OMEN of STORM   作:あしゅけーね

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不殺の試練

「すまない、妖精よ。少々厄介事のようだ」

 

「たのしいことー?」

 

「いや、楽しいことではない。それでも力を貸してくれるか?」

 

「うん、いいよー」

 

 老人は語る。今しがた作られた森を前にして。

 試合が終わった直後で今だ観客の興奮も冷めやらぬ中老人は立ち上がり、鬱蒼と茂る森へ。

 

『ン、ンゴー』

 

「すまない、少し急用でな」

 

 警備のクレイゴーレムを振り切り、たった数分前に作られたはずの木々に数百年分の歴史が積み重なる歪な森へ飛び込んだ。

 そして木々に隠れる天上から声が響く。

 

「我らは十の災い、そして福音。抗え、打ち克て。世界が進むその時まで」

 

『おーっと!!ここで乱入者か!?』

 

 実況者の困惑する声が木々の合間をぬい伝え聞こえてくる。その声音からこれが予定された茶番ではないことが読み取れた。もっとも、それはこの森に降りてくる前からわかっていた事だが。

 

『八つの世界を懸けた戦いに、よもや新たなる挑戦者とは───』

 

 ここから見上げては極小の人影が二つ、実況席の方に降りていくのが見えた。しかし本当の試練は別にある。先程の予感が、音を立てて降ってきた。

 

ほう、長き命の元に降り立てば既に戦う用意がなされているとはな。であれば多くは語る必要はあるまい

 

 深き森の奥底を思わせるような緑色の外套を纏った大柄な老人がアマツの前に立つ。

 

「あのひとなーに?」

 

「分からぬ。だが戦うべき相手だ、妖精よ」

 

 両者武器を構える。妖精に寄り添う剣と、深緑を湛える大弓。

 

では、不殺の試練を始めよう

 

 老人の周りに浮かぶ翡翠色の六矢のうち一本がつがえられる。

 

ああ、しまった。礼儀として名乗るのを忘れていた。不殺の絶傑、エズディア

 

「アマツ。肩書きは……そうだな、フェアリーブレイダーとでも──」

 

 名乗り口上。戦士同士が相見えたとき交わし合うもの。いかなる信念、信条、信仰であれ戦士の間では神聖視され、ただその時ばかりは戦いを止めるほど。ただし、その場にいるのが戦士であれば。

 

 翡翠の矢が飛んでいく。戦士の名乗りを遮って。

 しかし躱されたそれは木々の合間を遠く飛び抜け森の中へと消えていき、そして新たな矢が一つ地面より浮き上がる。

 

ほう、今のを躱すか。完全に不意をつけたものと思ったが

 

 ここにいるのは狩人。泥に塗れて地に伏し、枝葉に絡めて木々に潜む。獲物相手に華々しい名乗りは上げず、たった一瞬のために数時間をかける。決して獲物を逃さぬよう、決して獲物に悟られぬように不意をつく狩人だ。

 

「妖精が教えてくれたのでな。さて、妖精たちよ。今一度問おう。力を、貸してくれるか」

 

「もちろん!!!」

 

「よくわかんないけどいーよ!!」

 

「何して遊ぶのー?」

 

 今しがた生成されたばかりのこの森にも妖精が住まう。遠き地より共に旅した妖精は当然として、生まれたばかりのこの森の妖精ですら力を貸しても良いと思えるのは彼の剣の冴えと人徳故だろう。

 

「繚乱に咲く、妖精の剣。此度はこちらが見せようぞ」

 

 かつて一番の大木がまだ新芽であった頃、とある青年が至った頂きの剣、妖精剣。背にした妖精の数により型を、冴えを、力を変える万化の剣。

 

 まずは一つ、守護の型。背に負う妖精に傷をつけぬように、背を追う妖精がその命を投げ捨てぬように守り抜く、最も弱く、最も優しき型。

 飛び交う矢を打ち落とし、一切傷なく不殺へ迫る。

 

「面白そー!!!混ぜて混ぜて!!!」

 

 また一体、その背に背負う妖精が加わった。

 その瞬間、アマツの纏う気配が変わる。放たれる矢を、打ち落とすのではなく交わして進み、振るわれる大弓を受け止め懐へ。

 

「不殺の試練、他愛なし」

 

 妖精とは森の意志であり森の力。その力を借り受ける妖精剣の、第二の型。すなわち必殺の型。

 文字通り必ず殺す一閃が、エズディアの胴を袈裟斬りにする。

 

 そう、断ち切ったのだ。間違いない手応え。確実に死に至らせる程の斬撃。

 しかし、勝ちを確信するには些か早すぎた。

 

───決して絶えることなきよう、命は耐えた。そして増えた。ならば、その在り方こそ核である。故に不殺()が体現しよう

 

 決して殺さ()、殺され()。命は耐えるが正しき姿であるのだから、不殺の彼は耐えることを強要する。それこそ、己にも。

 決して浅くはない傷を胸に刻みながらも血を溢すことなく、不殺の老人は立ち上がる。

 

