こちらに向かう未来のこの国の民を襲おうとしている賊達への対処としてイーリスが示した3つのプラン。
どれが正解なんだろうか。
俺は考える。
でも、どの案にもメリデメがあってこれだという決断がなかなかできない。
昨日は質量兵器で吹っ飛ばしてやろうと決断したはずなのに今日は全員をこっそりとここまで運んでしまって肩透かしさせるのが一番だと思い返してしまう。
ここまで悩むのには理由があるんだ。
それは、ここでの決断がこの先の俺の、未来のこの国のあり方を大きく変えてゆく気がしてならないからだ。
ここで未来への流れができる。
いや、流れを作るんだ。
そんな気持ちがお腹の底から湧き上がってくるのが止まらない。
でも、その流れがなんなのかが解らない。
ストレスが溜まる一方だ。
[艦長、始めますよ]
まずいな。今は今でやることがあるんだ。
この思いに捉われている訳にはいかないな。
俺は気持ちを切り替える。
(ああ、始めてくれ)
イーリスにそう答えて顔を上に向ける。
そこには雲ひとつ無い青空が広がっていた。
[タイム合わせろ]
イーリスの声で頭の中に数字が浮かびカウントダウンし始める。
[格納庫の扉を開きます。扉解放後カウント30で重力制御ダンパーを射出します]
イーリスの感情を排した声が頭に響く。
その声はこの局面では非常に好ましいな。
[格納庫扉解放確認。重力制御ダンパー射出まであと10秒]
[9、8、7、6、5、4、3、2、1、射出]
射出という声と共に頭の中に射出口から大きな塊が遠ざかってゆく姿が浮かぶ。
そして、塊の背景には青く輝く惑星の一部が見える。
(ほう、見える限り雲が無い青一色だな)
[はい、物資の地上への降下には最良の状況ですね]
頭の中その言葉と共にニッコリとした笑顔を浮かべるイーリスの姿が浮かぶ。
だが、笑顔は一瞬だけ。
すぐに凛とした表情に戻り口が動く。
[重力制御ダンパーの射出を確認]
[方位、速度とも予定通り]
[トラクタービーム補足座標まであと5、4、3、2、1、トラクタービーム重力制御ダンパーを補足]
イーリスがほっとした表情を浮かべる。
[艦長、ここまでは予定どおりです]
第一フェーズは無事に完了したようだな。
[艦長、今から20分後に第2フェーズに移行します」
イーリスのその声と同時に頭の中に浮かんでいた数字が1200に変わりその数が減ってゆく。
第二フェーズまでのカウントダウンの数字だ。
その数字を見ながら俺はイーリスによろしく頼むと答える。
(アラン、なんで第2フェーズまで20分も待つのかしら?)
そこに、リアの不満げな声が重なる。
今朝から機嫌が悪いんだよね。
でも、俺はそんなことには気づかないふりをする。
火に油は注ぎたくないしな。
(なんだい、リアは退屈なのかな?)
ここは軽くからかうのが正解だろう。
(そんなこと無いわよ。でも理由は知りたいわ)
(リアは以外とせっかちなのですね)
いいぞ。セリーナが合わせてくれる。
(もう、セリーナまで醜いわ。
あなた達は事前にアランから聞いているから分かっているんでしょうけど、仲間外れにされてた私は何をやるかについて教えて貰っていないんだからしょうがないじゃ無い)
やっぱり怒ってるな。
素直に謝るか。
(リア、それについては悪かったと思う。
だからそんなに怒らないでくれ)
リアの顔が鳩が豆鉄砲をくらった様な顔になる。
俺が謝るのがそんなに不思議か?
