生贄の少女と引きこもりドラゴン ~なに勝手に僕の周りに住んでるわけ!?~   作:やーなん

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今回は短めです。



「こいつらマジかよ……」

 あの常軌を逸した怪物を撃退して数日。

 

 竜は相変わらず洞窟で寝そべって過ごしていた。

 

「もう一生分働いたし、死ぬまで寝てたい」

 

 寿命なんて設定されてない彼は自堕落にもそんなことを言いだした、

 

「……それにしても」

 

 そんな彼にも、現状を看過できないことがあった。

 

(……? ウェルム様。お加減はいかがでしょうか)

 

 ゴシゴシ。ゴシゴシ。

 ルルルが彼の鱗を葉っぱで一所懸命に磨いていた。

 

 この葉っぱは殺菌作用があり繊維が多いので、雑巾替わりにはもってこいなのだが。

 

「めっちゃ青臭いんだよなぁ」

 

 毎日毎日頼んでも無いのにゴシゴシゴシゴシとルルルが一枚一枚全身の鱗を数日掛けて磨くので、全身が終わる頃には彼は何とも言い難い臭いに包まれるのだ。

 

「お風呂入りたい……。

 贅沢言わないから水浴びしたい……」

(ウェルム様、何をおっしゃっているんですか?)

 

 彼の愚痴を拾って、ルルルが尋ねた。

 言葉という文化のない彼女にも、彼の独り言に意味があることぐらい理解したようだ。

 

「こいつらに体を洗うって文化は無いだろうしなぁ。

 あれ、もしかしてこいつらって汚い? 

 うわッ、気づかなければよかった……」

 

 埃っぽい洞窟に住んでいるくせに、竜は妙なところで潔癖だった。

 彼がルルルに視線を向けると、確かに彼女は薄汚れている。

 きっとそれ相応に臭うのだろうが、青臭さがそれを彼に感じさせなかった。

 

「くそッ、マジで気づかなければよかった……」

 

 その時、彼の脳裏に自身の造物主のどや顔が過ぎった。

 

「人は自分が置かれている環境より劣悪な生活に耐えられない生き物よ。

 だから我が恩寵にひれ伏さない者はいないってわけ」

 

 以前、そんなことを言っているのを彼は思い出した。

 彼は自分に人間らしい感性を与えた創造主を恨んだ。

 

(お前たちって、体をどうやって洗ってるんだ)

(洗うってなんですか?)

(そうだよなぁ……わからないよなぁ)

 

 そもそも彼女ら一族は布替わりや衣服替わりにしている葉っぱは殺菌作用があるので、体を洗うなんて無防備なことはしないのだ。

 

「これだから未開の地の蛮族は……。

 こんな不衛生な連中がすぐそこにいるなんて僕はやだぞ」

 

 自分のことを棚に上げて、そんなことを口にする竜だった。

 すると、ルルルは急に涙目になって彼に張り付いた。

 

 そしてなぜか、彼の鱗をぺろぺろ舐め始めた。

 

(……何してるのお前)

(ココの葉は、たまに体が真っ赤になる赤ちゃんいます。そうなったら死んじゃいます)

(ああ、かぶれるのか)

 

 彼ら一族の常用しているこの葉は、彼らに恩恵を齎すと同時にその強い殺菌作用は赤子に毒にもなる場合がある。

 ゆりかごにして棺桶、それがココの葉だった。

 

(ウェルム様は真っ黒だから、全然わかりませんでした。ごめんなさい)

(僕をひ弱な君らと一緒にするなよ。

 だからその舐めるのやめろ)

 

 竜はぺろぺろ鱗を舐め続けるルルルを引きはがした。

 

(絵面が最悪だからやめろって)

(……はい? わかりました、やめます)

 

 彼は深いため息を吐いた。

 不潔と不衛生は彼にとって耐えがたかったのである。

 

(お前ら、火の扱いを覚えたんだからぬるま湯で体の汚れを落としたりしろよ。

 水源ぐらい近くにあるんだろ?)

(水源? 水辺のことですか? 

 水の近くは危ないので誰も近づきませんよ)

(は? お前ら近くに水も無いのにどうやって暮らしてるんだ?)

 

 竜はいくつかの質問をした結果、ルルルは一族の暮らしを答えた。

 

(喉の渇きは果実の水分でしのぐ? 最悪自分の出したのを飲む? 遭難者かよお前ら……)

 

 そして判明したのは、食物連鎖の最底辺に位置する惨めな種族の悲惨な実情だった。

 

(そっか、僕はそんな水にも困る連中に口移しで食べさせられていたのか……)

 

 しばらく立ち直れないくらいの事実だった。

 

(それに水は毒ですから、飲んだらいけないって長老が)

(まあ、この世界にどんな雑菌があるかわからないし、毒だと思うのも間違いじゃないか)

 

 ただでさえ生水は体に合わないとお腹を壊す。

 お湯を沸かすなんて概念は彼女らには無かっただろう。

 

(あと、水辺には魔獣が集まるので)

(だから危険なのか)

 

 聞けば聞くほど、惨めな暮らしだった。

 原始人の方がまだいい暮らしをしていただろう。

 

(まあいいや、僕を当てにしてるんだから、外の連中もたまには役に立ってもらうか)

(……?)

