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「叫びて、沈黙は埋め尽くす」
屍の声が響き渡る。死したはずの絶傑が舞い戻る。終わったはずの試練。死者の帰還は、人によっては恐怖することだろう。
「ゆうてウチらもそちら側やしなぁ。妖共なんて夜は墓場で大宴会が基本やし」
まあ、妖怪は元が人間だった者もいるし、そもそもが恐怖を振りまく側だ。今更死者が蘇っただけでは驚きに値しない。死体を使った
「で、新たな出し物はそれで終わりかえ?やったら、期待外れも───」
「黙れ!!!!」
絶叫。先の試練とは異なる、咆哮に近い叫び声。沈黙の雰囲気とは一変、狂騒の体を為す。
「なんや、おかんむりかいな。自慢の芸がウチらの欠伸で掻き消されたんがそんなに癪に障ったん?」
「黙れ!!言の葉は不要!!囀るな!!」
「やっぱ話通じんわぁ」
沈黙に酔えば言葉を喪う。自らの言葉を聞き続けるのなら、人と言葉を交わすことはない。対話拒否というのはある種、目指す沈黙の理想を体現していると言えなくもないね。
「しかし貴様らは囀る事をやめはしない!!自らの事ばかり考え、他者を顧みることなく無駄な言葉を吐き続ける!!!故に掻き消す!!我が絶叫で!!!」
掻き鳴らすギターの音色。しかしララミア、リーシェナの二人とは違い音楽になっていない。ただ無闇に音を掻き鳴らすだけの出来損ないの音楽に満たない雑音。
しかし、今この場においてその雑音と絶叫こそが支配していた。あまねく賛同の声を、抗議の声を、意思を通ずるための道具を封殺する支配の沈黙。それこそが絶叫である。
「他の音を押さえつけて絶叫で掻き消して……。なんや、アンタの嫌う抑圧そのものやないの。平等も何も有ったもんやないわ」
「いいや!!貴様は空が我々を閉じ込めるというか!大地が我々を囲っていると言うか!!!否!!世界は万人に等しくそこにある!!!故に我もまた、世界の新たな機構たる沈黙を!!!!」
「風がびゅうびゅう吹くように、アンタのその叫び声もぜぇんぶ自然の一部にするってことかいな。おもろいわぁ。気に入った」
くるり振り向き背後に並ぶ妖共に声を掛ける。そこは我々の領分だ、故にこそ示してみせろと。今挑戦者の立場は逆転する。恐怖の現象たる妖怪を前に沈黙の事象が対峙する。
「騒ぎ騒いで、比べっこやね」
ともに騒ぎ、ともに歌えば皆平等。故に妖はいつも騒ぎ笑うのだ。
「お家潰れて鞠一つ」
座敷童の陽気な声を口火に、妖達が歌を歌う。絶叫に紛れぬように、張り合うように、掻き消すように。
「こご〜え二つの眼が閉じて」
妖華世界の童歌。事実だけを記した、妖を恐怖する歌。
「人里凄惨焼き尽くす」
彼らはそれをなんでもないものとして歌う。人間が歌ってて面白かったから。流行っていると思ったから。彼らにとって内容など些細なこと。酒に酔えて騒げれば何でもいい。
「四辻でお~にと出くわせば」
しかし人は違った。恐怖の歌を
「狐討てども五里霧中」
霧が立ち昇る。日がまだ高くにあるというのに、辺りは暗く冷たい影に飲み込まれる。
「「「「歩〜き始めた妖た~ちの通り路。まだまだ歩く妖た~ちの通り路。こ~こは夜の京かな」」」」
「百鬼果てまで、その先までも」
ギンセツが締めれば宴の盛り上がりは最高に。最も華やいだいつぞやの
浮かび上がるは何処かの京。碁盤のように広がる四角い町並みに、所々に天をつくような五重塔が立ち上がる。
「好きに騒げ。その愉悦の叫び、最早誰にも届かぬがな!!!!」
「ほならまあ、もう一度鬼ごっこでもはじめましょ」
暗い暗い夜の路。見かけ以上に入り組んだその街は妖の勝手知ったる古戦場。ただ騒ぎ立てる獲物の追跡など難しくはない。
死なずの怪物、恐怖の象徴である妖が群れを為して襲ってくる。その恐怖は、妖華世界の人間であれば誰もが知るところであり、誰もが抗えないものである。
あっという間に袋小路へと追い込め、幾百もの妖が絶叫を取り囲んだ。
「もう終わりやね」
『コン』
一鳴き。追い詰められてなお叫ぶ絶叫の喉を狐が噛みちぎる。
「aaaaaaaaaaaaa」
絶叫。喉もないのに発せられた叫び声は、断末魔などではない。それは未だに世界を包み込むことを狙う叫び。世界に沈黙を齎そうとする叫び。
夜の街並みに木霊が響く。壁にぶつかり地面にぶつかり、弱まるところはなく全てが強め合う。
絶叫は拡散する。何も無い野原よりも画一的に建てられた建物がある方が音はよく跳ね返る。弾む絶叫の結果、現れるは無数の絶叫。行く路すべてを埋め尽くす。
2本同時投稿すると一本目読まれないので投稿時間分けてみるよ
次は明日上がる予定
実はまだ書けてない