OMEN of STORM   作:あしゅけーね

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ー第二戦ー

『続きましては第二戦!ガリュウ選手、ギンセツ選手の登場です!時刻はそろそろ夜になる頃。ギンセツ選手に有利な条件ですがガリュウ選手はどう戦うのでしょうか!!』

 

 夕焼けに染まる闘技場に両雄が並び立つ。

 

「ほんまにええんか?うちは明日でも構わんで?」

 

「全力の相手を倒してこそだからな!!!」

 

 本来であれば明日に予定されていた第二戦。それを早めるよう言ったのはガリュウその人だった。理由は今述べた様に、相手が全力を出せる様に。陽の光の元で弱まった妖に勝ったところで何の手柄にもならないと。

 

『それでは両者、いざ尋常に…』

 

勝負!!!

 

 *

 

 両者得物を構える。ガリュウはその腰に携えた二刀「真凰」「鳳天」を、ギンセツは周囲に浮かせた火球を。

 

「いざ、参ろうか!!」

 

 準備は万端とガリュウはその二刀を大きく打ち鳴らす。

 睨み合う両者。最初に仕掛けたのはもちろんガリュウ。

 大きく駆け出し二刀を振るう。飛び交う火球にあわせて一振二振り。

 

「貰った!!」

 

 ギンセツの懐に潜り込み、逃れられぬよう二刀で挟み込む。

 

「危ないわぁ」

 

 それを危うげなく避けるギンセツ。後ろ向きに滑る様に飛び上がるという自然ではあり得ない動きで距離を取る。

 再び、先ほどと同じ展開が繰り返される。二度三度と、代わり映えのない展開。観客も飽きを感じて来ただろう。

 

「決着がつかんなぁ」

 

「降参してええんやで?その方が楽やし、宴の時間が長くなる」

 

「そうもいかんよ。俺は天下を統べるのでな!!」

 

 左右に握った「真凰」「鳳天」をそれぞれが円を描く様に振るう。ふっ、と甘い香りが広がり、二刀の軌跡を追う様に、緑の葉が生い茂る木で象られた金と銀の門が現れた。

 

「桃…?桃やね」

 

「いい香りだろう?」

 

「反吐が出そうやわ」

 

 桃とは元来魔を祓う神聖な果実とされてきた。ギンセツが嫌うのも無理はないだろう。私はいい匂いだと思うが。

 

「そうか……さあ来たれ、我が義兄弟!!これぞまさしく」

 

『天下無敵!』

 

『天下無双』

 

 言葉を引き継ぎながら金の門、銀の門からそれぞれ金の龍、銀の龍が現れる。人一人なら余裕で丸呑みできるほどの巨大な龍。

 

「ちょい待ち、あれ有りなん?」

 

『出場しているのは一人ですし、召喚はルールで認められてるので有りかと』

 

「ほーん、そうなんか。なら───」

 

 その言葉は続かなかった。

 稲妻の如く飛び出した金龍が意識の逸れたギンセツに食らい付いたからだ。

 

「おいおい兄弟、さすがにそれは……」

 

『そうだぞ金の、不意打ちとは卑怯だろう』

 

「せやで。女の話は最後まで聞いときや」

 

 食らわれたはずのギンセツは煙となって消え、はるか上空に現れる。沈みゆく夕陽を背に、夜に染まっていく影は目の前の女が見た目より遥かに妖しく、おぞましいものであることを見るもの全てに印象付ける。

 

「ほな、仕切り直しといこか。───なら、初めからこうしておけばよかったわ」

 

 ギンセツの周囲に浮かぶ火球が、音を立てて燃え上がる。その中から現れたのは白い狐。

 

「「一ツ尾狐」。かわええやろ?」

 

 ずらりと並んだ「一尾の狐」。そのいずれかがコンと鳴けば、それを合図にしたかの様に日が沈む。闘技場は日も月もない暗闇に包まれ、────夜が訪れた。

 

 *

 

妖華世界(うちらの世界)じゃ、おてんとさんもお月さんもおらんこんくらいの時間を逢魔が時ゆうてなぁ。まぁ、ちぃとばかし数は少ないけど百鬼の夜行、楽しんでってや」

 

