ようこそ凡人がいく実力至上主義の教室へ   作:神威 

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お久しぶりです。仕事で中々投稿できませんでした。申し訳ございません。


第16話 豪華旅行

 

 時は8月。

 真夏の日差しは容赦なく肌を焼きながらも潮の香りがする風と波の音に、心なしか涼しさを感じる。

 

 期末試験も問題なく突破し夏休み期間中である現在、俺たち一年生は豪華客船に乗っている。

 以前からバカンスがあると聞かされてはいたが、何か裏があるのでは、と勘ぐってしまう。

 高度育成高等学校が用意していた豪華旅行は何せ二週間程ある。そう二週間もあるのだ。

 いくら何でも二週間は長すぎるのだ。

 予定では最初の一週間は無人島に建てられているペンションで過ごし、その後の一週間は客船内での宿泊の予定だと聞いている。

 

 果たしてこの二週間の間に何が起こると言うのか。まあ、いくら身構えたところで仕方ない。確かこの豪華客船は娯楽設備が非常に充実しており、一般的にこういう機会は中々訪れないだろう。いざという時のために、英気を養おうではないか。

 

「呑気な奴らだよなぁ。おまえもそう思うだろ? 」

 

 豪華客船のデッキから叫び声が聞こえ遠目からでも分かる程浮ついてるDクラスの生徒達を見ていると、背後からそんな声がかけられた。

 

「そうだな」

 

 龍園は隣に移動しそのまま手すりにもたれ掛かりるようにし俺の顔をじろりと見る。かくいう俺はデッキの手すりに両肘をかけたまま目線だけ龍園に移す。

 

「ハッ! 相変わらず澄ました顔だな。まあ、いいぜ。おまえはどう考えてる?」

 

 どう考えると聞かれても、龍園が求む返答はこの二週間に及ぶ旅行についてだろうか。

 

「……何かしらクラスポイントが変動するイベントとかあるんじゃないか」

「ほう、その根拠はなんだ? まさか勘とは言わねぇだろうな」

「とある先輩から一年生の時のクラスポイントの変動データを参照させてもらったことがある。

 そしてそのデータを分析した結果、8月はクラスポイントが大きく変動していることからこの二週間は何かしらの試験が用意されている可能性が高いと判断したんだよ」

 

 推考した内容をそのまま告げると龍園は不敵に笑った。

 

「なるほどな。クククっいつの間にそんなことをしていたなんてな。それでそのイベントとやらの内容は分かってんのかよ」

「いや、そこまでは把握していない」

「……ま、その時はたっぷりと動いてもらうぜ」

 

 それだけ言い残して龍園は去っていった。

 俺は再び海を眺めることにした。

 

 空が青く目の前に広がる海は太陽の光が反射しとても美しいもので、眩しくて目を細めてしまう。はて、こうしてのんびりと海の景色を見るのはいつぶりだろうか。

 

 しばらく海の景色を眺めていると隣に誰かが来た気配を感じたため視線を向けるとひよりだった。

 

「ここにいたんですね美輝くん」

「ああ、ちょっと海の景色を見たくてな」

「ふふっ、気持ち良いですよね。ずっと見ていたくなります」

「そうだな」

「ところで美輝くん、この後一緒に昼食を取りませんか? もし先約があればそちらを優先してもらって構いませんが……」

 

 少し不安そうな表情を浮かべながらこちらを見てくるひより。

 恐らく俺が石崎たちと食事をするつもりだと思っているのか、少し不安そうな表情を浮かべながらこちらを見てくるひより。

 しかし心配無用。先約などない。

 

「大丈夫だ。それじゃあ行くとするか」

「はい!」

 

 国が支援しているこの学校は学費や雑費を払う必要性はなく、この旅行についても無料となっている。

 

 そして現在、俺達が乗っている客船では一流のレストラン、演劇が楽しめるシアター、プールや高級スパまで完備されており、まさに至れり尽くせりである。

 普通に考えると破格の待遇でありもし旅行費が教師と一年生一同の分だと計算したら莫大な費用となる。

 

「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか? 」

「はい」

「それではお席へご案内致します」

 

 従業員の丁寧な対応を受け、テーブルへ通される俺たち。

 

「メニューをお持ちしました」

「ありがとうございます」

「ご注文がお決まりになりましたらベルを押してください」

 

 メニューを受け取り開くとそこには多種多様な料理の写真が掲載されていた。

写真の下にはそれぞれの説明文があり、それを見ているだけで腹が減ってきそうだ。

 早速二人で注文するものを決めていく。

 

「わたしはこのパスタにしようと思います」

「なら俺はこれにするか」

「分かりました。それでは店員さんを呼びましょう」

 

 ひよりが呼び鈴を鳴らすと直ぐに従業員が現れオーダーを取った。それから雑談していると料理が運ばれてきた。

 パスタを口に運ぶひよりの表情は幸せそのものといった感じだ。そんな彼女の様子を見ていると思わず頬が緩んでしまう。

 

「美味しいな」

「そうですね。 とても美味しいです」

 

 それから暫くして食事を終え、俺たちは店を出る。

 

「ひよりはこの後、予定はあるか? 俺は客船を適当に回るつもりだがもし予定が空いていれは一緒に回らないか」

「はい、特に予定はありませんし一緒に回りましょうか」

 

