ガンダムビルドダイバーズ Vivid Re:cord   作:麻婆炒飯

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リライズを見返すと筆が進む事が判明したので初投稿です。


[第7話]幕間其の壱 / 世界が彩られた日 (後編)

 

「はい、自意識過剰で無ければ、それは私で間違いないかと。で…いったい何のご用件でしょうか。」

 

努めて丁寧に、あくまでも淑女的に応え、そして問い返す。まだ早まってはいけない。幾ら敵意剥き出しで声を掛けてきたからと言って、喧嘩を吹っ掛けて来たとは限らないのだから。

 

「GBNで何の繋がりもない相手に、突然こんな態度で声を掛ける理由なんて…一つしか無いでしょ?」

 

前言撤回、喧嘩を吹っ掛けて来た人でした。

それにしても、立ち振る舞いで解る。彼女は強い。それこそ先日のチンピラ共なんて赤ん坊もいいところだと思える程に。一見挑発的なようで、それでも最低限の礼儀は弁えてる…というのに注視してみれば、全方位を突き刺すような鋭い殺気を纏っている。ここに来て私は初めて、これから始まり、熾烈を極める事になるであろう戦いが「楽しみ」になっていた。

 

「敵、ですか。今までに叩きのめしてきた誰かの報復…という訳では無さそうですね。…解りました、私も予定がありますからあまり長引かせる事は出来ませんが…その勝負、受けて立ちましょう。」

 

「成立、それじゃあ行こうか。」

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

いい加減に見慣れたコックピットブロック。

GBNのデフォルト仕様では立ったまま光の球体を握って操作する形だが、設定の次第で汎用コックピットタイプ、全天周囲モニタータイプ、ヴェイガンMSタイプ等々、幾つかのテンプレートに切り変える事が可能になっている他、手ずからカスタマイズも出来る。

私の場合は汎用コックピット。まだ知識面に不足があり、ここに拘るにはまだ早いと思い今はありふれながらも没入感に定評があるこのモードを選んでいた。

 

機動シークエンスを進めると、暗かった左右と正面のモニターに格納庫が映し出される。現れた2本の操縦桿を握りしめると同時、バトル相手になる彼女からの通信回線風ボイスチャットが開いた。

 

「始める前に、一つだけ聞かせて貰える?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「GPDを、貴女は知っているの?」

 

GPD、事前知識として調べている中にそんな名前があったのを思い出す。確かGBNよりも以前、ガンプラバトルの一つの完成系として世界を熱狂の渦に巻き込んだ当時最高のバトルシステム。何やら専門技術を用いてガンプラを実際に動かし、同様の技術の応用でビームや特殊な粒子もバトルフィールド限定で再現して見せるという、革命的な機能が備わっていたはずだ。

 

そして同時に、私は彼女の正体を理解した。

 

『GPDの亡霊』。昨今GBNで密かな噂になりつつある辻斬りダイバーで、必ず最初にGPDについて聞いてくるのだと言う。だがその答えに関係なく、バトルに応じた者はほとんどが打ち破られ、その多くがトラウマを刻まれる程の苛烈な攻撃に晒されたのだとか。

 

「えぇ、知っていますよ。…とはいえ、私がガンプラを始める前に隆盛期は過ぎて、近場にあったかも知れない筐体も今はありませんが。」

 

「……つまり、貴女もGPDは過去の遺物だと…」

 

「いいえ、GPDは偉大なる先達です。幾ら今が流行りの過ぎ去ったゲーム筐体だったとしても、GPDが無ければ今のガンプラバトルの精度は間違いなく大幅に劣っていましたから。」

 

……返ってきたのは、静寂だった。

 

何か、おかしな事を言ってしまっただろうか。

確かに彼女が想像通りの人物であったのなら、GPDに対する過剰とも言える執着心がある。GPDを悪く言うのは悪手でしかないだろう。…だがこれは彼女の激昂を避ける為の建前では無い、間違いなく私の本心だ。

 

それとも……見誤ったのだろうか。

私とて、人の心を全て見抜ける訳ではない。もしかすると、私が思っていたのとは真逆の思想を持っていたのだとしても、別段ありえない話ではない。

 

「気に障ったのなら、謝りまs」

 

