データでしかないEx-Sガンダムはインパルスを睨みつけ、背部の巨大ブースターを吹かす。
モビルアーマー時と比べれば加速力は落ちているが、それでも充分に相手は早い。
大きくて重たい重量を大出力の推進力で強引に突き動かす。
眼前に迫るガンダムにインパルスはビームライフルを向けて発射した。
だが放たれたビームは見た目にそぐわない俊敏な動きでガンダムに避けられてしまう。
「見た目に似合わない動きをしてくれるわね」
続け様にトリガーを引くルナマリア。
しかしガンダムのスピードに照準が追いついておらず、ビームは機体の後ろを通り過ぎてしまう。
ガンダムは頭部に設置してある丸い円柱、インコムを射出し右手のビームスマートガンを向けた。
戦艦の主砲並のビームがインパルスに飛来する。
「いくら威力が強くても当たらなかったら!!」
バックパックから青白い炎を吹き出し回避するインパルス。
ビームは明後日の方向へ飛んで行き簡単に避けるも、有線式兵器が背後から迫っている。
ルナマリアはそれに気が付く事が出来ず、低出力のビームがバックパックに直撃した。
コクピットのディスプレイに『シルエット損傷過多』と表示される。
「後ろから!? どうやって!?」
初めて戦う相手の武器に翻弄されてしまうが、卓越した操縦技術を持つ彼女はすぐに体制を立て直し次の行動に打って出る。
エネルギーを使い果たしたインコムはケーブルを巻き戻されてガンダムの頭部に収まる。
「あの頭の変なのでやったって訳ね。要するに見えなければいいのよ!!」
自分がされた事と同じ事をやり返そうと、インパルスのシールドをガンダムへ投げる。
攻撃を防ぐしか出来ないシールドは投げた所で装甲をへこます事も出来ず、左腕に簡単に弾き返された。
「そこよ!!」
ビームライフルの銃口を宙に浮くシールドへ向けトリガーを引く。
アンチビームコーティングが施されているシールドは発射されたビームを屈折して反射し、ガンダムを通り過ぎたビームは反射してバックパックに直撃した。
機転を利かせた彼女の戦術は以前にシンがフリーダムと戦闘した時と同じ事をしているが、その事をルナマリアは知らない。
「直撃したのに、まだ耐えられるって言うの!? どんな装甲してるのよ」
ガンダリウム合金の装甲は無残にも破壊されてしまうが、致命傷には至らなかった。
両膝のニークラッシャーからインコムを射出するガンダムに、同じ失敗はするまいとケーブルの先端の動きを視野に入れ見失わいようにする。
だがガンダムの武器はインコムだけではない。
ビームスマートガンを片手に、容赦なくインパルスに砲撃して来る。
フォースシルエットが損傷した状態では機動力と運動性能が致命的に低下し、長い時間相手の攻撃を避け続けるのは難しい。
アンバック制御と僅かしか使えないスラスターで右へ左へとビームを避ける。
「ピンチってやつね、近づく事も出来ない。でもこんなのに負けてて赤は務まらないわ!!」
回避行動に集中するルナマリアだが、このままでは負けてしまうのは明らかだ。
インパルスの周囲を飛び回るインコムも鬱陶しく、なかなか攻撃には転じられない。
ガンダムは大腿部のビームカノンも駆使してビームの弾幕を張り、動きの鈍い今を狙って確実に仕留めに来る。
ビームカノンは命中精度も連射速度もビームスマートガンよりも良く、連続して2発ずつ発射されて避けるだけでも難しかった。
そして目の前に集中し過ぎる余り、死角からの攻撃を読めない。
限界に近いバックパックから推進力を生み出し、ビームスマートガンのビームを左へ何とかやり過ごした。
ところがビームは射出されていたインコムに当たると、さっきルナマリアがやったようにビームを屈折させる。
通常のインコムと違いこのインコム、リフレクターインコムには攻撃能力は付いていない。
機体が撃ったビームを反射させて、敵の意表を付いて撃破する為の武装。
反射したビームはもう1個のリフレクターインコムに反射されてインパルスの下方からビームが襲いかかる。
「ハッ!?」
気が付いた瞬間に機体を制御するが既に遅く、ビームはインパルスを貫いた。
それでも辛うじて間に合っており撃墜はされておらず、両脚部の膝から先がなくなってしまう。
「油断した!! さっきアタシがやったのと同じ事を!!」
足がなくなってしまえば姿勢制御も出来なくなり、インパルスはただの的になってしまう。
ケーブルに繋がれたリフレクターインコムを巻き取りニークラッシャーへ格納させ、ビームスマートガンを向ける。
大出力のアレを直撃すれば確実に負けてしまう。
コクピットのディスプレイ全体にビームの青い光が映し出される。
「まだ負けた訳じゃないわ!!」
コアスプレンダーからチェストフライヤーを分離しビームの直撃だけは回避した。
それでも残された上半身はヴァリアブルフェイズシフト装甲を簡単に撃ち抜かれ爆発の炎に包まれる。
「チェストフライヤー、レッグフライヤー射出!! ソードシルエットを!!」
小型戦闘機のコアスプレンダーで逃げる。
無防備なこの状態では戦闘力の差で攻撃も回避も出来ずにやられてしまう。
敵に背を向けて逃げながら、ドッキングする為のパーツが来るのを待つしかない。
ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE
逃げる?
