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佇む巨象の足元、その大きな腹によって落とされた影の中で飲めや歌えや騒ぎ立てる者たちがいた。
「火車ぁ〜あれやってよー!初めてあった時の酒吞の真似」
顔を赤らめ明らかに酔った様子の女妖怪が同じく酔っ払った妖怪に声を掛ける。
「いいぞ」
「あ゛?おいやめろ」
止めようとする鬼の美丈夫を無視して火の付いた車輪を転がす髑髏に跨がる妖怪──火車は言葉を続けた。
「我こそはオオエの山の長、酒呑童子!!そこの女妖怪、あんたがこの百鬼夜行の長とみた!!!」
「ああせやせや、こんな感じやったわ。懐かしいなあ」
「姐さん!?やめてくださいよ……あんときゃ若かったというか……」
周囲から笑い声が響き渡る。幾度となく宴を重ね、何度も繰り返したやり取りのはずだが、それでも彼らは笑い続ける。宴の場とはそういうものだから。
───そういうものであったはずだった。
(なんや…?)
ピタリ、と笑い声が止む。しかし誰も笑うのをやめたわけではない。皆が笑い続けているのに一切の音、言葉が消えているのだ。やがて他の妖怪達も気付いたのだろう。不思議そうに辺りを見回し、そして何処からともなく音もなく現れた者達に囲まれて居ることに驚愕する。
「────!!!」
その集団の中から一人、長身で痩せ気味の男が前へ出た。
「これより沈黙の試練を行う」
気付き驚いたもの、周囲に警戒を促すもの、未だに気付かず酒を呑むもの。そのどれもが上げた声は、全て等しく掻き消される。
《酒呑!しゅーてーん!!!》
《目の前にいるんだからそんな大声出さなくても聞こえてますよ。念話ですけど》
スッ、とギンセツの白く細長い指が集団の中央、三枚刃の鎌を携える男を指差した。
《うちはあの大将を相手にするから、残りは任せるわあ》
《了解。────おい聞いたかお前ら!!姐さんはこの出し物が大変お気に召さなかったらしい!潰し宴の始まりだ!!!てめえら潰されないように気を付けな!!!!》
《一回潰された人が言うと説得力が違うねぇ》
《うるせえ!!さっさとあいつら倒しに行くぞ!!》
宴の続きをするかのように騒ぎながら、それでも圧倒的な力であたりを取り囲む人間達をなぎ倒していく様を尻目にギンセツは彼らをけしかけた者と対峙する。
「───黙せ。言葉があるから不平が生まれるのだ。人を貶す言葉も、称える言葉もいらない。ただある沈黙のみが人に平等だ」
《そういう割によう喋るやないの》
「黙れ。言葉は功罪を生む。沈黙だけが平等を創る。口を噤み、等しく生きよ。功を求むは、首を刈る」
《嫌やわ、沈黙なんて。飲めや騒げやのどんちゃん騒ぎ。宴こそ人の本質。皆で盃を交わせば平等やろ?》
「ならば好きに騒げ。その喧騒、掻き消してやろう」
目の前の男───ルルナイがその手に持った巨大な鎌を構える。
相対するギンセツもまた、その手に狐火を灯らせ、その身を低く、獣が獲物を狙うように。
《ほならまぁ、鬼ごっこでも始めましょか》
狐火が、ルルナイを襲う。獣が獲物を追い立てるように、牙の如く鋭利な灯火は三枚刃の一振りなど掠めもせずにその喉元に食らいつく。
「黙らせろ、「轟」」
三枚刃の鎌「轟」の振るわれた軌跡。その怨讐に狂わされた霊が三体。狐火を静かに、しかして荒々しく食らいつした。
「黙する者には対価の金を」
狐火を食らいつくした霊は、光となって霧散し消えてゆく。永遠の静寂という金を得て。
《まだまだいくで》
新たに湧き出る獣が二体。赤く青く白く黒く、定まらぬその身を輝き揺らめかせ見る者を惑わし一つ、また一つとその数を増やしてゆく。
ああ化かされた。
百鬼の夜行、その再現。他の妖が沈黙を信じる者らを倒すためおらずとも、長一人であれど百鬼夜行は続いてく。道塞ぐ者を打倒し、ただ騒ぎ騒いで夜に消えるため百の獣は進んでいく。
しかして相対するは沈黙の絶傑。妖し幻し朧の灯火、言葉紡いだ妖術の火ならば幾百あれど掻き消せる。
「囀るな」
ただ一声。金を与える沈黙の言葉で狂える霊は幾千も。獣の牙を抜き爪を折り腹を切り裂く。
「
ただ一言。ただ一言呟かれただけだというのにギンセツの背筋を冷たいものが覆い、一筋の汗が流れる。
(
───たった一言呟くだけで一度見せた手札を切れなくなるなんて。
厳密に言えば持てるほぼ全ての妖力を用いればもう一度術を使うことは出来るのだが、それでは割に合わない。この先戦えなくなる代わりに足止め程度にしかならない術を使うなどと。
(どないしよ…?もう「一ツ尾狐」を……いや、まだ手の内を見切っとらんし……)
迷い。ああ随分と悠長で、余裕があることだね。戦場において、それも絶傑などと得体のしれない相手に対し一瞬でも迷いが生じればどうなるか。
「───」
口から出た声は沈黙の帷によって掻き消される。その言葉が何かは知らないが、間違いないなく驚きの言葉だろう。
目にも止まらぬ程一瞬で懐に潜り込んだ三枚刃がギンセツの腹を、胸を、顔を切り裂き抉り取る。人ならざる妖怪の身はすぐに再生が始まり傷はなかったかのように消え去った、が
「
再び告げられた言葉。今度は回復を封じる。
《………あーあ、せっかくの着物が台無しやないの。前もこんなにはだけて…この変態》
そう言いつつ火球を投げる。威力もなく、ただまっすぐ飛ぶだけの火球であるが故に使えなくなっても惜しくはない。
まぐれでも当たれば上々と百も用意した火球だったがそのどれもが避けられるか霊に食われるか見当違いの方向へ飛んでいくかのいずれかの道を辿った。
(……何も、ない?)
