「隊長、ダリーの隊が到着しました」
「おい、隊長じゃ無い。お頭だ」
「あ〜、そうでしたね。
お頭、ダリーの奴らやっと着きましたぜ。ギリギリでさ〜」
タネンの言葉遣いが粗野な物に変わる。
なんだか、板についてるな。
「そうか、やっと着いたか。
ダリーの奴らはどこで油を売ってやがったんだか。
まあ良いか。
これでやっと反徒どもを滅ぼしに行けるわけだ」
「お頭、獲物がやっと手に入るですぜ」
「おう、そうだったな。獲物か。確かにな。若い女も結構いるらしいからな。
男どもを血祭りにあげたら、獲物で楽しむか!」
タネンの顔に下卑た笑みが浮かぶ。
そうか、俺にこの言葉を言わせたくて獲物とか嘯いたのか。
「えへへへ、盗賊の役得ってやつですね」
「ああ、騎士の誇りとかは盗賊には必要無いからな。
襲撃の後の宴を楽しみにしておけと部下に伝えておけ。
だからな、女達は殺すなよ。
男は皆殺しだが女は宴の楽しみだから決して殺すなとな。
つまらん正義感で女まで殺されてはたまらんからな」
元近衛のアリオンとかは慈悲を与えるとか言って女達を殺しそうだからな。
「確かに。下手に仏心を出されて殺してやる方が幸せだなんて思うアホの顔が目に浮かびますわ」
「ルドヴィークに駐留した奴らは特にそう思うだろうな」
あれは、確かに酷かった。
それをアリオンは諌めようとして王の逆鱗に触れて近衛を解任されたからな。
くだらん正義感だ。
我王に逆らうことがいかに愚かな行為かを貴族達の心に植えつけるための生贄なんだ。
それに異を唱えるなんて馬鹿なやつだ。
確かに征服後の宴の席の余興というにはきつかったな。
今でも頭に焼き付いている。
「これより余興を始める。皆、楽しむように」
そんな王の言葉で引き立てられてくる反徒達が頭に浮かぶ。
妻や娘とともに鎖に繋がれ引き立てられる男達。
そして女達が鎖から解かれると、それに群がる下郎達。
「お貴族様の女を犯せるなんて最高のご褒美だぜ」
そんな声が下郎から聞こえて来る。
あ〜、あいつらはこの城への抜け道を案内した男達か。
半奴隷状態でこき使われて辺境伯を随分と恨んでいたようだったな。
「えへへへ、旦那様よく見ていてくださいね」
そう言って下賤な男が貴族の女に近づいて行く。
そして、女の服に男の手が掛かり…
そこからは怒声と助けを求める声。
そしてそんな声さえも喜びなのだろう。
夫の前で男達が嬉々として女に伸し掛かってゆく。
男の下で泣き叫ぶ貴婦人達の怨嗟の声。
その声が徐々に嬌声に変わり血の涙を流す男達。
宴の余興か。
違うな。
あれは警告だ。
余を裏切るなという。
よく見ろ。
余に逆らった愚か者達の末路はこれだと。
確かにバカな奴らだ。
愚かなスターヴェークの王などに忠義を尽くした報いだ。
粛清されて当然だろう。
そんな思いが刻み込まれる。
確かに、王の思惑どおりに効果がある余興だったな。
ルドヴィークの悲劇は国中に広まり、全ての貴族が王を恐れて王に恭順を示したのだから。
もっとも俺たちには悲劇でもなんでも無い。
おかげで俺たちはこの遠征でも女に困らないのだからな。
そう言えば今も微かに嬌声が聞こえるな。
あの声の中にはあの時の女達の声もあるはずだ。
今では兵達の慰みの物としてしか価値の無い元は貴族の女達の声だ。
そしてその声は徐々に大きく幾重にも重なり出す。
人殺しを前に高ぶる兵達が相手だ。
激しいだろうな。
中には抱き潰されて死ぬ女も出るかもしれないな。
まあ良いか。
今夜には新しい女達が補充できるだろうからな。
今夜の獲物には慈悲など不要だからな。
