OMEN of STORM   作:あしゅけーね

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ー第一戦ー

『さあ始まりましたアルティメットコロシアム!まずは第一戦!クオン選手、アラガヴィ選手前へ!それ以外の選手、お付きの方々にはそれぞれ控え室が用意されています!』

 

 呼ばれた両名がその場に留まり、残りは闘技場の縁から消えて行く。

 両者互いに、一歩離れてそれぞれの武器を構える。

 アラガヴィは担いだ大棍棒「テトカマリ」を大きく振りかぶり静止し、対するクオンは2枚の白い式札を構えた。

 

『それでは両者、いざ尋常に…』

 

勝負!!

 

 パッと放り投げられた式札が、式神と言われて真っ先に思い付くだろう丸い頭の十字の人型へと変わる。

 

「へっ、なんだこんなもん」

 

 しかしそれらの式神は「テトカマリ」の一振で起こった衝撃に飲まれ、大量の式札を散らす。

 

『おおーっと!アラガヴィ選手、すごい一撃だ!クオン選手の式神を全て一振で!あ、観客席の皆さんご安心を!どんな衝撃、流れ弾も私チャットとお手伝いのゴーレムが受け止めます!』

 

『『『ンーゴーー』』』

 

「ま、形代だしな。これは?」

 

 距離を取りつつ式札を9枚投げるクオン。再び広がる式神・形代、その数9体。アラガヴィの周りを囲む。ある者らは固まり一体を盾にするように、ある者らは真逆の二方向から同時に。

 しかし──

 

「小粒が何体並んだって俺の獲物になりはしねえ!」

 

 たった一振。それだけで全ての式神・形代が吹き飛ばされる。二体重なった者も、背後に回った者も皆等しく。

 

『アラガヴィ選手、またしても凄まじい一撃!クオン選手の式神達を一振りで!鎧袖一触とは正にこのこと!!』

 

「ふっ」

 

 一撃でやられた式神を嘲笑うかのように息を吹くクオン(・・・)。はらはらと舞い踊る式札が地面に張り付く。

 

「じゃあこいつ──暴鬼で」

 

 放り投げられた3枚2組の式札。現れたのは大きな鬼の式神・暴鬼が2体。形代など優に越えるその巨躯は荒々しく佇み、先の式神・形代より暴力的なフォルムは高い攻撃力を示している。具体的には三倍くらい高い。

 

「でけえだけだろ!!」

 

 三度目の一振。先ほどの焼き増しのように暴鬼が吹き飛ばされ、式札が舞った。

 

「ハッ、ならこれ」

 

 今度は白い式札が3枚と黄色の式札が1枚放り投げられ、出てくるのは暴鬼。数は1体。

 

「へっ、もう紙が尽きちまったか?…いや、なんかちげえな」

 

 たった1体。しかし先ほどとは様子が違う。クオンの力により赤いオーラの様なものを纏い、その体はより荒々しく強靭なものへとなっていた。

 

「─っ!」

 

 先ほどまでとは比にならない速度で動き出す暴鬼。その拳を間一髪で避けたアラガヴィは再び「テトカマリ」を振るう。それを受け暴鬼は先ほどの様に──

 

「───がっ!!」

 

『おーっと、ここでついにクオン選手の一撃が入ったーあ!!一方でアラガヴィ選手、今まで倒したのはクオン選手の式神!一切ダメージを与えられていない!!』

 

 ──は、ならなかった。見るからに満身創痍といった様子だが、それでも耐えたその鬼は相手に反撃の拳をぶつける。

 この試合初めてのダメージを受けたのはアラガヴィ。大きくよろめくが瀕死の暴鬼の一撃。致命の一撃には届かなかった。

 

「いってぇ…なあ!!」

 

 またしても振るわれる「テトカマリ」。瀕死の暴鬼では二度目の攻撃には耐えきれずその体を散らす。

 そのまま勢いに乗って距離を詰めるアラガヴィ。クオンの目の前まで近付きその頭を目掛けて「テトカマリ」を振り下ろした。

 

「ちっ、形代!」

 

