OMEN of STORM   作:あしゅけーね

25 / 28
2
2
4
1


絶望の奔流

「聖騎士ヘクター…なぜここに」

 

『時間がない。手短に話そう。我々は神の消失を予見していた。故にあらかじめ神の奇跡の一部を剣と盾として切り取り、残していたのだ』

 

 神の消失は既定路線。抗うすべはなく、押し留めることもない。故にこそ、滅びのその時、その最後まで足掻くと決めた。

 故にこそ逆理の剣。来たる滅びを迎え討つため奇跡を削り滅びを早める剣。

 故にこそ背理の盾。抗う術のない滅びに対して最後まで足掻き通す不倒の盾。

 剣盾を作り、英雄は滅びに直面した騎士を救うべくその遺志を残していた。尤も、長い年月で神の手助けもなく人の魂が残り続けることは困難で、残された時間こそ少ないが。

 

『今問題となるのは滅びた世界では誰も貴様の罪を問うことのできないことだ』

 

「何でもいいから早く!先輩方強すぎなんだけど!!」

 

 数万の兵に対して百に満たない彼女たちが戦えているのは彼女たちが最も慣れ親しみ、騎士が戦い慣れぬ密林であるからこそ。次第保たなくなっていくだろうことは想像に難くない。

 

『では、私が沙汰を下そう。汝の罪は世界を滅ぼしたこと。それに対する罰は生きること。生きて、我らの世界を語り継ぐこと。死を望む貴様に死の罰は与えてやらん。騎士としての誇りも認めん。騎士ではなく一人の人として世界を背負って生きること、それが汝の罰である』

 

 朝日は沈んだ。既に己の為すべくを為したと、英雄は消えていく。

 

「生きることが…罰」

 

 世界を滅ぼし生きることが罪ならば、その罰もまた生きること。騎士の誇りをかけることも、自らの責を雪ぐことも許されない。

 だから騎士は立ち上がる。生きることの意義を捨て、それ故生きることに価値を得たから。

 

「───これより先、一切の希望を断つ」

 

 並び立つ六騎の英霊。相対すは土に塗れた草枯れの英雄。並び立つ者は、並び立てるものはなく、一人孤独に風に揺れる。

 滅ぶ神の奇跡は光として溢れ、生い茂る草木を枯らし本来の闘技場の姿を僅かにでも取り戻した。

 

『抗うのですねウィルバート。ええ、では死んでください』

 

「死ぬわけにはいかない。俺は、俺の罰を受けなければならない」

 

 奇しくも夢は現に。騎士が拒んだ夢の続きは越えるべき現実()として現れる。

 

『うわぁ、随分情熱的だねウィルバート。今この状況でただの斥候に出来ることなんてないと思うけど』

 

 騎士が動く。純白の稲妻と間違えるような速度で。

 されどその速さについて行けねば共には戦えない。彼より速くなければ先行し安全を確かめることはできない。

 

「心外だな。今この場で真っ先に排除するべき脅威だと判断されたことを喜べ、モーリス」

 

 ただ非力な斥候ではない。仲間の命を守るため、誰より先に駆ける騎士である。

 命を奪うには短くとも、命を守るには十分な二本の刃を交差させ純白の騎士の剣を受け止めた。

 

『やあああああ!!!』

 

 金属同士が打ち鳴らす音とは思えない程の轟音を上げ、跳んできた轟雷の戦斧と純白の盾が打つかり合う。盾がひしゃげることはなくとも、騎士のその身が保たず。木々をへし折り煙を上げて騎士が転がる。

 そうして転がりついた先には土でできた無数の槍。それら全てを盾で防げば、密林の木々が意志を持って絡み合い檻と化す。

 

「カールか」

 

 土くれから数え切れない程の槍を生み出し、生きた木々を思うがままに捻じ曲げる。そんな芸当が為せる術師は、彼の知る限りただ一人。

 されど木の枝程度では押し止められず、閃く剣が檻の根ごと切り落とす。

 

『えーい!!!』

 

 再びの轟雷。されど今度はその斧を受け止めきった。

 

「攻撃の前に声を上げるのはやめろと言ったはずだヴァージニア」

 

 渾身の一撃を受け止められ無防備を晒す少女の腹を蹴り、その左肩を突き刺して折られた木の幹に縫い留める。そうしてその首を落とすべく振り上げられた背理の盾は全く異なる場所に振り下ろされ、飛んできた矢をはたき落としていた。

