話は少し遡る。
7月30日、あと残り数日で八月に突入する日に俺は放課後、一人の女子生徒に呼び出された。
呼び出されたからと言って行く理由は特にないが、断る理由の方も無いので、まぁこれも青春かと素直に待ち合わせの場所に向かう事にする。
洒落た店内、その中にある完全個室の一室、そこに入ると、既に俺を呼んだ少女は座っており、その隣で面識の無い女子生徒が座っていた。
「お待ちしておりました、倉上くん、どうぞ座ってください」
「ああ、それで早速だが要件はなんだ?」
「ふふっ、その前に少し、お話ししませんか?私の隣の“お友達”もご紹介したいですし」
お友達ねぇ……様子から見るに、純粋な友達って訳ではなさそうだ、なんか弱みでも握ってるのだろうか、まぁ別に関係無いからいいか。
「神室真澄……よろしく」
と言ってそれきり口を閉ざした、どう考えてもよろしくする気が無いが、まあ俺もそこまで興味はない。
にしても美少女だな、俺の脳内フィルターが魔法でやられてなければ、この学園にはほぼ全ての女子生徒が容姿に優れているのだが何事だ。
まあいいや、可愛くないより可愛い方がテンション上がるし。
「CクラスとDクラスとの決着は少し予想外でした、Dクラスにも面白い方が居るかも知れませんね」
「かもな、俺としては少し物足りない結果だったが」
「理由を聞いても?」
「重箱の隅をつつけばCクラスをもう少し追い詰められた、まぁ最も、Cクラスがそれをされてただ黙ってる訳では無いだろうがな」
「龍園くんは中々、ユニークな考え方をしますからね?」
訴えを取り下げた後、別の事件を作る、そうしてCクラスと再度争う……綾小路がもう少し積極的に表に立っていたらそうしても良かった、だが綾小路はそれをしなかった、最も本当に不味い犯罪事件が起きたのだから、それをする時間が無かったのもあるかもしれないが。
綾小路の考えが少しだけわかる、恐らくだが、Dクラスを成長させていこうとしているのだろう、だが表立ってリーダーをしないのは効率が悪い気がする、何か理由があるのか?
まあ過ぎた話はこの際考えないようにしよう。
「倉上くんにはお願いしたい事があります」
「聞くだけ聞いてみようか」
「ふふっ、ありがとうございます……近日中、特別試験がある噂を聞きました、豪華客船でのバカンスみたいですよ?」
まじ?
そういえば星之宮先生が夏は島でのパカンスよ〜!みたいなこと言っていた気がする、成る程ね。特別試験……無人島でも行かされるのか?
しかしそれで、俺に何して欲しいのか全く読めないな。
「そこで起きる試験で、Aクラス……正確には、私と別の派閥のリーダー、葛城くんを窮地に立たせて欲しいのです」
「ふむ、訳は?」
「リーダーは二人も要らないでしょう?」
そう言ってくすくすと笑った後に紅茶を飲む様は実に絵になる、しかしそうか、坂柳はAクラスのリーダーになりたいらしい。
いやもうなっているのか?それで、もう一人のリーダーが邪魔だから排除したいのか、中々独善的だな。協力し合えばいいと思うのだが、見るからにプライドが高いタイプの天才だし、自分一人がリーダーじゃないと落ち着かないのだろうかね。
さてどうするか。
Aクラスを攻撃する、つまりはBクラスにとっての理でもある。現時点でAクラスは唯一、四桁のクラスポイントを保持している、正直いえば一強だ。
このポイントのアドバンテージを失ってまでも自分の派閥を増やすような動きを取るというのは中々、先を見据えているな。
「報酬は?」
「倉上くんが何をしようと、私達の派閥は何もしません、それどころか協力もしますよ、足りませんか?」
「足りないな、俺はクラス同士の争いに左程興味が無い、明確に提示できるモノが無いなら葛城という男を攻撃する理由にならない」
そういうと神室と名乗った女子生徒は少し驚いた様子で見つめてくる、Aクラスの特権に興味の無い無い生徒に会ったのは初めてか?結構いるけどな、特に俺が一番仲良いと思ってるDクラスの友達はそれに当てはまるし。
「Bクラスはそれでいいわけ?」
「さぁ?俺は俺だしな」
「呆れた、そんな心構えでこの先やっていけると思ってるの?」
「挑発して俺から言質を取ろうとするならもう少し攻め口を変えた方が良い」
この言葉に坂柳の表情が一瞬だけ変わった気がする、早過ぎて錯覚かと思ったが、これは多分、前以て指示されてたか?
