授業が終わり、放課後を迎える。今日は木曜日、いよいよ、明日は中間テスト本番だ。
ホールルームを終え坂上先生が教室を出た後、クラスメイトは立ち上がり教室を出る。
「柊くん、いよいよ明日テストですね」
「だな」
「石崎くん達の勉強の方はどうですか?」
「良いと思うぞ。大体、7割くらいは取れるだろうな」
今日の昼休み、確認テストを受けさせてみたが8割は点数が取れていた。中間テストでは彼らにとって良い点数が取れると思うだろう。
「そうですか。……あれ? 今日は彼らの勉強は見ないのですか」
椎名は石崎達の方を見る。昨日までは、彼らと一緒に図書館で勉強しに行っていた。しかし、今日は別だ。テストの前日ということもあり各自でするよう昼休みの時に指示しておいた。
「あぁ、今日は各自でやるように言ってある」
「では、一緒に帰りましょう」
何ということだ。久々に椎名と帰れるのか。嬉しい。
「あぁ、帰ろう」
俺と椎名は席から立ち上がり教室を後にする。するとDクラスの教室から騒がしい声が聞こえる。何事かと覗いてみれば、用紙を抱きしめる生徒がちらほらいる。突如舞い降りた幸福に喜びを露にしている感じだ。
「あの反応だと……」
「はい、どうやらDクラスも過去問を入手したようですね」
「これで退学者が出ないといいな」
過去問という攻略法があれば、赤点は回避できる。しっかりと暗記すればの話だが。あんなに喜んでいるようじゃ相当、危なかったのだろうな。
「柊くん。もし良かったらこの後、一緒に勉強しませんか?」
「いいぞ、何処で勉強するんだ?」
椎名の提案に乗る。椎名は勉強できるから一緒に勉強する必要はないと思うけど、まぁいいか。
「柊くんが嫌ではなければ、私の部屋で勉強しませんか」
……え?
「お、お邪魔します」
「はい、どうぞ」
椎名は部屋のドアを開け、中に入る。年頃の子は自分の部屋に異性を入れることに抵抗感とかないのだろうか。椎名には一切それが見られない。
誘われた時は一応断ったが、勉強について聞きたいことがあるとのことで俺が折れることになった。
「お茶を出して来ますので、適当にくつろいでてください」
「わるい」
「いえいえ」
椎名はお茶を出しにキッチンへと向かった。
腰を下ろし部屋を見渡す。女の子らしい物などあまり置いていない代わりに部屋の隅に本棚がある。
本棚は主に小説が並べられていた。その小説の大半は有名物の海外ミステリーが占めていており、その他に恋愛小説もある。
椎名も女の子だ。別に恋愛に興味があることにおかしいことではない。
「お待たせしました。さて、勉強を始めましょうか」
お盆に二つのマグコップを乗せ、椎名が戻って来た。
「ありがとう。それで勉強で聞きたいことってなんだ」
「えっと……ここですね。解いてみたんですけど、合ってますか?」
椎名は数学の教科書を広げ指を差した。
「……なるほど、すごいな。正解だぞ」
この問題は大学入試で出題される入試問題だ。これが解ける椎名は高い学力を持っていると分かる。二つ解答法があるに対し、どちらも正解だ。
「良かったです。あと、小テストの最後の3問のここの解説について教えていただけますか?」
「いいぞ。主な解答としてはーー」
今、教えている問題は前回行われた小テストの最後の3問だ。
その中で最も難易度が高かった数学の解答を教えている途中、椎名の理解力が高くものの数分で自力で解けるようになってしまった。
教える側としては非常に助かるのだが、初めてこの似たようなレベルの問題を解けるまでに30分くらい費やした。
……ちょっと複雑だ。
そんな感じで勉強を進める内に気がついたら1時間が過ぎ、時間を確認すれば19時を回っていた。
原則として男子が女子の部屋に居られるのは20時までだ。20時以降、男子は女子のフロアに立ち入ることが制限されている。
20時になる前に椎名の部屋を退出し、自分の部屋へと帰えなければならない。
「7時、ですね」
「そうだな。もう時間だし、俺は帰るよ。コップは洗わせてもらうな」
コップの中にある残りのお茶を一気に飲み干す。
「え、でも」
「お茶を出してもらったんだ。これくらいはさせてくれないか」
「そこまで言うのであればお願いします」
俺は二人分のコップをキッチンに持って行き洗う。洗い終わり、そばに水切りカゴがあったのでその中に置いた。
「今日はありがとうございました」
「どういたしまして」
「明日はいよいよ中間テストです。お互いに頑張りましょう」
「おう頑張ろうな。それじゃあ、また明日」
「はい、また明日」
玄関のハンドルを握り、部屋を出る。
部屋を出る時に見送る椎名の小さな笑顔と手を振り、送り出す仕草に萌えたのは内緒だ。うん、可愛い。
「欠席者は無し、全員揃っているね」
朝のホームルームにて試験のスケジュールをホワイトボードに書き込む坂上先生。
「高校生になり最初のテストを君達は受ける。初めてのテストで赤点を取ったら即退学の不安や緊張があるだろう。しかし、落ち着いてテストに臨んで欲しい。私は君達がこの関門を乗り越えられると信じているよ」
流石、教師と言ったところか。その言葉に不安と緊張で強張った教室の雰囲気が和らいでいくを感じる。
「もし、今回の中間試験と7月に実施される期末試験を乗り越えた君達はーー」
『うおおおおおおおおおおおお!』
