ようこそ凡人がいく実力至上主義の教室へ   作:神威 

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第2話 Sシステムについて1

 

 ・クラス替えはない

 

 クラス替えはない、か。なら3年間はこのクラスの生徒達と過ごすことになる。でもこの学校のことだから、深い意味があるかもしれないな。

 普通の高校であれば、クラス替えは毎年の恒例行事であり、人間関係をリセットし、新たな交友関係を築くための機会として機能する。しかし、この学校はそれを放棄した。卒業までの3年間、この歪で、どこか刺々しい空気を孕んだCクラスのメンバーが固定される。

 それが意味することは何か。

 この学校が『集団としての連帯責任』や『長期的な組織運営の能力』を見ようとしているのではないか、ということだ。

 もし仮に、クラスの誰かが問題を起こし、その結果としてクラス全体の評価が下がる仕組みになっているとしたら? 3年間メンバーが変わらないということは、問題児を切り捨てることも、都合よく優秀な人材を他から引っ張ってくることもできない。与えられた手札だけで、いかにして最高の成果を叩き出すかという、一種の『組織管理シミュレーション』を強いられていると考えれば、合致がいく。

 

 ・この学校内にあるものは何でも購入可能

 

 なんでも、という事はあんなことやこんなことも……という冗談はここまでとして真面目に考えよう。

 この一見すると夢のような文言も、額面通りに受け取るのは危険だ。

「何でも購入可能」ということは、裏を返せば「ポイントさえ支払えば、およそ学校生活の常識から逸脱したモノや権利であっても手に入る」という意味になりはしないか。

 たとえば、定期試験の問題、他人の個人情報、あるいは学校のルールそのものを捻じ曲げるような特権――。もしこの推測が正しければ、このポイントは単なる小遣いではなく、文字通りこの学校における「生命線」であり「最大の武器」となる。

 まあ、今思いつくのはこんなところか。

 

 

・毎月1日にポイントが支給される(10万?)

 

 もし毎月1日10万ポイントが全校生徒に支給されると仮定すると、

 全生徒は、1クラスが40人程度、1学年が4クラスであるならば、

 

 (40×4)×3 = 480

 

 約480人の生徒に各一人ずつ10万ポイントが支給されると、

 

 480×100,000 = 48,000,000

 

 4800万ポイントに年間12ヶ月をかけると、

 

 48,000,000×12 = 576,000,000

 

 年間5億7600万ポイントの出費だ。

 年間5億7600万ポイント――すなわち5億7600万円相当の巨費が、たった1つの高校の生徒の「小遣い」として消費される計算になる。

 国からの支援がある高度育成高等学校とはいえ、これだけの国家予算級の資金を、ただ高校生が遊興費に充てるためだけに無条件で垂れ流すはずがない。あまりにも不自然で、経済的な合理性に欠けている。

 それに坂上先生は毎月1日にポイントが支給されると発言してる訳で毎月1日に10万ポイントが支給されるとは言ってはいない。

 

 ・この学校は実力で生徒を測る

 

 すべての点において、この言葉がこの学校の背骨となっている。

 実力。それは学力のことか、身体能力のことか、あるいはこの理不尽な環境を生き抜くための狡猾さや政治力のことか。

 恐らくこの高度育成高等学校にとって実力を測るということは、生徒のあらゆる能力を測ると認識してもいいだろう。

 先ほどの計算と、坂上先生の含みを持たせた言い回しを組み合わせれば、答えは自ずと一つに収束する。

 

 ――毎月の支給額は、固定ではない。

 

 今手元にある10万ポイントは、あくまで「実力を測る前」の基準値、あるいは上限値に過ぎないのだろう。そして、その基準からどれだけ「減点」されるか、あるいは「加点」されるかによって、来月以降の支給額が決まる。

 そして、監視カメラの多さへの違和感。

 品行方正に、模範的な生徒として振る舞い、それが、この学校の提示する『実力』の最低ラインなのだとしたら、監視カメラの多さに合点がいく。

 つまり、生徒の品行を測る物差しとして、あの監視カメラは今この瞬間も作動しているだろう。

 授業中の態度、遅刻や欠席の有無、教室内での私語やスマートフォンの使用、果ては購買での素行に至るまで。その全てがデータとして蓄積され、クラスの実力として数値化されているのだとしたら。