避けた、ということはそれすなわち通用する攻撃であるということ。そして確実に勝つには芋虫の如く手足を千切り、雀のように舌を切ってしまえばいい。それが出来るのにしないということは出来ないと言っているようなもの。
(何か条件……使える回数?)
《……こんな身も骨もない術をそんな大層に避けなきゃならんの?大変やね》
「黙れ。罪深きは言の葉。優劣を語る言葉なければ人は平等だ」
《沈黙しすぎて話通じなくなったん?だいたいな、平等なんて……》
言葉が途切れる。その先の言葉に詰まったのではなく、ただ一言言い換えた方が早いから。
《なぁ、あんたら人間は好きやろ?》
くるり、と背後で戦う妖怪達の方に問いかけるギンセツ。返ってきた言葉は単純。故に誰も彼もが口を揃え答えを並べる。
《 《 《 《 《 大 好 き さ!!!》 》 》 》 》
妖怪は誰も彼もが人を好いている。宴は皆で騒ぐものだから、参加者が多いに越したことはない。それに、人間は良い出し物もしてくれる。だから妖怪達は人間が大好きだった。そこに善悪貴賎なく、爪弾き者でも人気者でも受け入れる。皮肉なことに、妖怪は何よりも人間を平等に扱っていた。
《な?うちら妖怪は人を差別したりせんよ。あんたと違ってなぁ?》
「黙れ」
《黙らんよ。だいたい、功とか罪とか何が楽しいん?上に立つものの居る平等は平等なんか?……ほんま、しらけるわ。宴の邪魔しとって聞かせるは詰まらん下らん主義主張。一杯交わせば済む話やないの》
息をとめず、つかせず反論を許さぬ強い口調。勢い飲み込む百鬼の長は、押し切るべく「一ツ尾狐」を並べてく。
自身に注意を向けるべく、決して悟られはしないよう
《うちな、どうしても許せんことが二つあるねん。仲間を傷付けられることと、宴の邪魔をされることや。なぁ、酒呑?》
《────契り千切りて血霧の
誰にも気付かれることなく術を発動させた酒呑童子を頂きに乗せ、幻のお山が立ち上る。人が入れば恐怖で竦み、妖怪が入れば恐怖を振りまくオオエのお山、その幻が。
《オオエ山の大将さんはそらもう優しくてなぁ。自分より弱い者には力を貸してくれんねん。……ところでうち、今
ルルナイの手によって一体、また一体と倒れゆく「一ツ尾狐」。その身は怪しき光となって、何倍にも膨れ上がった力とともにギンセツの元へと帰っていった。
《ここから先は終幕や。存分に楽しんでってな?》
酒呑童子の術により速く、鋭くなったギンセツの爪と牙は、舞うようにして追い立てる。だがその舞はもはやルルナイの目には映らない。そこから先は一方的な蹂躙。沈黙の掲げる平等を、遊宴が打ち破る。
《潰し宴の独壇場……あら、拍手が聞こえんねえ?》
沈黙の試練はこれにて終わり。だが彼女らにはまだ少しやるべきことがある。
『姐さん、星が……昇ってったぞ』
光よりも速く登っていく
『あかんわぁ、落ちてくる。世界滅ぼす気かいなあれ』
当然、星が落ちてくればただでは済まない。少なくとも、一度世界は滅びるだろう。あるいは世界そのものが砕けるか。
『……うちらで受け止めるで』
『はぁ!?どうやって』
『騙すんよ、世界を。化かすは狐の十八番やし、狸なんぞには負けとれんわ』
星が落ちるまでの僅かな時間で術を組み、落下点と世界の繋がりを断つように広げ、その場の妖怪達の妖力を使い練り上げる。
果たして、星の衝撃は辺りの木々と山の二つを消し飛ばし、その着地点にいた人物を貫くに留まった。
『ふぅ、やればなんとかなるもんやな。さ、宴の続きや。せっかくやし残ったこの音のない世界、楽しもか』
『………あそこの女将さん怖いんだよなぁ。絶対性格悪いし』
宴は続く。新たに受け取った沈黙の福音など気にも止めず、一人のぼやきを掻き消して。
*
世界に声が響く。世界がまた一つ、騒がしくなったことを伝える声が。
「試練は進む!!!!」
沈黙は、絶えぬ叫びによって。
難産だった
ギンセツの口調わからないもそうだけどイラナイさんが強キャラなイメージがわかなかった。でも盛りすぎた気はしなくもない。
まあ遅れた一番の理由は新弾やってたからなんですけどね。シャドバすっげー楽しい。シャドバすっげー楽しい。シャドババババババ………
ドアマンナーフされた途端ホズミだのクルトだの帰ってきて……やっぱハンドレスは悪だったんやなって。
超越もはよ死ね。