OMEN of STORM   作:あしゅけーね

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真実の試練

「ってーナ」

 

 片足を失い、無様にも観客席に、そこすら滑り落ちてスタジアム上の森に転がり落ちるクオン。その体は傷にまみれ、陰陽の開祖とは思えない程に汚れている。

 

 まぁ、それもつい先程までのことだが。

 クオンの体は式札で出来ている。そのため札さえ残っていればいくらでも修復できるのだ。アラガヴィを倒した時のように。

 

「チッ、札がもうねェ」

 

 残りの札は六枚。まさかこうもあっさり無力化されるとは思わず大量に式神を出していたせいでギンセツとの戦いの為に用意していた式札の大半を観客席にぶち撒けることになってしまった。少なくとも第一戦のときのような数で押し潰す戦い方はできないだろう。

 

(今呼んでも間に合うか……?貴重な一枚を……チッ)

 

 転がり落ちたクオンの後を追うように飛び込んで来たのは魔術師とは思えぬほど鍛え上げられた肉体。

 彼に気付かれないように後ろで手でそっと形代を飛ばす。

 

醜い。ああ醜悪だ!自らの体を…本当を本能を捨て、魂まで偽れる!!嘘で固めた貴様はすでに人に非ず!!

 

「欠片も嘘がネー奴の方がよっぽど人じゃねえだろ。だいたいなァ───」

 

 在らざる五行を遮り「誠実なる友」が並び立つ。それは宣誓。本能こそが命であるという掟の提示。

 

是なるは真実の試練。知の雨に濡れそぼる者よ、曝け出せ、深奥を。本質、本能、本当を。――然らば、真理を始めよう

 

 軽く伸ばされた手の先、綺麗に並んだ九つの小剣「誠実なる友」がその配列を崩さぬまま、それでいて不規則に飛んでゆく。

 螺旋を描き真っ直ぐと。目にも止まらぬ速さで吹き荒ぶ小剣、その全てを軽々躱したクオンは笑い、そして驚愕する。

 

 男の手の先に開かれた巨大な魔法陣、そこから先程飛んでいったはずの小剣が飛び出たのだから。

 

これこそが世界の本質!!!

 

 尽きることのない無限の手。本来は七つ時を数えてようやく使え、一度使えば二度目はないような大規模術式。それを容易く扱えるのはひとえにライオが絶傑という規格外の存在だからだろう。

 

 無論、こんなものが世界の本質であるはずがない。常に埋め尽くされる無限の手が本質ならば、願望は実現が困難なものと化し、混沌の魔術師は捨て置かれるだろう。探偵に推理は求められず、魔術書など解読されることもなく捨て置かれるゴミとなる。

 

 されどこれは世界の掟。真実の絶傑が示す進歩の形。故にいずれ敷かれる本質の掟。

 

「本当だの本質だのクダラネーよ!!勾陳!」

 

 式札四枚を喰らい現れるは金色の蛇。(みやこ)の中心を守護する式神・勾陳。巨大な蛇は周囲の木々を薙ぎ倒し暴れ狂う。

 

「式神・勾陳。まァ天后なんかと比べると些か格が落ちるが、代わりに力は大きく勝る。ま、天后は航海の安全を司る女神で勾陳は京の守護が役割だからショウガネーけどナ」

 

 金蛇は進む。自らに突き刺さる短剣をものともせずに。形代、暴鬼といった式神は当然のこと、その主であるクオンの右足すらも奪ったというのに、その金色の鱗は一切傷付かない。

 

 いや、訂正しよう。「誠実なる友」はその刀身を金蛇に突き立てることはできない。その刃先が金色の鱗に触れる直前で止まるのだ。まるで何かに阻まれるが如く。

 

 無限の手があれど、そこから繰り出される「誠実なる友」(攻撃)が通じなければ意味が無い。虚構を暴く真実の短剣は、金蛇を害することは出来ない。式神(偽り)の体とはいえ、その背負う守護(役割)は本物なのだから。

 

本物を纏おうと虚構は虚構。真実とは本能なき紙屑風情が解せるものではない

 

 左手に広がる魔法陣を消し、宙へと浮かび上がるライオ。その足元には八つの短剣が冠状に広がり、それを基盤として魔法陣が展開される。そして彼の頭上には残る一本の短剣。広がる陣から魔力を吸い上げ、青く凄まじい光を纏う。

 

では、世界に宣告する!!