 

『ふんっににに!!!』

 

 少女は身を捩り剣の突き立てられた左腕を自ら切り落とす。そうして抜け出した先、折れた木々が作り出した木洩れ日の降り注ぐ地。切り落とされた左腕から血を流し立つ少女に神光が降り注げば、失った腕が再び生えてくる。

 

『エイダー!ありがとー!』

 

 神なき世界において失った四肢を取り戻せる奇跡というのは切り取られた剣と盾の奇跡にも等しい。それをいとも容易く行える少女と、それを守護する騎士。

 

『元はお前の場所だ、ウィルバート』

 

「ヴェルナー……」

 

 降り注ぐ神光とそれを守護する純白。かつて神なき世界を照らした希望の光にして、失われたことで世界を滅ぼした絶望の口火。

 今はその二人が打つかり合う。

 

「こうして現実で向かい合うのは初めてか、エイダ」

 

『ええ。ですがこれで最後にしましょう。私は、私達は、もう貴方の顔など見たくもない』

 

 空を切り飛ぶ矢を合図に、六人の騎士が一斉に動き出す。司祭は距離を取るように離れ、無双の騎士がそれを守る。轟雷の強撃の隙を潰すように射手の矢と術師の土槍が飛び、足下には疾風の仕掛けた罠が多数。

 

「一度見失ったのが不味かったか」

 

 足を絡め取る単調な草結び。踏み込む先にある小さな落とし穴。モーリスの仕掛けた罠は平時であれば取るに足らないものであれど戦闘中に気に掛けるにはあまりにも厄介で、カールの法術のように法力の流れを察知できるわけでもテクラの矢のように飛んでくる気配を読み取れるわけでもない。

 

「やはりあそこで潰しておきたかった」

 

 姿の見えない彼に愚痴をこぼす。

 

『考え事?ウィル君っていっつもそう!!!』

 

 木々の合間を飛び跳ね少女が戦斧を振り下ろす。確かに、その移動方法であれば足下に点在する罠を無視して動けるだろう。

 対する騎士は身軽ではない。背負った世界の全てが敵になってもその背にかかる重圧が消えるわけではないのだから。

 

「っ……」

 

 死角から飛んでくる矢、足下に潜む罠、的確なタイミングで撃ち込まれる法術。常に襲い来る轟雷の戦斧に傷をつけど即座に回復する神光とそれを守護する無双の騎士。

 次第にウィルバートが押されていくのは当然といえる。

 

『とやー!』

 

 ついに戦斧が盾の芯を捉え大きく吹き飛ばす。その隙を逃さないように風逆巻く矢が降り注ぎ、光の法術が吹き荒ぶ。

 木々を打ち倒し砂埃を上げ、巨象の背に建てられた闘技場の端を更地にする勢いの猛攻は、普通であればまず生きてはいない。

 

『倒した!?やった───』

 

 そう、普通であれば跡形もなく消し飛ぶ。されどここにいるのは世界を守護した騎士にして試練を越えた者。それを忘れた愚者から牙を向けられる。

 

『あぅ、えっ、お゛』

 

 その場に存在しない───されど確実に質量を持つという矛盾した3本の光の剣が少女騎士の腹を、胸を、頭を貫く。神光をもってしても間に合わない即死。かつての友をその手にかけてなお騎士は、騎士たちは止まらない。

 

『うわぁ、今度は僕かい。まあ、最後まで足掻くけどさ』

 

 大きく抉れた密林の荒野をさらに深く抉るような踏み込みで一気に距離を詰める。ようやく捕らえた厄介な影。共に肩を並べ戦った者同士だからこそ、互いに取る手が分かり、故に戦いは膠着する。

 されどその膠着は長くは続かない。方や残る四人による支援があり、方や彼らの知らない武器を持つ。

 

「そこか」

 

 騎士の掲げた盾が白光を煌めかせる。撃ち出された光は一切の狂いなく正確に術師の頭を撃ち抜いた。

 

『へぇ、知らなかったなそんな攻撃。どこで覚えたんだい?』

 

「福音だ」

 

 忌まわしき安息から送られた試練を乗り越えた報酬。騎士からしてみれば世界を滅ぼした相手からの贈り物。出来ることであれば使いたくはなかった。

 

『今の雇い主サマは余計なことをしてくれたもんだね』

 

「……そうだ、なっ!!」

 