戦いに来たのに逃げるのは何故?
逃げるならどうして戦うの?
私はプログラムにしか過ぎないのに、怖がっているの?
痛みを感じないこの戦いで。
ならば何故、戦おうとしたの?
逃げようとするの?
アナタが戦う理由が、私には理解出来ない。
ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE
「追ってこない? 何で……」
後ろに振り返りながら、攻撃もしなければ追いかけても来ないガンダムに疑問を浮かべる。
だが目下の目的は戦える状態になる事であり、そんな事は頭の隅へ追いやった。
レーダーで各フライヤーの位置を確認し、相対速度を合わせてガイドビーコンを照射する。
チェストフライヤー、レッグフライヤーとドッキングしモビルスーツ形態へなると、背部にソードシルエットのバックパックを装着させた。
灰色だった装甲に電力が供給され赤と白を基調とした装甲に色に変わる。
インパルスの全長程はあろうかと言うレーザー対艦刀、エクスカリバーを連結させてメインスラスターのペダルを踏み込む。
ガンダムに接近戦を仕掛けようとソードインパルスで前に出る。
「接近さえ出来ればアタシが有利。面倒な武器を使われる前に勝負を決めてやるわ!!」
背中からビームブーメランのフラッシュエッジをマニピュレーターに掴み、左腕を横へ大きく振りかぶって投げた。
ピンク色の丸い円は大きく回りこみながらガンダムへと迫るが、ボディーを横へ向けて上半身を反らせて簡単に避けられてしまう。
ガンダムは再び戦いを挑みに来たインパルスを視界に収めビームスマートガンを握るが、フラッシュエッジが回転したままもう1度戻って来た。
背後へ振り返って撃ち落とそうとするが、それよりも早くに握っているビームスマートガンを2つに分断する。
「はあああァァァッ!!」
連結させたエクスカリバーを握ったインパルスが目前へと迫る。
モビルスーツが扱う武器としては巨大なエクスカリバーを軽々と振り上げ、白い装甲を切断しに来る。
「貰った!!」
ルナマリアは確信を持って叫んだ。
だが次の瞬間、ガンダムのツインアイが不気味な赤色に変わる。
ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE
人は何の為に戦うの?
勝ちたいから、負けたくないから。
そんなモノにどんな意味があると言うの。
なら私はこのまま負ければいいの?