 ポイントは変動し、毎月同じポイントが支給される保証はなくなる。

 まだ情報が少なく確証はないが……これ以上の深追いは、今すぐには不可能だ。情報が少なすぎる。とりあえず、情報収集だな。Sシステム、思ってたよりも謎が深い。

 そして俺たち生徒は入学式に参加し敷地内についての説明を聞いた後、初日という事もあり解散となった。

 

「柊くん」

「ん? 椎名か」

「それでは行きましょう?」

「ああ、そうだな。行こうか」

 

 俺は思考の海から引き揚げられ、カバンを肩に掛けた。この学校の図書館はとても広いと聞く。俺も椎名につられウキウキしてしまう。

 先ほどまで頭を巡らせていた「Sシステム」への疑念や、年間数億に上るポイントの計算 といった血の通わない数字の羅列が、目の前の少女の柔らかな声によって一瞬で霧散していく。

 教室を出ると、廊下はまだ入学式の余韻と、10万ポイントという大金を掴んだ新入生たちの興奮した声で満ちていた。

 

「マジで何買おうかな」

「とりあえず夜、ケヤキモール行ってみようぜ!」

 

 そのような会話が、すれ違う生徒たちの口から次々と飛び出してくる。

 彼らの無邪気な笑顔を見ていると、自分の猜疑心の強さが馬鹿らしく思えてくる。だが、隣を歩く椎名ひよりの横顔に視線を移すと、彼女はそんな周囲の喧騒に流される風でもなく、ただ一歩一歩を愛おしむように、静かに歩みを進めていた。

 

「皆さん、随分と賑やかですね」

「……まあな。急に大金を渡されたんだ、浮かれるのも無理はないさ」

「ふふ、確かにそうですね。でも、私はお金よりも、この学校の図書館にどんな本が眠っているかの方が、ずっと気になります」

 

 そう言って、彼女は少女のように微笑む。

 その物欲とは無縁の純粋な言葉に、俺は少しだけ救われたような気がした。もしこの学校が俺の予想通り「実力」という名の減点方式で生徒を篩(ふるい)に掛けているのだとしたら、彼女のような存在は、この荒んだCクラスにおいて奇跡のようなオアシスになるかもしれない。

 図書館に向かう道中、3人の男子生徒の会話が聞こえ耳を傾けた。

 

「よーし、今年も『Dクラスに落ちないよう』頑張ろうぜ!」

「おう! 『クラスポイント』が少なく貧乏生活を送っているDクラスには同情するわー」

「それなー」

 

 俺は思わず足を止めた。

 

「……どうしましたか柊くん?」

 

 隣を歩くひよりが、小首を傾げて心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

 

「……いや、なんでもない。ちょっと耳を疑うような言葉が聞こえた気がしてな」

 

 俺は視線だけを動かし、先ほどすれ違った先輩らしき3人組の後ろ姿を追った。彼らの制服のタイの色は俺たちとは違う。2年生か、あるいは3年生。つまり、この学校の『仕組み』をすでに知り、その中で生き抜いてきた者たちだ。

 

 彼らの口から出た単語が、俺の脳内で急速に火花を散らす。

 

 ――Dクラスに落ちないよう

 ――クラスポイントが少なく貧乏生活を送っている

 

「もしかして、先ほどの先輩方の会話に気になることがありましたか?」

「ああ、椎名もか」

「はい、恐らくですがポイントは二種類あると考えられますね。そしたら、来月支給されるポイントについて関連しているのかもしれません」

 

 驚いたな。椎名はこの学校のSシステムの仕組みについて勘付いているのかもな。

 

「そんなことより、早く図書館に行きましょう!」

 

 え、いや、割と大事なことだと思うのだが。

 

「……あ、ああ。そうだな。行こう」

 

 一瞬、思考の歯車が完全にロックされたような感覚に陥り、俺はワンテンポ遅れて生返事を返した。

 その後俺と椎名は図書館に到着した。

 

「うわあ……。本当に、素晴らしい品揃えですね……っ」

 

 図書館の重厚な扉をくぐり抜けた瞬間、椎名の紫の瞳が、今日一番の輝きを放った。

 吹き抜けになった天井まで届くかのような巨大な書架が、整然と、しかし圧倒的な威圧感を持って幾重にも並んでいる。外の世界の喧騒が嘘のように遮断されたその空間は、紙とインクの匂い、そして静謐な空気で満たされていた。

 

「想像以上だな。学校の敷地内にある一施設というレベルを完全に超えている」

「はい。古典から最新の学術書、海外の翻訳文学まで……。柊くん、見てください、あちらには絶版になっていたはずの推理小説の初版まで並んでいます」

 

