OMEN of STORM   作:あしゅけーね

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破壊の試練

 少し時間は巻き戻る。天門が闘技場の上に開いた頃、凄まじい速度で飛翔する人影も闘技場へと近づいていた。

 

『ララミア、もうすぐ目標地点だ。会場は今は停止しているみたいだし君なら五秒とかからないだろう』

 

「りょうかーい」

 

 最速の機構が唸りをあげる。風を切って、空を切って、鋼はぐんぐんと翔んでゆく。一秒前には見えなかった景色も一秒後には豆粒より小さく消えてゆく。そうして、闘技場を背負う巨象が見えてきたとき──

 

やっほー!

 

「にょわああ!!!」

 

 危うく人を撥ねるところだった。突然目の前に現れた夕焼けのような髪色の少女。彼女のセンサーに引っ掛からなかったどころかそれまで一切何もなかった空間に現れ、高速で飛ぶララミアへ声がけ出来る人物。そんな人間がいるとは考えられない。

 

『ララミア?どうした?急に止まって、何があった?』

 

「オペレーター、人がいる」

 

『人?君の視界カメラには何も映ってないし、どんなセンサーを使っても何も見えないぞ』

 

「そんなはずないよ!聞こえない?」

 

 そんなやり取りを聞いてか少女はおもむろにマイクを取り出す。

 

あーあー、どう?マイクの調子は完璧でしょ?

 

 戸惑うララミアに悪戯っぽく笑いかける少女。彼女の握るマイクは憎たらしいほど完璧に彼女の声を周囲に響かせているが、その声は彼女の耳にまでしか入っていないらしい。コロニーにいるオペレーターは唐突にララミアが狂いだしたように感じられただろう。

 

『…………分かった、ララミア。そいつがなんて言っているか一字一句正確に伝えてくれ』

 

「了解!」

 

何、ボクについて知りたいの?……あ、っそっか。まだ自己紹介もしてなかったね。ボクはリーシェナ!世界に破壊の試練を齎す絶傑だよ!!

 

「絶傑……?」

 

そう!進化を望む世界意思に呼ばれてやって来たのがボクたち絶傑!キミの向こう側にいる人たちがボクを見れない、聞こえないのはボクたちが世界意思そのものでもあるからかな?ボクとしては歌を聞いて欲しいんだけど……

 

『確かに、世界の中の我々が世界を外から観測するように観測するのは難しいか……自明を示すのが一番難しいものな』

 

 ララミアからの報告(リーシェナの説明)を聞きよくわからない論で独り納得するオペレーター。

 

うーん、多分違うだろうけどそんな感じ。……それじゃ、そろそろファンの皆も集まって来たし始めよっか

 

 見れば彼女達の足元には大勢の人間が集まっていた。種族も年齢も性別もバラバラなその集団は、唯一リーシェナへの狂気的な愛で統一されている。

 

さあ皆!!準備はいいかなー!!!

 

「「「「「もちろん!!!!」」」」」

 

 異口同音。全員が同じタイミングで同じ言葉を発する。見るからに異様な光景だがリーシェナは当然とばかりに満足げに頷いていた。

 

「ッ、オメオテトルシステム起動準備(スタンバイ)!!」

 

《オメオテトルシステム起動準備。オリジンコア出力上昇。起動コードを入力してください》

 

『コード■■■■■■■■■■■■』

 

《コード認証。オリジン・コア出力上昇並びに各種戦闘機能制限解除。完了まで残り二十、十九……》

 

 その異様に戦闘体勢を取るララミア。だがしかし───

 

それじゃ、破壊の試練を始めるよ!!まずは一曲目!

 

 間に合わない。少なくともあと二十秒経つより彼女の歌が届く方が早い。高速で飛翔する彼女であっても平時の一部機能を制限した状態では音には敵わない。

 

───さあ、ボクに壊れてよ!!

