生贄の少女と引きこもりドラゴン ~なに勝手に僕の周りに住んでるわけ!?~   作:やーなん

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「本当に、馬鹿馬鹿しい」

「人間とは、社会的な生物なのよ。

 つまり産まれながら社会に貢献することを義務付けられている」

 

 忌まわしい、僕の造物主は言った。

 

「あなたもこうして生まれた以上、社会に、私に貢献しなければならない。

 いつまで不貞腐れて、引きこもっているつもりなの。

 何の為に、お前を産み出したと思ってるの」

 

 うるさい、誰がお前なんかに産み出してくれと頼んだ。

 お前が勝手に期待して、お前が勝手に失望したんじゃないか。

 

 僕を失敗作として産み出したくせに。

 だから僕が引き籠っているのはお前の所為なんだ。

 

「そう、なら負債は処分するしかないわね」

 

 ははッ!! 

 負債、負債と言ったか!! 

 僕は負債か!! 最高に笑わせてくれるじゃないか!! 

 

 ──ぶち殺してやる!! 

 

 

 ぱちん、と音が鳴った。

 僕の母さんが、あいつの頬を張った音だった。

 

「我が盟友よ、この子は我が息子よ。

 あなたの一存で処分するなど、許さない」

「……悪かったわ。私にはお腹を痛めた子供を持つ親の気持ちが分からないもの」

「わかってくれれば、それでいいのよ」

 

 そして母さんは、僕を抱きしめた。

 

「大丈夫、大丈夫よ。

 あなたは私の息子なんだから。

 気が向いた時に、したいことをすればいい」

 

 母さんのその優しさが、苦しかった。

 何かをしようとしたけど、上手くいかなかった。

 それから僕はずっと、何もしなかった。

 

 僕はひきこもりのニートで、ただ居るだけで資源を浪費する不良債権だった。

 

 自分の存在意義を、考えたことは何度もある。

 だけど結局、何もしないのが一番だった。

 

 それも耐えられなかった。

 母さんや、弟たちの優しさが苦痛だった。

 

 だから逃げたのだ。

 あの気に食わない僕の造物主の恩寵の届かぬ、果ての果てに。

 

 でもまさか、こんな辺境の未開の地に、人間がまだ住んでいたなんて。

 本当に、人間って生き物の生き汚さには恐れ入る。

 

 この世界は、この惑星は、お前たちが住むには過酷に過ぎるだろうに。

 憐れにも身を寄せ合って、必死に生きている。

 さっさと滅べば楽なのに、苦しい方を選び続けている。

 

 何が楽しくて、生きてるんだこいつら。

 遺伝子に刻まれた本能? それとも他に理由が有るのかな? 

 

「なあ、人間を人間たらしめるものって、なんだと思う?」

 

 僕は返事が返ってこないのを分かっていながら、毎日毎日熱心に僕の鱗を磨くガキに問うた。

 

「僕を創った奴曰く、人間が人間であるのに必要なのは尊厳なんだとさ。

 尊厳。お前たちに理解できるか? 

 気高さのことだよ。生き残るために他の種族に媚びたりしないことさ、お前たちには無いものだよ」

 

 それをこいつらアホ毛族に言うだけ無駄だろう。

 衣食住足りて礼節を知る、という言葉が有るように、こいつらにはその全てが足りていない。

 そもそもそんな文化が無い。そこまでの領域に至っていない。

 

 だからこいつらの扱いは、人権も何もないサルと同じ。

 我が造物主の基準ではそうなる。

 

 ……下らない。戯言だ。

 

 それにしても、ここしばらくで体中が葉っぱ臭くなってしまった。

 水浴びしたい。

 そもそもなんで原始人も同然のアホ毛族が僕の世話をしてるんだ。

 不愉快だ。僕を神様だとでも思ってるんだろうか。

 

 そう言えば、僕の造物主も言っていた。

 宗教は最も原始的な道具(ツール)の一つだと。

 

 雷は神の怒りで、川の氾濫は竜が暴れたからだと、古来より人間はそこに神秘性を求めて来た。

 こいつらも、きっと人間である以上そうなんだろう。

 

 本当に、哀れな生き物だよ。人間ってのは。

 

 

 

 §§§

 

 

「なあ、お前は何のためにこんなことをしてるんだ?」

 

 竜神様の鳴き声は、沢山だ。

 毎回毎回別の鳴き声する。

 

 きっと気持ちいいんだと思う。

 私がココの葉で体を磨いてあげると、みんな喜んでくれたから。

 

 ココの葉はすごい葉っぱなんだ。

 だって、切り傷にも効くし、武器を磨く時にも使えるんだって。

 

 戦士の皆が武器に使う、黒い石を磨くのにも使う。

 大きいから被れば雨の日も頭が濡れなくて済むんだ!! 

