「悪い、ここはどういう意味なんだ」
「どれどれ…………そうだな。著者が読者に伝えたい時は大体どのようなに書かれているのか、覚えているか?」
「えーと、確か、言い換え、具体例、対比、因果関係、だった、よな」
「そうだ。じゃあここは具体例という形で書かれているから?」
「……! そうか! ありがとう柊!」
問題の意味を理解したのかスラスラと答えを書いていく石崎。ふむ、凄いじゃないか石崎。正解だ。
中間テストまで残り一週間。石崎達の勉強は順調だ。この調子で試験を臨めば全科目70点以上は取れるだろう。昨日、軽く小テストを受けさせたが出来が良かった。
集中して勉強に取り組む彼らの光景から目を逸らし、読みかけの小説に目を落とす。やはり、静かな環境で読書するのは良い。
昼休みに図書館で黙々と勉強する石崎達の他にも、勉強している生徒も多く見られる。俺は石崎達に教えたり、問題を作るなどから復習として勉強している。決して勉強をサボっているわけではないぞ。今はテスト期間という事もあり石崎達の勉強を見ていて、椎名と過ごす時間が少なくなってしまった。はぁ、早くテストが終わって椎名と一緒に読書したいなぁ。
「なんだと!」
ページをめくり段々と小説の世界に潜り込んでいると、突如と図書館に怒声が響き渡る。
「すまん。ちょっと見てくる」
図書館の隅にある机で勉強中の石崎達と読書中の俺。余りにも声が大きいので様子を見に行く。そこには同じクラスである生徒とDクラスの生徒と揉めていた。
「本当のことを言っただけで怒んなよ。もし校内で暴力行為なんて起こしたら、どれだけポイント査定に響くか。あ、悪い、お前らは失くすポイントが無いんだったけ? 悪い悪い、てことは退学になるかもなぁ?」
「上等だ、かかって来いよ!」
クラスメイトの山脇の言葉にDクラスの生徒が吠える。静かな図書館、周囲から注目されるのは当然か。
このまま事態が悪化すれば教師の耳に入ってしまう。
「彼の言う通りよ。ここで騒ぎを起こせば、どうなるか分からない。最悪退学させられることだって、あると思った方がいいわ。それからあなたCクラスでしょう? 正直自慢できるようなクラスではないわね」
同席していた女子生徒が言う。
「C〜Aクラスなんて誤差みたいなもんだ。お前らDクラスだけは別次元だけどなぁ」
確かに0クラスポイントであるDクラスはちょっとあれだが流石に誤差は言い過ぎだ。
「随分と不便な物差しを使っているのね。私から見ればAクラス以外は団子状態よ」
「1ポイントも持っていない不良品の分際で、生意気言うじゃねえか。顔が可愛いからって何でも許されると思うなよ?」
「脈絡もない話をありがとう。私は今まで自分の容姿を気に掛けたことはなかったけど、あなたに褒められたことで不愉快に感じたわ」
「っ!」
机を叩き、山脇が立ち上がる。
彼らを様子見していたが、誰も注意しないから行くしかないか。何より、石崎達に他の生徒の勉強と読書の妨げになるからこれ以上は無視するわけにはいかない。図書館を静かにするのがルールだ。
「山脇、これ以上は騒ぐな。騒動の要因として上げられたらどんなペナルティーを食らうか分からない。もしクラスポイントが下がったらどうする? 龍園から制裁を与えられたいのか?」
俺の注意に山脇が顔を青ざめる。大半のCクラスの生徒は龍園に恐怖している。山脇も例外では無い。騒動を収めるにはこれが効果的だ。
「わ、悪い柊。あまりにも不良品が煩くてよぉ」
「んだとっ!」
山脇の挑発にDクラスの生徒がキレる。
おい、余計な挑発をするんじゃない。それにいちいち挑発に乗るなよ。沸点が低いなぁもう。
「はっ今度のテスト、赤点を取ったら退学って話は知ってるだろ? お前らから何人退学者が出るか楽しみだぜ」
「残念だけど、Dクラスから退学者は出ないわ。そう驕っていると足元をすくわれるわよ」
「く、くくっ足元をすくわれる? 冗談はよせよ。俺達は赤点を取らないために勉強しているんじゃねぇ、より良い点数を取るために勉強してんだよ。お前らと一緒にすんな。そもそも、フランシス・ベーコンだとか言って喜んでるが、正気か?」
「フランシス・ベーコン? 俺の記憶が正しければそれはテスト範囲外なはずだぞ」
「え?」
中間テストの範囲が変わってその問題は出題されない。どういうことだ?