「いや、いいよ。あまり聞かない意見だったから少し驚いただけ。貴女の答えは…ちゃんと満足できるものだった。…私の事を知っていてわざと気に障らないよう選んだ答え、って訳でも無さそうだし。」

 

良かった。

……こういう気持ちも久しぶりだ。ノーンさんのような身近な人ではない、あくまでついさっき知り合ったばかりの赤の他人を傷付けずに済んだ事に対する安堵を抱くなんて。…やはり私は、私自身が思っている以上にこのGBNを気に入ってしまったのだろう。

 

「……それは何よりです。では早速、」

 

「うん、じゃあ始めようか」

 

ならばもう、身構える必要も無い。

操縦桿を握り直し、出撃シークエンスが完了されてハッチを開いた格納庫から、愛機を飛び出させる。

 

「ナナ、ガンダムエピオン。参ります」

 

飛び出した先に広がるバトルフィールドは、宇宙。その広さは無限と言っても過言ではない、無重力の海を見回し、警戒を厳にして敵を探し────、

 

『こっちだよ。』

 

「ッ!!…尋常ではない隠密性能ですね…!」

 

真上からの直滑降による奇襲。突き出されるビームサーベルを…全神経を集中させて機体を翻し、どうにか受け止める。エピオンのビームソードは全ガンダムタイプの中でも最高クラスの高出力の筈だが……それはつまり、相手も相応の出力とそれを実現するだけのクオリティという事なのだろう。

 

『……奇襲は卑怯とか、言わないんだね。』

 

「奇襲も立派な戦術の一つですから。」

 

とはいえ、このまま受け止めているだけでは埒が明かない。空いている片方の手を揃え…手刀のようにして突き出す。狙いはコックピット。あわよくばこれで終わってくれればとも思ったが、そう簡単に事は運ばないだろう。先んじて距離を取った敵機…ウイングゼロの改造機が、胴体部に備わったマシンキャノンによる射撃を開始する。

 

「強い…少なくとも、今まで潰して来たつまらない有象無象とは比べ物にならない…!」

 

勿論、この射撃は回避できない程では無い。だがそれだけでは無い。コチラから迫って攻撃を仕掛けても、上手くあしらわれて距離を取られる。エピオンが近距離に偏って装備編成である事を最大限まで利用し、常に有利なポジションを取ってくる。……だが、

 

「それならそれで、やりようはあります…!」

 

左腕を構え、狙いを定め…シールドに格納されたヒートロッドを射出する。それは案の定、ウイングゼロのシールドによって強引に弾き返され……

 

「そこですッ!!」

 

『ッ…ロッドの扱いが巧い…!』

 

ヒートロッドと名打たれたこの武装は、名付けの原型であるグフのものと同様に、ロッドという名の意味としてはマイナーである鞭に限り無く近い。鞭であれば、趣味探しの一端としてほんの少しだけ振ってみた事がある。その頃の経験を元に何度か操作と噛み合わせて、この使い方に辿り着いた。捕らえて焼き切るのでは無く、離れた敵をコチラの間合いまで引き寄せる為の補助装備としての扱い方。

 

『っぐ…翼を……ッ!』

 

鞭特有の柔軟性を利用した挙動でロッドをウイングバインダーに絡ませる。如何に優秀な改造機と言えど、急に背後をさらけ出すよう強制される事までは想定していまい。左側を起点に引き寄せ、そのままビームソードを構えてすれ違うように斬り抜ける。

 

「先ずは推進機を潰させて貰います。」

 

如何に凄まじい推進力を持つウイングゼロベースとはいえ、推進機構にダメージを与えれば機動力の減衰は必至。このまま一気に距離を詰めて決める。…それでイケる、なんて考えた時点で私は己の実力を過信し、驕り慢心していたのかも知れない。忘れていた。彼女が誰彼構わず、環境も問わず辻斬りを挑んで全戦無敗の強豪であった事を。

 

『驚いたよ。反則(チート)無しでここまでついて来られる初心者がいるなんて思わなかった。』

 

翼が、舞った。

 

今しがた切り裂いたウイングバインダーの事では無い。背中から、まるで天使のように…機械でもエフェクトでもない、純白の翼が6枚、広げられた。

 

「……美しい、」

 

つい、そんな言葉を零して、呆けてしまった。それ程までに彼女の作品は美しく、神々しかったのだ。私は、苛烈な天使に魅入られてしまった。

 