 

 そうして、彼はルルルに指示を出した。

 

 

 

 §§§

 

 

(なあ、本当に行くのか?)

(仕方が無いだろ、竜神様のご命令だ)

 

 アホ毛族の若者たちが鍋替わりにしている一抱えもあるココナッツみたいな木の実の容器を持って、えっちらおっちら最寄りの水辺に向かっていた。

 最寄りと言っても、水辺とは魔獣の縄張りだ。歩いて数時間は掛かる距離だった。

 

(見えた、水辺だ)

(どうする、やっぱり魔獣がいるぞ)

 

 木々の合間から隠れて様子を伺う若者たちは、湖で水を飲んでいる巨躯の魔獣たちの様子を伺った。

 彼らに気づかれたら一貫の終わりだ。

 

(俺が囮になる、そのすきにお前が水を汲んで来い)

(わかった)

 

 彼らは、竜の意味不明な要求に命を賭すつもりでいた。

 それが一族の存続に繋がるのならば、と。

 

 そして彼らが行動を起こそうとした時だった。

 

「なんだ、お前ら邪魔だからどいていろよ」

 

 若者たちは仰天した。

 空間が裂けて、遠くにいるはずの竜がのっそりと顔を出したのだ。

 

「僕は誰かに水辺まで行けって言ったのに、なんで汲んでこようとしてるんだお前ら」

 

 それはひとえにルルルが彼らにうまく意思疎通ができないからだったが、実は彼はまったくそのことを知らなかった。

 

「まあいいや、ここからこっちまで、こんな感じで良いか」

 

 竜が顔を引っこめると、空間の裂け目は閉じた。

 だが、間もなく異変は起こった。

 

 地響きが起こり、大地が裂ける。

 穏やかな湖の水に波が立ち、驚いた魔獣たちは逃げ出した。

 

(なにが、何が起こってるんだ……)

 

 そうして若者たちが目にしたのは、天変地異としか言いようがないものだった。

 

 結果として、何が起こったのかと言えば。

 

 

「ふいぃ、いいお湯だ」

 

 温泉ができた。

 具体的に言えば無理やり地形を変えて水を引っ張ってきた。

 ついでに地熱を利用して熱湯に変えた。

 

(竜神様が熱い水に入っている……)

(熱い水は毒なのに、すごい)

 

 なお、それを見守るアホ毛族は戦々恐々としていた。

 水を恐れる彼らは、山の横に巨竜も入れる規模の熱湯ができたことを不安げに見ていたのである。

 

「まったく、これで青臭さも無くなるか」

 

 温泉に浸かりながらそんなことをぼやく竜。

 95℃の熱湯でいい湯だと言えるのは彼だからだろう。

 

(僕は満足したから、あとはお前たちが好きに使えば?)

 

 一通り温泉を堪能した彼は、怯えるアホ毛族にそう言った。

 そしてそのまま自分の住処に戻っていった。

 

 

 後日。

 

(ウェルム様、ウェルム様。あなたさまが作った水たまり、みんなが感謝しております)

(あっそ)

 

 彼はどうでも良さそうにルルルの報告を聞いていた。

 熱湯の湖とは別に、別の川を作って人間にもちょうどいい塩梅の温水もついでに作っていたのだ。

 

(温かいお湯って、気持ちいいんですね。私もすっきりしました)

 

 アホ毛族は深い森に住む一族なので、色白だった。

 なのに今まで汚れていたので、彼はそれに今気づいた。

 

(まあ、お前たちが小汚くなくなるならそれでいいよ)

 

 彼はルルルに身を清めることを教え、それを一族に実践させた。

 これで衛生面はかなりマシになることだろう。

 

 

 後日。

 

(今日からはこれで体を磨かせてもらいますね!!)

(…………)

 

 ルルルはお湯に浸けてしなしなになった葉っぱを持ってきて、笑顔でそう言った。

 なお、青臭さはより増していたのだった。

 

 

 

 

 

 




ちょっと思いついたので書いてみました。なので短めです。

あと、需要調査の一環としてアンケートを行います。
続きを書く時に参考にしますので、気軽にご参加ください。

今回のような古代編をもっと続けてほしいですか?

  • 続けてほしい。もっと彼らの交流がみたい。
  • 次章が気になる。早く時代を進めてほしい。
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