OMEN of STORM   作:あしゅけーね

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飢餓の試練

 膨らみ続ける黒玉の下、狼が吠える。世界を喰らい尽くすに相応しい巨大な狼が。

 

「懐かしいなぁおい」

 

 隻腕の男が笑う。吠え立てる狼よりも勇ましく、獰猛に。荒々しく牙を剥くそれは比べるべくもない小さな小さな人間()。赤き荒野で持ち得ぬ爪を、牙を砥ぎ続けた狩人。その名を、アラガヴィ。

 

「狼狩りは二度目だ。くれぐれも死ぬんじゃねえぞてめえら」

 

「そっちこそ、片腕無くなってんですから無茶しないでくださいよ!!」

 

「俺が無茶をする時はてめえらが死ぬときだよ。くれぐれも無茶させてくれるな!!」

 

「「「「応ともさ!!!」」」」

 

 毛皮を被れば人でなくなる。

 

ォオォオオオオ!!!」

 

 荒野の毛皮は狂奔の毛皮。

 

「土をもっと蹴る!!」

 

 纏えば理性はなく。

 

「えもの…逃さない、よ」

 

 されど知性に溢れ、力が湧き立つ。

 

「俺が獣で、獣が俺だ」

 

 そこにあるのは人ではない。

 荒野を喰らう、獣の姿。

 

「吊るして剥いで、根こそぎ頂く!!!」

 

 赤き荒野に君臨する、獣狩りの王が咆哮を上げる。世界食いの獣、何するものぞと。先の遠吠えに抗うように。

 

 飢餓と渇望。荒野には普遍的に存在していたもの。故にこそ、男は吼える。

 

 飢餓と渇望。それの生命において常に抱えたもの。故にこそ、狼は咆える。

 

 二体の餓狼が咆哮を上げる。新たな獲物の出現の喜びを表すように。飢えを満たす相手の出現に。

 

「行くぞ!!!!」

 

 「テトカマリ」の一閃。そこから発生した衝撃波が狼の顎をかちあげた。

 負けじとのぞけりつつも足元の餌を踏み潰すべく前脚を振り下ろす狼。されども再び発せられた衝撃波がその足をも吹き飛ばす。

 

「狼ってのはどいつもこいつも考えること同じなのかよ!一回見てんだよこっちはよお!!」

 

 体勢を立て直しそれらがいる地面ごと噛み砕く。躱される。晒した横面に今度は棍棒本体が叩き込まれ、牙が一本砕け散る。

 

「多少バカデカいだけで脳みその大きさまでは荒野の王と大差ねえみたいだなァ!!いや、デケえ分すっとろいから避けやすい!」

 

 城を丸呑みするような巨体を前に、避けやすいも何もないと思うが、男が言うには避けやすいそうだ。

 

 続く長い爪を用いた五月雨のような切り裂きも、地面を砕くような咆哮による攻撃も、ことごとくが避けられるか、無力化される。

 

 目の前の男だけではない。足元を駆けずり回り、骨を砕くような一撃や肉を引き裂くような爪撃を行う餌も厄介だ。目の前を飛び回り嘲笑う男に対する怒りで真っ赤に染まる思考の中でなお、獣は冷静でもあった。

 

「よそ見か?こっちは命賭けてんのに随分と余裕あるなァ!!!」

 

 高く高く、それこそ人の身ではあり得ない程跳び上がった()が、映る光景に理解を示せない瞳に向けて「テトカマリ」を振るう。潰れこそしなかったものの、視界が白く染まり、一瞬の怯みが生まれる。

 

 ここにいるのは赤い荒野で飢えながらも獣を狩り続けた狩人たち。当然、その好きを逃すわけがない。

 

「ウオオオオオラァアアアアア!!!!!

 

 曲角獣の突進が、小高い丘のような獣の足を潰しの地面に縫い止める。

 

「シャァアアアアアア!!!!!!」

 

 長爪獣の切り裂きが、小さな家一軒分はありそうな脚の肉を引き裂く。

 

フッ、ヌゥウウアアアアアア!!!!

 

 山豪獣の豪力が鋼の如き硬さの骨を圧し折った。獣は、脚を一本失った。されどもなお立ち、痛々しさなど欠片もない乾いた瞳で敵を見つめる。

 

「まずい、散開!距離を取れ!!」

 

 狩人としての経験が、荒野の王としての直感が、事態が変化したことを告げている。目の前の獣が、狩られる側から狩る側変貌しようとしているのを告げている。

 

「何だあれ。見たことねえ…吸い込まれる!」

 

 音もなく開かれた餓狼の口内から、その巨体には似合わない小さな小さな黒い珠が吐き出される。その黒点は周囲のものを吸い込み、あっという間に大きくなった。それに伴い、吸引力も増していく。

 

「まずっ」

 

 最早踏ん張ることすらできはしない。徐々に徐々に大きくなる黒点に、膨張に合わせて引き寄せられていく。

 

「っと」

 

「ア、リガトウ」

 

 その素早さとしなやかさ故にこの中で最も軽く、最も力の弱い長爪の少女を受け止める。長爪があたって肉が深々と切れるが、問題ない位置だ。戦力を一人失うよりは大分マシだと、目の前の獣を睨みつける。

 

 獣は動かない。今は獲物が動けないのだから積極的に狙うべきだが、手負いの狼が何をするのか分からない故に動けない。今自分がしたように、相手も何かを持っていると思えば警戒して動けない。

