生贄の少女と引きこもりドラゴン ~なに勝手に僕の周りに住んでるわけ!?~   作:やーなん

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「僕の名前は……」

 始めてこの力を使った時、僕は全てを理解した。

 

 人類文明そのものにして、人類すべての造物主。

 人間が表現する言葉で、神としか表現できない僕の製作者が望んだことを。

 

 

「またあの造物主気取りのバカ女が無駄で無意味で無価値なモノを創ったみたいだね」

 

 神たる我が造物主からして、神と呼ぶほかない窮極の王座。

 その席に座する存在が、僕を見下ろしていた。

 

 人間の技術の進歩は、模倣から始まる。

 師から弟子に技術を伝えるのもそうだし、注射針が蚊の針を参考にしたように、マジックテープが植物の性質を真似たように。

 

 僕は、この途方もない存在の模造品だった。

 

「あのどうしようもない愚か者に言っておけ。

 僕を真似したところで、お前に都合のいいモノができるわけがないってな。そうだろ?」

 

 僕は理解した。

 僕は、完全無欠の失敗作だ。

 どうあがいても、僕はアレになれない。

 どうやったって届かない。

 

「とは言え、だ。ルールはルールだ。

 決められた手順に従い、力を貸してやろう」

 

 尤も、と遥か天上の神は言った。

 

「とてもお前がお前でいられるとは思えないけどね」

 

 

 

 §§§

 

 

 それは、例えるなら超新星爆発だった。

 

 魔力の波動が嵐のように吹き荒れ、成層圏をぶち抜いた。

 ただでさえ、ただの人間が持ちうるに到底不可能だった強大なドラゴンの魔力が、数倍、十数倍に膨れ上がる。

 

 その出力はまさに恒星そのものだった。

 竜が、口を開く。

 

 閃光がほとばしった。

 それは息吹というには酸素も二酸化炭素も含まれていなった。

 純粋な破壊のエネルギーが、魔獣を真っ二つに引き裂いた。

 

 破壊はそれだけには留まらず、一直線上に存在するすべてを薙ぎ払い、直撃した地面を瞬間的に超高温になり大地がめくれ上がるように吹き飛んだ。

 

 戦いは終わった。いや、戦いにすらならなかった。

 全てを滅する神罰に等しき、ありとあらゆる物を破壊し尽くす暴虐の力。

 それをその身に宿した竜は、目に映る全てを滅ぼし尽くす衝動に駆られていた。

 

 だが同時に、彼はそれに全力で抗っていた。

 完全に制御不能な究極の破壊活動は、この惑星が存在する次元を全て塵にするまで止まらない。

 

(やめろ、とまれ、やめろやめろ、またぼくはぜんぶこわして!!)

 

 荒れ狂う破壊の衝動を、空に向かって解き放ち続ける。

 空が真っ赤に染まり、火の粉が降り注ぐ。

 地獄のような生態系のこの惑星が、真実地獄のような光景になろうとしていた。

 

 この惑星の衛星が、デブリが、はるか遠くの星々が、竜のブレスで消滅していく。

 その攻撃を真下に、今いる惑星に向けないでいるので精いっぱいだった。

 

 彼の魔力は加速度的に増幅し、最終的にビックバンと化してこの次元の宇宙の消滅と創造を行うことだろう。

 

 その結末を遅らせることができる者がいるとすれば。

 それは、皮肉なことに条理を逸した存在だった。

 

 

 ケダモノの咆哮が、終末の獣へと向けられる。

 真っ二つにされたはずのケダモノが、体を一つにつなぎ合わせて立ち上がったのだ。

 

 この不条理な不死性、その正体は蛆虫のような寄生虫にあった。

 寄生虫は宿主の栄養を横取りするだけでなく、場合によっては宿主の免疫機能を高める作用を齎すこともある。

 

 このケダモノは寄生虫と共生関係なのだ。

 ケダモノは瞬間的に竜をも凌駕するその圧倒的なフィジカルを、寄生虫はケダモノに足りない治癒能力や新陳代謝を代用し、お互いを補っている。

 だからあのような醜い肉の塊に成ろうとも、ケダモノは生きながらえていたのだ。

 

 そしてそれは、終末にさえ恐れることなく立ち上がらせた。

 

 

 

 ケダモノは、飢えていた。

 

 飢餓、空腹感、それは生物として当然だった。

 だがそれだけでは足りない。

 

 ケダモノは、決して高いとは言えない知能で食物連鎖が絶対の掟であるこの惑星のルールを理解していた。

 即ち、相手を喰らえば自分が強いということを。

 

 もっと、もっと食べたい!! 

