サード・パーソン・シューティングゲームを複数のプレイヤーが協力して、敵対するプレイヤー達と勝敗を競い合うゲームは、九年間という年月を経て終わりの時を迎えた。
ガンダム好きのゲームプレイヤーにとって、自分の好きな機体(※望むものが必ずしも登場しているとは限らない)で戦える興奮は多くを魅了した。
「こんなクソゲ―、長くは続かない」
そう言われ続けて七年か八年の節目を迎えたある日の事。
ガンダムオンライン…長いからガンオンでいいか、ガンオンの運営(三代目か四代目)は突然こんな告知を載せた。
【サービス終了のお知らせ】
※詳しくは下部「重要なお知らせ」をご確認ください
それを見たガンオンプレイヤー達の反応は様々である。
あまり良くない噂を聞きながらも興味本位で入ってきた新規勢は唖然とし、長い間ガンオンに居続けた古参勢は「ようやくか…」と達観した表情でそれを見ていた。
とっくの昔にガンオンに「クソゲ―」の烙印を押して引退したプレイヤー達も根強く居るプレイヤー達と同様の反応だった。
2022年の3月末をもって、ガンオンはその歴史を終える。
嘆きの声を上げるの多くはガンオンが無くなった事に嘆いているというよりも、ガンオンが無くなる事で、次の居場所となるオンラインゲームを探さなければならない事に嘆いていた。
彼らの多くは懲役20分のガンオンも時間潰しに便利だった事や「こっちがゲームの本体」とまで言われるロビーチャットで他愛もない話に興じていることがそれなりに楽しかったのだ。
筆者もそんな内の一人…否、古参と呼ぶにはあまりにも中途半端な時代にアカウントを作り、他のゲームから取った名前をプレイヤーネームに設定して、オンラインゲームあるあるの「理想の自分」キャラ作りに勤しんでいた。
最初は純粋にゲームを楽しんで、その内に趣味の合う者達と巡り合って、ゲームをプレイしながら趣味の話で盛り上がる…そんな毎日が、ずっと続くと思っていた。
それこそあり得ない事だと、気づいたのは大分後になってから。
ある日を境に同好の士で集まった部隊のリーダーがログインしなくなっていた。丁度その頃はガンオンだけでなく、別のゲームで通話アプリを通じて集まってプレイしていたりしたのだ。
それから一人、また一人と減っていき…終いにはこんな事を言われた。
「もうガンオンの話をするのは止めてくれ」あの時はどうしてそんな事を言われたのか理解出来なかったが、今となっては理解出来る。
人は自分が興味ある話以外を耳に入れる事を極端に嫌う。
日常で響き渡る政治の下らない街頭演説や廃品回収のお知らせ、近所の奥様井戸端会議、動画サイトのくっそどうでもいい広告(強制)…彼らにとってガンオンに関する話がそれらと同レベルになっていたのだろう。
ガンオンを辞めた理由は至極単純「つまらなくなったから」
ゲーム性に変化がある訳でもなく、20分間延々と似たようなマップで戦って、新しい機体が増える度に環境に自分の育てた愛機がついていけなくなる。
そんなガンオンをクソと呼んで辞めていくプレイヤーは後を絶たなかった。
最終的には筆者もその一人になってしまっていた。
リーダーの代わりとなって自分だけでも居続けようと変に意地を張っていたにも関わらず、些細なことがきっかけでガンオンをやらなくなっていた。
だけどやらなくなって暫くすると、心の隅でまたプレイしたい欲が出てきた。
これは作者だけかもしれないが、そうやってログインしてプレイを再開すると、また飽きてきて辞めてを繰り返す。
自分の事ながらそれが面白くて、辞めろと言われていたのに何度もガンオンの話をしてしまった。
その内、通話アプリにすら顔を出さなくなってしまっていた。
これは筆者の性格の問題かもしれないが、新しい事に挑戦的にはなれない。
一度火が点けば何処までも燃え上がる心は、中々火が点きにくいのだ。
そうして子供だった時代が終わって大人になって、気づけば慣れない社会の中で精神をすり減らしていく内に、大好きだったゲームすら手を出す機会が減っていた。
これが大人になるという事ならあまりにも残酷じゃないか。そう思わずにはいられない。
…話が逸れたので戻すとしよう。
ガンダムオンラインサービス終了の知らせを聞いてから、筆者は慌ててログインするようになったが…既に部隊は数人しかログインしていなかった。
作者も古参勢に混じってロビーチャットでその場限りの他愛もない話に花を咲かせるのが日課となった。
時は進んで最後の日、筆者もその日は珍しく仕事が定時で終わり、いつものように適当にゲームで時間を潰してから寝ようと思っていた。
ふと画面端に映るアイコンを見てガンオンを立ち上げ、偶然にも今日の22時がサービス終了時間である事を知る。
碌な思い出作りも出来ず、自分から「最後くらい大将になって専用機取るわwww」と大口叩いておきながらそれすらも出来なかった。
それでも、とガンオンを立ち上げていつものサーバーに入る。
するとサービス終了の告知がされた時ですら集まらなかったゲームプレイヤーの総人口数が4000人近くになっていた。
桁一つ盛っている可能性も考えられたが、ロビーチャットのログの流れが早かったことから確実に1000人は居ても不思議じゃなかった。
部隊のマークが点滅していて「鹵獲機の期限切れてたか」と思いながら開くとチャットの欄に幾つかのメッセージが新しく投稿されていた。
それは半幽霊と化した後も部隊に残り続けたプレイヤー達の別れの挨拶だった。
「――――――」
ふと視界が滲んでマウスを握る手を離し、目元を擦ると涙が出ていた。
馬鹿々々しい事だと周りが見たら笑うだろう。実際かーちゃんは俺を見て笑っている。
それから一度だけゲームをプレイして、誰と何を話したかはあまり記憶にない。
ただゲーム画面の後ろで何気なく流したガンダムの曲が、涙腺を刺激する。
もうガンダムというコンテンツからも離れていたというのに…
この作品に多くの事を教えられたような…でもあんまり役に立ってはいないような…
ついでに言うとガンオンには大事なものをかなり盗まれたと思っている。
主に時間と労力と熱意。ガンオンに割いていた時間を筋トレか読書に振っていればもっと有意義な時間の消費が出来ていたに違いない。
…今更だが、ずっと部隊に残っていればよかった。
新しいものを無理に知ろうとして、人と話すことすら避けるようになった今の自分を見ていると、そう思わずにはいられない。
けれども、ああ……どんなに後悔しても何もかも遅すぎる。
嬉しいやら悲しいやら、切ないやら…感情がこみ上げてきたのを最後にガンダムオンラインは最後の時を迎え…そして呆気なく消えた。
偶然にも消える直前に最後のロビーチャットに投稿された、あるプレイヤーの発言が目に留まり、暫く笑っていた。
何はともあれ…このゲームをプレイして、良かったと思う。
[22:00.09] ???:ガンオンから逃げるな