6月最後の日。図書館にて俺と椎名は放課後を過ごしていた。
静かな空間でページをめくる音がしない中、俺はライトノベルを読んでいる。
異世界物で剣と魔法が出てくるファンタジー系の物語だ。非現実な事ばかりの内容が出できて、少々ツッコミどころがあるが、娯楽として読むのであれば良い。読んでいて、自分も魔法とか使ってみたいと思えるほどに面白い。
「今日で6月が終わりますね。明日のクラスポイントはどれくらい増えているのでしょうか」
隣の椅子に座っている椎名がそう聞いてた。彼女の方に目をやると、本を閉じており丁度今読み終えたところのようだ。
「さぁ、如何だろうな。大して変わってないの思うけど、大きく変わるとしたら夏休みに行われるバカンスが関係すると思うな」
「柊くんもそう考えてるのですね。バカンスと言っても裏がありそうでポイントの増減があるかもしれません」
椎名もそう思うよな。この学校は普通の学校と違って特殊すぎる。
Sシステムといい、実力主義といい、一科目赤点取っただけで即退学など俺の記憶にそういった学校はない。
「ところでお願いがあるのですが」
「何だ」
「柊くんが良いのであれば、これからお互いに下の名前で呼び合いませんか?」
「名前、か。……俺は良いと思う。しかし、理由を聞いてもいいか」
「仲の良い者同士はお互い下の名前で呼び合うと小説で書いてあって、これからも柊くんと仲良くしていきたいと思ったからです。駄目、ですか?」
少し恥じらいそうに言う椎名。僅かに頬を染める姿に可愛いと思うと一緒に己の心拍数が上昇していくのを憶える。
椎名との関係性を気に入ってるし、俺も仲良くしていきたいと思ってるから恥ずかしいけれども名前で呼び合うことに賛成だ。
「……わかった。改めてこれからもよろしくな、ひより」
「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いしますね、美輝くん」
笑顔で礼を言われお互い下の名前を呼ぶ。
内心、ドキドキし幸福感に胸が締め付けられる。
俺は今、どんな表情をしているのか。羞恥心で顔を顔を赤くしているのか、また幸せそうに笑っているだろうか。
でも、幸せをかき集めた顔をしている彼女の表情を見るとより一層心が温かくなる。
お互い下の名前で呼び合うことになり、ひよりと更に関係が縮まった気がしてとても嬉しく思う。ひよりもそう思ってるといいな。
いつものように登校し教室に入ると何か様子が変だ。大半のクラスメイトが携帯端末を見て浮き足立って、そわそわしている。
そういえば、今朝ポイントを確認したところ支給されていなかったな。クラスポイントが0になったわけでもないので、何かしら学校側にトラブルでもあったのだろうか。
勘付かれないようクラスメイトを観察してみて、石崎、小宮、近藤が怪我を負っている。痛そうだ。そして龍園の方に視線へ向けると涼しげにニヤリと笑っている。
恐らくポイントが降り込めていない要因は、龍園と石崎達が絡んでいる。確証はないが龍園の命令に動いた石崎達は他のクラスと揉めたところか。
「おはようございます、美輝くん」
「おはよう、ひより。今朝、ポイントが振り込まれてなかったが、ひよりもか?」
「はい、他所のクラスも振り込まれてないとお聞きしました。トラブルでも起きたのでしょうか……?」
ひよりと今朝のポイントの件で話をしていると、坂上先生が教室に入ってくると共にホームルームの開始を告げるチャイムが鳴る。
「おはよう諸君。朝のホームルームを始める」
「先生。今朝、ポイントを確認しましたが振り込まれてませんでした。何かあったんですか?」
「実はトラブルあり1年生のポイント支給が遅れている」
やはりトラブルが原因でポイントが支給されなかったようだ。問題が解消次第ポイントが支給されるだろう。
それはさて置き、今のクラスポイントはどれくらいだったか。
そう思っていると坂上先生は今月のクラスポイントを発表するようで、手にした紙をホワイトボードに広げてポイント結果がAクラスから順に公開されていく。
Aクラス 1004ct
Bクラス 650ct
Cクラス 600ct
Dクラス 87ct
先月は490ctだったから110cp増えたことになる。どのクラスも先月と比べ確実にポイントを上昇しているな。
こうして朝のホームルーム終わり、いつものように授業を受け坦々と時間が過ぎていき放課後を迎える。
放課後、ホームルームが終わり席を立ちひよりと言葉を交わしながら教室を出る。
ひよりはこの後部活があるということなので、階段辺りでお別れだ。
「美輝くん、ではまた明日」