 

 高速で飛来する短剣。その青い軌跡を残して飛ぶ様は星のようでもあった。

 

「チッ、勾陳!」

 

 主を守るべく身を挺して庇う勾陳の頭を貫き地面へと縫い止める。本物(役割)の皮を被った偽物の体を紙に変える。数を増やして地面に散らばる式札。

 

「天后」

 

 舞い散る式札を再び纏め上げ、黄色の札を混ぜて呼び出すは現状呼べる最高峰たる式神・天后。アラガヴィとの戦いで見せた白く透き通るような姿ではなく、沈む夕陽のような淡い橙色。

 アラガヴィ戦のようなゆったりとした、それでいて迫力のある優雅な動きなど投げ捨てた速さを至上とする粗雑な動き。故にこそ宣告を終え無防備な姿を晒したライオに一瞬で近付き、その手を伸ばし───

 

「ヘェ」

 

 阻まれる。ライオに、ではない。ライオの足元にあった魔法陣から現れたパンパンに鉄を詰めた鎧を潰したような見た目のゴーレム。チャットの使うクレイゴーレム(それ)より上等な、錬金術のある種の基準点ともなっているガーディアンゴーレム。

 

 しかしそれは『真実の協会』の手によりその本質を引きずり出され、遥かに強化されている。さすがに天后の攻撃を受け止め切れるほどではなくその手に触れるに合わせて砕け散るが、代わりに散り際に放った拳で天后を瀕死にまで追いやった。

 

まだ余裕があるな。その(虚構)に冷や汗一つでも浮かばせるといい

 

 命脅かされれば本能が顔を出す、と浮かべた短剣が全てクオンへ向く。ライオが腕を一振りすれば、構えられた「誠実なる友」全てがまるで氷弾の如く降り注ぐ。

 

「天ご───」

 

 盾となるべく主を庇った天后の体を貫いた短剣は、そのまま勢いを殺すことなくクオンの体を貫く。本来はあり得ない挙動で襲ってくるそれを躱しきれず二本、受けてしまった。それだけで左腕と右足が吹き飛んだ。

 

(もう札がねェ。天后が残した札を使おうにも二度も使った札で呼べる式神なンざたかが知れてンナ。手持ちと合わせて太陰が呼べるか……?)

 

 残る札は一枚。地面に散らばる札と合わせてギリギリ「密羅略決」から戦闘には向かない式神を呼べるかどうか。

 

迷う暇などない。燃えるがいい

 

 短剣が集まり、手を形作る。真っ赤な焔を纏い迫るその手は、万物を破壊する炎の握撃。ゆっくりと、それでいて避けることなど叶わぬ速度でクオンに迫る。

 

「チッ、暴鬼!」

 

 地面に散らばる札から現れるは式神・暴鬼。握撃をその身に受け燃え尽きる。ただでさえ少ない式札が更に少なく、もはや形代程度しか呼ぶことはできなくなった。

 

駆けよ!

 

 高速で接近したライオが拳を振るえば、その腕に纏わせた短剣が雨の如く降り注ぐ。

 

「形代」

 

 現れる形代が剣弾雨を防ぐ。されど一瞬で解けるその身は盾にもならず、ライオの拳までは防げない。

 

「ガッ」

 

 地を転がり土に汚れど、五行の顔から余裕の笑みは消えはしない。しかし持てる札が尽き、その衣を土に汚す姿では虚勢にしか見えないだろう。実際そうだ。されど、()()()すら虚構なのだから。

 

ハハハ、もう打つ手がないか。であればこれで終わりにしてやろう。世界に宣告する!!これが、これこそが真理である!!!