 椎名は、まるで宝の山を見つけた子供のように、それでいて足音を立てないよう細心の注意を払いながら、流れるような動作で書架の間へと吸い込まれていった。その横顔は神聖な儀式に臨むかのように真剣で、やはり彼女にはこの静寂こそが相応しいと、俺は改めて実感する。

 それから俺と椎名はお互いにおすすめの本を紹介し合い、本の感想を言い合ったりした楽しい時間を過ごした。興味深い専門書や実用書に出会ったことに感謝を。次来た時に読むとしよう。

 楽しい時間は、永遠には続かない。

 閉館を告げる哀愁を帯びた電子音が、静謐な図書館の空気を震わせた時、俺たちの短い逢瀬は終わりを迎えた。

 

「――あっ、もうそんな時間ですか。楽しい時間は、本当に早く過ぎてしまいますね」

 

 椎名は名残惜しそうに、手の中にあった海外古典のハードカバーをそっと棚へと戻した。その動作一つをとっても、本に対する深い愛情と敬意が滲み出ている。

 

「そうだな。だが、明日からは貸出もできる。焦る必要はないさ」

「はい! 柊くん、明日からもまた、こうして一緒に来てもよろしいですか?」

「ああ。俺で良ければ、いつでも付き合うよ」

 

 そう答えると、彼女は胸の前で小さく手を合わせ、今日一番の、それこそ夜空に浮かぶ満月のように美しい笑みを浮かべた。

 

「柊くんはこの後の予定とかはありますか」

「ああ、コンビニで日用品を買おうと思いている。まあ、初日だしな。最低限の洗剤やトイレットペーパー、あとは部屋で飲むお茶くらいは揃えておかないと、明日からの生活が心許ない」

 

 俺がそう言うと、ひよりは「なるほど」と納得したように小さく頷いた。

 

「確かにそうですね。学生寮の部屋には一通りの家具は揃っていましたが、消耗品は自分たちで調達しなければならないようですし……。あ、もしよろしければ、私もご一緒してもよろしいですか? 実は私も、少し見ておきたいものがありまして」

「ああ、もちろん構わない。一人で行くより退屈しなくて済む」

 

 俺たちは図書館を後にし、敷地内に併設されているというコンビニへと向かった。

 夕暮れ時の学内は、オレンジ色の柔らかな光に包まれている。だが、すれ違う新入生たちの雰囲気は、昼間よりもさらに浮足立っているように見えた。手にはブランド物のショップ袋や、最新の携帯ゲーム機の箱を抱えた生徒が何人もいる。彼らの顔には、分不相応な大金を手に入れた万能感がこれでもかと溢れ出ていた。

 コンビニで歯ブラシや歯磨き粉、洗剤といった日用品と食料品等をカゴの中に入れていった。 

 一回りしていると、妙なものを発見した。

 

「無料?」

 

 コンビニの隅に置かれた一部の食料品や生活用品。一見他のものと同じに見えるが大きく異なる点が無料の商品だ。

 タオルや絆創膏といった日用品が、無料と書かれたワゴンに詰められている。1ヶ月3点までと但し書きも添えられており、明らかに周りから浮いた異質さを放っていた。

 

「ポイントの使いすぎた人への救済措置でしょうか」

「またはポイントの支給額が少ない人への救済措置、か」

「あるいは……その『両方』、ですかね」

 

 椎名は人差し指を顎に当て、小さく首を傾げた。彼女の紫の瞳には、目の前の「無料ワゴン」の異質さを、純粋な好奇心とともに分析しようとする知的な光が宿っている。

俺たちはそのワゴンの前で、しばし足を止めて思考を巡らせた。

 もし先ほど先輩たちが口にしていた「クラスポイント」という概念が正しいのだとすれば、この学校における階級社会は想像以上にシビアだ。

 現在は全クラス共通で10万ポイントが支給されているが、成果や品行によってクラスのランクが上下し、最悪の場合は支給額が「ゼロ」になることだって有り得る。

 この無料の商品群は、学校側が用意した最低限のセーフティネット――餓死や生活破綻を防ぐための、言わば「配給所」のような役割を担っているのではないか。

 

「わざわざこんな目立つ場所に、しかも個数制限付きで置くということは……『これを使わざるを得ない状況になる者が必ず現れる』と、学校側は確信している証拠だな」

「ええ。それに、もしこのポイントがクラスの『実力』と連動しているのなら、不用意に浪費する人と、そうでない人の差は、来月には恐ろしいほど開いてしまうかもしれません」