 

 彼女の立つ浮遊する台座(ステージ)の周りを飛ぶ白黒二つのスピーカーから曲が流れ始める。その音は地形を壊し、集まっていた人のうちの何人かを壊しララミアの下へ。

 

涙も笑顔も心を満たすなら、全部ボクが与えてあげる♫

 

 その音波を受けたララミアの体には───何も起こらなかった。機体に罅が入ったわけでも構成プログラムにエラーが発生したわけでもない。

 

だからボク以外から受け取るなら、全部壊してその偶像を♪

 

「……?」

 

 歌声は続く。激しく、情熱的に彼女は偶像を歌い上げる。しかしそれはララミアにとってただの音。眼下で散りゆく人々のように大声を上げる程の価値があるものでも、ましてや体が壊れる程でもない。

 

《ニ、一……オリジン・コア調整完了。全戦闘機能解放。オメオテトルシステム準備完了》

 

「オメオテトルシステム起動!!!!」

 

 完全に起動した音速の機構が唸りをあげ、徐々に徐々に加速していく。エネルギーを節約していた先程とは比にならない速度でララミアは飛翔する。そして届いた最高速度は毎秒約350m。すなわち───

 

「今の私は音より速い!!」

 

 何もかもを壊す音楽も、どんなに心を揺さぶる歌声も、届かなければ意味がない。音速の突破による衝撃を撒き散らしながらララミアは飛ぶ。歌声により信仰に狂い、偶像への愛を叫び、届かず壊れていく人々を尻目に上へ上へただひたすらに。だけれども───

 

奏でて、「白の章」!!!

 

 ()()()()。音を超えた速度で動く以上聞こえるはずのないリーシェナの声が。

 

 そして彼女の周りを飛んでいた白いスピーカーが壊れ、弾けた人々の血を、肉を、魂を吸い取り巨大化していく。真四角だった白い箱が削られ、彫られ、純白の翼を持つ腕のない女性の像へ。その像が彼女の声を広がる世界に届けている。

 

速さ?そんなの無駄だよ!!だってボクの歌は世界に響くから!!だから───ボクと壊れてよ!!

 

 白翼が広がる。歌声が響く。白く巨大な女性の像は、その両翼を用いて彼女の主の歌を知らしめる。

 

笑顔も涙も心を蝕むなら、全部壊して偶像(ボク)だけを置いて♫

 

 先程までと比べ遥かに大きく、強くなった歌声が届く、届いてしまう。信仰、心酔、狂気、限界、四散……彼女の歌声を聞いたものがどうなるのか、足元に答えは大量に転がっている。

 

 リーシェナの歌は心を壊す歌。壊れた心は盲信を呼び、やがて耐えきれずに体が壊れてゆく……はずだった。

 

「ねえオペレーター、私に心ってあったっけ」

 

『ないね。喜びや楽しみといったプラスの感情は機体維持に置いて有効だからインプラントされてるけど心と呼べるものはないよ』

 

「そっかー。じゃあこの感覚は何?」

 

『感覚?そうだね、この戦闘で簡易人格形成モジュールに極小規模な接触障害が起こってそれで発生したノイズかもしれない。任務が終わったら点検しようか』

 

「りょうかーい」

 

 心を蝕む歌も、その心がなければ意味がない。万人が縋る偶像も、寄り掛かることを知らない鋼の目にはくすんで見える。

 

「聞いてた?早く任務終わらせてメンテナンスしたいから、もう終わり!!───さあ、殲滅だ!!!!」

 

 鋼鉄のスカートが変形する。現れるは無数の銃身。向けられるは数多の銃口。放たれるは無量の弾丸。その全てがリーシェナに向かって飛んでゆく。

 

終わらない愛も哀もないから、キミの世界はやがて終わってしまう♫

 

 しかしその大半は歌によりはたき落とされ、僅かに届いた弾丸による傷も、白き像が癒やしてしまう。歌も、踊りも、音楽も。一切の動きが乱れることはなく、曲はクライマックスへ。最高潮に達した歌と踊りは、その場に集う全ての意識を惹きつける。もっとも、生き残っているのは極僅かだが。

 

だからボクを崇めて信じて祈ってよ!!

