ようこそ凡人がいく実力至上主義の教室へ   作:神威 

19 / 23
大変お待たせいたしました。




第18話 無人島試験2

「わぁ綺麗な川ですね」

 

 川辺には不自然な大岩が一つあり、そこに装置が埋め込まれてあった。キーカードは小宮に取り行かせており、スポット占有は小宮が来るまで待つ必要がある。

 俺は取り敢えずテントを置き、そして川に近寄り状態を確認する。

 

 幅は約5mで透き通った川面は木々の葉っぱから覗く太陽光を受け、無数の宝石が散りばめられたように煌めいていた。手を伸ばせば届きそうなほど近くにある苔むした岩の上で小さな魚たちが群れをなし、影絵のように素早く揺らめいている。水底まで鮮明に映し出す透明な層では、丸みを帯びた白い砂利が陽光に照らされながら微かに回転していた。 

 

「石崎。後ろにいる皆をここまで誘導してやってくれないか」

「おう、分かった。いってくるな」

 

 石崎はそう言い駆け足で踵を返した。すれ違いざまに山田も到着したようだ。

 

「お疲れ様山田。テントはそこに置いてくれないか」

「okey, joker」

 

 先程俺が下したテントの方に指を差し山田はそこにテントを下した。

 

 俺はしゃがみ込み川面に手を伸ばした。冷たい水が指先に触れるだけで心地よい。掌いっぱいに水をすくい上げると、透明度の高い水には微かな緑色の光沢さえ見える気がした。一口飲み込むと、不思議なことに、その水には微かな甘みがあった。砂糖のような人工的な甘さではなく、自然の中にある植物や岩石から染み出た生命の素のような甘さ。鉄分が僅かに含まれているのか、後からくる仄かな金属的な風味も独特だ。

 ざっくり言えば、美味しいということだ。

 

 この川水は衛生的で人が飲むには問題ないだろう。

 

「あ、美味しいですね」

 

 隣を見れば俺と同じように川から水をすくい飲んでいた。

 

「ひよりは川の水に抵抗感がないのか?」

「全くないというわけではありませんが美輝くんが飲んでて大丈夫そうだなと」

「そうか。もし不安なら水を沸騰してから飲んだ方が安全性はいいのだが……」

「心遣いありがとうございます。でも私は美輝くんを信じてますから大丈夫ですよ」

 

 それからしばらくするとCクラスが到着したようだ。川を見て興奮する者や慣れない森での歩行に疲労している者など様々。

 俺は小宮からキーカードを受け取り皆の前に立った。

 

「揃ったな――早速だがここをベースキャンプとしようと思う。異論はないか」

「すみません川の水は飲めるのでしょうか」

「皆が来るまでに俺とひよりが試飲している。より安全性を求めるなら沸騰してから飲むといい」

「そうですか、ありがとうございます。ちなみに柊氏はこの特別試験はどうするおつもりで」

「どうするつもりもなにも、普通に野外生活を送るつもりだ」

 

 今回ではCクラスの皆は野外生活を送るだけでいい。

 そう、ただそれだけ。上手くいかなければ臨機応変に対応すればいい何も難しくはない。

 金田はまだ懐疑的に思うところがあるものの、渋々と受け入れるように口にした。

 

「……分かりました。龍園氏の言う通り今回は柊氏に従いましょう」

「ああ。早速、この中にサバイバル生活の経験または知識があるやつは挙手してくれ」

 

 クラスメイトは誰一人も挙手はしない。

 

「じゃあ女子は森から果物の調達、男子は投網やバケツを購入し魚の捕獲と火起こしに必要な薪の収集を頼む。二時間後にはここに集まってくれ」

 

 女子はひよりに男子は金田にそれぞれに班分けするように指示を出し解散の号令と共に、クラスメイトたちは思い思いに散っていく。

 

「山田、近藤。ちょっといいか」

 

 俺は二人を呼び止める。

 

「what?」

「なんだよ」

「二人は出来るだけ沢山の草を集めそれを地面に敷いて二つのテントを立ててくれ。集めた草は虫がいないか確認してから地面に敷いて、テントはあそこに立ててほしい」

  

 川辺から少し離れた場所に指を指す。

 二人は了承し作業にかかってくれた。俺もすぐに取り掛かるとしよう。

 

 俺は一人でここのスポットを占有し、速やかに木に登り木を伝ってこの場に離れた。

 

 

 