 

 だから、気付くのが遅れた。今目の前の敵はずっと地上を駆け回っていたというのものあるかもしれない。

 

「遅れて済まん!!!」

 

 銀の龍がその場にいた者を加えて飛び去り、金の龍が獣を引き摺り倒す。獣が口を閉ざすと共に黒点は消え去った。

 

「手荒い送迎ですまぬな」

 

「いや、助かった。ガリュウだったか?」

 

「うむ。何度も言うが遅れてすまんな。鬼の酒がなかなか抜けずにな。しかし兄弟の倍はある狼なんぞ初めて見たわ」

 

 金龍、銀龍、そして彼らと肩を並べるガリュウ。彼らが狼狩りに加わった。

 まあ、脚が一本折れ、大きく消耗する大技を阻止された手負いの獣に龍二頭は過剰な戦力ではあるが。

 

 金龍の牙が獣の足をも食い、縛り止める。そこを狙って長爪が切り裂き、猛牙が貫く。それでも立ち続ける獣に、さらに一本の足を山豪が抱きしめ、ガリュウが断ち切る。流石に蹌踉めいた餓狼の首筋に、銀龍が食らいついた。

 

「いやぁ、流石に楽勝であったな」

 

「油断すんな。命が絶えたことを確認するまで───」

 

 その場にいた誰もが感じ取った。死を目前にして恐怖を、憎悪を知った、無垢なままではいられなかった飢餓の獣の瞳を。

 

「っ、なにかにしがみつけ!!!」

 

 無垢を忘れ、憎悪を抱き、故に餓狼は吠え立てた。自分一人ではない、出来れば自分を地に伏せさせた奴がいいが別に誰でもいい。誰か一人でも道連れにするために残る全ての力を振り絞り咆哮を上げ、そして絶命した。

 

 そんな最後の抵抗とも言えない悪あがきを受け、吹き飛ぶ者が一人。先程と同じように軽く、そして鋭い爪故に掴んだ物を引き裂いてしまうために、長爪の少女は宙を舞う。

 

「クーガー!」

 

 そのまま地面に叩きつけられて大怪我を負う、だけならまだ良かったかもしれない。しかし狼が狙ったかは不明だが、引力は少女の体を捉えた。頭上で膨らみ続けた黒玉は捉えた少女を巻き上げ、そのまま飲み込んでいった。

 

 *

 

 体の所々が抉れ、最早立っていることが奇跡に近しい。されども膝はつかない。

 

「もういいと思うのだけれど。貴方のそれは強化であって回復じゃないでしょう。もう立っているのも辛いのでは?」

 

 女が浮かべるのは九の宝玉。触れた物を喰らう。

 一方、男が握るのはたった一本の大剣。握り続ければ無限に力が湧き、振るえば凄まじい衝撃を放つ。されども壊れない訳では無い。幾度の噛み付きにより既に刀身は半分程にまで減っていた。

 

「それがどうした。唯一たる世界が己を示すのだ。無二の界を他界から侵すなど唯我たる我は認めない」

 

「それが私の……もういいわ。その頭と同じくらい石みたいに固くて嫌だけど、貴方の全てを食らって───」

 

 骨の髄まで食らい尽くされた世界。この場に他の命はなく、故にこそ気付かなかった。

 

「キッタ」

 

 バサリ、と音を立ててギルネリーゼの左腕が落ちる。黒玉より落ちた長爪獣が目に付いた獲物を切ったのだ。それがギルネリーゼだったのは彼女の方が近かったというだけ。

 

 男がそれを逃すはずがない。ほぼ肉のない足にむち打ち一気に距離を詰める。すれ違う度に体を黒玉に食まれるのもの気にせず、目の前へと。

 

「終わりだ」

 

 一撃。長い時間をかけて戦い続けたことで凄まじい量の強化がかけられた一撃は、ギルネリーゼを切り裂き、死に至る傷をつける。

 

「私の試練は落ちた獲物を狩る試練………戦いに、熱中しすぎました」

 

 主が息絶えた事により黒玉が消える。砂にまみれた黄金の宮殿が崩れ去り、辛うじて形を保っていただけの狩り尽くされた世界は姿を消し、元の世界───巨象のすぐ近くの空へと戻っていた。

 

 そして飛来する火の玉が、男の右目に吸い込まれ、そのまま爆ぜた。在らざる五行が最も素早く繰り出せる最も低威力のそれ。通常であれば容易く躱せただろうにギルネリーゼとの戦いで負った傷がそれを許さない。

 

「十禍の絶傑、これにて終い。クダラネー茶番だったナ」

 

 *

 

 世界に声が響く。世界がまた一つ、満ちた音が。

 

「試練は進むわ」

 

 飢餓の干きは絶えて、満ち肥えた世界を貪る為に降り立たん。

 

 *

 

 世界に声が響く。世界がまた一つ、己を示した音が。

 

「試練は進む」

 

 唯我に示せ、絶えず存在する大いなる自ら(意志)を。




クーガークローガールとマゼルベインの相性は考えないものとする
いや一枚で分身して三面除去できるから相性いい…のか?
何度考えてもPVでマゼルベインとギルネリーゼがぶつかってる理由が分からない

執筆意欲とシャドバのモチベは直結してます
なのでシャドバのモチベが下がってると執筆意欲が落ちてシャドバのモチベが上がってるとシャドバやるので執筆ペースが落ちるんですね
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