 もっともっと強い奴を喰って、この果て無き飢えを満たしたい!! 

 

 満足。そう、満足だ!! 

 産まれてこの方満たされたことのないこの飢えを満たしたい。

 

 そして、ケダモノはこの上ない獲物を見つけた。

 

 これを食べたら、きっと満足できる!! 

 ケダモノは、終末の獣に飛び掛かった。

 

 だが、一撃で消し炭にされる。

 肉片一つから、急速に再生するケダモノは、体が出来上がると懲りずに食らいつく。

 

 またまた歯牙にも掛けられず、完全に消し飛ばされた。

 だが、大地に広がる腐敗した脂肪の中からケダモノは蘇った。

 

 これじゃダメだ。

 あれを喰らうには、もっと強くならなければ。

 

 ケダモノは何度も何度も終末に立ち向かった。

 その度に、ケダモノは自身を最適化させる。

 

 それはさながら、世代交代を繰り返し環境に適応する虫に似ていた。

 

 ケダモノは殺された。(経験値を得た)ケダモノは蘇った。(レベルアップ!!)

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 ……

 …………

 …………

 

 

 

 §§§

 

 

(虫たちが、引いていく……)

(何が、何が起こっているんだ!?)

 

 洞窟の前では、アホ毛族の若者たちが途方に暮れていた。

 寄生虫たちが、彼らに構っている暇はないと言わんばかりに引き返していったのだ。

 この虫どもは、あんな都合のいい傀儡を失ってたまるか、とケダモノに全リソースをつぎ込む為に集結しているにすぎないが、そんなことは彼らに理解できるはずもない。

 

(竜神様が、お怒りになっておる……)

(長老様!? これはいったいなにが……)

(わからん、わからんが、アレを見れば一目瞭然よ。

 この世の終わりじゃ……)

 

 老人はある種達観した表情で、終末の獣と化した竜と死闘を繰り広げるケダモノを眺めていた。

 もう彼らには、ただ全てを見守るほかなかった。

 

 ただ一人を除いて。

 

(ルルル、どこに行く!?)

 

 全員がただ終わりを待つ中で洞窟からルルルが飛び出した。

 だが、咄嗟に同族の若者が彼女の腕を掴んだ。

 

(くそ、何を考えてるんだお前は!!)

(危ないからおとなしくしろ!!)

 

 懸命に仲間の腕を振り払おうとする彼女に、仲間たちは困惑する。

 

 ルルルにはわかっていた。

 

(早く、竜神様のところに行かないと!! 

 竜神様が苦しんでる、お背中をさすってあげないと!!)

 

 こうしてる間にも、終末へのカウントダウンは刻一刻と迫っていた。

 竜がケダモノへの対応時間だけ猶予ができるが、それも僅かに過ぎない。

 

「面白い……」

 

 そんな土壇場で、影から闇の化身が現れてルルルに手を差し伸べた。

 

「我が息子のために、その命を捧げるか。

 正義や悪を超越したその献身を何と呼ぶか知っているか?」

 

 その姿に恐れおののく若者たちから逃げ出したルルルが、その手を取った。

 

 

「──愛、だよ」

 

 その瞬間、ルルルも、闇の化身もその場から嘘のように消失した。

 

 

 

(竜神様ッ!!)

 

 気が付くと、ルルルは竜の背にしがみ付いていた。

 のたうち回るような動きに振り押されそうになり、魔力の嵐に吹き飛ばされそうになりながらも、彼女はその背から離れないように必死になっていた。

 

(お願い竜神様ッ、元に戻って!! 

