OMEN of STORM   作:あしゅけーね

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簒奪の試練

 ヒュッ、っと風を斬る音を立て鋼の刃が振るわれた。

 

「うーむ」

 

「どうしました?」

 

 白髭を蓄えた侍───カゲミツは唸る。折れた刀の代わり、将軍より予備として持たされていた刀の馴染みが悪い故に。

 

 無論、世界を賭ける戦い故に持たされた数本の刀はそのどれもが至上の一品であることに間違いはない。今難色を示すこの刀とてカルラの白銀外装を断ち切り折れた刀と比較しても遜色ないが、しかし老人の好みには合わなかったようだ。

 

「これまでの戦いを見る限り決勝はもちろん準決勝ですら高いレベルの戦いになるのは必至。やはり「閻魔安国」を……」

 

「ダメです。将軍様から非常時か最後の戦い以外では渡さないように言付かっています」

 

 己が必殺の刀を抜かせて欲しいという老人を一蹴するおかっぱの少女。黄色の着物を着てカゲミツ同様刀を佩く侍であるが、カゲミツと違いその名を将軍へと返している。彼女の名はすでになく、将軍より彼女に与えられた名は───

 

「ペインレスサムライ、「閻魔安国」を取ってこい。緊急時だ」

 

「はあ?今は特に何も……いえ、わかりました。すぐに取って参ります」

 

「早急にな。これから始まるは大事であり───」

 

 ───そして一番の見せ場である。

 

 その一言を飲み込む代わりに影斬りの口角が釣り上がる。

 白銀の腕は良かった。初めて死合った相手であり、今まで斬り続けた影のいずれにも当てはまらぬ戦い方をする。歳を経て剣を極め、それでもなお知り学ぶことの喜びは、初めての死合いの喜びに勝っていたかもしれない。

 

「我らは十の災い、そして福音。抗え、打ち克て。世界が進むその時まで」

 

『おーっと!!ここで乱入者か!?』

 

 だがそれも終わってしまった。白銀を断ち、無敗の剣聖は初めての勝利を手に入れた。

 

『八つの世界を懸けた戦いに、よもや新たなる挑戦者とは───』

 

 次幕はどうか。いつの間にか目の前に降り立った女に目を向ける。

 八つ節の蛇腹剣を纏う女。明らかに人とは違った雰囲気を漂わせる女に逸る気持ちが音となって鯉口に表れる。

 

「済まない。失礼をした。まずは名乗りからだろう。カゲミツ。ただのカゲミツだ」

 

これはこれはご丁寧に。私はオクトリス。簒奪の絶傑オクトリスです。それでは、貴方に試練を与えましょう

 

「試練……ほう、楽しみだ」

 

では、まず一つ奪いましょう。「アヴァリティア」

 

 八つ節の蛇腹剣「アヴァリティア」が空をうねり飛来する。あまりに分かりやすく罠もないような軌道に失望したかのように刀を合わせようとして───やめた。

 侍が刀で受けなかった理由は二つ。

 

 一つ、それは今まで見たことない武器であり、その形状から刀を絡め取られる危険性があると踏んだから。

 

 二つ、ただ純粋なる勘。己の技量をもってすれば蛇腹が絡み付いたところで振り払いそのまま首を断てると確信するものの、そもそも絡められてはいけないという直感に従ったから。

 

 刀を振らなかった侍は「アヴァリティア」の一撃をその身で受け、絡め取られる。そして蛇腹の剣は彼を引き裂く代わりに羽織を奪い主の元へ帰っていった。

 

刀を奪えると思ったのですが

 

「素晴らしい剣捌きだったので見惚れてしまってな。つい反応するのが遅れてしまった」

 

 カゲミツは笑う。ああ、今度の戦いもまた楽しめそうだと。

 鋼の男の時のように何も考えることなく全力でぶつかり合うのも初めてで楽しめた。そして今目の前の女により齎された枷の下、縛られる中で戦うのもまた初めてのこと。

 

 歳を経て剣を極めた老人は、それでも生まれたばかりの赤子の如く何も知らず、それ故餓えていた。

 

まだまだ行きますよ

 

 剣の蛇の猛攻は続く。迎え撃つことを封じられた侍は、その超人的な身のこなしでその全てを捌いていく。

 