 

 再び浮き上がるライオ。足元に魔法陣が浮き上がり、再び短剣を撃ち出す為に魔力を吸い上げる。

 そうして、発射される蒼星の短剣。もはや避ける術のないクオンに迫る。

 

「形代!」

 

 などと呼び出せど無意味。形代程度では受け止めることはおろか、その勢いを殺すことすら出来ない。その軌道を大きく逸し外させることすら期待できないだろう。故に形代は短剣に撃ち抜かれる。自らがその身を捨て極僅かに、その軌道をずらすために。その短剣が、確実にクオンの核を貫く軌道になるように。

 

「あーあ、やっちまったナ」

 

 死した体を式札で作り替え、自らの魂を式神として自らが使役する。今だ五行以外に辿り着く者のいない、陰陽の秘法。

 

 クオンの体は式札を用いれば回復する、というはクオンの体がこの秘法故に式札で出来ているから。逆に言えば、その体が砕かれれば式札が用意出来るのだ。おおよそ二十枚程。吹き飛ばされた手足を抜いても十五枚。

 

 それらの札を組み合わせて呼び出されるは巨大な式神・貴人。「密羅略決」の中で、最も強き式神。

 

 登場するや否や挨拶も無しにその胸元から薙ぎ払われる光線。周囲の木々を焼き、巨象の背を焼き、人のいなくなった観客席を焼き、遥か地平の山々を打ち砕く。当然、射線上にいたライオも無事では済まず、その姿を跡形もなく消し飛ばしていた。

 

『だいたいなァ、嘘とは情けだ。もうオセーけど』

 

 誰に聞かせるでもなく、虚空に呟く。

 

『proooooon!!!!』

 

 同調するように巨象が嘶く。それはクオンに向けたものではなけれど、陰陽極めし五行に聞けぬ声などない。ないが故に、彼女しか聞けぬはずの巨象の声を完全に理解した。

 

『あん?どーいうコトだ───』

 

「クオン様!!言い付けられた通り式札をお持ちしました!!」

 

 クオンが放った形代に案内されやって来たのは三人の男女。自分の使うありったけの式札を集めて屹立する式神・貴人の元に集った。もう終わってしまったが。

 

「我らの持てる分全てであります。門弟が製作したものも全て」

 

「しかし門弟が製作したものは精度が悪く───」

 

 紫の狩衣の男が持つ式札が一人でに浮かび上がり、クオンへと変貌する。

 

「確かに、これはヒデェな。あとで字の練習をさせておけ」

 

 そう言って引ったくるように式札を受け取り、貴人の肩へと飛び乗る。狙いは今だ拡大し続ける黒球「グリザレイ」。

 いや、今その姿が消えた。黒球があった場所に現れるは二人の男女。どちらも傷だらけで、容易く倒せるだろう。

 

(どっちを……男)

 

 一瞬の悩み。されどその内に答えは出る。なぜなら女の方が塵となって消えたから。普通に考えれば絶傑の試練を突破したと考えるかもしれないが、クオンと、それから実況の少女、栄光の熾天使に限ればそれはない。

 

(見てんだよテメェの顔は!!!)

 

 出てきた男の顔は先程見た顔。ライオと並び、ザコ(チャット)を囲んでいた男、マゼルベイン。

 

 クオンの放つ式札が炎となって飛んでゆく。反対側の観客席のさらにその向こうだと言うのに一切勢いの衰えることなく真っ直ぐ進んだ炎は、そのまま男の右目を貫き、その体を燃やし尽くした。

 

「十禍の絶傑、これにて終い。クダラネー茶番だったナ」

 

 *

 

 世界に声が響く。世界がまた一つ、偽りを脱いだ音が。

 

試練は進む!!!

 

 真実の前に、絶やし尽くせよ偽りを。

 

 *

 

 世界に声が響く。世界がまた一つ、満ちた音が。

 

「試練は進むわ」

 

 飢餓の干きは絶えて、満ち肥えた世界を貪る為に降り立たん。

 

 *

 

 世界に声が響く。世界がまた一つ、己を示した音が。

 

「試練は進む」

 

 唯我に示せ、絶えず存在する大いなる自ら(意志)を。




シャドバ7周年おめでとう
一日二本はキツいべ
ギルネもマゼルも死んだし飢餓の試練やらなくていい?
ダメか

スペルウィッチあるある
攻め切れなかった時がジリ貧
一気に攻めるときって手札がコスト下げきった打点札ばかりでドロソ使い切ってるかドローしたところで繋がらないから妖怪一足りないが出るとジリ貧になって負けるんすよね(n敗)
そもそも妖怪一足りないを出すなってのはそうなんだけど
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