アラン様は無事に王都で男爵になられたようですね。
恥辱されている私達を盗賊のアジトで救い出して下さったのが遠い昔のように感じられます。
確かに凄腕の冒険者でしたけど平民の身から男爵になられるなんてあの頃は思いもよりませんでした。
「ねえ、カリナこれは本当なのかしら?」
アリスタ様が疑問に思うのも当然です。
百余名で王都へ旅立たれたアラン様が二千人以上の人を連れてガンツにお戻りになると連絡を頂いたのです。
行きの百名でも大所帯ですが帰りの二千名は本当に規格外です。
でも、カトルはアラン様と共に王都に行かれた方です。
二千人以上を引き連れてアラン様がガンツにお戻りになるのは事実なのでしょう。
「アリスタ様。途方もない話ですが真実だと思います」
「そうよね。でしたらご満足いただけるように準備をしましょう。大仕事になるわよ」
確かに大仕事です。
ドラゴンの競売で押し寄せる大勢の商人達へ対応をした経験がなければ途方にくれたと思います。
「お嬢様、ドラゴンの競売の経験もありますのでなんとか致しますわ」
「そうね。あの時も宿の割り当てやドラゴンの素材の管理でてんてこ舞いだったわね」
「ええ、ですから今回もやり遂げますわ」
「それにしても、アラン様が拝領した魔の大樹海にこれほどの荷物を運び入れるなんて?
アラン様は随分と開拓に自信をお持ちのようだったけど。
もう、開拓は始まっているのでしょうね」
「そうですね。ガンツの宿に二千人をずっと泊める余裕もありませんもの。
アラン様は二千人を連れて魔の大樹海に向かうのでしょうね」
「その為の食料や資材なのでしょうね。
これは本当にしっかりと用意する必要がありますね。
食料や資材が不足してアラン様の領地開拓が失敗に終わるなんて許されることではありませんからね」
こうして私はアラン様の領地開拓用の食料や資材の準備に追われることになったのです。
そして、アラン様のご指示に頭を悩ますことになったのです。
「カトル様、ご指示頂いた食料の件ですが、本当にこれだけの冷凍肉をお持ちになるのですか?」
指定された冷凍肉は馬車30台分になります。
「冷凍肉ですから普通の肉よりは持つと思いますが溶けてしまえば普通の肉と同じです。
腐ってしまうのでは無いでしょうか?」
「カリナさんのご指摘はごもっともですがアラン様からの直々の指示なのです。
アラン様になにかお考えがあるのでは無いでしょうか?」
「考えですか?
カトル様はなにか思いつかれますか?」
「例えばガンツにあるのと同じような冷凍設備が魔の大樹海の中にあるとか. . . .ですかね???」
カトル様ったら。冷凍の設備ですか。
あれは貴重な魔導設備です。
「冷凍設備は貴重な魔導設備ですわ。大樹海の中にあるとは思えませんけど。
あっ、魔の大樹海の中に古代文明の遺跡でもあれば冷凍の設備も見つかるかもしれませんね」
「それです。流石はカリナ様です。
アラン様は魔の大樹海の中で古代文明の遺跡を見つけたに違いありません。
そうです、そうですとも。
それであれば既に数万人が住む場所を用意済みだというアラン様のお話にも合点が行くというものです」
「あの、カトル様??
既に魔の大樹海の中に数万人が住める街があるとアラン様はおっしゃったのですか?」
「はい、今アラン様と行動を共にしている者達とは別にスターヴェーク王国から2万人程度の者達が順次クレリア様を慕って落ち延びてくる予定なのです。
アラン様は王都でその動きをお知りになったのですが、眉ひとつ動かさずに問題無いとおっしゃたんですよ」
2万人ですか?
2千人でも途方も無いと思ったのに。
私が驚き物思いに耽っている間にカトル様は何度か『古代文明の遺跡、それに違い無い』と呟きながら席を外されました。
どうやらカトル様は古代文明の遺跡という考えがお気に召したようです。
それにしてもアラン様直々のご指示であれば冷凍肉馬車30台分はやはり必要なのですね。
アラン様のお考えですもの。私ごときの考えが及ばない何かがあるのでしょう。
そう思い私は納得することにしました。
でも、アラン様達があと数日でガンツに到着される頃。
また、私を驚愕させるご指示をアラン様から頂いたのです。
なんとアラン様と一緒にガンツに入る2千名を宿で数日休ませる間に用意した物資を魔の大樹海に運び込むというのです。
てっきり、魔の大樹海の側まで馬車で資材を運んで、そこからは人手で魔の大樹海の中まで物資を運び込むと思っていましたのに。
二千名の人手無しであれだけの物資をどうやって大樹海の中まで運び込むのでしょう?
疑問は尽きませんがアラン様のご指示に従い準備を済ませました。
そして物資搬出の当日。
私たちは大量の馬車でガンツから魔の大樹海に向かいます。
アラン様のご指示に従い街道を1時間も進めば不思議な物が見えてきます。
それは街道から分岐する新しい道です。
でも、あれはただの道ではありません。
大型の馬車が3台は並べることができる幹線規格の道です。
ガンツのような辺境では見たことの無い立派な道です。
そんな道はあるはずが無いのです。
でもアラン様はことなげにその道を進むようにと指示されます。
私たちの馬車は驚きを隠しながらその道を進みます。
でも、そんな努力は無駄でした。
魔の大樹海が近くに連れて見えてきたのです。
その道が魔の大樹海の中まで続いているのです。
もう、驚きを隠すなんて無理です。
みな、一様に驚きの声をあげます。
当たり前です。
人を寄せ付けなかった魔の大樹海の中へ幹線規格の道が続いているのです。
しかも魔の大樹海の中では道の両側に道と同じ幅の空き地があるのです。
確かにあれだけの空き地が道の横に用意されていればいきなり木の陰から魔物が襲うことは難しいでしょう。
でも....どうすれば幹線規格3本分に及ぶ道が魔の大樹林の中を通せるのでしょうか?
想像も出来ません。
そんな私たちに対して領地の街までこの道が続いているとアラン様はおっしゃるのです。
やはりアラン様は特別です。
いえ、人知を超えた存在なのです。
そして私たちはアラン様に従って魔の大樹海の中へと馬車を進めるのです。