「また明日」
ひよりと別れ、玄関まで降りたところ龍園と出会す。出会すというよりも俺を待ち伏せていた方が正しい表現だな。
「よう柊、一緒に帰らねえか」
龍園から帰りを誘われるとな。
別に断る理由もないし、今日は彼と帰るしよう。
「分かってる思うが、お前に仕事を頼みたい」
「はいはい。で、その仕事の内容は?」
だろうと思った。
龍園が言うには昨日、石崎、小宮、近藤の3人にDクラスの須藤という生徒を陥れようと指示をした。
小宮と近藤、須藤の3人はバスケ部に所属しており部活の練習が終わった後、小宮と近藤は須藤を特別棟へと呼び出しそこで待ち構えた石崎と共に喧嘩を吹っかけた。
そこで自らわざと怪我を負うことにより被害者という証拠を入手し、学校側に訴えることで須藤に停学とDクラスのクラスポイントを下げさせるとのこと。だから石崎達は怪我をしていたんだな。
そしてやられた側のDクラスの気持ちを考えたら、たまったもんじゃないな。
俺はそんな龍園の卑劣なやり方に呆れて思わずため息をこぼす。
審議の勝率を上げるため、俺は石崎達をサポートし審議を勝たせることが依頼の内容だ。
この依頼を受けない選択肢はあるかな。いや、受けなかったら今後ちょっかい出されて面倒になる。俺の学校生活の為に受けるしかなさそうだ。
「依頼の内容は理解した。報酬額はいくらだ」
「5万だ」
「……足りんな。6万で受けてやる」
「ちっいいぜ。だが失敗するなよ。もし失敗したらお前も制裁対象だからな」
龍園は舌打ちし、脅すように俺を睨みつける。
失敗は許されない、失敗したら俺も制裁を与えられるのか。怖い怖い。
ま、この依頼を受けるとして、Dクラスの須藤を嵌めることに問題はないがその分リスクもある。
もし、審議でこちらが負けた場合、逆に石崎達は停学かつクラスポイントが減ることになる。
それに加え、仕事の依頼を受けた側として責任が伴うからな。それ相応な報酬を出して貰わないと困る。
「了解、その依頼受注する。依頼を達成したら6万ポイントを徴収するからな」
「じゃあ頼むぜ」
「あぁ、やり方に関しては自由にやらせて貰うぞ」
「好きにしろ。俺は仕事をしっかりこなす奴に何も言わねえ。過程はどうだっていい、結果が全てだ。その方がお前はやり易いだろ」
俺は頷く。
言質を取ったので、遠慮なくやりたいようにやらせて貰うとしよう。
その後は龍園と別れ、自室に帰宅する。
俺は部屋着に着替えベッドに寝転ぶ。
今日中に石崎達が学校側に訴えると龍園に聞いた。多分、明日の朝のホームルームで発表されると思う。
当分発表された日に詳しい事情は石崎達から聞き、現場に向かい調査しよう。
確か特別棟に監視カメラはなかった。しかし念には念、目撃者がいたらこちらが不利になる可能性もあるから次いでにDクラスの動きも調べておくか。
俺はベッドから起きあがり、パソコンに向き合う。
パソコンを立ち上げ、須藤の経歴について調べ始める。
龍園の情報だと、須藤の性格的に考えれば中学生の時に暴力事件などを起こしている可能性があるからそこを調べよう。
幸い、入学早々バスケ部のレギュラー候補となっており中学生の部活で有名になっているそうだから所属していた中学校を調べれば、直ぐに特定ができた。
俺は特定した中学校と須藤が所属していたバスケ部、その中学校の周辺に関する掲示板やSNSを探る。
中学校の裏サイトも見つけ出しそこも探り入れ、ネットに載っていた情報を片っ端からメモ帳にまとめ上げる。
「ふう、これくらいでいいか」
作業に取り掛かって30分経過し、おおよその経歴は理解した。
メモ帳にまとめ上げた情報の共通点を抜き出し要約する。
・暴力沙汰を何回も起こし、警察の補導あり
・部活内で先輩を殴り停学処分のあり
・他校との揉め事も多々あり
これにより、須藤が如何に暴力的であることが調べがついた。この前の図書館で起きた出来事を踏まえると信憑性が高い。
これを審議に持ち込めば有利に進めれるだろう。
「次は信憑性を上げるために須藤の素性を知っている人を探さなくてはな」
新たにタスクを開き、学校のホームページを開き掲示板に移る。
そして須藤に関する情報提供を匿名で呼びかける。有力な情報を引き出すよう、情報を提供してくれた生徒にはポイントを払うと付け加えとくとしよう。
この経費については後で龍園に請求するとして。
「残るは石崎達から事情聴取と現場検証にDクラスの動向の把握だな」
仕事が多いな。でも、仕事だし割り切ってやりますかね。
読んでいただきありがとうございます。誤字やおかしな点がありましたら感想欄で教えてください。