「であるのならば、耐えられなくなるまで絶やして見せよう」

 

 老木もまた立ち上がる。

 森を、風を、妖精をその身に纏い、殺せぬ不殺に立ち向かう。

 風が駆け巡る。森がざわめき、木の葉が舞う。

 

 それに吹かれる老体は育ち切った新芽の如く、否。今なお育つ大木の如く揺らぐことなく佇んでいた。

 新芽が大木に育ち、その月日を年輪に刻んだように、彼の顔に刻まれた皺は彼が越えてきた頂きを示す。

 

「妖精剣、巡り高みへ」

 

 そして今なお越えるのだ。至った高みより高き頂きへ。そしてそこよりさらに高き頂きへ。その研鑽に終わりはなく、先の一太刀より後の一太刀がより高度に、鋭利に洗練されていく。

 

「初撃が通ったのなら、二の太刀が通らぬ道理があるまい」

 

 必殺の一撃。

 言葉通り、先程の一撃を避けれぬエズディアには回避不能な一太刀が、エズディアの胸に新たな傷をつける。

 このまま攻めていけば宣言通り不殺を殺すことも可能かもしれない。

 

「──ごい……」

 

「っ!!」

 

 だが、声が聞こえた。ごくかすかにだが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が。

 その声に気を取られた一瞬に、エズディアが大きく距離を取る。

 射掛けられる翡翠の矢を時に払い時に躱し距離を詰めようとするも、当然間合いに入る危険性を理解しているエズディアは距離を離す。

 数度攻防を交わし追い掛けるように追い立てられていった。

 

「ああっ………」

 

(しまっ……)

 

 再び声が聞こえた。先程よりも大きく、はっきりと。

 つまりそれだけ近付いたのだ。声の主に。

 つまりそこまで誘導されていたのだ。狩人の矢に。

 

 ならば不殺が為すことは決まっている。獲物を狩ればいいのだ。

 翡翠の矢が飛んでいく。剣を構えるアマツを無視してあらぬ方向へと飛んでいく。否、その先にいるのは───

 

「あぶなーい!!」

 

 妖精とは、どんな種族よりも情に厚い種族だという。棲家を、仲間を守るために命を投げ出すことを躊躇わない程に。その習性が強く発揮された突貫。アマツの守護の範囲を抜けていく。

 

(剣で払い落とす……間に合わない!ならばっ!!)

 

 飛翔する矢を小さな体で受け止めようとする妖精の前に割り込み、体で矢を受ける。不思議と、痛みはなかった。

 なぜ妖精が飛び出したのか。先程から聞こえる声の違和感は何か。その疑問は、振り返った先にいた人物を見て氷解する。

 

「ああ、全く喋らぬ実況者の。大丈夫か?」

 

「あ…え……だいひょうぶで……」

 

 そこにいたのは桃色の髪をした猿の魔人。生まれたばかりのこの森を背負う巨象の仲間であり、妖精に取っては棲家や仲間以上に大切な存在。そして声もなんてことはない。ただマイクを通して聞こえてくる声が彼女のものだけではない、というだけのこと。

 

 へたり込み空を見上げるその少女の顔には、妖精剣を極める以前の自分と同じような迷い惑う顔が見えた。

 

「少女よ、迷いが見えるな。自己不信から来る迷いが」

 

「それは……」

 

「儂にも似たような時期はあった。だから助言しよう。そういう時は走るが良い。何も考えず、走って為せることを為せ。蟻の足掻きが世界を変えることもある」

 

 浮かぶのは真意を測りかねるという顔。そうだろう。他者の一言で変わるほど道はなだらかではない。険しい道を自分で歩いてようやく他者の言葉が自分に沁み入るのだ。

 

 かつての自分もそれが分からぬほど愚かだったと老人は振り返る。

 まあ、今やることではないと思うがね。

 

ほう、「むつらの刻印」を受けてまだ立つか。素晴らしい。やはり生命(いのち)は耐えてこそ

 

 草木を分け近付くのは不殺の絶傑。既に勝敗は決したとばかりに不敵な笑みを浮かべている。

 

「絶傑……」

 

む、そちらのお嬢さんはどなたかな

 

 白々しくも笑ってみせるエズディア。

 よくもまあ、狙った相手にそんなことが言えるものだ。初対面というのは事実だが。

 

「貴様には関係無いだろう。行け、少女よ」

 

 少女──チャットが走り出すのを見届ける。一矢届いた油断か慢心かさらなる一撃を加えようともせず不殺は不敵に笑い佇むのみ。

 胸元に突き刺さる矢はいつのまにか傷一つ残さずに消えていた。次第、体に広がる熱を感じていく。熱はやがて痛みに変わり、痛みは心を貫き刺す。

 

 「むつらの刻印」とはそういう毒だ。体を傷つけずに心を殺す。それで死んでしまうのならば世界の在り方に相応しくない。

 

「…ぐっ」

 