それを悟られないような話の切り出し方はなるほど、この神室という女子生徒は芝居が上手そうだ、案外女優とか向いてるんじゃ無いだろうか?
「分かっていましたが、倉上くんを都合良くは動かせなさそうです……」
「それで?俺を試すのは終わっただろう、俺に何を報酬としてその依頼を受けさせる?」
坂柳有栖、今度は俺がお前を試す番だ。
俺の求めてる青春とは少し逸れるが、まだまだ高校生、成熟し切った天才達との会話は何度かしてきたが、天才の卵と交渉するのは俺が記憶している限り、これが初めてだ。
その天才性は、魔法使いとして30年以上生きてきた俺をどこまで楽しませてくれる?
「20万プライベートポイントはどうでしょう?」
「待って坂柳、それは幾らなんでも多過ぎでしょ」
「決して多過ぎではありませんよ神室さん、それで倉上くん、返答は?」
「俺はポイントに困ってない、よって拒否しよう」
「今後Bクラスが何かあれば、どのような事でも一度……いえ、二度協力すると言うのはどうでしょう」
「それを交渉として使うなら、俺ではなく一之瀬にするべきだな」
「では一度だけ何でも言うことを聞く権利というのは?」
「それを受けるとして、その発言に責任は持てるか?生殺与奪を俺に渡すことと同じだぞ」
「おや、私にひどいことをしたいのですか?」
「俺が四月最初に一目惚れしたのが坂柳だったならあり得たかもな」
「それはそれは……好意的に捉えるとしましょう」
そう言って紅茶を飲んだあと、坂柳は悲しそうな表情をした、そこに嘘も偽りもない、本当に悲しんでいる表情に
「……意地悪ですね、倉上くん」
「そうでもないぞ」
「倉上くんは私のお願いを全然聞いてくれませんね……?」
「聞くさ、俺が満足する報酬をくれるならな」
「倉上くんが私のお願いを聞いてくれるなら、私、倉上くんの言うことを聞くと言っているのに、それもだめ。悲しいです……」
「それは申し訳ないな」
「私で満足出来ないなら、神室さんはどうですか?」
「ちょっと、嘘でしょ坂柳……!」
「論外」
「それはそれでムカつくんだけど……」
泣き落としで俺が動揺しないのを理解したのか、直ぐに表情が元に戻った、やはり演技だったか、素晴らしい表情の作り方だ、自分の容姿を理解してなければ、あれだけ真に迫る顔は作れない。
俺という人間の習性、行動。原動力を理解出来るなら俺が欲しい答えはすぐに解る、それに対するヒントは既に坂柳は知っている筈だ。
先ずはそれに気付けるか、ここまでは茶番のようなもの、坂柳が俺に対して自分の実力の一部を見せているだけだ。
「……所で、前回のお話の時の宿題について、今答えてもよろしいでしょうか?」
「聞こうか」
「未知を既知として理解する。私にとっての未知とは何か考えました、この世で私がまだ知らないこと、宇宙や、生命について、そう言ったものについてです。でもこれは、倉上くんが求めてる答えでは無いと判断しました」
「それで?」
「倉上くんが私に求めてる答えを考えても、私は核心まで至れませんでした。その上で私は倉上くんの宿題に対してこう答えます」
「私にとっての未知は、倉上くんが私に求めている答えそのものである、と」
なるほど。
面白い解釈だ。
未知を既知として理解する、これに対する俺の答えは「魔法が存在すると理解する」ということだ、俺にとっては未知でもなんでもないが、魔法使いではない人間から見れば、これほど未知に満ち溢れているものはない。
化学では説明の付かない超常的現象、その最たるモノだと魔法を使った俺を既知として理解した天才の一人はそう解釈した。
合気道を極めた天才は魔法を見ても一切動揺しなかった、超常的現象を自らも起こせる程に合気道を極めたからこそ、瞬時に未知を既知に出来た。
俺を二度、窮地に立たせた天才である男は、自らに起きる怪奇現象、超常的現象に対して自らの手で暴き出した、魔法を魔法として理解する、これが出来た人間は今の所あの男しか居ない。
そして今目の前の少女は、俺の答えそのものが未知であると解釈した、ある意味これは正解で、そして不正解ではある、だが、その発言に生まれ持った天才である証を俺は感じた。
ここで俺が魔法を使えば、この少女はどう解釈する?