 二時間後、俺はベースキャンプから数メートル離れた木の上に立っていた。

 木の上からベースキャンプを見渡す。クラスメイトたちは全員揃っており、女子は多種多様な果物を一ヶ所に集め男子は数匹の魚が入ったバケツと薪を手にしていた。端っこには龍園が目をつぶりながら腕を組み木にもたれかかっている。

 

 木から飛び降り着地する。そのままベースキャンプに向かうと、石崎が俺に気付き近づいてきた。

 

「柊、お前どこ行ってたんだ。探したぞ」

「悪い、そこら辺探索してただけだ」

 

 果物が一ヶ所に集められた所に向かうとひよりは赤紫色の実と黒紫色の小さな実を抱えていた。

 

「それはヤマモモか」

「美輝くん、この果物をご存知なんですか」

「ああ。その赤紫色の実はヤマモモっていう実で甘酸っぱくて美味しいんだ。そっち黒紫色の小さな実はクワで甘みが強いがこれも美味しい」

「へえそうなんですね。美輝くんは本当に色んな事を知ってますよね」

「まあ、伊達に色んな国に行ってたりしていたからな」

「ふふっ次はロシアに行った時の話が聞きたいです」

「この特別試験が終わった後に話すとするよ」

「はい楽しみにしてますねっ」

 

 ひよりは静かに笑いかけた。

 夏休みに入ってからひよりとの過ごす時間が増えた。特に図書館でひよりと本を読んだり互いのおすすめ本を紹介しその本の感想を共有し合うなど、本の話以外にも一緒に料理や買い物をした。その時にひよりの部屋に上がった時に世界を旅していたことをひよりに話した。各国の話が面白いのか熱心に聞いてくれたひよりに、懐かしく思うように語った記憶が鮮明に覚えており悪い気はしなかった。

 

 おっといかん。思い出に浸る場合ではないな。

 

 思考を切り替え女子たちが集めた果物が食べられるかを分別する。集められた果物には毒はなく全て食べられるものだった。よくよく考えてみれば国から借り受けて管理している島だ。いくら特別試験のためとはいえ、毒がある植物や果物は除いているのだろう。誤って毒があるものを食したら大問題だからな。

 

 果物を分別後、魚を捕ってきた男子たちの方に向かいバケツの中を覗く。

 

「お、結構捕れてるな」

 

 各班の水が入ったバケツからは数匹の魚を確認する。

 

「経験はなくても知識はありましたがね。約20匹くらいは捕れましたよ」

「充分だ。ありがとう金田」

「礼には及びません。次は何を?」

 

 金田に火起こしを頼み、俺はまな板とサバイバルナイフを購入し命をいただくことへの感謝の気持ちを持ち魚を締めてから下ごしらえにとりかかる。

 

 調理はシンプルに塩焼きにしようと思う。

 

「美輝くん手伝いますよ」

 

 内臓の下処理の最中にひよりが隣に来て、一旦下処理を止める。

 

「助かるよひより。じゃあ下処理した魚を洗ってくれないか」

「内臓の下処理の方は手伝わなくても?」

「サバイバルナイフは一つしか購入してないし大丈夫だ」

「洗った魚はどうすればいいですか」

「洗った魚はそこに置いといてくれ」

 

 ひよりは下処理済みの魚を洗い、俺は自分の作業を再開した。

 数分後、下処理を終えた俺は川で手を洗う。

 

「あれ、もう終わったんですか?」

「ああ、今ちょうどな」

 

 魚を洗っているひよりを手伝い、すべて洗い終えると、あらかじめ集めておいた木の枝を魚の口から順に刺していく。

 

 あとは火を起こした傍らに串刺しにした魚を並べるだけだ。

 パチパチと薪が弾け、川風に乗って生臭さの抜けた魚の匂いが漂い始める。

 ひよりは火から少し距離を取って、俺の隣で興味深そうに火を覗き込んでいた。

 

「こうやって焼くの、初めて見ます」

 

 ひよりの言葉に、俺は魚の焼き加減を見ながら少し笑った。

 

「キャンプでもなかなかやらないよな」

 

 串を少し回し、皮目がじゅっと音を立てるのを確認する。表面が白くなり、脂が落ちて炎が一瞬だけ強くなった。

 しばらくすると、香ばしい匂いに気付いたのか、周囲から他の班の連中も集まってきた。

 

「お、いい匂いしてるな!」

「もう焼けてますか?」

 