 また一緒にゴハン食べましょう)

 

 その時、ぎゅっと全身でその背にしがみ付くルルルの頭部の触覚が、彼に触れた。

 

 

 ──―その時、奇跡が起こった。

 

 或いは、必然的な偶然の連鎖とでも言うべき一連の流れだった。

 

 彼女たち一族は、頭部の触覚によって会話を行う。

 これはテレパシーの一種であり、ある種の交信だった。

 ルルルは他人とそれができなかった。だから一族の中では障がい者のような扱いを受けていた。

 だが正確に言うなら、彼女は会話ができなかったわけでない。

 

 その原因を分かりやすく言うなら、それはチャンネルが合わなかった、周波数が異なったと表現すべきだろう。

 彼女は他者の精神に語り掛けることができなかった。

 

 そして、その有効範囲が極めて狭かった。

 では、彼女は何に対して語り掛けていたのだろうか? 

 

 

「──ざざッ── へえ ──ざッ──」

 

 ノイズまじりの声が、彼女に聞こえた。

 

「この僕の──ざざざ──に割り込む──ざッざざ──―か。面白──プツン──」

 

 竜を暴走させていた力が、彼女の干渉によって阻害されていた。

 

「はあ、はあ、何が起こったんだ……?」

 

 ルルルの交信で、正気を取り戻した彼は困惑を示した。

 彼の固有スキルは、並行世界の自分と相互干渉を起こすことに相乗的に自身の力を増幅するモノだった。

 つまり、彼女が何を起こしたのかというと。

 

「まさかお前、僕の魂に同期して同調率を下げたのか?」

 

 それは恐ろしいまでの偶然だった。

 きっと彼女を彼の背に送った闇の化身さえ想定していない、彼の造物主すら想定外のバグだった。

 

 彼の能力は、完全なる同調時のみに十全な機能を発揮する。

 だが、ルルルの干渉によって彼が制御可能なレベルにスケールダウンしていた。

 これは常識的にありえないことだった。

 

 原子力発電所に電磁波を浴びせて、風力発電並みに安全な装置にするようなものなのだから。

 だからこそ、奇跡と表現するほか無いのだろう。

 

「こんなことが、こんなことがあり得るのか?」

 

 彼自身が、一番信じられなかった。

 起こりえるはずのないことが起こったのだから当然だろう。

 

(……竜神様、元に戻ったの?)

(ああ、もう大丈夫だよ)

(あれ、私、竜神様とお話できてる!?)

(……うん。聞こえてるよ)

(わぁ嬉しい!! 私、皆みたいにお話できてる!! 

 よかった、よかったぁ!!)

 

 ルルルは彼の背にしがみ付きながら涙をこぼした。

 他人と話せないことは、彼女にとって不安の種だったのだ。

 いつ捨てられてもおかしくない、そんな境遇の彼女は生贄になって初めて、普通に成れた。

 

(私、ルルルって言います!! 

 竜神様とお話したいこと、いっぱいいっぱいあります!!)

(あ、えと、僕も、だよ。

 だけど、それはまだ後だ)

(え?)

 

 彼の視線の先には、最後の腐肉から蘇ったケダモノが立ち上がるのを見届けていた。

 

(奴を倒すぞ)

(はい!!)

 

 何度も何度も最適化と進化を繰り返したケダモノは、ついに最果てに辿り着いた。

 それは、目の前の強者に近づくこと。

 

 豚かイノシシかといった姿は見る影もなく、禍々しい翼を生やした竜にも似た姿だった。

 

「こいよ、バケモノ」

 

 彼の声に、ケダモノが咆哮で応じる。

 両者の戦いに、決着がつこうとしていた。

 

 

 

 §§§

 

 

 ケダモノは久々に思考がクリアになったことを実感していた。

 これまで無駄にため込んでいたカロリーを使いつくし、その身に宿っていた寄生虫がほぼ全滅したことで脳を自分の意志で使用できるようになったからだ。

 

