5月初めのホームルーム、星之宮先生が珍しくまじめな雰囲気を漂わせて教壇の上に立っている。
いやまあ、いつもののほほんとした表情ではあるのだが、うーんあれは俺のタイプじゃないな……
「倉上くーん?何か失礼なこと考えてなーい?」
「そんなまさか、今日もばかそう失礼、あほ……まぬけ……うん、はい」
「ちょっと!酷い子ね!ぷんぷん!」
ぷんぷんっておまえ歳考えろよ……ごめん人のこと言えなかった、俺若返りしてんだった。
星之宮先生がこほん、と咳払いをした後に話を切り替えた。
「これからホームルームを始めるけど、何か質問あるかなー?」
「星之宮先生」
「はい一之瀬さん!何かな?」
「えっと、今月の振り込んでくれたポイントの件なんですけど、なんで65000ポイント何ですか?」
その質問に星之宮先生は答えていく、何故65000ポイントなのか、理由は本来は10万ポイント支給される予定だったのだが、遅刻や欠席、授業中の私語や携帯を弄るなどの行為で減点されていき。
結果的に35000ポイント失う事になったと言う事らしい、一部の生徒には思い至る事があったのか「まじか」と言った表情を隠せていない、だけどもこれを咎めることは出来ないだろう。
俺も魔法を制限していなかったらついつい魔法の研究をして授業所ではなかったかもしれないしな、しかしそうか、綾小路の言う通りになったな。
知っていたのかな?いや、知っていたら変えるようにするだろうし、そんなことはないか。
話の流れの中、星之宮先生は厚手の紙を取り出して黒板に貼り付けた、AクラスからDクラスの名前、それからその横に数字の記載。
なるほどそうか、これがクラスに支給される今月のポイントか。
Aクラス940、Bクラス650、Cクラス490、Dクラス0……これに100を掛けた数字が振り込まれるのか?いやそれより、違和感。
綺麗過ぎないか?何かの法則性を感じざるを得ない、俺の疑問と同じ疑問を抱えたのか、すぐさま一之瀬が星之宮先生に質問した。
「星之宮先生、なぜクラス毎にポイントの差があるんですか?」
「それはね一之瀬さん、優秀な順にクラス分けされているからです、優れた生徒はAへ、ダメな生徒はDへ。Bクラスのみんなは優秀な方だよっ」
……?
俺は綾小路がDクラスにいる事を知っている、彼の人間関係については知りようがないので省くが、今日の朝一でこのロジックに気づいていた節がある。初対面の時にぶつかった際、体幹がブレてなかった事も体を鍛えている証拠になる。
それがダメな生徒……?俺の知らない所で欠点があるのか?カラオケで俺より高得点を出すあいつが?ちょっと信じられないな。
それに、その話が本当ならAクラスには一之瀬以上に総合的に優れている高校生がいるってことになるんだが、まじか?
Aクラスの940ポイントだけを見ると、それは否定できないが。
……まあ、それ程考える事でもないか。
「それとね、この学校は卒業後に希望の進路を保証しているけど〜、その恩恵は卒業時にAクラスに在籍する生徒のみ受け取れるんだ」
その発言にクラスがざわつく、え、いやそんなにざわつく必要あるか?別に希望してる進路に100%行けなくなるだけで、受けに行くかは自由だろ。Aクラス以下は特定の進路に行けないとか言われてないし。
てか仮にそうだとしたら学校としてどうなの?って話だし、焦る必要はないと思うけど。
「このポイントの数値は毎月支給されるポイントに連動する他にも、各クラスのランクに反映されるから、頑張ってAクラス目指そ〜!」
と星之宮先生は言うが、うーん……俺個人としてはどっちでも良いか、卒業後に好きな企業や大学に行く権利は俺の場合いらないし、青春したいだけなので。
いざとなれば魔法使えば良いしね……ってまた魔法で解決しようとしてしまった、これではいかん、卒業後には魔法を使う生活に戻るとは言え、思考停止の原因になりかねない。
「それと、この前の小テストの結果貼るよ〜」
そう言って星之宮先生は小テストの結果を張り出した、パッと見て70、80が殆ど、60点台もいるけど50点以下は誰もいない。
まあ簡単な小テストだったしこんなものだよな、俺?90点、最後の3問だけめちゃくちゃ難しかったんだよな。
3問の内の一つは俺が高卒認定を取る時に出てきた問題だったからなんとか思い出して解けたけど他はてんでダメです、絶対高校一年生の範囲の問題じゃないだろアレ、解けるやついんのか?