 

 椎名は少しだけ表情を曇らせ、ワゴンに積まれた無機質なデザインの歯ブラシを見つめた。

 その通りだ。今、コンビニの他の中央棚で、高価な限定スイーツやブランド物の雑誌をカゴに放り込んでいるCクラスのクラスメイトたちの姿が嫌でも目に入る。彼らは10万ポイントという数字の全能感に酔いしれ、足元に掘られた深い落とし穴の存在に全く気づいていない。

 

「……私たちは、少し慎重に動いた方が良さそうですね、柊くん」

「ああ。ひとまずは、この無料の品には手をつけず、最低限必要なものだけを通常のポイントで決済しよう。ただ、このシステムが存在すること自体は、頭の片隅に叩き込んでおく必要がある」

 

 俺たちは互いに頷き合い、カゴに必要な日用品だけを収めてレジへと向かった。

 レジで学生証の端末をかざすと、電子音が鳴り、画面の数値が「100,000」から「96,420」へと減少する。

 減っていく数字を見て、胸の奥が微かにざわついた。この学校において、ポイントは単なる通貨ではない。自分たちの生存権であり、発言権そのものだ。

 会計を済ませてコンビニを出ると、外はすっかり帳が下り、群青色の夜空が広がっていた。敷地内を照らす街灯の光が、どこか現実味を欠いた未来都市のような冷たさを醸し出している。

 

「舐めてんじゃねぇぞ! あぁ!?」

 

 突如として怒鳴り声が聞こえた。揉め事か? 何事かと思い見てみると、赤髪の男子生徒が3人の男子生徒と対峙している。

 

「――あ、あれは……」

 

 ひよりが小さく息を呑み、微かな緊張が伝わってくる。

 視線の先、コンビニの裏手にある自販機コーナーの明かりに照らされていたのは、一目で「関わってはいけない」と分かる一触即発の光景だった。

 怒鳴り声を上げたのは、ひときわ目を引く鮮やかな赤髪をした男子生徒だ。鋭い目つきに、乱暴に開けられた制服の胸元。

 

「お前、1年のDクラスだろ」

「んあぁ! だから何だよ」

「おーひでぇ口の聞き様だな。上級生に対してよ」

「うるせぇ!!」

 

 赤髪の男子生徒は凄むが、3人の上級生は嘲笑を浮かべたままだ。

 初日からはまずいだろ。ほら、あそこに監視カメラがあるの気づかないのか。

 

「ふん、今日はここまでにしてやるよ」

「惨めのお前ら『不良品』をこれ以上苛めちゃ可哀想だもんな」

「逃げんのかオラ!」

「吠えてろよ。どうせお前らこれから地獄を見るんだからな」

 

 3人の上級生はそう言い、去っていた。

 遠ざかっていく上級生たちの背中を、赤髪の男子生徒は、今にも殴りかかりそうな形相で睨みつけ、近くの自動販売機を思い切り蹴り飛ばした。

 

 ドンッ!!

 

 夜の静寂を切り裂く、鈍く重い金属音が響き渡る。自販機は大きく揺れ、警告音の代わりに冷たい電子音を小さく鳴らした。

 

「チッ、ふざけやがって……!」

 

 彼は頭を激しく掻き毟り、吐き捨てるようにそう呟くと、俺たちの存在に気づくこともなく、肩を怒らせたまま学生寮の方向へと歩き去っていった。

 後に残されたのは、自動販売機の無機質な明かりと、そこに取り残された俺たちの静けさだけだった。

 

「……随分と荒々しい方でしたね」

 

 ひよりがそっと胸に手を当て、小さく息を吐き出しながら呟いた。その声には恐怖よりも、どこか深い観察の念が混じっている。

 

「椎名。質問いいか」

「? ええ、どうぞ」

「すまない。失礼な質問なんだが中学の時の成績はどうだった?」

「中学の成績ですか? 自慢ではないんですが、テストの成績は200人中10位以内でずっとキープしていました」

 

 あの先輩達はあの赤髪の男子生徒をDクラスだと見抜き、Dクラスは『不良品』、これから地獄を見ると言っていた。クラス分けにも意味があるとすれば試験の成績以外の言動の振る舞いやコミュニケーション能力、社交性、思考力、身体能力などといった実力でクラス分けが行われるとしたら? 