「ふっ、くく……こうして防ぐことすら出来ず無様に逃げ回るのはいつ以来か」

 

 ───ああ、楽しい。

 

 幼少の頃に頭の中に生みでた影を相手に鍛練を重ねていた時か。あのときは参考にしたのが名だたる戦の大剣豪だったものだから避けるとかそういう次元にすら立てなかった、と老いた侍は振り返る。

 

ちょこまかと……これで終わりなさい

 

「いいや、まだ終わらぬよ」

 

 幼童の頃ですら浮かべたことのない喜色を浮べ、カゲミツは荒れ狂う「アヴァリティア」の波を抜けて懐へ飛び込む。

 

 それまで彼が相手にしてきた影と異なり、懐に飛び込んだところで一切変わることのないどころかさらに苛烈になっていく猛攻を凌ぎ一刀が閃く。

 

 無理な姿勢から放った一太刀はオクトリスの頬を浅く斬りつける程度に留まったものの、無敗の剣聖は今初めて簒奪の絶傑から一撃を奪い取った。

 

「まずは一度、届かせたぞ……ぬおっ!」

 

 追撃など考えさせないといわんばかりに、うねる水面の如き剣がより苛烈に振り抜く刀を奪わんと襲い来る。

 

やってくれましたね

 

 荒れた水面が鎮まる。怒りに任せて暴れる龍の如き剣が垂れ下がる。その背を縮ませ、八つ節を繋げ一振りの長剣へ。その剣先は羅針盤の針の如く振るわれる先───カゲミツの喉へと向けられていた。

 

(かつ)えなさい。飢えたのなら奪いなさい。貴方はそれをよくやってくれました

 

 だから───

 

奪いましょう。貴方の全てを

 

 黄金の剣が閃く。それは白銀の腕に通じる速度で差し迫る。

 

「ははっ」

 

 ならばこそ、剣聖が打ち合えない道理はない。白銀外装、その最後の一撃を打ち破った技量が通じぬ訳はなく、黄金の直剣と剣聖の一刀は打ち合い火花を散らす。打ち合えてしまう。

 

(なんだ……?)

 

 違和感。言葉にならない違和感が刀を通して伝わってくる。否、刀を通して抜けていくのだ。何か、形にならない大切なものが。

 

「ふっ、はははは!!!そうか!成る程な」

 

 武具の質では劣るだろうが膂力、技量共に勝るはずのカゲミツが弾き飛ばされるように後ろに跳び、笑い声を上げた。

 

「奪ったな、我が半生を」

 

ええ。確か……こうでしょう?

 

 振り抜く一刀。その構えは、動きは、軌跡は、カゲミツが一度たりとも見たことがなく、そしてよく見慣れたもの。すなわち、カゲミツ()の一刀。

 

 当然ながら彼は己の太刀など受けたことはない。それどころか、他の誰にも教えたことはない。カゲミツの技はカゲミツにしか使えない………はずだった。

 

 ここにいるのは簒奪の絶傑。富を奪い財を奪い蓄を奪う盗賊は今、形なき技術すらも奪い去る。

 

悔しいでしょう。恐ろしいでしょう?その怯えを糧に渇きなさいな飢えなさいな。その怯えは貴方を進めるものだから

 

「いいや、喜ばしいとも。己と刃を交えることなどないからな」

 

 本心からの言葉。そしてそれを示すように、先程の軌跡の鏡合わせのように刀が振るわれた。

 

なっ

 

 その一刀は油断を見せるオクトリスの体を袈裟斬りにする。

 ただ皮膚をなぞり肉を掠め、骨にも臓にも届かぬ一太刀。決して脅威になり得ないその一撃は、それでも絶傑の表情を驚愕に染めた。

 

「何故か、などと分かりきったことを訊いてくれるなよ。これまでの生涯を掛けて振るい続けた太刀筋だ。我が身が(誰が)忘れようと我が心は覚えている。それとも、満ちることなく飢え続けるこの心すら奪ってくれるのか」

 

それは……無理ですね。私は簒奪の絶傑。奪われることによる飢えた心を試す為にここにいます

 

「そうか。それは───」

 

 刀を振り続ける道程で、何度「心など無ければ」と思っただろうか。

 