 だが、それでもケダモノのやることは変わらない。

 より強い生き物を喰らう。

 彼はその為だけに生きている。

 

 なのに、体が思うように動かない。

 あれほど進化を重ねたのに、うまく戦えない。

 

 その原因はおそらく。

 

「強くなりすぎたな、バケモノ。

 その体は高性能すぎて消耗が激しいだろ?」

 

 お腹が、空いた。

 空腹で死にそうだった。

 

 今のケダモノは最強の生物の筈だった。

 口からブレスも出せるし、空も飛べる、不死身の体も寄生虫に頼ることも無い。

 完全無欠の無敵の生物の筈だった。

 

 ああ、でも、腹減った。

 

「もうそこまで強くなったんだ。

 いい加減、満足しただろ?」

 

 満足? 

 これが満足? 

 

 そうか。頂点(ここ)はこんなにも虚しい場所だったのか……。

 

 

 

 餓死。

 

 災厄そのものでしかなかった怪物の最後は、あっけないものだった。

 竜を模しただけのケダモノは、仁王立ちしたまま息絶えた。

 

 その姿を憐れに思ったのか、あるいは自分に挑んできた者への敬意か、彼はその遺骸を焼き払った。

 

「制御できている……」

 

 あれだけ制御不能の破壊の力を、それ相応にスケールダウンしたとは言え完全に使いこなせていた。

 

「なるほど、あなたに必要だったのは外付けのアタッチメントだったわけね。興味深いわね、参考になったわ。

 これなら次の機会には、より高い完成度を期待できるでしょう」

「失せろよ、お呼びじゃないんだ」

 

 遥か遠くで苦笑して肩を竦めている己の造物主を、彼は睨みつけた。

 

(今の声は……?)

(ああ、君にも聞こえてるのか。

 どうしよもない、疫病神だよ。君に話しかけてきても相手にしない方が良い)

 

 彼は、翼を広げ飛び立った。

 自分の寝床に戻るために。

 

(あの、竜神様……一つだけお願いしてもいいですか?)

(なんだよ、聞くだけきいてやるよ)

(……お名前を教えてくれませんか?)

 

 ああそう言えば名乗ってなかったか、と彼は思い当たった。

 

(ウェルムだ、母さんにそう名付けられた)

 

 こうして、のちの神話に残る戦いは終わった。

 

 

 

 

 それから五年の月日が経った。

 

(ウェルム様、相談があるのですが……)

 

 幼い少女だったルルルは成長し、彼女は少しずつ大人になろうとしていた。

 そんな彼女は竜の腕に抱き着いて言った。

 

(長老様が、巫女の役目は別の者に引き継いで家庭を作ったらどうだ、と言われました)

(あの老いぼれジジイの言葉なんか気にするなよ)

 

 内装が増えた洞窟の中で、祭られている竜は面倒そうにそう言った。

 

(でも、“声無し”の私にみんなはよくしてくれました。

 私も一族の為に子供を作らないといけません。それに……)

 

 ルルルはちょっともじもじしながらこう言った。

 

(私と一緒になりたいって、言ってくれた人が……)

(おい、なに勘違いしてるんだ)

 

 竜は億劫そうに顔を上げて、ルルルを見下ろした。

 

(お前がどうしても、と言うからしかたなく僕はここに居てやるんだ。

 それはなぜだ、お前が僕のモノだからだ。わかったな?)

(……はい、そうでした。ウェルム様)

 

 全く、と首を丸めて竜は目を閉じた。

 

(いつまでも、いつまでも、私がお供いたします)

 

 その“声”に、竜は鼻を鳴らす。

 

 

 

 

 それから、千年の月日が流れた。

 神話のような戦いが神話になった頃、再び竜は目覚める。

 

 

 

 




一先ず、プロローグの古代編は終了です。
或いは短編なのでここで切りよく終わりにしても良いと思ってます。ほかの連載もあるし。

二人の物語の続きが読みたい、という声があれば続きを書くかもしれません。
ええ、需要があれば続きます。

それでは。また機会があれば!!
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