 

 偶像は歌い上げる。鋼鉄は静かに浮かぶ。足元に広がるのは赤い海。先程まで鳴り響いていた絶叫(コール)は静まり、立つものは一人もいない。彼女を布教していた使徒ですら、いつの間にか死んでいた。

 

へえ凄い!ボクの歌を聴いても壊れないどころかなんにも感じないなんて!!ちょっと自信なくしちゃうなぁ。もっとほら、よく視て聴いて

 

「残念だけど、貴女を視るのも聴くのも任務にないんだよね。崇めるのも信じるのも認証されないし」

 

 音速を越えても世界は超えられない。世界に響く歌声は心無き鋼を侵せない。互いに、現状では決め手に欠ける。だからどちらも同じ考えだろう。目があい、そして確信する。

 

だったらそのお硬い頭と体を壊して、心を刻んであげるよ!……歌うよ、「黒の章」!!!

 

 全て息絶えた観客(ファン)の命を吸い取って、黒いスピーカーは巨大化する。削られ彫られ、漆黒の翼を持つ腕のない男性像へ。黒翼が羽ばたき歪な音を掻き鳴らす。世界を包み壊すその音が届いたとき、ララミアの機体(ボディ)に罅が入った。

 

「壊すって?いいよ、壊れないようになるだけだから!コアリミッター強制解除!!オメテクトルシフト、ウェポン展開!!!」

 

 罅割れた体から漏れ出す淡い水色の光。罅の入ったパーツは砕け、新たなるパーツとして再生される。砕かれた銃身は、束ね溶け折れ混じり合い砲身へと姿を変えた。

 

───ボクは此処だ。世界は彼方だ!!!

 

 音楽がなる。心も、体も壊し尽くす音が世界に響く。その歌声は新たに展開されたララミアの砲門から放たれる幾重の砲撃のことごとくを撃ち落とし、再生したパーツをまたも打ち砕く。

 

ボクは此処に居る、此処で踊る、此処で歌う!拒んでみせてよ!!全てにとっての偶像を!!!

 

 白色の外部装甲が砕け、黒色のインナーパーツが露わになる。だがそれは決してララミアが脆くなった訳でも、鈍くなった訳でも、鈍臭(のろ)くなった訳でもない。

 

「私たちの理論はね、最速の機構じゃないんだ。私たちが目指すのは最速の進歩。切られたら切られないように、噛まれたら噛まれないように、壊れたら壊れないように、誰より、何より速く進歩する!!」

 

 装甲が砕かれ、武器を失い、薄く硬く軽く密に。常に常に新しく。強度を上げても速度は落とさず……否、最速の機構はその速度すらも上げていく。

 

新装機炉(ブースト):星を見る者(スターゲイザー)!!星の先へ!!!」

 

 音の波を突っ切り、速く真っ直ぐ真っ直ぐ突き進む。ただ遥か彼方を目指して。星の引力を引き裂き、染まる黒を駆け抜け、星を見下ろす。そのまま自らを弾丸とし、光すら置き去るように飛翔し、宙を見上げ笑うリーシェナの下へ。駆けて翔けて宙を渡って時空を歪ませ、地上で歌うリーシェナの体を貫いた。

 

「───破壊の試練、知ーらない!!……でも、いい歌声だったよ」

 

 ララミアの一撃は世界を割るほどのものであったはずだが、リーシェナという世界意思を貫いたためか、はたまた他の原因か周りにあった山の幾つかを消し飛ばすまでに留まる。

 

 周囲を消し飛ばしてなお余りある一撃を受けて、それでもリーシェナと白黒両方のアーティファクトはかろうじて原型を留めていた。

 

……アンコールは?

 

 少女は問う。自分の歌は不要だったのかと。

 

「任務の邪魔にならないなら」

 

 その回答に少女は答えない。ただ意味ありげに笑うのみ。その笑みも、光となって消えていく。白と黒、二つの像を残したまま。

 

 光が消え去ったあとにララミアの目の前に現れたのは髪飾りの形をした外部パーツ。そして、胸の中で動く暖かいもの。

 

「これが…福音……」

 

 *

 

 世界に声が響く。一つ新たなるステージに進んだことを知らせる声が。

 

()()()()()()!!

 

 破壊の(かなで)は絶えてなお鳴り響かせる。




何を書いても解釈が一致しないので全部投げました
前のと平行して書いてたから多分文がおかしい
白黒アーティファクト10コストだからでっかいイメージあったけどリーシェナとそんなに変わらないんだね
まあ大きくさせるけど
あと最後のララミアはアストロウィングではない
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