 物の怪はおらぬ、野盗もおらぬ。振るう戦はすでに終わり、長く飽いた平和の世。童に唄われる侍の愚かさ。在らぬ影に向かって刀を振るう自らの行為を無意味と知りながら、それでも刀を手放せなかった自分の生涯を無為と嘆いた夜は幾度となく。

 

 長く続く平和の薬は皆の心を侵し、悪事を行おうという者すらいない。きっと自らの心が毒なのだ。なればこそ、心など無ければ良かった。

 

 ───間違っていた。

 心が無ければ?笑わせる。今こうして強者とまみえるは心があったからこそ。今こうして獰猛に笑うは心があったからこそ。

 平和に混じった毒は咆える。

 簒奪は心を奪えない。それはそれは───

 

「喜ばしい!!!」

 

 一閃、二閃。刀と直剣が交わり合う。

 己の攻めは相手の攻め。相手の隙は己の隙。

 彼は自分の技量を簒奪した相手と戦うことで、自らの剣の未完成を見た。

 

「力み過ぎだ。必殺の太刀とはいえ耐えられれば隙となる。このように」

 

ぐっ!

 

「守りに入る為の引きはいいな。そのまま転じて攻めに入りやすい」

 

 師が弟子に教えるように、カゲミツ(自ら)オクトリス(自ら)に己の剣の不完全なるを伝え聞かす。差異を直し歪みを直し、至極の剣へ。極みとは、すなわち絶対なる己の確立。

 

……ふふっ、油断しましたね

 

 幾度と打ち合い、互いが互いを高め、洗練されていった頃。何度目かも分からない打ち合いのとき、直剣がその刀身を崩す。

 再び現れるは蛇腹剣。刀に絡みつき、奪い去る。

 

「ああ、しまったな」

 

 と言いつつもカゲミツの顔には一切の焦りは見えない。チャットの結界がなくなったことで観客席まで広がっている森の枝を一つ、手折って刀の代わりとした。

 

そんな枝で何が出来るのです!!

 

 簒奪は舞を舞う。それに合わせて蛇腹の剣が踊る。一切合切区別なく、無さえも、無の果てさえも奪う簒奪の舞。

 

「なんでも出来るとも。例えば、お主の首を落としたりな」

 

 刀が無ければ侍足り得ぬのか。否。侍とはその身の在り方に非ず、その覚悟の在り方である。

 

「カゲミツ殿ぉ〜!!「閻魔安国」取って参りましたぁ!!!」

 

「ペインレスか。少し遅かったな。()()()()()()()()()

 

 白雷が走る。己を極めた侍に得物の価値など関係ない。

 なんの変哲もない木の枝は荒れる金波を越え、うねる白刃をまるで存在しないかのようにすり抜け、それでもなお加速していく。

 その向かう先は当然、簒奪の首。

 

「刀なければ心にて。()()()ゆえ、斬り捨て御免」

 

 首が落ちて、荒れる水面は静まり返る。

 簒奪の試練はここに終わりを迎えた。

 

「ペインレス、なんだその格好は」

 

「色々あったのです」

 

「そうか。着替えて来るといい」

 

 色々あった、と一言で片付けるには半裸になった経緯が気になり過ぎるところではあるが、早く着替えた方がいいというのは同意するとも。

 

 *

 

 世界に声が響く。世界にまた一つ、返されたことを知らせる声が。

 

試練は進みます

 

 簒奪の空隙は絶えて、今人は満ち足りるを知るだろう。




最初から閻魔安国を抜いてない理由は作者がカルラ戦のときノリで折っちゃったからです。閻魔安国とは書いてなかったからセーフってことで別の刀だったということにした
世界観的には将軍がカゲミツを見て「こいつ刀潰してでも勝ちに行くな」って確信したので初戦から閻魔安国を使い潰されてはたまったもんじゃないと折れてもいい業物を持たせた
負けたら世界が取られるっていうのにそんなこと言ってるのは平和ボケしてるから




ところでピィカスナーフは?
パセリもルムサもフラウロスも笛吹きもパシリもガロムもナーフされて無いじゃん
贈り物とセクヴァンは禁止にしろ
てかなんでセクヴァン許されると思ったの(今更)
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