 点と点、いや、先ほどまで教室で組み立てていた仮説のパズルが、この一瞬で猛烈な勢いで組み上がっていく。

 坂上先生が言った「実力で生徒を測る」という言葉。

 そして、俺たちのクラスが『Cクラス』であるという意味。

 普通の高校におけるクラス分けは、ただのアルファベットによる記号であり、能力の差を示すものではない。少なくとも表向きは。しかし、この学校におけるクラスのアルファベットは、明確な序列だ。

 上からA、B、C、D。

 そして図書室を向かうときに偶々聞いた「Dクラスに落ちないよう」という上級生の言葉。ということは、クラスのランクは固定ではなく、実力に応じて変動する。

 さらに決定的なのは『クラスポイント』という単語だ。

 俺が疑念を抱いていた「毎月10万ポイントが無条件で支給されるはずがない」という謎の答えがここにある。

支給されるプライベートポイントの額は、個人個人の成績や素行ではなく、クラス全体が保有する『クラスポイント』に連動しているんじゃないか?

 もし仮に、初期値として各クラスに1000のクラスポイントが与えられており、それがプライベートポイントの100倍(あるいは100円換算)として支給されているのだとしたら。

今月の俺たちの手元にある10万ポイントは、クラスポイント「1000」の恩恵だ。

だが、授業中の私語、遅刻、スマホの使用――あの監視カメラがそれらを捉えるたびに、クラスポイントは容赦なく削られていく。

 もし、今月の俺たちの醜態によってクラスポイントが「0」にまで落ち込んだとしたら?

 来月1日に支給されるポイントは――文字通り、ゼロ。

「貧乏生活を送っているクラス」という言葉の裏にあるのは、ポイントを失い、学校から配給される最低限の無償品だけで食いつなぐ過酷な現実だ。

 俺の思考は、さらにその奥へと踏み込んでいく。

 もし、クラス分けそのものが『入学時点での生徒の評価』で決まっていたとしたら?

 椎名の学力は学年トップクラス。それにもかかわらず、彼女は最上位のAクラスでも、次点のBクラスでもなく、このCクラスに配属されている。

 この歪な配置こそが、学校側が提示する「実力」という定義の全貌を物語っていた。

 学力やペーパーテストの数値は、数ある評価基準のたった一要素に過ぎない。もし学力だけで全てが決まるなら、椎名は間違いなくAクラスにいるはずだ。だが現実は違う。

では、何が足りなかったのか。あるいは、何が「問題」と見なされたのか。

 目の前で自販機を蹴り飛ばしたあの赤髪の少年――彼はDクラスだと言われていた。そ して上級生は彼らを「不良品」と吐き捨てた。

 おそらく、Dクラスには問題児や、あからさまに素行の悪い、あるいは致命的な欠陥を抱えた生徒が集められている。

 ならば、我がCクラスはどうか。

 教室内を見渡した時の記憶が鮮明に蘇る。確かにお世辞にも治安が良いとは言えない、柄の悪い生徒が散見された。一方で、椎名のように知性的で穏やかな生徒も混在している。

 このアンバランスさの正体は――『平均値』、あるいは『一長一短の混成部隊』。

 

「……柊くん?」

 

 椎名が、俺の沈黙を心配そうに遮る。その紫の瞳には、俺の深刻な表情から何かを察知したような、微かな鋭さが混じっていた。

 

「私の成績が、何かこの学校の謎を解く鍵になりましたか?」

「……ああ。ただ俺の推測だから整合性を取ってとってみないと分からない。ひとまず帰ろう」

 

 そうして俺たちは雑談しながら学生寮へと足を進めた。ほどなくして歩いていると大きい建物が見えた。あれが今日から過ごす寮か。

 

「わぁ、とても大きい学生寮ですね」

「そうだな」

 

 俺と椎名は学生寮を見上げながら感想を言う。世間一般の学生寮はこんなに大きいものなのか。

 寮の中に入ると中はとても綺麗だ。1階フロントの管理人から410と書かれたカードキーと、寮でのルールが書かれたマニュアルを受け取り、椎名とエレベータに乗り込む。椎名は上の階と言う事なのでここでお別れのようだ。

 

「今日はありがとうな。付き合ってくれて」

「いえいえ、私の方こそ楽しい時間を過ごせて頂いたのでこちらもありがとうございました」

「じゃあ、また明日」

「はい!」

 

 そうして俺達は自分の部屋へと向かった。

 

 




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