 金田が火の様子を見て声をかけてくる。

 

「もう少しだな。皮がパリッとしたら完成だ。クラス全員分はないから食いたいやつの人数を掌握してくれないか」

「はい、では確認してきます」

 

 初日にしてはいい出だしだろう。他クラスの様子は気になるが今日はこれ以上動く必要はない。

 

 

 

 

 彼の言葉に頷き、私は焚き火の場を離れた。

 魚の焼ける匂いが背中越しにも分かる。空腹を刺激するというより、安心感に近い感覚だった。

 

 周囲を見回しながら、食べたい者の人数を静かに確認する。

 誰もが遠慮がちだ。自分の腹具合より、全体のことを考えているのが分かる。

 

 ――悪くない空気だ。

 

 ほんの数時間前まで、ここはただの森と川だった。

 それが今では、拠点として機能し始めている。

 

 

 私は名乗り出た人数を頭に入れ、再び焚き火の前へ戻る。

 

「希望者はこの人数です。数的には問題ありません」

 

 柊氏は短く「了解」とだけ返し、魚から目を離さない。

 火と向き合う背中に、奇妙なほどの落ち着きがあった。

 

 串を回す動作は一定で、焦りがない。

 皮が弾け、脂が落ちる。

 単なる調理のはずなのに、見ているこちらまで背筋が正される。

 

 やがて彼は、一本ずつ丁寧に火から外していった。

 

「食べる人から渡していこう」

 

 その声に、自然と列ができる。

 指示されたわけではない。ただ、そうするのが正しいと、誰もが理解していた。

 

 私も一本受け取り、少しだけ間を置いてから口に運ぶ。

 

 ……美味しい。

 

 塩気は控えめで、魚の味が前に出ている。

 焼きすぎでも生焼けでもない。

 知識だけでは、ここまで安定した仕上がりにはならないだろう。

 

「思ったより、美味しいですね」

 

 率直な感想を述べると、美輝氏はわずかに頬を緩めた。

 

「それは良かった。魚が食えなかったやつは果物だけでは足りないだろうからポイントで食料を購入して配ってくれ」

「分かりました」

 

 私は食料を購入し石崎氏と食料を配って行った。

 

 周囲を見る。

 騒がしさはないが、沈黙は重くない。

 

 ――集団が、ようやく落ち着いた。

 

 それが私の率直な印象だった。

 

 龍園氏は少し離れた場所で腕を組み、目を閉じている。

 だが、眠っているわけではない。

 全体を把握し、様子を見ているのだろう。

 

 これまで龍園氏は恐怖でCクラスを制御してきた。

 だが彼は違う。龍園氏のやり方とは対極で恐怖で支配するのではなく行動し、その背中で納得させる。

 だからと言って龍園氏が不必要になったわけでもない。独裁者である彼であろうと結果を残しておりAクラスに上がるには彼が必要だ。しかし同時に柊氏もCクラスには必要なのだろう。

 

「今日はここまでにしよう」

 

 柊氏の言葉に、誰も反対しない。

 日が傾き始め、森の色が少しずつ変わっていく。

 

 無理をしない。

 だが、止まりもしない。

 夜は静かに、確実に近づいてきていた。

 この一日の終わり方としては、最善に近い。

 

 焚き火の火が小さくなり、川のせせらぎが強く耳に残る。

 私はその音を聞きながら思う。

 

 この特別試験は、単なるサバイバルではない。

 そして今のところ、Cクラスは間違った道を歩いていないのだろうか。

 

 あの龍園氏が柊氏に統率を渡した理由は未だに検討は付かない。

 柊氏の実力は計り知れないところがある。

 現状、学力は学年トップクラスだと思われる。最初の小テストの最後の3門を解いており、当時の私はあの3問は解けなかった上その時柊氏の解答用紙を見せてもらいそれが運や偶然で解けるものではないと。

 

 柊氏は龍園氏と違いカリスマ性というものは感じられない。特別秀でているものはないが実力は未知数であると同時にどこか不気味さを感じ、自分の中に彼に対して微かな恐怖がある。

 

 今後、彼がCクラスにどのような影響をもたらすのか、検討付かないばかりだ。

 

 私はそう結論づけ、1日目の終わりを静かに受け入れた。




今回は金田の視点を入れてみました。口調とかはあってますかね。

誤字やご不明な点がありましたらお願いします。
モチベーションとして感想もいただけると励みになります。よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。