 その言葉を合図に金銀それぞれの龍に四体一組で群がる「一ツ尾狐」。最後に一体の「一ツ尾狐」と共に()()()()()()ギンセツがガリュウの前にふわり、と降り立つ。

 

「よろしゅうね」

 

「あ、ああ。宜しく頼もう!」

 

 金銀の龍を呼び、有利になるはずのガリュウだったが、蓋を開ければ二対一の構図。ギンセツが切り札としていた「一ツ尾狐」の強さは言わずもがな、先ほどは遠距離からの攻撃ばかりだったギンセツ本人の近接戦闘能力も「一ツ尾狐」にまったく引けを取らない。

 

 実質的に二人に増えたギンセツを相手にするような猛攻に、攻撃に移れず防戦一方のガリュウ。しかしそこで一つの違和感に気付く。

 

『………』

 

(……先ほどよりも動きが鈍い?)

 

 先ほど切った張ったを繰り返していた時の動き。ひらひらと裾をはためかせながらも、生粋の武人であるガリュウの攻撃を余裕の表情で避けていたギンセツ。そのままの動きで二人に増えたのなら()()()()()()()()()()()()()()()()()。少なくともこんな思考をできる余裕はないだろう。

 

「…お前、弱くなったか?」

 

「あら、もうバレたん?」

 

 しばしの沈黙が訪れる。ギンセツとしては想定より少し早くバレたこと、ガリュウとしては戦いの最中に力を落とすという行為が理解出来なかったため両者僅かに硬直する。

 

「なぜだ」

 

「なんでやと思う?」

 

 はぐらかす様に悪戯っぽく笑うギンセツ。その真意を探るべく、慎重に観察していく。時折ちらりと四体一組で金銀それぞれを押さえ込んでいたり、目の前に座り呑気に毛繕いをする「一ツ尾狐」を眺め、そして気付いた。先ほどは九つあったギンセツの尾が今は一本しかないことに。

 

「…その「一ツ尾狐」はお前の分け身なんだろう?ってことは一旦は弱くなるが何かしらで強くなる感じか。時間の経過か、もしくは───」

 

「せやで~。やっぱり武人さんって頭エエんやなぁ。すぐ気付くなんて。うちの連中はみんな三日は気付かんわ」

 

 ちなみに一日目に酒を呑んで二日目は二日酔い、三日目目覚めて宴の席で気付くという流れである。

 

『……ゃ』

 

「武人とか関係ねえんじゃねえかなぁ……おい兄弟!一匹も殺してくれるな!!」

 

『無理だ!』

 

『無茶を言う!』

 

 個々の戦闘力は龍に遠く及ばないとはいえ、四体の華麗な連携により翻弄される中、間違ってでも殺さない様にしろというのはなかなか酷だ。

 

 しかしせっかく得た優位も捨て難い。戦略というには少々運が絡み過ぎたが、敵が弱くなったのにそこを突かないなんてできるはずがない。幸いなことに「一ツ尾狐」達の目的は金銀両龍の足止めである様でしばらくの間は持つだろう。両者の実力が離れてる故、いずれ崩れる均衡。その僅かな間に目の前のギンセツを倒さなければならない。

 

「しゃあ!」

 

 悩んだところで仕方ない。刀を振るわなければ勝てるものも勝てなくなる。そう腹を括り、戦へ挑む。

 

 ──少々、焦りすぎではあったが。

 

「別に、やられんでも戻せるで」

 

 一ツ尾の狐が火球へと戻り、ギンセツの体へ入って行く。ポンッと気の抜ける様な音を立てて、尾が一尾から二尾へ。こうして言うには単純ではあるが、実際に対峙する彼にとってはそうもいかない。肌で感じる威圧感が二倍、いや三倍ほどに膨れ上がるのだから。

 

「さっきまでは力を隠してましたってか。全部あったときよりも強いんじゃねえか?」

 

「どうやろねえ」

 

「だがまぁ、一人になってくれてありがとうよ!」

 

 意識を割く相手が減ったからか、今までより素早く、力強く踏み込む、切り出す。先ほどより素早い一撃に、辛うじて避けるギンセツ。そこに追撃の一刀が迫る。

 

「……っ、ちょうど髪を切りたい思ってたとこやわ。散髪の才能あるんやない?」

 