いたわ、一之瀬95点じゃん、やっば。マジかよ、頭も良くて美貌も突き抜けているってじゃあ一之瀬は何を持たないと言うのだ。
流石いいんちょー、もしかして魔法使いか?知能強化の魔法を使っている?……有りえるな。
「赤点は居なかったけど、期末試験では赤点は一教科でも退学だから、気を引き締めるよーに!」
退学の言葉に少なからず生徒達はざわついた、一教科でもか、なかなか手厳しい。俺は多分大丈夫だけど他の人はどうかな?姫野とかどうだろう。
小テストは……お、80点だ、なら大丈夫そうだな。
まあホームルーム終わった後に一之瀬辺りが勉強会とか開きそうだし、俺から何かする事はないか。
ただあれだな、ちょっと気になったし俺からも質問するか。
「お、何かな倉上くん?はっ、もしかして私の美貌に……」
「んな訳ねえだろ出直してこいよ」
「あ“ん?」
「地が出てますよ先生」
「わあ!ごめんごめん、それで?」
「赤点の基準について教えてくれますか」
「んー、赤点はねえ、そのクラスの平均点÷2だよ〜」
なるほど、今回の場合は40点前後か。まぁそれならこのクラスの学力なら、勉強すれば退学者は出ないか。
しかしあれだな、退学ってこんな簡単に受理されるのか?これが普通の高校生の暮らしなのだろうか、いや多分違う気がする、もしかしてここは普通の高校生が来る学校ではない?
いやまあ、魔法使えない=普通だし、俺の思い違いか?どうなんだろう、よくわかんねえや、そういうことにしとこ。
「他には質問あるかな?……うん、それじゃあ今日も頑張ってこー!おー!」
☆
ホームルーム後、案の定一之瀬が期末試験をどう乗り越えるか、今後どうするかの話し合いを展開した。
結果から言えば、定期的に勉強会を開催すること、ポイントの節約を引き続き続ける事、ポイントに困る事があったりしたらその都度、一之瀬に連絡して預けてるポイントを使うことなどなど。
Aクラスに行くにはどうすれば良いかの話し合いについてだが、学力や先の話だが体育祭、後は部活の大会などで成果を出せばクラスポイントは上がるんじゃないかと一之瀬は結論付けた。
まぁそれも間違いないが……うーん、俺としてはそれ以外にもあると思うんだよな、まあこれをBクラスで発言したら、反感買いそうだし辞めといたが。
とまあ別段良くも悪くも纏まった話し合いになったとは思う、そうして改めてこのBクラスについて気付いたが、このクラスには正統派の考え方が多い。
競い合い、高め合い、正々堂々。それが全体としての流れだ、別にそれに思う事はない、好ましい。
ただどうしても魔法の深淵を触れた身としては、もっと非人道的……って言って良いかは少し俺の常識力が欠けているが、悪どい提案が出なかったのは、個人的にはどうかなと思う。
ほら、例えば恫喝とか……俺が海外生活をしていたときはやったりやられたりだったし。
あとは折角一之瀬がクラス全体のポイントを管理しているのだから、ポイントの少ない、例えばDクラスの生徒達に消費者金融的システムで金貸しをするのも、プライベートポイントを得るには良いと思ったんだが。
わいわいと話してる中にこんな会話を切り出せるほど俺は空気の読めない人間ではないと思っているから、言わなかったけど。
個人的に俺が気になっているのは、プライベートポイントはどこまで自由が効くのかだ、このポイントの自由度は、魔法の研究をしていた時と少し似ている感覚を思い出す。
だからまあ、放課後早々早速俺はBクラスから離れて星之宮先生の元に向かった。
答えてくれるかはわからないが、少なくとも無碍にはしないはず、仮にも先生だし、あんな不健全な空気を漂わせる、ある意味魔法使い染みている女性だけども。
「……ん?おお、綾小路じゃないか」
「倉上?お前も呼ばれたのか?」
「いや、教えて欲しい事を担任に聞きに来ただけだ」
「なるほどな」
「そうだ、綾小路にも聞きたいな、ずばり聞くが、ポイントはどこまで自由が効くと思う?」
「わからないな、倉上はどう思うんだ?」
「俺もわからん、だから聞きに来た、予想だと例えば、テストの点数とか買えそうじゃないか?」
「そうだな、可能性としては十分にあるだろう」
だよな、てかわからないって言いながら直ぐに俺の意見受け入れたよな綾小路、やっぱこいつ優秀だろ、え?なんでDクラスにいるんだろう、いや、他のDクラスの生徒誰一人知らないけど。
一度放課後に勉強について聞いたら普通に受け答えしてくれたし学力もあると思うんだけど、なんで?
すっげえ気になるけど、魔法使いとして秘密を抱え過ぎた俺は、自分がされて嫌なように、他人の秘密は出来るだけ探らない様にしようと決めたのだ。
仲良くなって行くうちに向こうから話してくれるだろ、それが友情なんだぜ、そして青春!