 間一髪のところで呼び出された形代が主の盾となりその一撃に身を沈める。だが直撃こそ免れたものの凄まじい衝撃に襲われ一瞬硬直するクオン。当然、その隙を見逃すほど彼の世界(アラガヴィ)は甘くない。振り下ろした「テトカマリ」をVの字を描くように振り上げる。

 

「もらったァ!!」

 

 大きく振り上げられた「テトカマリ」が、クオンの左腕を捕らえる。人体を打ったにしては軽い手応えと共にその腕が飛んでいった。

 それと共に衝撃波で転がっていくクオン。やはり人の重さではない、軽い音をたてながら転がっていく。

 

「いってーナ」

 

「…ちっ、効いてねえじゃねえか」

 

 腕をもがれ土を付けられ、それでも何事もなかった様に立ち上がるクオン。傷口からは一滴の血もこぼれ落ちてはいない。

 

「まぁ、だいたいわかった。お前はこれで十分だ」

 

 残った右腕に握られた青い9枚の式札。

 

「あ?なんだまた小粒でも並べようってか?」

 

 その手から再び投げられた9枚の式札。しかしそれは広がることなく一ヶ所に集まり形を作る。

 現れるのは暴鬼よりも一回り小さな式神。その名を──

 

天后(てんこう)。「密羅略決」でもヤバくない方のやつだ」

 

 式神・天后。その名に恥じぬ美しき女性の式神は、その白い頬に笑みを浮かべ、ただ佇んでいる。

 それだけだと言うのに、凄まじい威圧感を与える式神・天后。

 

『ぴぇ』

 

 決して攻撃の届くことのない観客席、実況席に座る人々でさえ畏れ戦くほど。そんな存在が目の前に現れたアラガヴィは──

 

「っ!!」

 

(なんだこの威圧感…俺が、俺が震えるだと…)

 

 一歩後ずさる。ただそこに在るだけで万物を沈める様な底のない感情。今まで彼が感じて来た、むき出しの敵意とも満たされぬ渇きとも違う、意識したことすらないような存在。

 世界の代表まで登り詰めた彼は恐れたことはあっても畏れたことはなかった。

 

「行けよ天后」

 

 一歩、歩み出す。滑る様に、優雅にしなやかに、見るもの全てを惹き付ける様に、式神・天后は歩を進める。

 その振る舞い一つ一つに不思議な力が込められており、ただ歩いているだけにも関わらずアラガヴィの体に一つ、また一つと傷が刻まれていく。

 

「ちっ」

 

 近付かせまいと振るわれる「テトカマリ」。しかしそれまでの式神と違い、天后は無傷のまま歩みを止めない。

 二歩、三歩と進む歩みに伴い二度、三度と振るわれる「テトカマリ」。一向に削れないまま、ついにその手が届くところまで詰め寄られる。

 

「シャァあああああ!!!」

 

 全霊を賭けた渾身の一撃。今までとは比較にならない衝撃が襲い、直撃すればいかに頑丈な岩や骨であろうと砕くその一撃は、しかしそうはならなかった。

 

 スッ、と伸ばされた腕。陶磁器の様に白く、針の様に細い天后の腕が、振るわれた「テトカマリ」を受け止める。

 深い深い水に沈んでいく様にその衝撃が吸われ、消えていく。あまりの手応えのなさによろけるアラガヴィ。それにそっと触れる様に添えられたもう一方の手。

 そして──

 

「がっ…はっ!」

 

 白く飛ぶ視界の中彼は何を見るだろうか。

 

 *

 

 クソみたいな世界だ。

 土と埃、砂と岩。赤く染まった荒野が何処までも際限なく一面に広がる世界。

 鼠などは上等な獲物。狩りが奮わない時はそこいらを這う虫ですら食らった。あの世界の子供は皆そうだった。

 

 ──だからこそ、飢えは俺を強くする。

 

 初めて狩りをしたときだ。

 初めて狩人の証である毛皮を纏った。初めては曲角獣の毛皮。力が溢れ、何でも出来る気がした。そして喪った。大事な仲間を、家族を。あの忌まわしき荒野の王によって。

 

 ──だからこそ、怒りは俺を強くする。

 

