OMEN of STORM   作:あしゅけーね

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絶大の証明

「唯我とは、比類なき大いなる自ら。すなわち、絶大である。故にこそ、己が唯一の絶大であることを示せ。それを持って唯我の試練を終わらせよう。世界が唯一たること、今一度示すがいい」

 

 溶けてく、融けてく。観客席で、巨象の足元で、遠い街で、世界の裏側で、絶大足り得ない者がその身を溶かす。

 

「リマーガ、さま………」

 

 信望とは、己の拠り所を他者に委ねることである。すなわち、絶大足り得ない。

 

「フィル…レイン様…」

 

 憧れとは、己の目指すべき頂きを他者とすることである。すなわち、絶大足り得ない。

 

「いたい…痛いよアマツ…助けて…」

 

 友誼とは、己を他者と共有することである。すなわち、絶大足り得ない。

 

「……カルラ殿」

 

 好敵とは、己と他者とを対等に結びつけるものである。すなわち、絶大足り得ない。

 耳を澄まさずとも聞こえてくるだろう。絶大足り得ると証明出来なかった者の末路が。それを見て救済を他者に求め溶けゆく負の連鎖が。

 絶大の示す溶解、消滅は自己と他者との比較を認めず、対等を認めず、願望を認めない。唯我とは、他者を介さぬ己の確立である。

 

「あぐっ……」

 

 依存は自己の価値を他者に預けるものである。すなわち、絶大足り得ない。

 

「これは……まずいですね」

 

 祈祷は、己の為すべきを他者に代行させる行為である。すなわち、絶大足り得ない。

 少女は地に伏し、されど己が魂とも言うべき杖を手放せず、天使はその在り方故に逃れることはない。唯我の福音は誰の手にも渡っていないのだから。

 

「お…姉ちゃ……」

 

 その才故か、あるいは誰かが守っているのか。彼女の体は溶けてはいなかった。されど無傷ではない。極僅かな範囲ではあるが皮膚は爛れ、何より恐怖が心を蝕む。

 何もなせずに倒した絶傑が目の前に現れたことではない。いずれ来る限界のときでもない。

 恐ろしいのは、彼女の死。自分自身の死ではなく、それによって達成出来なくなる姉の蘇生。杖に封じられた魂を蘇らせることが出来なければ、本当に姉は死んでしまう。

 

「い、やだ……」

 

 それは嫌だ。自分が何も為せずに死んでいくのはいい。どうせそれだけの価値しかない。だけど、だけど彼女が、姉が消えるのは間違っているだろう。誰よりも強く、誰よりも優しく、ずっと守ってもらうばかりで、ずっと面倒を見てもらうばかりで、何も返せていない。

 その無念が一筋の涙となる。その想いが一つの声となる。

 

「祈りは、届きました。……任せて、ください」

 

 人が人を思って流す涙なら、人が人を想って漏らす声ならば。それは願いと呼ぶだろう。それは祈りとなるだろう。

 今、隣にいるのは祈りの結晶。人の願いを叶える、奇跡の代行。

 すでに両の足は消え、翼はもがれ、顔にはヒビが入り、両手は震え力を込める事すら出来ない天使。虫の如く這いずり、極僅かな、彼女らにとって無限に等しい距離を進む。

 

「すみ、ません」

 

 両足を引きずり、左手に抱えた剣を支えにして体を起こす。空いた右腕でチャットの握る杖を優しく拾い上げ、生まれたての赤子を慈しむように抱え込み───

 

「死にゆく想いに喝采を。逝きゆく貴方に栄光を」

 

 そっと、そっと抱きしめ、口付けるように、あるいは祈るように顔に寄せ───握り砕いた。

 無理を通して砕けた腕の(あか)の輝きと、碎けたマイクの白い鈍色が混ざり、氷よりも儚く美しく舞い落ちていく。

 

「あっ、あ……あああああああああ!!!!!!」

 

 落ちる欠片を必死にかき集める少女の腕をすり抜け、一つ魂が飛んでいく。一刻も早く天に昇るべく、一刻も早く妹の生きる世界から消え去るべく、必死に。それこそ、己が魂を削りきって消えてしまってもいいと思えるくらいに。

 そうして(彼女)はやがてその形を保てなくなり、空に散った。その光景を、その場の誰もが見ていた。

 

「なん、で………」

 

 先の絶叫とは比べ物にならないほど弱々しい声で少女は呟く。なぜ裏切ったのかと。なぜ自分をおいていったのかと。縋るものもなく一人生きるのなら、縋ったまま幸福(ふたり)で死なせてくれと。

 