アロイス王国から逃げ出したのだからもはやアロイスの民では無い。
アロイスに反旗を翻した以上、相応の報いを与えるだけだ。
ルドヴィークの悲劇を知りながら王国に反旗を翻したんだからな。
スターヴェークの亡霊は放っておくわけにはいかないしな。
俺はそう思いながら嬌声の声に向かって歩き出す。
俺専用の女を抱くために。
今だにスターヴェークの貴族としての矜持に囚われている女だ。
あの冷たい目で睨まれた後に抱きつぶすことを考えると心が躍る。
たっぷりと鳴かせてやるか。
今日で最後だしな。
今夜、新しい女を手に入れたら部下に下げ渡すあの女の裸体を思いながら俺は俺は女に向かう。
[艦長、賊達の集結が完了しました。]
(そうか、予定どおりだな)
[はい、襲撃はやはり今夜でしょう]
(そうか。なら俺たちも動き出すか)
聖女リアによる賊達の殲滅プランの準備は全て終わっている。
あとは、実行するのみだ。
[艦長、今夜の実行計画に一部修正の必要があることを具申します]
(変更? 今になってか?)
[はい、申し訳有りませんが必要です。
これを御覧ください]
イーリスのその声とともに頭の中に映像が流れ出す。
(これは……)
[今夜に向けてのご褒美だそうですよ]
ご褒美、これがか……ヘドが出るな。
幾人もの男に白い裸体の女達が蹂躙されている。
全てを諦めた女の虚ろな瞳。
そこにのしかかる男達。
その横では嬌声をあげる女の胸が激しく揺れている。
(これがご褒美か。
それでイーリス、なんでこの映像を見せるんだ。
救出に失敗するとリアの民達に同じことが起きると伝えたいのか?)
そんなことは解ってるさ。
人類の歴史で幾らでも繰り返されてきたことだ。
戦いに負けた集団の女達の身に降りかかることは何時でも同じだ。
そう、同じなんだ。
もしかして
(イーリス、この女達は?)
俺の問いかけに答えるように頭の中の映像が切り替わる。
これは、さっきまでと違い女と男の二人だけだな。
女は身につけている服からして貴族か?
「ルードリッヒ、また私を辱めに来たのね。
無駄なことよ。体は辱められても心は挫けないわよ」
「そうか、お前が拘るルドヴィークの貴族としての矜持などなんの意味も無いのにな」
「お前のような卑しき裏切り者には貴族としての矜持など解らないのでしょうよ」
女は言葉と視線で男と戦っているようだ。
「あ〜、解らないな。
矜持とやらに拘って全てを無くしたお前の気持ちなどな」
「そうね、お前には決して解らないでしょうね」
「そうだな。
俺が矜持とやらを解るのとお前が俺の子供を孕むのとどちらが先だろうな。
なあ、俺の子供を産んでもお前の矜持とやらは残るのか?」
男はそう言いながら女に近づいてゆく。
そして頭の中の映像が途絶える。
(イーリス、これはリアルタイムな映像だな)
[そうです]
(なら、確かに計画の調整は必要だな。
イーリス、彼女達の救出プランを追加するんだ。
あ〜、救出するだけじゃダメだ。
誰にも気づかれずにここまで運び込み癒すまでのプランだ)
イーリスが敬礼し俺の頭にプランが流れ込む。
準備周到だな。
計画を理解しようとすることで俺は怒りを鎮めてゆく。
あいつらを殺したいという思いを押さえ込む。
残念だがあいつらを殺すことはできないからな。
あいつらにはリアの聖女としての奇跡を広めるという役割があるんだ。
おれは、握りしめた手からゆっくりと力を抜く。
大丈夫だ、俺は冷静だ。
そう思いながら今夜の計画を頭の中でシュミレートする。
大丈夫、できるさ。
全員、救い出す。
そして、リアを聖女にするんだ。
そう俺は自分に言い聞かせるのだった。