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喜びがあった。凍てつく心を溶かせた喜び。
怒りがあった。今までの生き様を否定された怒り。
哀しみがあった。ぶつかり合う相手がいずれ消える哀しみ。
楽しさがあった。拒絶するためでも、嗤うためでもなくただ純粋に、何もかもを忘れる楽しさが。
そのすべてがあるからこそ、今の彼女たちを表す感情はなにもない。強いて言うのであれば笑顔が眩しいくらいだろうか。たとえそれが相手の喉元に食らいつきその死体を踏みつけ勝ち鬨の咆哮をあげることを考えている竜のそれだったとしても。
「来なさい。私の焔は貴女の恐怖を焼き尽くす」
上がる炎は砕けた氷山と同じく天を突く。負けじと生まれる氷は炎の熱を奪い消えてゆく。揺らぎ蠢く炎が形を与え、寄せては帰る氷が重みを与える。奇しくもその形は塔の様に。現れては消える氷を足場にして遥か高みへ登っていく。
「懐かしいでしょう?」
炎に包まれた氷の塔。その形はかつての畏れを想起する。
「今更そんなものが怖いわけがないでしょう」
「でしょうね。そうでなければ困るわ」
上る、登る、昇る。現れては溶け消えゆく氷の足場を的確に踏みしめ、炎に包まれた嵐の内側を二竜が翔ける。そして次第に天に近付き、
「燃え尽きぬ世界、晴れ渡る!!!」
俯瞰。侮蔑がその本懐を果たすように見下ろす。空を掴むように焔の五爪を振り下ろし、燃ゆる外套を翼の如く羽ばたかせる。陽光を受け影を落とすその様は、曇天に照らされ黒く鈍るその様は、あるいは炎の邪竜とでも呼べるかもしれない。
「今度は一人よ。出来るでしょう?」
「黙って。言われなくても」
彼女を塔から出すと約束した彼。側にいてくれてた氷の妖精。そのどちらもを失ってようやく打ち倒した炎の邪竜。
その再来を告げる咆哮。
恐怖が、憎悪が、怒りが、悲しみが、無力が、無情が溢れ、流れ、そして最後は。
「そう、そうよ。その顔よ!!貴女のすべてを曝け出しなさい!!!」
そして最後は証だけ。触れれば痛み、融けない傷痕。己の無力を、彼らの裏切りを残す心の傷。
「貴方は言った。『君をここから出す』と」
邪竜の幻影を重ね、氷槍が貫く。かつてより大きく、硬く、凍てつく槍。
「そうね。でも彼は『君と出る』とは言っていなかったわ」
その前に立ち塞がる青年の幻影ごと槍先を五爪が握る。されど勢いを殺すことも、槍を溶かすこともできずに喉元まで押し込まれる。
「貴女は言った!『側にいる』と!!」
邪竜が佇む塔の上でそうしたように、雲の上で雹が吹き乱れる。かつてより大きく、鋭く、荒々しく。
「そうね。でも彼女は『ずっといる』とは言っていなかったわ」
飛び回る氷の妖精の幻影ごと焼き尽くすように、焔も舞い散る。されど雹の大きさこそ小さくなれどその鋭さは変わらず烈絶の体を貫く。
「信じていいと思えた。信じていたのに!!」
「そうね、貴女が強ければ、信じたままでいられたのに。」
白銀が強ければ、己が二人を守りきれるくらい頼れたのなら、彼も彼女も、自分の為に炎の邪竜と相討つ必要もなかったのに。
「そう、だから、貴女も私も──」
だから、万感を、自罰を込めて叫ぶ。感情のままに。
「凍って!!!」
凍てつく一槍が邪竜を地に貶め巨象に縫い付ける。嵐を吹き飛ばし、観客席を半壊させ、炎を掻き消す。
「はぁっ、はぁっ……」
烈絶の四肢は拉げ、首は槍に貫かれ、白銀の頬の炎が消えた。燃え盛る熱は消え失せ、ハラハラと降り積もる季節外れの雪とともに烈絶の試練は終わる────はずだった。
「それで終わり?違うでしょ?貴女は無力を知ってる。貴女はまだ燃え上がれる!!」
目が開く。拉げた四肢をぶら下げて、それでも烈絶は飛び上がる。初めて認めた好敵手との戦いだからこそ、泥臭く足掻こうとも負けたくないと思うのだ。感情に振り回されているのは白銀だけではない。
「砕いて、グレイシャー」
降りしきる雪を押し固め、氷河の顎が烈絶を押し潰す。蒼炎でも火力が足りない。燃やし尽くす範囲が足りない。故に侮蔑は巨象の背を刳り迫る二つの氷河に飲み込まれた。
「まだ、燃えられるッ!!!」
荒れる氷河を押しのけ、白い炎が吹き出す。互いに余力は残っていない。だからこそぶつけ合う価値があると、そう互いを認めたのだ。
ゴッコロちゃん「PUROOOON(ガイド役、失格ですね)」
騎士様も団長もいないとは言ったが無謀にもそいつ等になろうとした奴がいなかったとは言っていない
ライバル同士がぶつかり合ったら一回倒れただけじゃ決着つかなくてどんなに致命傷でも二回戦目に突入するのが普通ではなくて?