 

 私のお役目は、竜神様の御世話。

 毎日鱗を一枚一枚、磨いて差し上げるの。

 

 竜神様は毎日食べ物を食べないから、食べられるものを探さないといけない。

 

 今日はクーモンを持って来た。

 八本足の虫で、私達のごちそうなんだ。

 

 それをいつものように口に入れて食べさせてあげようと思ったけど、私が口に入れる前にクーモンが手から無くなった。

 

 竜神様の尻尾が、クーモンを私の手から打ち払ったのだ。

 

「おい、そんなものを僕に食べさせるつもりか!!」

 

 竜神様の鳴き声が、私の身体を震わせる。

 何度も何度も竜神様の鳴き声を聞いた私にはわかる、これは食べたくないってことだと思う。

 

 どうしよう、クーモンが潰れて食べられなくなっちゃった。

 他に食べられるものが無い。

 

 こうなったら、仕方がない。

 

「なんだよ、おい、なんで近づくんだよ」

 

 私は竜神様の顔に近づいて、口の中にこの身を差し込んだ。

 どうか、私を食べてください。竜神様。

 

「うげ、止めろ、止めろって、口の中に入って来るなよ!! 

 人間なんて気持ち悪いモノ、蜘蛛より嫌だっての!!」

 

 ぺっ、と吐き出されてしまった。

 やっぱり、竜神様は私達は食べないのかな。他の魔獣は私達を食べるのに。

 

「くそ、こんなのをずっと続けるってのか? 

 最悪だ。面倒だけど、仕方がない……」

 

 竜神様のよだれでべとべとになった私が途方に暮れていると、竜神様は地面に爪で何か掘り始めた。

 

 私はナニコレと首を傾げて見ていると。

 

 ぼッ、と何だか明るいメラメラとしたものが出て来た!! 

 

「まさかお前ら、魔法どころか火を見るのも初めてなの? 

 どうやって生活してるんだお前たち……」

 

 ホントに人間なのかよ、と鳴き声を出しながら、竜神様はさっきの潰れたクーモンを指先で摘まむとメラメラに近づけた。

 すると、なんだかいい匂いがし始めた!! 

 

「うーん、焼けば少しはマシになるか。

 どれどれ……あ、意外と行けるかも」

 

 ひょい、とクーモンを食べると竜神様は満足げな鼻息を漏らした。

 

「とりあえず、火を通せ。良いな?」

 

 そっか、竜神様はそのメラメラで食べ物を美味しそうにしてるんだ!! 

 他のもメラメラで美味しくなるか試してみよう!! 

 

 

 

 §§§

 

 

 僕が火の使い方を教えてやると、ガキは手あたり次第火に入れて焼き始めた。

 

 人間って言う生き物は、新しいオモチャを手に入れたらそれを使わずにはいられない生物だ。

 好奇心、探求心、馬鹿馬鹿しい。

 それらが自分たちに牙を剥くことが有ると言うことも知らずに。

 

 だから僕はガキがちょっと火に近づきすぎて軽い火傷をした時に止めなかった。

 痛みを知らないと、人間は学ばない。

 それを教訓にして、しかし後世の人間はその痛みを知らずに過ちを繰り返すんだ。

 笑っちゃうよね。

 

 何日かすると、ガキも火の性質を理解したらしい。

 木の枝に火を移して村の方に持って行った。

 

 それでどうなったかって? 

 

 見ての通りさ。

 ははは!! 

 

 

 

 

 メラメラが、広がっている。

 

 森の中は夜なのに、昼間のように明るくなっていた。

 

(女子供を一か所に集めろ!!)

(祟りだ、竜神様の祟りだッ!!)

 

 どうしてこうなったの? 

 私は、目の前の光景が信じられなかった。

 

(長老、これは一体なんです!?)

(ルルルよ、お前は神の怒りに触れたのだ)

(これが、神の怒りなのですか!?)

 

 メラメラが、周りの木々に移って、私達の家を消し去ろうとしている。

 

(昔、儂も見たことが有る。

 空から降り注ぐ神の怒りが、この災いを森にもたらしたのじゃ)

 

 長老がメラメラで覆いつくされた森を見上げて言った。

 

(これもすべて、ルルルよ。

 お前が神の力を盗んだからじゃ)

 

 そんな、私の所為なの? 

 私はただ、メラメラで食べ物が美味しくなるって教えたかっただけなのに。

 気が付いたら、こうなっていた。

 

 だけど、誰もがもう私を責める気力を失っていた。

 メラメラが、私達の森を消し去ろうとしている。

 

(或いは、竜神様に縋ろうとした、我らへの報いなのか)

 

 これが、私が呼び寄せた災いなの? 

 そうして、うな垂れていた時だった。

 

「これで思い知っただろ、自分たちのバカさ加減をさ」

 

 これは竜神様の、鳴き声? 

 

 

 

 ほら、どうせこうなると思ってたよ!! 

 誰かの火の不始末の所為で、案の定山火事が起こってやんの!! 

