むっつりつぐ子の日常 作:あるふぁ
《少女漫画のような甘い恋がしたい》
女の子なら一度はそう思うかもしれない。
わたしも例外じゃなくてその内の一人。
自分の理想の王子様みたいな人と運命的に出会って、ベタベタに甘やかされて、それでもちょっぴり強引にわたしを引っ張ってくれるそんな人。
夢って程大袈裟でもないけど、理想ではあるそんな恋愛をしてみたい。
中学生の頃はそんな事は思ってもないし考えてもいなかったけど、高校生になって周りの環境が変わったせいか、色恋沙汰の話に花を咲かせるようになっていた。
「ウチのカレシさ〜」
「あたしの彼氏もさ〜」
何気ない日常会話の中で、突然入ってくる恋人の話題。そんな恋人達の惚気話や愚痴話をわたしは聞かされていた。
話を聞くのは嫌じゃないし退屈もしない。面白い話を聞けたりもするし素直に楽しいおしゃべりの時間。でも……
「つぐみはカレシとかいないの?」
「えぇ!? わ、わたし!? い、いないよ」
「良いカンジの人とか気になってる人とかいないワケ?」
「う……うん」
「つぐみフツーに可愛いのに、勿体なくない?」
恋人の話題になると必然的にわたしの話題にもなっちゃう。まだ浮ついた話がないわたしに、みんなが早く恋人作りなよとか、好きな人はいないのかと問いただしてくる。
その時間はあまり好きではないし、お茶を濁す程度しかできない。
恋人がいないからって毎日が充実していないなんて事はない。幼馴染と一緒にやるバンド活動はすっごく楽しい。家の仕事を手伝いながらも、夢中になって練習して、五人で合わせて、ライブで披露して歓声が聞こえて、すっごく満たされた日常を送ってる。
でも、例え日常がそんな風に満たされていたって、わたしだって恋人は欲しいって思ったりもする。
自分が好きな人と恋人同士になって、デートしてお互いの時間を共有して、楽しい生活を過ごしたい。
そんな想いを抱くわたしにも、今は明確に好きな相手がいる。
彼は自分とは違う高校に通う男子校の人。わたしのお店によく来てくれて、何回か来てくれるようになってからそれとなく話すようになった。
癖っ毛のある黒髪に、明るく笑顔がクシャってなるのが可愛くて、少しドジっぽさもあるけど、一緒に話をしていると楽しくてついつい話し込んじゃう。もっと彼の事が知りたいって思っちゃって、彼がお店に来るのが待ち遠しくて、お店に来ない日はちょっと寂しくて。
そんな彼の名前は
お付き合いしてみたいけど、真澄くんがわたしの事をどう思ってるかどうかも分からないし、告白する勇気がまだ全然持てなくて……
そうやって意識していく内に、普段は普通に話せてたはずなのに、変に緊張しちゃって話せなくなっちゃったりして、わたし一人だけ焦ってる感じでモヤモヤしていた。
そんな密かな想いとモヤモヤを抱えたわたし、羽沢つぐみの現在の状況を説明すると……
想い人である真澄くんと、ラブホテルに来ています。
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「いや〜、しかし本当に参ったな〜。急に天気予報無視した大雨降ってくるとはな〜」
「そ……そうだね……」
「部屋さっむ。つぐ子寒くないの!?」
「え!? えっと……さ、寒い……かな?」
「エアコン入れるね〜」
「う、うん……」
真澄くんもあたしもバスローブ? だっけ。タオル地の白い布に一枚に包まれた状態。何が起きてもおかしくない状況にあたしは困惑していた。
事の発端といえば、あたしが買い物の帰り道に偶然真澄くんと会って、そのままあたしのお店に一緒に行く流れになったけど、その途中でいきなり大雨が降ってきて、お互いびしょ濡れになった結果、雨宿りも兼ねて入った建物がラブホテルだった。
その時は急に大雨に降られちゃったのと、服がびしょびしょになってしまった焦りで、なんの疑いもなく入ってしまった。
部屋に入るとやたらピンク色の装飾で、普通のホテルとはなんか違くて……それに真澄くんはサラッとすごい事を言っていた。
「すげぇ! ラブホってこんな感じなんだ〜!」
「ら、ラブホ……?」
「そっ! ここラブホテル!」
「…………」
言葉を失った。異性としては好きだけど、まだ正式な恋人ではない男の子とラブホテルに来てしまった。
「つぐ子先に風呂入って温まってきなよ! そのままだと風邪引くし」
「さ、先って……あとから真澄くんが……来るの……?」
「あはは! つぐ子何言ってんの? 行くわけないじゃん!」
「そ、そうだよね……」
流石にあたしが危惧している事は起きそうになかった。ホッと一安心して、でも油断はしないで一人でお風呂場に向かった。
お風呂場の入り口は曇りガラスになっていて、外からは見えないようになっていたけど、カギがかけられないのが少し不安だった。
警戒はしつつも、シャワーの温度を確かめて、いつも通り髪から順番に洗っていく。シャンプーを付けてよく馴染ませている間に、ふと先程の真澄くんの言葉を思い出した。