Dクラスの生徒達を見れば、混乱している。
「テストの範囲もろくに分かってないのか? やっぱ不良品だな、お前らは」
「いい加減にしろよ、コラ」
Dクラスの生徒はもうキレる寸前なのか、既にキレてしまったのか、山脇の胸倉を掴み上げた。
「お、おいおい、暴力振るう気か? マイナス食らうぞ? いいのか?」
「減るポイントなんて持ってねーんだよ!」
Dクラスの生徒、ややこしいな。ここは赤髪の生徒と呼ばせてもらう。
赤髪の生徒は腕を引いた。あっやばい、これは殴るモーションだ。どれだけ沸点が低いんだよこいつはっ。
俺は山脇の顔目掛けて殴る拳を片手で受け、その勢いを下に流す。少々周りが驚いているように見える。ここでの暴力沙汰は看破できん。やるなら、他の場所でやれ。
「おい、山脇。挑発が過ぎるぞ。これ以上騒がれるのまずい。龍園の耳に入りたくなければ直ちに退出をおすすめする」
「わ、悪い。わ、わかったよ。いこうぜ」
「お、おう」
山崎ともう一人いたクラスメイトを連れてこの場を去って行った。
全く、困ったもんだ。
「うちの生徒が迷惑をかけた。申し訳ない」
Dクラスの生徒達に頭を下げる。元を言えば山脇が彼らをDクラスだと見下し、過度の挑発に招いた結果がこれだ。謝れずにはいられない。
「えっと、いいよいいよ。でも聞きたいことがあるんだけどいいかな? さっき、テスト範囲外って……言ってた、よね?」
「あれはテスト範囲外だぞ」
「……どういうこと?」
彼らは顔を見合わせる。え? 本当に知らないのか?
おかしいな。全科目テストの範囲が変わったのは先週だ。フランシス・ベーコンと言ったら大航海時代でそれはテスト範囲外になったと発表された。Dクラスだけがテストが違うのは考えにくい、学年で統一されているはずだ。……Dクラスの担任の先生は何を考えているんだ?
「じゃあ、大航海時代はテスト範囲外ってこと?」
「……先週、全科目テスト範囲が変更されたと発表されたぞ」
「はぁ!? そんな話聞いてねぇぞ!」
彼らを見る。如何やら、本当に聞かされてないようだな。
「その感じだと、担任の先生から聞いてないんだな」
「ええ、テスト範囲が変わったのは聞いてないわ。変わった場所を教えてくれるかしら?」
「あぁ、構わない」
テスト範囲が書かれたプリントを見せてきたので、胸ポケットに差し込んだボールペンを取り出しテスト範囲を訂正していく。敵に塩を送る行為だが、山脇の件もある。迷惑をかけた詫びだ。
「おい! マジかよ! 全然やってない場所かよ!」
Dクラスには同情する。中間テストまで残り一週間、過去問などの攻略法が無ければこのままだと退学者が続出だ。
ま、テスト範囲は教えた。流石に過去問のことは教えられない。
「俺はこれで失礼する」
彼らにそう言い残し、石崎達の元へと戻る。
あーあ、昼休みが終わるまで、後10分を切った。これも山脇のせいだな。
「すまない、今戻った」
戻ると昼休みが終わるからか、石崎達は勉強を切り上げている途中だった。
「遅かったな。何があったんだ?」
俺は先程の起こったことについて簡潔に説明する。
「山脇の野郎……! 余計なことをしやがってっ」
「龍園さんに報告だな」
「だな」
石崎達は龍園に報告する気満々だ。山脇が龍園に制裁を与えられる未来を想像する。うん、自業自得だ。
「とりあえず、教室に戻るぞ。もう昼休みが終わる」
時間を確認すれば、昼休み終了まで6分だ。
俺達はさっさと荷物をまとめ、早足で教室に戻るのであった。
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