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「い…゛゛あ♡っ」
暗い雲に覆われた街に女の嬌声が響き渡る。いくら常夜の花街とはいえ、人の行き交う往来でそんな声が響けば誰だって振り向くだろう。
そうして振り向いた彼ら彼女らは見た。
真紅の七翼に抱き締められるように包まれた女性が、絶頂に顔を赤らめたままその形を崩していくのを。
まずは皮膚が崩れたように溶け、中から顔より赤い肉が露出し、それすらその形を保てぬと歪み崩れ溶けていく。白い骨が見えたかと思えばそれも泥のように溶け翼に食われていった。
その光景を、誰も不快に思わなかった。むしろ、彼女の体が食われれば食われる程全員の顔が得もいえぬ恍惚に染まり、羨望の眼差しが強くなる。
交わり終えたのか真紅の七翼が広がる。現れたのは白磁の如く白い肌の女。真紅の翼に負けぬ程紅い唇から、心を縛り付ける程低く、脳を溶かしてしまう程甘い声が紡がれる。
「愛し合わないか」
パトスの海に滑らかな種を墜とせば、染み付いた欲望はもう剥せない。
その場に誘惑を断ち切れる者はおらず、一人、また一人と火に飛び込む虫の如く女の前にその身を晒し、そして溶けてゆく。
姦淫に飲まれ、明けぬ夜が更ける。交わることを疑わぬ者たちの燃える夜が。
「勝手はそこまで」
熱く燃え上がる夜に冷や水が差す者が一人。この花街を統べる悪魔。
「無粋ね。私達はこんなにも愛し合っているのに、勝手だなんて」
「色に惑う過程には風情があれど、色に狂わせるには風流がありんせん」
人を、意思を、意のままに操れる者に愛はあるのか。七翼が愛と定義するものは、群がる彼らの愛なのか。
仁義の悪魔は斬り捨てる。情に乗って貪る愛はあれど、情に乗られて貪るは愛ではないと。
「ただ愛し合っていただけ。ここは夜の花を咲かす場所だろう」
「ええ、ここは一夜の花が咲く場所でありんす。けれど花を摘み取る場所でなければ、花が散らぬように夜を引く場所でもありんせん。───わっちのシマでずいぶん暴れてくれんしたなぁ?」
歓迎は一刀にて。白銀煌めく曇下の太刀。
「これが主への上がり花」
その太刀、一切違わず七翼を断つ。種の落ちた水面ごと、纏めて一つに。
「茶など結構。さあ、疾く交わろう」
「初めての小僧ですらもう少し落ち着きを持ってやすよ。そんなザマだから風情がありんせんと言っているのでありんす」
七翼が広がる。断たれど落ちず。溶かし飲み込む命の雫はただ無闇に呑むものではなく、その身を長らえる。
「愛はパトス。テーゼはなく」
愛に命題はなく、風情など不要。ただ燃え上がる火の如く感情に溺れ貪れば良いのだと。
曇天を背負い七翼が広がる。紅翼が飛翔する。その身を裂いて狂い乱れて愛を振りまく。
「私はヴァーナレク。貴女に愛を与える為に飛ぶ。さぁ、姦淫の試練を始めよう」
「塩次郎にもほどがありんす。身の丈を知りなんし」
紅が舞い白が裂く。ヴァーナレクから与えられる愛などいらないと煌めく一刀が語る。
「恥じらうことはない。衝動ごと抱いて、交じり合おう」
紅翼が咲く。ユヅキに重なるように、その背に翼が生えるようにフワリと。
「そうね、まずは───抱き合いましょうか」
七翼「抱擁の翼」が包み込む。その紅い唇がユヅキの喉にそっと触れる。まず訪れたのは痛み。それから、蕩けるような快楽。一歩踏み込めばあっという間に溶かされてしまうような、甘い甘い口付け。
「それが、どうしたでありんしょうか」
一刀が飜える。紅翼を落とし姦淫の首を落とし、自らの首の皮を切ってピタリと止まる。
首筋を血が伝う。それ以上に、背中に血がかかる。
「着物が汚れちまいんした」
黒い着物が一層濃くなる。けれどもまだ終わりではない。
「なぜ拒む?私はこんなにも愛しているというのに」
「……なら、わっちは誰でありんしょうか」
姦淫は答えない。答えられない。愛好に差別も区別もないのだから、相手が誰であろうが姦淫は愛す。一切区別なく平等に、ということは誰も彼も並べて等しく、一切踏み込むことなく同列に。奴隷であれ王であれ皆等しい者として。
故に、姦淫には答えられない。目の前の愛を注ぐべき相手が誰なのか。
「で、ありんしょうね」
悪魔が刀を納める。柄に手を掛け白銀を覗かせそっと朱色の瞳を閉じれば、紅き夕陽は断たれ落ちて───
「愛は泡沫、淡き故の享楽。我儘はいいなんすな」
七翼は落ちる。再び舞い上がることはなく、姦淫の試練はここに散った。
*
世界に声が響く。また一つ世界が垢抜けたことを知らせる声が。
「試練は進む」
姦淫の愛は絶え、残るは拒絶を憎む悪意のみ。
気がのらなーい(パァン)
ヴァンパイアとかいうクソクラスが嫌い過ぎて拒絶反応出るとは思わなかった
二ヶ月かけて千八百文字とはな
ローテアンリミともにヴカスがアンリミロイヤルくらいの出現率になったら書き直すわ
姦淫の使徒「愛好は捨てただ己の相手を知れって………」