 その一刀は、ギンセツの髪を一房、切り落としただけに終わった。

 

「まさか避けられるとは思わなかったぞ」

 

「そちらさんこそ急に速くなって。なんか隠しとったんやろ?」

 

「俺も将だ。うちの軍師ほどじゃねえが戦いの流れが読める。そんである程度戦うと見えてくるというか……こう覚醒する、って感じで動きがわかるし体が軽くなるんだよな。それがたまたま今だったってだけで!」

 

 大きく振りかぶるガリュウ。そのまま続けて二度、三度と太刀を振るう。

 

「ちぃ……っ、危な」

 

(あかんわぁ。二尾じゃ足らんね。けど……)

 

 ちらり、と残った「一ツ尾狐」の方を見る。金銀の龍もガリュウにあわせて覚醒したのか四匹でもかなりギリギリの戦いになっていた。一匹でもいなくなればあっという間に瓦解するだろう。そうなればガリュウだけでなく二体の龍を相手にすることになる。全ての尾が戻ったとしても三体の龍を相手取るのは辛いだろう。

 

『………じゃ』

 

「さあ、これで終わらせる!!!」

 

 神速の一刀、追い抜く二刀。恐らく彼の生涯で最高の一撃となった攻撃は、ギンセツの体を三つにわける。妖だからか、血などは流さず端からどろりと溶けていった。

 

「まさか…こないな……ところ…で……」

 

 決着がつき、息を吐くガリュウ。しかしそこである違和感に気付く。

 

(そういえば実況の嬢ちゃんの声が聞こえねえ…観客の声もだ。何より、倒したってのに狐共が消えてない……)

 

 違和感は懐疑に、懐疑は核心に。一つ、大きな誤りに気付いた。

 

「…なんで、尾が十本あったんだ」

 

 視界に靄がかかり、足元が揺らめく。耳鳴りが響き、瞼が不自然に動いて───

 

『起きろ兄者!!!』

 

 *

 

 ──パッと目が覚める。

 見開いた目に飛び込んで来るのは頬杖をつき、ニコニコと微笑みながらこちらを覗き込むギンセツの顔。そして喉元に当てられた長く鋭い爪。

 

 ゆったりと目を動かし、周囲を見れば、四匹の狐の前に倒れ伏す義兄弟達の姿。

 

「おはようさん。ずいぶんかわいらしい寝顔やったね。ええ夢見れた?」

 

「おかげさまでな」

 

「ええで。それじゃ降参、しときます?」

 

「そうだな」

 

 決着がついた。しかし観客も実況も皆眠っているので帰ってくるのは───

 

『……お姉ちゃん…』

 

 不透明な寝言ばかり。これではらちが明かないとギンセツが手を叩く。パァンと大きな音が不自然なほど鳴り響き、皆の眠りを妨げた。

 

『にゃひ!な、何事ですか!!!』

 

「おーう、降参だ降参。俺の負け」

 

『は?え?えー……あ、うん、え、そ、そうなの?う、うん……ギ、ギンセツ選手会場全体を眠らせるという大技でガリュウ選手から勝利をもぎ取ったーー!!!勝者、ギンセツ選手!!!』

 

 会場からどよめきが起こる。当然だ。せっかく見に来た試合が気付かぬうちに終わってたのだから。

 

「どないしたん、皆狐につままれた様な顔して。……あ、狐はうちやな」

 

『ア、ハハハ……』

 

 すでに乾いた笑いしか出ない。寝起きで彼女もいっぱいいっぱいなのだろう。

 

「あ、せや。この後一杯いかが?そちらのお二人さんも」

 

 勝者から敗者への酒の誘い。倒れ伏す二龍にも声をかける。

 

『いや…』

 

『俺たちは…』

 

「おう、ありがたく頂こう!もちろん兄弟もだ!さっきまで殺しあってた奴と呑むなんて事なかなかないからな!!!」

 

 きっと彼はこの発言を後悔することになるだろう。何せまだ夜は始まったばかり。そして妖怪達の夜は長いのだから。

 

 第二戦 決着

 勝者 ギンセツ




ギンセツ の くちょう が わから ない

あとハンドレスヴァンパイアは死ね
超越と骸の王とクルトと庭園ゾーイも死ね
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