 

 火は、人間の文化の象徴だ。

 人は火を使い、食べ物を調理し、金属を加工し、夜の闇を暴き、獣を追い払った。

 だけどそれは自身をも焼く、諸刃の剣なのだ。

 

 人類の文化の発展とは、いかに火と上手く付き合うかだ。

 これでこいつらも、思い知ったことだろう。

 

 これで僕の周りも静かになる。

 

 

 ……だからさ、お前たちはどういう思考回路してるのさ。

 

 

 

 §§§

 

 

 災厄は去った。

 竜神様の咆哮によって、あれだけのメラメラは嘘のように鎮まった。

 

(竜神様が、我らを災いからお救いくださった……)

(もしや、我らを赦して下さったのか!?)

(そうに違いない!!)

 

 真っ黒になった森で、私達は生き残ったことを喜んでいた。

 

(しかし、ならば竜神様は何故ルルルに神の力を分け与えたのでしょう)

(おそらく、竜神様は我らを戒めたのだろう。

 神の力は我らに驕りを齎すと。あの力があれば、魔獣と戦うことも夢ではない故に)

 

 長老はやっぱり難しいことを言っている。

 つまりどういうことなんだろう。

 

(これよりは、竜神様の御許でのみその力を使うこととしよう。

 我らも、その御力でかの御方に侍ることを望もう)

 

 こうして、私達はより竜神様の住まう洞窟の近くへと住むことになったのだ。

 よかった、これでいつもよりみんなの近くに居られるね!! 

 

 

 

 面白くない。

 なにより、うるさい。

 

 なんでこいつら、より近くに集落を作ってるの? 

 火は怖いだろ、あっち行けよ。

 なんでこんなに早く使いこなしてるんだよ。

 

 洞窟の前にはかがり火みたいなのを設置するし。

 そこで料理とかするようになるし。

 お前ら、ヒトの家の前で図々しいとは思わないわけ? 

 

 でも僕のところまでやってくるのはガキだけなのは評価してやる。

 こいつはうるさくないし。

 

 それに、大人数になって食生活もマシになったみたいだし。

 動物を狩って焼いて食べることを覚えたらしい。

 焼くだけでなく、煮ることも覚えたようだ。

 アホ毛族の文化の発展は、まるでシミュレーションゲームをしてるかのようだ。

 元々頭は悪くないらしい。

 

 いや、違うか。

 必死なんだ。こいつらは、生きることに。

 

 僕と違って、こいつらには生きる理由があるのか。

 生きることに意味を見出せない僕と、こいつら。

 

 果たして尊厳が有るのはどちらなんだろうな。

 僕は産まれてこの方、自分に意味を見出せなかった。

 

 こいつらは、サルも同じ野蛮人だ。

 だけど、僕の知る人間たちがこいつらほど必死に生きてただろうか。

 

 神に繁栄を保証されることなく、ただ限られたものを使い生きようと足掻いている。

 どっちが人間として、正しいのか。

 どちらが、人間としてあるべき姿なのか。

 

 ……全く、下らない哲学だ。

 こいつらに、そんな高尚さは必要無いか。

 

 ガキがココナッツみたいな木の実の容器で山菜を煮たスープを持って来た。

 まだこいつは口移しで僕が食事をすると勘違いしている。

 

 

 この世界にも、冬が有るらしい。

 そろそろ寒くなって来た。

 

 アホ毛族はこれまでどうやって火も無しに冬を越してたんだろうか。

 今季からは火で暖を取るのだろう。

 

 だが、僕の世話係らしいこのガキは、基本アホ毛族の集落には戻らないようだ。

 寝る時は僕に寄り添って眠っている。

 正直身動き取れないから邪魔なんだけど。手違いで潰しちゃったらどうするんだよ。

 

 ふと、僕の首に抱き着いた手が目に入った。

 ガキの手には真新しい火傷痕があった。

 

 本当に、馬鹿馬鹿しい連中だよ。

 だからまあ僕も、気まぐれを起こしてやってもいいか。

 

 

 

 

 私が朝起きると、いつもの痛みが消えていることに気が付いた。

 両手のメラメラの怪我が、無くなっていた。

 

 これも竜神様の御力なのかな。

 もうまったく痛くない。

 

 ありがとう、竜神様。

 村の皆を助けてくれて。

 これからも精一杯お仕えします。

 

 今日も村のみんなから食べ物を貰ってこようっと。

 そうして、私が洞窟から出ると、すこし山から下りたところにみんなが集落を作っている。

 

 だけど、どうやらみんなの様子がおかしかった。

 

(長老、やはり奴が……)

(こちらに向かっているのか)

(森の外を探った者が見ました。あの威容、見間違えるはずもなく)

 

 集落の中心に、男たちと長老が集まっていた。

 何だか深刻そうな様子だった。

 

(ルルルか、お前たちは女子供と共に竜神様の御許で隠れていろ)

 

 何ゆえにそのようなことを言うのか、私は表情だけで尋ねた。

 それを察した長老が言った。

 

(地上の主が、こちらに真っすぐ向かっている。

 この森も、奴に食い尽くされるであろうな)

 

 ずしん、と地響きが鳴ったのはその時だった。

 

 

 

 





いきなり高評価を頂いたので、感謝を込めて二話目を書きました。
需要が有れば、もっと書きます!!
それでは、また!!
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