教員室の前で話し込んでいるのを不審に思われたのだろうか、教員室の扉が開かれる。
「あれー?どうしたの倉上くん、ついに気付いちゃった……?私の」
「綾小路、このうるさくて微妙にうざい胸だけは無駄にある色々と残念な教師がBクラスの担任だ、名前は覚えなくて良いぞ」
「お、おう?いや。言い過ぎだろ」
「殴るよ〜倉上くん?」
「よし綾小路、撮影任せた、教師が体罰をした証拠を取って2000万プライベートポイントぐらい踏んだくろう」
「冗談だよ?なにマジになってるのかな?かな?」
うぜ。
こんな茶番しに来た訳じゃないんすけど、なんかどうにもこの人弄りがいがあるというか、なんだ、会話しやすいんだよな。
口が裂けても絶対に言いませんけどね。
「えー、っと。Bクラスの先生、茶柱先生は居ますか」
「サエちゃん?サエちゃんなら〜……あ、おーいサエちゃ〜ん」
「何しているんだ星之宮」
廊下の向こうから出現してきたDクラスの教師と思われる先生、見たことあるな、日本史の先生じゃなかったか?Dクラスの担当だったのか。
茶柱先生は綾小路についてこいと言って、ここから離れようとする、それについて行こうとする星之宮先生の背後の襟を掴んで止めた。
「ぐえ、何するのよお倉上くん!」
「このあほ教師は俺があやしますね」
「ふっ、くく……!任せたBクラスの……倉上直哉」
「笑われた?!滅多に笑わないのに!」
お、無表情が取り柄の綾小路が僅かに困惑と微笑が混じり合った表情を一瞬だけ見せた様な気がする、どうだ綾小路、俺もユーモアがわかる男だろう?
また近いうちに遊ぼーな綾小路、さてさて切り替えよう、長い時間星之宮先生といたくないのでぱぱっと質問に答えてもらおう、それに早く姫野に会いたい。
「先生、ポイントはどこまで自由が効きますか」
「どうかな?私からは答えられないな〜?」
「じゃあ例えばBクラスの先生を別の先生に変えて貰う事はポイントで出来ますか」
「おいっ!例えが酷いよ、ポイント以前に絶対に許しません!」
「出来ないとは言わないんですね」
俺がそう言うと、のほほんと怒っていた星之宮先生の瞳の奥が光った様に思えた。
「こんな廊下で話す事じゃないから、場所を変えない?倉上くん」
俺はその言葉に頷いた。
空気が変わるような感覚、真剣になってきたか?なら俺もこの問答に本腰を入れるぞ、星之宮先生。
さて……魔法を使わない素の状態での俺の問答で、どこまで未知を解明出来るかな?
☆
星之宮先生に大方聞いた俺は、その問答の中で何個かの未知を解読して満足した。
面白い、このプライベートポイントはある種この学校に在学する学生全員が使える一つの魔法だ。
使い様によって姿形を変える所など正に俺の魔法理論に通ずるものがある、まさかここに来て、魔法研究の代わりになれる楽しみを見つけられるとは思わなかった。
青春、そして彼女を作りにきたのは変わらないが、それでも根っからの魔法バカの俺に、このppの仕組みは歯車がカチッとかみ合ったような感覚になる。
「ねぇ倉上くん、キミがBクラスの中心になったりはしないの?」
「青春が送れればそれで良いんで」
「リーダーも立派な青春だと思うなあ、私」
「ああまあ、ぶっちゃけると別に野望とか無いんすよね、Aクラスを目指すぞって強く思ってる訳でも無いし、競争心も人並みだ。他の生徒は知らないけど、この学校には楽しみに来ただけなので、卒業後とか心底どうでも良い」
もう話終えたので姫野を探しに行こうと思った時、星之宮先生は俺に問いかけた、解答のお礼として建前抜きに本心で答えたが、その答えに星之宮先生は珍しそうな目で俺を見つめてきた。
「初めてだなー、キミみたいな考えの生徒を持ったの」
「そうですか?結構普通だと思うんすけど」
「普通?あはは!本当に言ってる?」
「え、喧嘩?」
「んーっ、キミって年相応な感じしないよね、私とそう変わらない歳なんじゃない?なんちゃって!」
「ひどい冗談っすね」
正解です星之宮先生、俺の実年齢とそう変わりません、はい。
冷や汗かいたわ、変な所で勘鋭いなこの人、目利きがいいのか?プライベートポイントの問答の時の誤魔化し方といい、なかなか掴ませないな。
「じゃあもういいっすか、姫野に会いに行くんで」
「いってらっしゃーい、振られちまえー!」
「冗談でも言ってはいけない事を言ったな」
「はいはい、早く行きな!」
くそ、あの二日酔い女め、完全に最後はからかいにいきやがった、いつもなら俺がからかう側だと言うのに隙を見せてしまった。
まあいいや、今日の星之宮先生との対談は実に有意義だった、クラスを上げるのも下げるのも、プライベートポイントの使い方次第だと気付いたのは得難い。
俺は今日得た情報を今の所誰にも教えるつもりはない、独占する理由はさしてないがそれより、それを誰かが知ってしまった時のリスクの方がでかい気がする。
きっと俺以外にも同じ程度プライベートポイントについての考察をする者は現れる筈だ、そいつが表舞台に出るまでは、隠し続けていよう。
あ、でも姫野になら教えても良いかも。
話のネタになるし、俺はすげーアピールはモテるって聞きました。
よし!姫野に自慢しよ!
どこに居るかな〜〜〜!
担任メモ「なぜか私に対する当たりが強いし失礼!姫野さんと仲良さげ、応援してるよ〜!でも振られちゃえ!」