それは出来ない。
負ければ私は消えてしまうのだから。
ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE
膝裏からビームサーベルを引き抜き、エクスカリバーを受け止めるガンダム。
エネルギーがぶつかり合い激しい火花と閃光がほとばしる。
膠着する2機だがガンダムはニークラッシャーを強引にインパルスの腹部に叩き付け距離を離す。
「やってくれるわね!!」
キツイ衝撃に姿勢を崩すインパルスを制御するルナマリアだが、その時にはもう目の前に相手は居た。
「そんな!?」
頭部をマニピュレーターで殴り付ける。
ヴァリアブルフェイズシフト装甲のお陰でダメージはないが、敵にいいようにされていて反撃出来ない。
何度も何度も殴られ続けルナマリアは良い気はせず、何とか状況を立て直そうと動く。
「このぉ!! 舐めたマネを!!」
イーゲルシュテルンをフルオートで発射し空になった薬莢が大量に放出される。
弾丸は装甲に当たるが1発だけではそこまで威力はない。
それでも弾切れになるまで連射し続けスプリッターカラーの装甲がへこみ、キズが付き、少しずつ損傷する。
耐え切れずに腕で守りに入るガンダム。
ルナマリアはその隙を逃さずエクスカリバーを振る。
ガンダムのツインアイがさらに怪しく、赤く輝く。
(動きが……変わった……)
エクスカリバーがガンダムに届く事はなく、ギリギリの所で腕を掴まれて止められる。
それでもレーザー刃が装甲を掠めてジリジリと首元を溶かす。
ルナマリアは操縦桿を全力で押し倒そうとするも、どれだけ力を入れてもビクともしない。
「くっ!? どうして!!」
ガンダムの青いビームサーベルがエクスカリバーを握るインパルスの両腕を溶断する。
「マズイ!?」
そう思った時には既に遅く、ガンダムは逃げる時間など与えてくれない。
メインスラスターを吹かして後退しようとするが、損傷したブースターでもガンダムは追い付いてくる。
ビームサーベルで袈裟斬りされ避けるスペースはない。
瞬間、ルナマリアの指が咄嗟に反応した。
レッグフライヤーを分離させ、ビームサーベルの切っ先が開いた空間を斬り裂く。
分離してコアスプレンダーで脱出しようと考えていたが、張り詰めた緊張と完璧には慣れていない機体の操作ミスでこうなってしまった。
目を見開き相手の動きを見る。
極限の緊張感はルナマリアにスローモーションで動きを伝えて来る。
仕留め損なったガンダムはバーニアの加速のせいでインパルスを通り過ぎてしまう。
ルナマリアはレッグフライヤーとドッキングし直し、背中を見せるガンダムを蹴った。
重たいボディーは流されて行く。
「今の内に!! チェストフライヤー、フォースシルエット!!」
ミネルバから予備のパーツを呼び出す。
両腕を切断された状態では戦う事は出来ない。
だが度重なる換装に、インパルスのパーツはこれが最後だった。
ルナマリアは承知の上で最後のドッキングをする為の時間を稼ごうとする。
必要のなくなったチェストフライヤーを分離させ、流れているガンダムに目掛けてオートで発射させた。
アンバック制御で立て直したガンダムに、メインスラスターを吹かせマニピュレーターのなくなった上半身だけのインパルスが抱き着いて来る。
邪魔だと言わんばかりに頭部を引っ掴み、胸部にビームサーベルを突き立てた。
メインスラスターの推進力が弱まって行き力を失くしていくインパルスを投げ捨てようとした時に、ビームライフルの砲撃がガンダムを襲う。
回避行動に移ろうとするが、目の前に漂うインパルスが邪魔になって相手の攻撃が見えにくい。
バッテリー電力も底を突き、装甲の色が灰色になる上半身にビームが直撃し大きな爆発を起こすと、ガンダムを炎が包み込む。
フォースシルエットに換装したインパルスが使えなくなった上半身をビームで破壊したのだ。
「何とか間に合ったわね。でも、このくらいでやられる相手じゃないか」
赤い炎を球体を見つめるルナマリアは、まだ勝利を確信していない。
その奥に潜む相手はまだ生きていると感覚で理解出来た。
両手で操縦桿を握り直し、ディスプレイに映る炎を見つめる先でツインアイが赤く輝く。
「そう来なくっちゃ!! でも、これで終わらせるわ!!」
ペダルを踏み込みメインスラスターを吹かせて前に出るインパルス。
眩い炎の中から影として現れたガンダムは至る所が損傷している。
焼け焦げた装甲、使えなくなる武装。
優れた強度を誇る装甲でも無事には済まなかった。
ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE
人が戦う意味。
闘争本能、相手の支配、生きる為。
彼女はこの『闘争本能』で戦っている。
では、私は?
プログラムに闘争本能は存在しない。
相手の支配などと、そのような感情は生まれない。
なら私が戦うのは生きる為?
言葉も発せない、歌う事も出来ない、触れ合う事も出来ない。
こんな私が戦う理由は?
その答えを導き出す為に私は生まれた。
ALICE ALICE ALICE ALICE ALICE
ご意見、ご感想お待ちしております。
次話で最後ですので。
11日21時に更新。