 それから数分、客船を徘徊していると突如としてアナウンスが客船で流される。

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

 もう少し回りたかったのだが島に到着まで間もないようだ。

 

「デッキに行くか」

「そうですね」

 

 デッキに向かうと既に生徒が集まり出しており、海の地平線の彼方に目的地である島が視認できた。生徒達が島に気付き、更の人数がデッキに押し寄せてきた。

 

 人の波にのまれる前にひよりの手を引き、人が少ない空いてるスペースに避難する。

 

「ここなら大丈夫だろう」

「え、あ、ありがとうございます」

「ああ、どういたしまして」

 

 少々頬が赤くなっているひよりを横目にデッキのとある箇所に不穏な動きをみせる。視線をそこに移してみれば、Aクラスの男子生徒がDクラスの生徒に何か言っているらしく、ここからでは聞き取れないが挑発的な様子だと伺える。

 そのDクラスの中には綾小路や須藤の姿がいる。しかし、以外にも須藤はAクラスの男子生徒にかみつかない。あの暴力事件以降、反省しているのかクラスに迷惑をかけないよう心掛けているようだ。あの時、須藤と接触して良かったと思う。

 

「よ、美輝くん?」

 

 ひよりに呼ばれ、我に返ると未だにひよりの手を握っていることに気付き始める。何とも言い難い羞恥心にかけられるもそれを必死に抑え込む。

 

「っ、すぅ――。すまない」

 

 手を離そうとするが逆にひよりに逃がさんばかりに握り返される。予想だにしないひよりの行動に羞恥心に加え困惑の感情が生まれる。

 

「ひ、ひより?」

「ふふっ美輝くんの手は頼もしくて大きいですね」

 

 魅惑の笑みを浮かべ、両手で俺の手をにぎにぎと掴み込むひよりに俺は顔に出さないよう気を付けるも心拍数は上昇している。

 

「美輝くんは格闘技の経験があるのですか?」

「ああ、俺の育て親みたいな人に格闘技や武術を教わっていたな」

「だから中指と薬指の付け根辺りの皮が厚いのですね」

「嫌いか?」

「いえ、私は好きですよ。美輝くんの手」

 

 無自覚なのかこの天然娘。ここまで心を惑わされるのはこの学校であなただけなんだが。手を離すタイミングを失った俺はひよりと手を繋いだまま、恥ずかしさを紛らすように海のほう視線を移し島を見る。

 島は肉眼ではっきりと確認できるまで距離が近くなっていた。デッキにいる生徒たちの熱気と興奮も高まって、そのまま客船は島につけられるのかと思うのだが、浅橋を無視して島の周りを回り始めた。

 

 島を周回する客船の速度は変えず、俺はじっと島を観察する。島はざっとみて直径約1kmくらいで最高標高は約200mくらい、そこそこ大きな島だ。

 

「緑が豊かな島ですね」

「ん? ああ、そうだな」

 

 ちらりとひよりの顔を見れば、少し穏やか表情で島を眺めていた。相変わらず手を繋いだままなんだが。

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』

 

 そんなアナウンスが流れた。そろそろ上陸が近いらしい。

 

「じゃあまた、デッキでな」

「はいっ、ではまた後で会いましょう」

 

 ひよりは手を離しグループ部屋に戻るべく船内に入っていった。

 

「……」

 

 俺は5分くらい、いぶかしげに島を観察した後、着替えてデッキから去った。

 

 

 

「ではこれより、Aクラスの生徒から順番に降りてもらう。それから島への携帯の持ち込みは禁止だ。担任の先生に各自提出し、下船するように」

 

 拡声器をもったAクラスの担任である真嶋先生の声で生徒たちが順番に客船の階段を降りていく。下船は思ったよりも時間がかかっていた。先生たちが厳重に荷物検査を行っており、それが時間を費やしている。

 

「ここまで厳重な荷物検査とは……何かしらの試験が待ち構えてるのでしょうか」

「確かにな。テストの時すらあのように荷物検査はしなかった」

 

 背中の汗が流れる不快な感触を覚える。ひよりを見れば額から汗の一滴が伝っている。この気温からして水分補給をしなければ熱中症になりかねない生徒がいずれ出そうだ。それほど夏の日差しは強く、そして暑いのだ。

 

 暑さに耐えながら下船待機していると、ようやく我らCクラスの番がやってきた。そして、荷物検査を終え浜辺に足をつけた。

 

「それではCクラスの点呼を行います。名前を呼ばれた人は返事してください」

 

 ボードを片手に坂上先生による点呼が始まり、他のクラスも点呼が始まっていた。ここまでくると旅行というよりは林間学校といった感じだ。

 

 ほどなくして全クラスの点呼が終えると、真嶋先生が白い壇上に上がる。

 

「今日、この場所に無事につけたことを、まずは嬉しく思う。しかしその一方で一名ではあるが、病欠で参加できなかった者がいることは残念でならない」

 

 それは残念だ。しかし、堅物と言われる真嶋先生の表情が険しいのはまだ理解できるが、その他の先生たちもいつにも増して表情が険しい。少し離れたところで特設テントを設置している作業着を着た知らない大人たちもいる。

 

 生徒たちは困惑の色を浮かべはじめ、真嶋先生からは冷酷な一言が発せられた。

 

「ではこれより――本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

 

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