OMEN of STORM   作:あしゅけーね

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ー第三戦ー

『それでは、第三戦!カゲミツ選手、カルラ選手前へ!』

 

 あいにくの曇天となった二日目。雨の匂いは遠く、試合に影響することはないだろう。

 両者位置に付き、視線を交わす。

 

『いざ尋常に……』

 

勝負!!!

 

 *

 

『おおーっと!カルラ選手、立ち尽くしたまま目を瞑った!!何かの技の準備か』

 

 的外れではあるがあながち間違いではないだろう。最高の技を最高の状態で出すため集中しているのだから。

 

「ほう、では儂も」

 

『カゲミツ選手も武器を置き座り込んだ!!何が起きているのでしょうか!!』

 

「うるさいぞ」

 

『あ、すいません…

 

 時間にしてみれば一分足らずではあるが、その場を支配する静寂はそれより遥かに長く続いた様に思える。

 

「すまない、待たせた」

 

「なに、こちらも最高の状態になれたというもの。時間をくれてありがたいわ」

 

「それは良かった。では、よろしく頼む」

 

「こちらこそ」

 

 互いに挨拶を交わし、試合が始まった。

 まずは一歩、カゲミツが踏み出す。

 

「──っ!」

 

 見開かれたカルラの目に映るのは無数のカゲミツ。白銀の右腕、その権能の一つ。世界と共鳴することで未来を予測する第三の目が、定まらぬ無数の未来を指し示したのだ。

 

 しかしここにいるのは心の頂き。その身を鋼に変え、技の最適も鋼が見出だす。なにより重要なのは心。そんな世界の頂点を取った彼の心は、高々視界を埋め尽くす程度の未来で揺らぐことはない。

 

(面白い。たった一歩でここまでの未来が見えるとは)

 

 これまで戦った数多の強敵。蹴撃の者、握撃の者、柔術の者。さまざまな者と戦ってきた彼も一度も見たことのない景色。

 いかなる手を打つべきか。彼の答えは即座に決まる。

 

 何もするべきではない。

 

 無数の選択がある相手は、こちらの動きにあわせて択を変える。ならば選ばず、相手の択に会わせるべきだと。

 

『カ、カゲミツ選手目にも止まらぬ凄まじい一撃!!しかしカルラ選手受け止めたー!!!』

 

 だから、その攻撃を防げたのも必然と言える。しかし彼にしてみれば奇跡でもあった。

 

「速いな。まさか「インデラ」の自動防御が間に合わないとは思わなかった」

 

「それはどうも。抜刀術は儂の最も得意とするところ。遅い、などと言われれば失意のうちに投了もやむ無しであった」

 

「ではそう言えば良かったか」

 

「お主ほどの武人がそうするはずがないだろう」

 

「ふっ、では次はこちらから」

 

 カルラの拳が唸る。人の腕ではあり得ないほどしなり、伸びるその腕は、それでも鋼の固さと鋭さを保っていた。

 幾度となく繰り出される拳を、刀で受け止める。その度に金属同士が打ち合う音が響き渡り、凄まじい速度で攻防が入れ替わる。

 

『両者凄まじい攻防だ!全く見えません!!』

 

 観客の中でもこの攻防が見えるのは極少数だろう。それでもほとんどの観客は自らの理解を越えた武の極致同士のぶつかり合いに熱狂し、興奮していた。

 

 だがこの歓声は当人たちの耳には届かない。不敗の剣聖も、最強の格闘家も音すら忘れてこの戦いに打ち込んでいる。

 

 周囲を忘れ、瞬きを忘れ、息をする事すら忘れて戦う二人。全く別の戦い方をしながらも鋼にその全てを託すという共通点を持つ二人だからだろうか。思うことは同じであった。

 

((──ああ、楽しい))

 

 *

 

 始まりを将軍が病に倒れ、誰が天下を統一するかという。我も我もと名乗りを上げ、巻き起こるは大小合わせ参拾の合戦。各将に流儀ありて秘剣あり。しかして民草にそれはなく。戦は混迷を極めん。

 

 伍年、拾年と続けば参拾の戦は拾に纏まれり。戦に次ぐ戦、民も、土地も疲れはて刀振るうは侍のみ。

 

 さらに時と多くの血が流れ、戦は一つに纏まれり。数多の侍、いかな秘剣を持とうとも全て金床に伏す。いかな流儀を持とうともその(かばね)を晒す。

 

 やがて寝るにも食うにも困った戦は終わり、新たな将軍は太平を約束す。民も侍も皆(ことごと)く賛同し、戦なき世が訪れた。戦に疲れた侍は名と刀を取り上げられることにだれ一人とて異を唱えず。あるいは、誰か一人でも異を唱えていれば、男はただの人斬りですんだかもしれない。

 

 百年の平和のうちに一人の男が産まれた。侍としてその名を捧げその忠誠を捧げ、忠義に背き刀を隠し意味もないのに振るい続ける。やがて時が経ち(かしら)に白が混じる頃、老いすら断ったと言われるほどの剣の冴えを手に入れた。

 

 ───生涯を通じて()けを知ら()。彼の前に敵は無く。故に、未だ勝利を知らぬ。

 

 不敗の剣聖。

 無敵の剣聖。

 未勝の剣聖。

 

 男は戦いに餓えていた。

 

 *

 

 心を鍛えよ。

 技を鍛えよ。

 体を鍛えよ。

 

 かつてはこのように教えられてたらしい。

 愚かな事だ。

 

 いかに鍛えたところで肉は肉。鋼に非ず。只管鍛えるは邪道。

 未完成の肉体では満足に技を振るうこともできない。全て鋼に任せれば、常に理想の技を使える。その場その場でキレの変わる技には意味がない。

 

