラン、姫様はお疲れです。

これ以上引き廻すのはお止めください。

姫様、お顔の色も優れませんのでお部屋にお戻りになりお休みください」

 

俺にジロリと冷たい目を向けた後でエレナがリアに言う。

顔色か。確かに少し血の気が失せているな。

流石はエレナだ。

それにしても、俺から仕向けたんだがやはりエレナの冷たい目は堪えるな。

 

「リア、エレナの言う通りだ。

少し顔色が悪い。

エレナと一緒に部屋に戻って休んだほうが良いよ」

 

「アランでも…」

 

「リア、焦っても良いことは無いよ。

スターヴァイン王国を取り戻すまでにはまだまだ時間が掛かるんだ。

その間には幾つもの困難を乗り越える必要もある。

だから、一つ一つの困難を過度に怯えていたらとても最後までもたないよ。

それに約束しただろう。君に俺がスターヴァイン王国をプレゼントするって」

 

憔悴したリアの顔の口の端に笑みが浮かぶ。

 

「そうね。アランが全部取り戻してくれるのよね。

分かったわ。エレナ、部屋に戻りましょう」

 

「そうですね。それがよろしいですね」

 

エレナがリアの手を取って歩き出す。

だから、そんな目で俺を見るのはやめてほしいぞ。

リアを不安がらせても落ち着かせても非難がましい目で見られたらどうすれば良いか分からなくなるじゃ無いか。

 

(さてと、イーリス。

本当は対応案は策定済みなんだろう)

 

[はい、幾つか策定しています。

ただ、何を重要視するかで対応は随分と変わります]

 

それはそうだな。そもそも数万人の移動でひとりの脱落者も出さないなんて徒歩で長時間を費やす移動では無理な話だ。

老人や子供の中には体力的に最後まで持たないものだって出るだろう。

問題はどの程度の損失までなら許容できるかという判断なんだが……

 

(イーリス、リアをモニタリングしているか)

 

[してはいますが、個人情報ですので開示が前提ではありません]

 

(リアの心身の健全性は個人の問題じゃ無いだろう。

計画の根底にリアが集まった民をまとめる象徴になるというのがあるんだぞ)

 

[それだけですか?]

 

それだけじゃないさ。

分かってるよ。

 

(俺はリアを支える。だからそのために必要な情報は教えるんだ)

 

[分かりました。クレリアは落ち延びた当初から民を守る立場にある王族としての義務を放棄したのでは無いかという負い目を内心に感じていました。

でも、自分が無力であることも理解していました。

その事実がクレリアの心のバランスを取っていました。

でも、今は違います。

アランが道を示しました。

そして彼女は王族としての義務を果たす覚悟を決めています。

だからこそ、ここで自分が民を守れないことは許せないのです。

彼女の心は集団Aの力なき民が武装勢力に殺されることを許せません。

それは自分の王女としてもアイデンティティを再び喪失することです]

 

そうだな、俺にはリアを焚きつけた責任がある。

リアに役割を押し付けた以上、その役割からくる重圧からリアを守る必要もある。

 

(イーリス。手段は問わない。

集団Aには無傷でここに到着してもらう。

そのための手段を提示しろ)

 

リアのためにどんな手段だって取ってやるさ。

俺は腹を括るのだった。

 

 

 

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