 大木よりも長い時を過ごしたアマツでさえ食いしばるほど──食いしばってなお声が漏れる程の熱が体を駆け巡る。

 

天の門を潜ろうとも、冥界の底に飛び込もうとも、お前は痛む。涙が頬を焼き、悲鳴が喉を裂く。それでもなお世界は続く。そういう毒なのだが……まだ余裕があるか。素晴らしい。ならばもう一本

 

「……っ!!」

 

 痛む体を、心を押えつけ振るわれる一刀。その軌跡は先程までと遜色なく、常に高みへ登り続ける妖精剣を示す一撃。

 けれどその一撃は防がれる。六矢が描く円陣によって。

 

 防がれたことによって生まれた隙を見逃さない程度の理性はまだ残っていたのか神速でつがえられた矢がアマツを貫く。

 

これだけ動けるのならばもう一本耐えられるだろう

 

 今度はゆっくりとした手付きで、獲物を嬲るように嗜虐的な笑みを浮かべ矢をつがえる。的は当然、もはや立つことすら難しくなり膝をつくアマツ。

 

 その指が矢を離し、力の込められていない無気力な軌道で飛んでいく矢がアマツの元へ落下していく。

 

「させない!!」

 

 既に避けれぬからと、舐めた射方で矢を放つからこそ、それが入り込めた。

 

 精一杯広げた体で矢を受け止める小さな小さなそれ。

 

 共にここまで旅をしてきたアマツを心配させないためか、炎に炙られるよりも熱く貫く痛みを受けても一切苦悶の声を漏らさないそれは、ポトリとアマツの側に落ちてゆく。

 

「ア…マツ……立ってよ………わ───」

 

 それは、妖精はすぐに動かなくなる。最後に託した望みすら声に出せずに。

 

耐えれぬ矮小な命が、試練の邪魔をするな。ああ、全く───ん、なんだ。もう死んでしまったのか。耐えれぬとは見込み違いだったか

 

 ───風が吹いた。

 

 木々が揺れた。

 

 森が蠢き小さな命の残骸を飲み込んでゆく。

 

 丁寧に、丹念に。その望みを、誇りを弔うように。

 

 痛みに腐る彼の身体に、森の息吹が巡りの力を託す。

 

 妖精の命を巡らせるように、回生は輪廻する。

 

 老いたる体は萎み、枯れ果てたその先を風が、森の息吹が包み込む。

 光が溢れ、命が溢れ、やがて佇むは在りし日の青年。しかしその目は頂きに届いてなお遥かなる高みを目指す妖精の目をしていた。

 

「命は耐えるものに非ず。ただ増えるものにも非ず。命の核とは巡ること。花が実を成し、芽が兆すこと。畏れているのはどちらの方か」

 

畏れる?何を馬鹿な。畏れるのはお前だろう。大切な妖精が死んだぞ?死に怯えなくていいのか?

 

 嘲るように笑う。その目には死者への敬意も、弔意も感じ得ない。侮蔑はつい先程死んだはずなのだがね。

 

「いいや、死してなお繋ぐことこそが命だ。怯えることも、恐れることもない」

 

 言い切る彼の背後には無数の妖精たち。生まれ、一瞬のうちに幾千の廻りを経た森中の妖精たちが集まっていた。

 妖精剣、その真髄。数多の妖精に力を借り、束ね、幾重にも膨らまして共有する。

 

 アマツを中心に、大きく力を纏う妖精たちが疾走する。死に対する恐怖などない。不殺に対する怒りなどない。あるのは唯一つ、託された望み。

 

「「「「「「「友達を助けたい!」」」」」」」

 

 妖精は疾走する。

 その小さな体であるからこそ不殺の円陣をすり抜ける。

 森の息吹の体現であるからこそ、不殺に輪廻を齎せる。

 手にした細剣で肉を切り裂き骨を断ち殺せぬ命を死せるところまで貶める。

 

「これで終いだ」

 

ぎっ──ぁああああああ!!!!

 

 最早殺され()の権能など残っていない。不殺の円陣など機能していない。

 ただ一刀のもと切り捨てる。

 

「──不殺の試練、我が途上に必要なし。果ては遠いな」

 

『proooooon!!!!』

 

 同意するように、巨象が嘶いた。きっと少女は何かを為したのだろう。

 

 *

 

 世界に声が響く。また一つ、世界が生まれ変わったことを告げる声が。

 

試練は進む

 

 不殺は絶える命を認め、畏れぬ心を認めない。




作者も忘れがちな設定∶語り手はティオ
モノローグ入れちゃダメなんだって
()で心情描写しちゃダメなんだって
もう手遅れだからこれからもやるけど


いかないで望遠鏡
君が逝ったらただでさえ落ちかけてるシャドバのモチベがなくなってしまう
いやでもアディの内容次第ではモチベ上がる可能性普通にあるな今のところないけど
不穏なる闇の街禁止でヴァーナレクアッパー入ったのに望遠鏡禁止で土にはアッパー入らないのなんでですか
え?むしろスペコンもナーフされるべき?同意です
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