 よって鋼に担えぬ心を鍛えよ。いかなることにも揺るがぬ心。心を磨き、常に正しき決断をせよ。理想の技も理想の瞬間に出せねば意味がない。完璧な肉体も芯が揺らいでは意味がない。

 だから心を磨け。

 

 そうして全てと向き合い、己を映し、世界を結ぶ。真理を宿し誰より高みへと至れ。

 これが今の教え。

 

 男は鋼と満ちていた。

 

 *

 

「俺は間違っていた。水面の様に凪いだ心こそが最高だと」

 

「間違ってはおらぬだろう。雫を落としても波立たぬ水面、大いに結構。万人が目指すべき極致であろう」

 

「それが正しくないことくらい貴方であればわかるだろう。この愉悦、興奮、何にも変えられない」

 

「確かに、違いない」

 

 刀と腕。形は違えどその身技を込めた鋼同士が再びぶつかり合う。繰り返される剣戟。観客の声もより大きなものへと変わって行く。

 

 人の身を越えた加速。人の目には映らぬほどの攻防。もはや流れ行く景色すら意識の外に置き去りにして、心行くまで戦い続ける。

 

(ああ、これが戦───我が故郷とも言うべき魂の由来)

 

 永遠の平和ある地にて戦を望んだ男は思う。今この場こそが生涯の集大成となっても構わない。全てを失っても構わないからただこの一戦を髄の髄まで楽しみたいと。

 

(荒波の如く荒れ狂う感情。しかし今までの何より心地よい。もう二度とこのような相手には出会えぬだろう)

 

 全て鋼で置き換えたからこそ、唯一鋼で扱えぬ心を鍛えた男は思う。これまでの教えなど捨て、満足するまで…満足しても戦い続けていたいと。

 

「行くぞ好敵手よ。先のことなど知らぬ。刀が折れようともここで断つ」

 

「望むところだ好敵手よ。本気、全力それ以上。持たぬ力も絞りだしここで貴方を討とう」

 

 抜き身の刀を鞘に納める。

 

 世界との共鳴深度を上げて行く。

 

 先に動いたのはカルラ。今まで見せなかった気弾を三発放つ。当然、そんなものは通用するとは思っていない。瞬く暇もないほどの一瞬にカゲミツの後ろに回り込む。

 

 しかし相手にするのは不敗の剣聖。抜刀一振、全てと切り結ぶ。気弾全てを打ち返し、繰り出される致命の突きを受け止めた。

 カルラの方も止められて終わるわけではない。武を極めてからこれまで右手の一本で事足りるからこそ使って来なかった左腕、両足を解放する。唸る左腕がカゲミツの腹を捕らえ正確に打ち抜いた。

 

「ふっ、ぐっ……」

 

 続いて足、腕と絶えることなく攻撃を続けていく。しかし先ほどの一撃はそれまで右腕しか使って来なかったからこそ決まった一撃。奇襲は二度は通じず、さらに言えば真正面から打ち込んでいるので当然防がれてしまう。

 

「驚いた。その右腕一本で戦うのかと思っていたが」

 

「いやなに、自分ですら気付かなかった慢心だ。恥ずべきことだ、まったく。功夫(クンフー)は全霊を持って振るうべきだというのに高みを見すぎて基礎を見失っていた」

 

 スッと構え直す。世界の真理もそれと深く共鳴する感覚も捨て去った初歩の初歩。しかしそれは極限の集中、己の全てを見極めた男が取れば一分の隙もない何よりも恐ろしいものとなる。

 

「終わったら鍛え直しだな」

 

 幾度交わした攻防によりところどころ欠けた刃を鞘に収め軽く手をかける。一見無防備なその姿は、それでも相対する者がもう既に切られているのではという錯覚を得るほど鋭利な気迫を纏っていた。

 

「それには儂も付き合おう。この戦いを経て色々学べたものがあったのでな」

 

 もう既に未来は見えず、鋼が唸るばかり。世界真理その全てを捨て去り、ありのままの心を晒す男は立つ。

 

 元より切るべき敵はなく、それでも刀は訴える。形無き影を切り続け、その太刀が歪んでも全てを断ち切る男は立つ。

 

 両雄並び立てば、双方のみならず見ている誰もが次の一撃こそが最後の一撃になるであろうことを予感した。

 

「ゆくぞ!!」

 

 虚空へ至った男が拳を振るう。迫りくる音と共に進む鋼の拳。人の、鋼の限界を大きく越えたその速度。音速の拳が無防備に立つ男に迫る。

 

 しかし惜しいかな。その一刀は今、音を越えた。この戦いで歪みを学んだからこそ、この戦いで一瞬とはいえ何よりも満たされたからこそ繰り出せる奇跡に等しい一撃。

 

 拳と刀。それぞれ鋼のある一つの結論の形。その交錯は誰の目にも止まらず、しかし誰の目にも明らかな結果を示した。

 

 空高く舞う折れた切っ先。

 

 その拳を、その身を断たれ倒れ込む肉体。

 

 勝者は折れた刀を払い、鞘に収める。

 

「峰打ち、等と加減は出来なかった。故に斬らせて貰ったぞ、強敵よ」

 

『しょ、勝者カゲミツ選手!!!救護班早く来てー!!!!』

 

 不敗の剣聖、生涯初の勝利であった。彼にとってその味わいとは何より甘く、深く、そして───何より虚しいものであろうか。

 

 第三戦 決着

 勝者 カゲミツ




グランスちゃんはさぁ…もっとこう相手が直接召喚を行った時それと同名のカードを相手のデッキから消滅させるとかにならんかったんか
強制煉獄させてけグランスエンジェル
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