『ありがとう、久しぶりに楽しかったよ。…じゃあね。また何処かで、縁があったのなら。』

 

その言葉を最後に、私のエピオンは四肢をもがれ、頭部を灼かれ、翼を抉り取られて……胸を貫かれた。宙を舞う純白の羽が牙を剥き、エピオンを刈り取った。本当に一瞬の出来事だったが、あれはきっとファンネル、或いはビットと呼ばれる類のオールレンジ攻撃だ。そんな振り返りを思い浮かべながら電子の海へと溶け、バトルフィールドから離脱していった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

GBN、セントラルディメンション。

撃墜による敗北……即ちパイロットの死亡判定によって、私のアバターは初期地点へと強制転送される。これまで負けた事が無かったからこその初体験だったが、今はそんな事よりも、初めて私を打ち破った彼女……GPDの亡霊の事を考えていた。

 

「凄まじい熱意…あんなに淡々としていたのに。…あぁ、彼女は心底から、ガンプラバトルが好きなんですね。亡霊だなんて、とんでもない……あっ、」

 

いけない、予期せぬ出会いに呆けて約束を忘れるところだった。時間は…良かった、まだ10分ある。今のうちに一度ログアウトして、待ち合わせ場所に行こう。

 

らしくもない慌ただしさでディスプレイを開き、ログアウトの項目を選択する。それから間も無く視界が電気信号の流れに包まれ、現実へと帰ってきた。そのままエピオンをケースに入れ、席を立つとカウンターで一旦貸出カードを返却し、店外に出る。

 

「夢藤さんは…まだ来ていませんか。」

 

彼女は元々10分前行動だとかの規律はあまり得意では無いようで、常日頃から慌ただしくやって来る事が多い。それでも約束の時間に遅れた事は今まで一度も無いのだから何も問題は無いが。暫く周囲の人々の往来を眺めて時間を潰せば、すぐに来るだろうと、視線を何処へ向けるでもなく、思案も止めた。

 

それから少しの時が流れ……空が暗くなってきた。

 

「……雨、予報には無かったはず…ついてませんね…夢藤さんも、大丈夫でしょうか…?」

 

程無くして、ぽつりぽつりと雨粒が手のひらに落ちてくる。濡れてしまわないよう、少し店舗側に寄って雨宿りをする事にした。…夢藤さんも急に降られて濡れたりしていなければ良いのだがと、少しだけ心配になる。約束の時間は、もうすぐそこだった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……変、ですね。」

 

あまりにも遅い、約束の時間が過ぎてから既に20分。初めの内はまぁこんな事もあるかと気にしないでいたけれど、幾ら急な雨に降られたからと言って、夢藤さんが連絡も無くこんなに遅れるとは思えない。もしかすると、事故か何かにでも……と、そこまで考えたところで、端末の通知音が鳴った。個人間の連絡で頻繁に使われるSNSの通知を知らせる独特な電子音だ。私は迷わず肩から提げた小さな鞄を手に取り、中から端末を取り出す。メッセージの送信者は夢藤さんだった。大怪我をして動けないだとか、そういう訳では無かった事にひとまず安堵し手早くアプリを開く。しかし、そこに書かれていたのは……、

 

『ノーンちゃん借りてまーす。早く迎えに来ないと、この子のガンプラ壊れちゃうよ。』

 

そんな彼女が普段送ってくるメッセージとは似ても似つかない文体と、1枚の写真。そこにはGPD筐体の前に立っている夢藤さんの姿が映し出されている。

 

瞬間、目の前が真っ暗に…否、真っ赤に染まった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

それからの事は、詳しくは覚えていない。

正気に戻った、とでも言えば良いのだろうか。気が付けば私は、何処なのかも分からない倉庫街の一角でGPDを操作し、3機のガンプラを修復不可能と言って相違無いレベルにまで破壊し尽くしていた。

ガンプラの残骸を見るに、連中は数日前に叩き潰した害悪ダイバー3人組だろう。それからすぐに逆上した3人を力づくで制圧し、その場に捨て置かれていたロープで拘束して…そのまま警察に通報して待っていても良かったのだが、事情聴取等を受けるとなれば学園生活に不都合があると判断して通報のみを行い、かつ大きな病院を避けて、タクシーを拾って郊外の小さな診療所へ夢藤さんを連れて行った。