興味がある。
だがそれを確かめるのは無粋だ。
一先ず、俺はその答えに満足したのだから。
「私のお願い、聞いてくれますか?」
「改めて聞こうか坂柳、俺に何をして欲しい?」
☆
無人島生活二日目。
朝起きた俺はまだ寝ているクラスメイトを起こさないように静かにテントから出た後に、はてさて今日はどうするか、井戸の水で顔を洗った後に現状を整理した。
結論から言って、Bクラスは井戸のあるここをベースキャンプにする事を決めた、何人かのアウトドアに知識のある生徒が主体となって暮らしやすい様にしていく様だ。
このベースキャンプから近くにある俺の見つけたスポットと、もう一つ神崎が見つけたスポットを占有しつつ、基本的に他クラスの偵察などは最低限、確証が無い限りはリーダー当てに参加しないという事を一之瀬は決めた。
悪くは無い手だ、リーダーを白波にしたのは、俺としては少し不安だが、あほ娘なので。
まぁ占有の際は十数人で動いて、誰が占領したかわからない様にするとの事なので、余程人間観察の得意な人物じゃなければ見抜けないだろうけど。
俺と姫野が拠点に戻って大きな問題はやはり、Cクラスから流れてきた一人の男子生徒だった。
明らかに暴行の跡があり、本人曰くCクラスと揉めた際、龍園に殴られたと言っていた、殴られた事は事実だろう、その痕は誤魔化せない。
一之瀬なら疑いながらもほっとけないと言ってBクラスに囲うと思っていた。
Cクラスの男子生徒が一人で過ごすと言った時に、一之瀬は明らかに何か言いたそうにしていた。
それでも一之瀬はそのCクラスの生徒がBクラスの拠点から離れて、姿が見えなくなるまで声を掛けなかった。
「……どうしても金田くんがスパイかもしれないって思うと、ね。龍園くんなら、こういうことやって来そうなんだ」
少し暗い表情でそう言った一之瀬の判断は正しい、善性の塊であるとはいえ、一度龍園と表立って争う一歩手前まで行った経験がここに来て警報を鳴らしていたのだろう。
これを成長と捉えるには少し、一之瀬の人物像と比例しない、如何に危険性があろうと一之瀬帆波という人物は、怪我を負った生徒をそのままにするとは思えない。
Cクラスを危険と見てるのか、Bクラスを守りたいのか、Aクラスに上がりたいのか、どれも有りそうだ。
有りそうだからこそ掴めない、魔法の使わない俺の眼は30年の人生経験以上の事は解らない、30年の人生を長いか短いかどう捉えるかは人によるが、あくまで“魔法使いとして”に限る。
魔法使いとしての人間観察で見通せないならこれ以上はお手上げだ。
これ以上の思考は無駄になるから、これはもういい。
一通り整理し終えると、テントからBクラスの面々が現れた、神崎が俺の方の近づいてくる。
「おはよう倉上、寝起きが良いな」
「無人島は初めてじゃないからな」
「そうか……気にはなるが今話す話題でもないか、それより、今日は何をするつもりだ?」
「その言い方だと、まるで俺が何かするんじゃないかと言ってるように聞こえるな」
「その通りだ、信用していないわけじゃないが、お前はどうも、掴み所が無いからな」
そう言ってフッと笑う、こ、こいつ……顔が良いからって……っ!
一日目である程度欲しい情報は得れたし、今日はBクラスの手伝いをしようと思っていたが……そうだな。
ここは神崎に選ばせよう、俺をどう扱う?
「選択肢は何点かあるが、悩んでいる。俺の行動をお前が決めて良いぞ、神崎」
「倉上が何をしたいのかの内容によるな、聞かせてくれないか?」
「Cクラスへ接触するか、Bクラスで手伝いをするか、俺からの選択肢はこれだ」
「Cクラスに接触してどうするつもりだ?」
「行ってから決めよう、最も何処のスポットにいるかは解らないがな」
「……倉上。お前を信用している上で言う、Cクラスの動向を見てきてくれ」
なるほど。
「そうか、諸々が終わったらBクラスの手伝いを始めるとしよう」
「そうしてくれ、俺は昨日探索不足だった方を軽く見た後に一之瀬の手伝いを始める」
「わかった、それじゃあな」
さてはて、情報も無しにCクラスが何処にいるかを推察するのは難しいが、龍園翔という人物像を考えれば何点かは候補が上がる。
半ば直感のようなものだが、どうだろうか。
少し考え、俺は昨日と違って単独で行くことにした。
ランキング乗ってたみたいじゃーんいえーい。
多分明日は上げない(暇でない)ままえやろ、ほな寝ます(不健康)