それになぜか頬がちょっと赤くなってるな。
(えっ、私は怒っている訳じゃ無いわ。
ただ、知りたいだけなの)
そう強弁するけど怒っていた自覚はある様で目があちこちを彷徨っている。
(そうか、怒っては無いんだ。
それなら良かった。
それで、知りたいのは20分の話だっけ)
(えっ、ええ、そうよ、そうだわ。
なんで20分も待つのかしら)
[先ほど申し上げた20分間はトラクタービームの制御下で重力ダンパーを降下させる時間です。
20分経つと重力ダンパーはトラクラービームの制御下を外れてアレスの大気圏内にほぼ0Gで浮かぶことになります]
(雲みたいにかしら?)
[ええ、そんな感じですね]
(でも、ぷかぷか浮いたままじゃ困るわよね)
リアがそう言うと頭の中に別の映像が浮かぶ。
これはドローンからの映像か。
[はい、だからドローンが捕獲に向かっています。
ドローンによる重力ダンパーの補足開始からが第二段階ですね]
(そうなんだ。ありがとうイーリス)
「ごめんなさい、アラン
私、やな女だったわよね」
リアが俺にだけ聞こえる様につぶやく。
「でも、もう仲間はずれは嫌なの
わかるでしょう」
上目がちに俺を見る目が少し不安げだ
「リア、謝る程のことじゃ無い。
君に十分に説明しなかった俺も悪かったよ」
「そう、じゃあもうしないわよね?」
「ああ、しないよ」
「なら良いわ」
少し甘えた声。
本当に機嫌は直った様だな
[ドローンがターゲットを補足しました。
これより第二段階に入ります]
イーリスの冷静な声で少し浮ついた気持ちが引き締まる。
(本当に補足したの?
私には見えないわ?)
[補足はレーダでです。光学的な補足までは後30秒かかります]
(そうなんだ)
(リア、すぐだからね!)
(もう、セリーナの意地悪。
分かってるわ)
リアとセリーナがそんなやり取りをしている間にドローンの光学センサーが重力ダンパーを捉えた様で、頭の中の映像に姿が見えてくる。
(剥き出しだな)
(ええ、剥き出しですね)
梱包も何もされていない剥き出しで降下させるとは思わなかったな。
[大気との間に摩擦熱を生じさせれば、梱包をしていても燃え尽きてしまいます。
大切なのは大気圏に突入以降に大気との摩擦熱を発生させない効果速度と、惑星の自転との相対速度です。
剥き出しで問題はありませんよ]
おや、こんどはイーリスが拗ねるのか?
どうやってご機嫌をとろうか?
[艦長、私はAiです。リアにするようなご機嫌取りは不要ですよ]
流石はイーリス。
こんなに簡単に表情を読み取られるなんて!
イーリスに隠し事は無理だな。
(ねえ、アランご機嫌(リア、ドローンからアームが伸び出した。重力ダンパーをドローンが捕捉する一番重要な工程が始まったよ)
(えっ、そうなの?
あっ、捕まえた。ねえ、アラン見たでしょう。
ドローンのアームが掴んでる!)
(ああ、無事に捕まえた様だな。
後はドローンがここまで届けてくれるのを待つだけだな)
そして、1時間後、ドローンと共に重力制御ダンパーが到着した。
これで、地上とイーリスを結ぶ往還機が実現する目処がたった。
俺は細い糸ではあるが自分が自分の文化圏と確かに繋がったという高揚感とこれからへの期待と困難さへの思いを胸に着陸した重力制御ダンパーを見つめる。
「ねえ、アラン、何を考えてるの?」
俺の表情にリアは何かを感じているんだろう。
「いや、リアがちゃんと大人しくしてたなと思って感慨に耽ってたんだ」
「なにそれ、ひどいじゃない」
そう言いながらリアは笑っている。
俺の冗談で笑顔になるリアを見て俺は自分の中にある重苦し気分が薄れたことを感じてリアに笑顔を返す。
「ねえ、近くで見ても良いのかしら」
[問題ありませんよ]
イーリスの返事を受けてリアが小走りで重力制御ダンパーへと向かい始める。
俺もリアの後を追い走り始めるのだった。