 かつての友を足蹴に距離を取る。そうして向かった先は隠れ潜む射手の元。逃げる兎を追ってその盾を突き刺し首を断つ。

 

『つれないねえ、僕を無視して二人に行くなんて』

 

「正直()らの小隊の中で一番戦いたくないのが君だからな。少なくとも二人の支援ありでは戦いたくなかった」

 

 三剣が飛翔する。白光が飛ぶ。騎士の剣が煌めき盾が閃く。その全てを避け斥候の短剣がウィルバートの喉元に迫り、そして折れた。

 

『なっ』

 

「チャット、だったか。彼女に礼を言わないとな」

 

 ウィルバートの胸元に輝く守護の証。エクリエル聖騎士団を示す徽章に付与された新たな役割。ウィルバートの命を守った守護の光。

 

「終わりだモーリス」

 

 渾身の一撃を防がれた無防備なその首が飛ぶ。残る騎士は二人。

 

「よく君がここまで我慢できたなヴェルナー。いつもなら友を庇いに前に出るのに」

 

『エイダは俺達の小隊の命。その守護を疎かにするほど愚かではないし、団長もそれをわかっているだろう』

 

「そうか。そうだな。では」

 

 ぶつかり合う剣と剣。純白よりも攻撃に寄せた無双、無双よりも防御を重視した純白。されど無双は純白の盾を超えられず、純白の剣は確実に無双を追い詰める。

 

「ああ、もう終わりにしよう」

 

 光輝く三剣がヴェルナーの体を貫き、逆理の剣が振り降ろされる。しかし三剣は命に致らず。だからこそ本命は最後の一刀であり───

 

『セイクリッドカウンター!!』

 

 エクリエル聖騎士団に伝わる反撃の技。瀕死のその体に鞭打って盾を掲げ剣を受け止めた返しにその手に持つ剣を突き刺す。

 

「セイクリッドカウンター」

 

 当然、エクリエル聖騎士団の団長がその技を使えないわけがない。無双の騎士より洗練された動きで背理の盾がその胸を突き刺した。

 残りはただ一人。

 

「この福音は散っていった仲間の数を力に変える。彼女らは俺の事を仲間だと認めその命を懸け、そして君は、君たちは死してなお俺のことを仲間だと思っていてくれるらしい。エイダ、君たちは嘘が下手だな」

 

『……ええ、ええ!そうです!!私たちは貴方といたい、離れたくない!だけど貴方に覚えていて欲しくない!!!死んだ私たちがこれから生き続ける貴方の傷にもならないように!!矛盾してるんです!貴方の為に、私の為に!刃を向けてはならない!!けれど私に出来ることなんてこれだけで………私は───』

 

「二律背反、矛盾こそが人の性だ。利己性と利他性の衝突、それこそが人の業だ。エイダ、君は間違ってなどいない。ただ正解を選んでいないだけ」

 

『では、どうすれば』

 

「簡単だ。戦って、決着をつければいい。いつだって結果だけが最善の選択だ」

 

 いつか夢で見た対決。されど今騎士はたった一人、背負った数万の罪を償うための罰を受け、司祭は数万の願いを受けたった一人に罪を突き付ける為に。

 世界全てを裏切って生きる、世界全ての望みを背負って生かす。両者の望みは同じで、どちらも同じ絶望の為に手を取り合う。故に決して避けられぬ対立。限りなく近しい希望は、されどどうしようもなく異なっていた。

 背負う覚悟は同じ。故に剣の重さも同じ。であれば───

 

「また、僕の勝利だ」

 

『ああ、よかっ…た……』

 

 であれば先に迷った方が負ける。そうして己の狭間に迷った司祭は再びの敗北を迎えた。

 

終わったか。ではもう一度

 

 絶望の奔流は何度でも。再び目の前に現れた六騎の英霊。その身は腐り、一部邪悪なる兵のように黒ずんでいる。

 

『ウィ、ル…』

 

この魂は私のものだ。たとえ貴様がこの試練を突破しようと次の世界に連れて行く。そうして魂が消耗し擦り切れ、腐り、潰れようとも使い続けるとも

 

「外道が」

 

 世界は奪われた。取り返す術はない。それでも英雄はもう折れない。




無料ガチャでウィルバートスキンとホリセスキン出たけどどっち使おう
ウィルバートスキンもいいけどホリセスキンの進化したあとボイス変わるのも好きなんだよね
まあまずビショップ使わないんだけど
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。