「それが、彼女の願い、だから…です。知っていますか?未練のない魂が……現世に留められ続けるのは、苦しいこと…なんです」

 

 ああ時間がない、と救済は言う。残る全てをかけて伝えなければならないと。

 

「最後に、彼女から……貴女へ伝言です。そのワガママは聞けない、と」

 

 天使の体が石になる。赤は燃え尽き、白は重く鈍い灰へと。そこには、生気を一切宿さぬ封じられし熾天使の像が立っていた。

 

「私が…ずっと縛って苦しめてた……?」

 

 少女は思う。自らこそが姉を苦しめていたと。蘇らせたいなんて独りよがりの我儘で、姉を振り回すばかりであったと。

 まあ違うのだが、それを告げられる者はここにはいない。

 

「……それは違うな」

 

 否、ここに一人。男の名はマゼルベイン。

 まあ正直彼が引き起こした事態ではあるのだが、しかし彼ら絶傑は進歩を望む世界意志の表れ。その本質は停滞するものの背を押してやること。すなわち、究極のお節介が彼ら絶傑の本質というわけだ。

 

「違う…?貴方(あにゃた)に何がわかるんで(ちゅ)か!!お姉ちゃんを殺した………いえ、それは……私ですね」

 

「ああ、違う。確かに、我らは進歩を望む世界意志の表れ。家族と言える者はない。まあ成り立ちが同じという意味では、そこの救済を望む世界意志との兄妹ということになろうか」

 

 石となり天を見上げるラピスに目線を移す。

 

「だが我らに血をわけた者がいないのは事実だ。それ故我らは唯一の個として強く、世界に進化を促す厄災足り得る。だから少女よ、真の意味では汝らの感情を理解できはしない」

 

 献身とは、自己の全てを持って他者を受け入れることである。すなわち、絶大足り得ない。

 

「だが、唯我足り得よう。ただ一人の願いの為に遍く苦痛を受け入れ、ただ一人の幸福の為に唯一たる己の存在を打ち捨てる。そこに自らの思惑はなく、ただ純粋に他者を想う。その在り方は他にない。託した彼女は、託された汝は、二人で己の神を示したのだ」

 

「じゃあ、未練がないと言うのは───」

 

───私がいなくても、チャットは立てるからね。

 

「苦しんだというのは───」

 

───妹の願いを叶えるのがお姉ちゃんだからね。

こんなのへっちゃらだよ。

 

「ワガママは聞けないなんて───」

 

───本当に嫌なことは怒らないとね。

ダメだよ?死ぬなんて言っちゃ。

 

「ずっと側にいてくれたのは───」

 

───お姉ちゃんだからね!!!

 

 声が響く。空に溶けて消えていったはずの声。ずっと隣で見守ってくれていた声。もうだいぶ顔は朧気で、それでも抱き締めてくれた時の言葉は覚えてる。

 涙を拭って立ち上がる。そっと腰から予備のマイク───元々頂の闘技場に取り付けられていたマイクを引き抜き、今自分に出来ることを。

 

「それでいい。では、試練を続けよう。絶大は示された。次は、偏在する()を越えられることを示すがいい」

 

 絶大はいう。己が意志こそ大いなる存在。この世における神。故に、個の数だけ神は居る。大いなる神は遍在する。遍く神を凌駕し、己こそが唯一の神だと証明せよ、と。

 対する少女がすることはただ一つ。彼女に、唯一出来ること。すなわち、脱兎の如く逃げ出すこと。まあ彼女は猿だが。

 

「良い。それもまた汝の意志()である」

 

 逃げて逃げて、辿り着いた先は巨象の門。普段は異界に通じるその門を、この世界の遍く場所に繋げる。

 

『世界を賭けた(しゃち)人の戦い!そこに水を差すのは新たな挑戦者!十人の絶(けちゅ)たち!!!』

 

 彼女は戦士ではない。しかし、戦いを通じて勇気を届ける。

 彼女は魔術師ではない。しかし、声を届かせ、人を動かす。

 

『題()ましては十禍の闘争!!実況は、チャットがお送りいたしま(ひゅ)!!!』

 

 そう、彼女は実況者。届け届け世界に届けと、声を張り上げる。

 

 進撃とは、他者を顧みずただひたすら前に進む。すなわち、絶大足り得る。その後ろに何人背負おうと、何人を庇おうと、もう彼女は前しか見ないだろう。




新弾間に合った!!!(間に合ってない)
ところであの、ナーフは?
私が知らないだけ?


ステイ、シズルステイ!!お姉ちゃんに反応して出てくるな!!!お姉ちゃんキャラが全部お前に汚染され…ああっ!!
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