 

結論から言って、救出は間に合わなかった。

彼女のガンプラ…ガンダムHA/BBは3人組の手によって修復不可能な程に破壊され、所々に面影が残っているのみ。何より、夢藤さんの心が折れてしまっていた。

 

けれど………、

 

「ナナさん。これ…預かってて欲しいんだ。」

 

そう言って彼女が手渡してきたのは、ツインスマートガトリング。FAユニコーンガンダムの盾に備えられたガトリングを主体に、ヴェスバーやEx-sガンダムのビームスマートガン等、弾速の加速力に長けた武装のパーツを用いて作られた、彼女のメイン武装。荒くれに破壊されたビターバレットだったが、この1つだけは、幾つか傷を抱えながらも粉砕は逃れたようだった。それを私に預けるなんて……

 

「あっ、いや、その、勘違いしないでね!?今は…うん、ナナさんが思ってる通り、まだちょっとガンプラは触れなさそう。でも、絶対に帰ってくるから。それまでソレは、ナナさんに使って欲しいんだ。」

 

「夢藤さん…貴女は……」

 

とても強い人ですね、なんて口が裂けても言えなかった。彼女はきっと心の内側に隠しているだけで、今この瞬間も己の弱さを責め立てている。そんな彼女に私がこの言葉を掛けても皮肉になるだけだ。

 

だから、

 

「解りました。ならば私は貴女の分も、全力でGBNを楽しみます。その全てを記録して、いつか帰って来る貴女の居場所を作り、そして守ります。」

 

それが貴女が私に望む事ならば、それを成す事が、間に合わなかった償いになるのなら、私はどんな道化にでもなって見せましょう。けれどそれは私を殺す事ではなく、新しい私を生み出す事。心の底から私はGBNを楽しむ、楽しまなければならない。

 

「……ナナさんには敵わないなぁ。本当に心を読まれてるみたい。…うん、お願いナナさん。私が出来ない事を、代わりに。……それで、いつか私がGBNに戻った時に、たくさん話を聞かせてね。」

 

「任せてください。私はこれでも天才ですから」

 

どんな事でも、成し遂げて見せます。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「とは言ったものの……ただ楽しむと言っただけで簡単に済むのなら、何も苦労はしませんよね。」

 

寮へと帰った私は、その身をベッドに放り出して天井を見上げる。この1日だけで、ただの休日と言うにはあまりにも多くの事があった。あり過ぎた。

 

初めての敗北。思い返す限り、初めての激昂。

今の精神性を手にしてから、初めての決意。

 

どう楽しむべきか悩んでいたという割には、どうすべきかのイメージはすぐに浮かんできていた。

 

「μさん、GPDの亡霊……」

 

そんな呼ばれ方をしている彼女は、きっとその辺の有象無象の誰よりもガンプラが好きで、ガンプラバトルを愛している。彼女も今は何かを悩んでいるのだと思う。けれどその情熱は、私がこのGBNについて知る限り、最も大きく激しいモノだと言える。

 

「……ならば、やる事は1つですね。」

 

知る限りの一番を参考に、新たな己を生み出す。

 

だがそれは本来、酷く礼を失する行為だ。無断でモノマネをしようというのだから、最大限の礼は尽くさなければならない。その為にもまずは……

 

「基本的な技術の洗練、エピオンの全面改修。他にもアバターの再編と、プレイヤースキルの鍛錬に実績作り…ふふっ、やるべき事が山積みですね。」

 

そうと決まれば、すぐにでも取り掛からなければ。

 

ベッドから起き上がり、ケースにしまっていたエピオンを取り出す。まだ使っていないノートを取り出して、今頭の中に浮かんだ限りのアイデアを忘れる前に書き記す。たった十数分で数ページを埋め尽くす思考を書き留めると……ノートを閉じて表紙を見る。

 

「この子には、私の全てを注ぎ込みたい…」

 

今までの私には無かったモノ。これからの私には無くてはならないモノ。ガンプラへの熱量、執念…想い。

それ等全てを統合し、己の在り方を証明する誓いの名前。ここから歩む私が持つべき心の名は……、

 

Leidenschaft(激情/情熱/熱中)




ナナカ編はこれにて一区切りとなります。

次話からは本編に戻ります。

そしてアイツがやって来ます。
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