 狩って狩って狩り続けた。

 曲角獣、長爪獣、猛牙獣、山豪獣と、より強く、より硬い獣を狩って食らって毛皮を纏いその力を得、そして新たな獲物へ。

 そうするうちに荒野に住まう人間は皆集まり、皆家族となった。

 もう誰も喪わない。もう誰も傷つけさせない。

 だから荒野の王に挑んだ。数年ぶりに出会った荒野の王。俺たちの誰よりも巨大で、誰よりも強い獣。

 相対して心の中に芽生えた感情は──

 

 ──だからこそ、痛みは俺を強くする。

 

 ああ、ガキどもに腹いっぱい食わせてやりてぇなぁ…

 

 *

 

『おおーっと!アラガヴィ選手に強烈な一撃!!』

 

「……だから、負けるわけにはいかねえなァ!!!」

 

 よろめき倒れ、地面にぶつかる寸前で飛び起き距離を取るアラガヴィ。そのまま「テトカマリ」を足元に落とし…

 

「飢えが俺を強くする!渇望しろ!!更なる力!!!」

 

 その左腕を強く握る。皮が白くなってもなお強く、紫を通り越して赤が噴き出し、白が見え隠れするほど強く爪が食い込んだ。

 

「怒りが俺を強くする!復讐しろ!!忌まわしき荒野!!!」

 

 引きちぎる。一切の躊躇いなく、自らの大事な狩猟道具であるというのに、何の未練も持たずに。そこにあるのは忌まわしき世界の怒りのみ。

 

「痛みが俺を強くする!狂乱しろ!!新たな獲物!!!!!」

 

 食らい尽くす。自らの狂気を示すように、勝利への執念を表すように、人ではなく獣のように一息で。

 

『ア、アラガヴィ選手、じ、自分の腕をちぎって食べたー!!』

 

「俺はアラガヴィ!!狼を纏う者(ウールヴヘジン)・アラガヴィだ!!!」

 

 転がる「テトカマリ」を拾い上げ、駆け出すアラガヴィ。今度の一撃は護られているはずの観客席を震わせ、足元の巨象が震えるほどの一撃。そして、大棍棒「テトカマリ」は今、新たな獲物を刻む。

 

 すなわち、式神・天后とその主クオン。今度こそ天后はその身を散らし、クオンはその体を真っ二つに分ける。

 

「所詮は児戯なれば……」

 

き、決まったー!!!アラガヴィ選手の凄まじい一撃にクオン選手倒れる!!!』

 

 肩で息をしながら立ち尽くすアラガヴィ。大きく息をつく。

 

「次の試合、どうすっかな」

 

 そう呟いた時だった。

 

「………と、少し手を抜きすぎたナ」

 

 響くはずのない声が響く。

 胸から下が分かれ、最早喋ることすらままならないはずのクオンの声がはっきりと明瞭に聞こえて来る。

 

『「──は?」』

 

「おいおい」

 

「もう終わった気だったのかヨ」

 

 その数二つ。倒れ伏すクオンを前にして勝ち誇るアラガヴィの背に、クオンが二人。

 

「わからねェ、って顔してんナ」

 

「足元見てみろ」

 

 足元…闘技場全体に散らばる式札。しかしよく見るとそれはただ散らばるだけでなく、ある形を作っている。

 

「魔法陣、ってやつか」

 

「惜しい、少し違うな。陰陽のおの字もしらねェなら仕方ねェか」

 

「まあ魔法陣でも間違っちゃいねーナ。五行相関を表す五芒星だ」

 

 式札が式神を形作る時に大きく体積が増す。その際に増えた式札は術によるもので、散ったあとにどうするかは術者の意のまま。邪魔だからと消してもいいし、次の術を使うのに利用してもいい。ちょうど、今の様に。

 

 そうして現れたクオン二人と天后二体。暴鬼に形代が大量に並ぶ。

 

 そこからは圧倒的だった。一方的と言ってもいい。

 吹き飛ばせど吹き飛ばせど無限に湧いてくる暴鬼と形代。着実に迫りくる天后。その手がアラガヴィに触れ……

 

「「我こそ五行。ザコは消えろ」」

 

『……け、決着ぅー!!!勝者、クオン選手!!最後は圧倒的でした!!!アラガヴィ選手はこちらの救護班が今手当てしております!!』

 

 第一戦 決着

 勝者 クオン




眷族への贈り物と闇の街1コストにしろ
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