突如と隣のクラスから咆哮と呼べる叫びが坂上先生の言葉を遮る。声のした方向からDクラスの叫び声だ。
「……話を戻すよ。君達が中間、期末試験を乗り越えたならば夏休みにバカンスが待っている。以上だ」
坂上先生をそう言い、朝のホームルームが終わる。
バカンス、か。本当にバカンスが待っているなら楽しみだ。でもこの学校は特殊であり、どうも信じ難く素直に喜べない。
やがて1限目の担任の教師がやってきて、全員にプリントが回ってくる。そして教師の合図と共に一斉に表へと返した。
まずは問題を解くのを後回しにし、全ての問題を見通す。過去問と同じ、類似した問題がどれだけあるのかを確認する。
数分経ち、ようやく全ての問題に目を通し終える。
予想通りに過去問と同じ問題が並んでいてひとまず安堵する。一見したら、違いが見つからない。あまりにも酷似していたから、過去問を丸暗記すれば満点に近い点数をたたき出すほど明白だった。
悟られないように周囲を見渡しても、焦り、困惑の様子の生徒は見受けられない。赤点候補者である石崎達を見れば、つまずくことなくスムースに問題を解き進んでいる。
よし、問題を解いていくか。
俺はゆっくりと解答欄に答えを埋めていく。
2限目、3限目、4限目と、英語と国語と社会のテスト終え、最後の5限目である数学の問題を解いていく。
小テストよりもレベルは遥かに難易度が高い問題がずらりと並んでいるが、これも過去問と相違ない内容だ。問題の意味を理解しなくても、答えを覚えていれば当てはまる。
ま、石崎達にも理解できるよう最低限の基礎を覚えされ、分かりやすく教えたから6割以上の問題の意味は理解できていているはずだ。
程なくし、最後のテストが終わる。全員、各自の行動に移り、石崎達は答えの確認し合っているようでいる。俺の方に来たかと思えば、自信ありげに俺に答えの確認を要求してくる。
「なあ、あの数学の3問の答えはーーで合っているよな!?」
「せ、正解だ」
答えが合っていて嬉しいのか興奮している彼らの気迫に呑まれてしまう。
あとはテストの結果を待つのみだ。
そして時が流れる。本日は採点結果が発表されると聞いている。
教室は中間テストの結果発表を固唾の呑んで坂上先生を待っている為、只ならぬ気配が蔓延していた。すると坂上先生が丸めた大きな白い紙を手にし、やって来た。
「諸君おはよう。早速、中間試験の結果を発表する」
持ってきた大きな白い紙がホワイトボードへと貼り出される。そこには小テストの時と同様、各教科ごと上から点数が高い順に生徒の名前がずらりと並んでいる。
最下位の方を見ると全教科60点前後と、俺の名前が書かれている。
また、最下位か。この学校の赤点の判断基準はクラスの平均点を2で割った数字未満が赤点だ。
仮にクラスの平均が100点としても赤点は50点、最下位の俺の点数が全て60点越えているから赤点取っている生徒はいない。
赤点者がいないことにホッとする。
そして下から上へと見ていき、石崎達の名前を見つける。石崎達の点数は全て70点を越えており、喜びに声を上げていた。
入学早々退学は誰でも嫌だと思うからな。喜ぶのも無理もない。
そんな彼らから視線を外し、再びテストの採点が書かれた紙へと見る。最上位には金田と椎名の名前があり、二人共全科目満点で同率1位だ。他にも満点者はいるが過去問がなくともあの二人は満点を取れそうと思う。
「おめでとう、全科目の平均点は80点以上だ。これほどの高得点に私は感心し、よく頑張ったと君達を称えよう。この調子で次の期末試験も臨んでくれ。これで朝のホームルームを終わりにする」
ホームルームが終わり、坂上先生は教室から出ていく。すると龍園は山田を背後に連れ教壇に立つ。
「よくやったと褒めてやる。だが、学校側はそんなに甘くない。今回は過去問で乗り越えられたが次は期待するな。自力で勉強しろ。勿論、俺がこの前言ったことについて忘れていないよな?」
クラスメイトに脅すように後ろに控えている山田に指を鳴らせる。それに萎縮するクラスメイト、まさに独裁者だな。
失敗した者には制裁を、ね。今時の高校生というのはこういうものだろうか。いや、普通に考えてそれはないな。ただ、この学校が特殊だから許される、のか?
「わかっているならいい」
龍園は席に戻る。
あ、龍園から報酬をもらうの忘れてた。石崎達の勉強の世話の9000ポイントを徴収しなくは。
俺はメールで龍園を呼び出しトイレに向かう。トイレの個室の壁に身体を預けて待っていると龍園が入ってきた。
「くくっほら、褒美だ」
龍園は携帯端末を操作する。ポイントの残高には龍園からしっかりと9,000ポイントが振り込まれていた。
「確認が取れた」
「次も頼むぜ、柊」
龍園は不気味に笑い俺の顔を見据える。龍園の瞳には僅かに敵意が感じられる。そして、絶対的な自信。
如何やら龍園は俺の事を徹底的に利用するつもりのようだ。下手に暴力で支配するよりも、ポイントをエサに動かせた方が扱いやすいと判断したのか。
どちらにせよ俺に実害がないのであれば、利用されても構わない。
どっちが上か下かなど、正直如何でもいい。俺は自由に満喫な生活が送れるのであれば、それ以上は求めない。
読んでいただきありがとうございます。誤字やおかしな点がありましたら感想欄で教えてください。