《あはは! つぐ子何言ってんの? 行くわけないじゃん!》
安心はした。けど、それはそれでわたしには魅力が無いんだって思えちゃって、なんだか無性に怒れてきたりもした。
自分で言うのもおかしな話だけど、年頃の女の子とハプニングとはいえ、ラブホテルに来てるのに、あんなに軽く否定されたら少し思う所があってもおかしくないと思う。
否定するにも、もう少し恥ずかしがりながらとか、顔を赤くしてくれたりとかさ。
一度モヤモヤしたら中々晴れる事はなく、羞恥とかそんな感情よりもモヤモヤが勝っちゃって、本当にいつもの感じで髪も身体も洗い終えてしまった。
お風呂から出ようと扉を開けたら真澄くんがこちらを見ていた……なんてハプニングもあるわけなく、気を利かせてくれて入り口にバスローブを丁寧に置いといてくれた。
嬉しいかった。嬉しかったけど、なんかこう……ちょっぴり自信が無くなった。
「真澄くん、上がったよ。それと、バスローブありがとね」
「おう。じゃあ次俺入ってくるわ!」
そう言ってはしゃぎながらお風呂に向かう真澄くん。わたしの横を通り過ぎる時もバスローブ姿のわたしには一切目もくれずにお風呂場に直行。年頃の女の子が下着も身に付けず、バスローブ一枚だけの姿なのに、ラブホテルのお風呂場に負けるわたしって……なんて落ち込んだ。
「はぁ……」
変に緊張してる自分がバカらしいなって思う。溜息をこぼしながら、気分転換にテレビでも見ようと思い、テーブルに置いてあったリモコンを手に取って電源ボタンを押した。
『ひぐ、んぁ、ひ、どんどん……はいって……んくぅ♡』
真澄くんの言動でテンションが落ちていたわたし。警戒心が薄れていて、ここがラブホテルだって事を忘れてしまっていた。
焦って電源を消そうにも、焦りからか中々ボタンが押せない。やっとの思いで消せて、一安心して深呼吸をした。
「俺、女の子と一緒にAV見たの初めてなんだけど」
「え……?」
「そんな意外? つぐ子は男と見たことあるの?」
今のは、普通に異性とえっちなビデオ見るでしょ? って意味じゃなくて、もうお風呂上がったの? いつからそこにいたの? って意味のえ……? なのに、真澄くんは盛大な勘違いをしていた。
「み、見たことないよ……! そんなの、女の子は見ないと思うし……」
「そうなんだ。でもつぐ子見たって事は興味あるのか?」
「気分転換に付けたら流れちゃって……普通にテレビ見ようとしただけだよ」
「そうなんだ。とりあえず服乾くまで暇だな」
「そう……だね」
テレビを付けたらえっちなビデオが流れちゃうから付けられない。他に暇を潰せるような小道具なんて無いし、沈黙の時間が長いのも気まずい。それに、真澄くんから迫られたらどうしようって不安が押し寄せてきた。
《つぐ子。俺、我慢できなくなっちゃった》
《真澄くん……ダメだよ……》
《つぐ子が、好きだ》
《真澄くん……》
まだ付き合ってもいないのに……先にえっちなことなんてできないし。でも、この場所でこの雰囲気で迫られたら、普通に拒否できる自身もないし、そのまま流されちゃうかもしれないし。
「つぐ子」
「ひゃ……ひゃい……!」
「しりとりでもするか?」
「し、しりとり……?」
「そう。じゃあ俺からね。りんご」
「……ゴマ」
「ま、まー。マントヒヒ!」
「……飛行機」
「き、きー。きー」
《キス》
なんて言って、無理やりそういう雰囲気に持ち込むつもりだろうか……? そんな手でわたしは許しちゃうと思われちゃってるのかな?
「キツツキ!」
「……キツネ」
「ネコ!」
「……コアラ」
全然そんなんじゃなかった。本当に純粋にしりとりをしてる真澄くん。わたし一人でモヤモヤして悶々として恥ずかしいだけだった。
「なんか今のつぐ子、エロいな」
「え……」
「いや、冷静に考えてバスローブ一枚だけどヤバくない?」
そう言ってくる真澄くんの目は、キラキラしていた。ギラギラとかギンギンとかではなく、子供がおもちゃを見つけたような、キラキラした瞳だった。
「真澄くん……えっち……」
「つぐ子言うね〜! けど普通でしょこのカンジ」
「真澄くんは……興奮したって事……?」
「めっちゃ興奮してる、今!」
「…………」
「ぇ……えっち……」
えっちで破廉恥でセクハラ発言。恥ずかしいし穴があったら入りたい気分だけど、ちょっぴり嬉しい自分もいた。真澄くんに女の子として意識してもらえてるのが嬉しかった。
「じゃあ、しちゃう?」
「え……?」
「これはもうさ、やるしかなくない?」
真澄くんにそう言われた。やるって言葉の意味はきっと……そういうことで……
心の準備はまだだけど、男の方そーゆ生き物だって前にひまりちゃんが言ってたし。
「本当に……しちゃうの……?」
「うん! しようよ! 枕投げ!」
「…………」
そして服が乾くまでの間、わたし達はめちゃくちゃ枕投げをした。